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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界恋愛系

婚約破棄の原因は……謎の祠?! 許婚とその乳姉妹と一緒に、原因を鎮めます!

ウィットに富んだやりとりというのを書きたかった。いつも通り、やりたい放題やってるので許せる人のみどうぞ。

「ヴァル・ヴァイパー! お前との婚約を破棄させてもらう! ……って、我が主が言ってました!」


 貴族学園の卒業パーティー……ではなく、なんの行事も無い平日。庭園になっている学園屋上で、私、ヴァル・ヴァイパーは、婚約破棄を宣告された。


 私の許婚……ではなく、その女従者(・・・)に。


 決まった! というドヤ顔をかましているのは、私、伯爵令嬢ヴァル・ヴァイパーの許婚の第二王子、ジーク・ウォーファルコンの女従者である、ケイト・ファルクラムである。


 火の様な、赤い髪をロングヘアにした私と比べ、色の薄いピンクブロンドの髪をツインテールヘアにした、ケイトの頭を私は軽く撫でる。


「あっ、そ。他に用事は?」


「何よ、あっ、そ。って! もっとこう……何かあるでしょ! あと、頭撫でないでください!」


「ちょうど、撫でやすい位置にあるのが悪い。成長期に牛乳飲んでなかったあんたが悪い」


「キーッ! 身分は私が上なのに!」


 私に撫でられながら、ケイトは顔を赤くして悔しがる。可愛いなぁ、この子。小柄で慎ましやかな体型もあって、つい、子供みたいに扱ってしまう。一応、同い年のはずだが。


 彼女、ケイトは、私の許婚であるジークの乳母の娘、乳姉妹(ちきょうだい)というやつである。そんなこんなで、昔からの腐れ縁である。


 爵位的には侯爵令嬢で、私よりも身分は高いのだが、いかんせん、ジーク様の許婚が私という事もあり、私の後塵を拝する事になっている。かわいそうになぁ。


「で、何よ。婚約破棄って」


「ふ……。ご主人(ジーク)様の代わりに、私が代理で言ってやったのですよ! 彼もそれを望んでいます!」


「婚約破棄ねぇ……。フェイクね」


「……少しは騙されてくださいよ。流言で二人の仲を裂く計画がぁ」


 さらっと、えげつない事をしようとしていたが、私はそれをあっさり看破した。


 ケイトは、私の許婚であるジーク様に懸想を抱いている。その為、しょっちゅう私と彼の仲を裂こうとしてくる。毎回失敗に終わってるけど。


 一応、私の恋敵という扱いになるのかしら。


「いつも言ってるでしょ。あんたに策略は無理よ。すぐ顔に出る。もう諦めなさいよ。勝負ついてるって」


「……赤ん坊の頃から一緒にいて、お慕いしていた相手を、ぽっと出の、しかも格下の令嬢に寝取られた私の気持ちも考えてくださいよ……」


「寝取られとは失敬な。寝てから言いなさい、寝てから」


 そう言いながら、私は彼女の顎に手を当て、クイッと持ち上げる。


「えっ、ちょ」


「まぁ、しょっちゅう人の恋路を妨害してくるとは言え、あんた自身の事はそこまで嫌いじゃないわ。正室の座は渡さないけど、側室という形なら、ジーク様のお側にいさせてあげても良いわよ?」


「ぐぬぬ……伯爵令嬢のくせに、侯爵令嬢を馬鹿にして……」


「領地が田舎の山ばっかの貧乏侯爵家がなんだって?」


「ほんとに馬鹿にしてきましたね! ちょ~っと交易で儲けて、最近羽振りが良いからってシティーガール気取りで……! それに、田舎良いじゃないですか! こっちには変な妖怪の話とか一杯あるんですよ! よく民俗学の先生とか取材に来るし!」


「妖怪ねぇ。そういや、あんたは昔からオカルトの類は好きだったわね。……故郷自慢はそれまでにしましょ。第一、悪い話じゃないと思うわよ? 愛人と違って、正式な婚姻関係な訳だし。勿論、二人共に子供が出来たら、私の子供の方を優先させる念書を書いてもらうけど」


「ちゃっかりしてますね」


「ついでに、ジーク様や私が何か、やらかした(・・・・・)時には、『あいつがやれって言ったんです!』と全責任を負ってもらうデコイ役にもなってもらうけど」


「本当にちゃっかりしてらぁ……この鬼畜」


「あら、こちとら貴族令嬢、それも王子の婚約者よ。これくらいのリスクヘッジは出来ないとね。側室なんて、正室の身代わりにしてなんぼよ。肉盾よ肉盾」


 そう言いながら、私は軽く笑みを浮かべた。身内を含めた他人からは、よく畜生令嬢とか言われる所以は、この性格かなぁ、と自分でも思う。しょうがないじゃない。私、倫理や情より利で動くタイプなんだから。


「…………君達、姿が見えないと思ったら、こんな所にいたのかい」


 そんな中、我らが旦那様、ジーク様がやってきた。私達のアホなやり取りは日常と化しているので、特にツッコまないのが流石だ。


 ジーク様は、黄金の様な金髪が特徴の美丈夫で、かけた眼鏡のお陰で、インテリ気質な印象をもたせた。外見は、知的なイケメンだ。


「やぁ、ジーク様。ちょうど、この子にいじめられてたのよ」


「いじめてはいないです。ハメようとしただけで」


「という訳で、しっかり躾けといて」


 そう言って、私は、ジーク様にケイトを押しつける。


「まーた僕のいない所で喧嘩売ってたのかい? ケイト」


「だ、だって、私の方がご主人(ジーク)様をお慕いしているのに……それはそれとして……私の事、お、お仕置きですよね」


「……」


「ご主人様ぁ……今日は、何をして下さるんですか? 尻叩きですか? 鞭打ちですか? それとも、拘束の上で【自主規制】ですか?」


 体をくねくねとさせながら、ハァハァハァと気持ち悪い吐息をしつつ、ケイトはジークに囁いた。


「……」


 疲れた様な目をしながら、私を見てくるジーク様。いや、私に振られても困るんだけど。


 ……見ての通り、ケイトは真正のマゾである。誰彼構わず盛り始める、という訳でなく、愛する人の前に来ると発情し始めるタイプなので、その辺りの節度はあるのが救いだが。





 ……なお、彼女が、ご主人様と呼んでいるジーク様の性癖は下着フェチである。サドなら良かったのにね。


 なので、毎回この状態になると、彼は辟易している。私に頼りたくなる気持ちは分かるが、自分の子分の管理くらいは、自分でやって欲しい。


「助けて」


「私は言ったわよ? 躾とけって」


 流石に、私がひっぱたく訳にもいかんし。


 その後、ジーク様は、(すげぇ面倒くさそうな顔をしつつ)ケイトの頬を軽くつねって落ち着かせると、話を始めた。ちなみに、ケイトは一応満足したのか、うっとりとした顔を浮かべている。頬をつねられて性的興奮を覚える人、初めて見たよ。


「……で、二人仲良く何の話をしていたんだい?」


「このアホの子から、婚約破棄されたわ」


「酷いんですよ、ヴァルのやつ。ロジハラしてくるんですよ! ロジカルハラスメント!」


「ごめん。話が全く見えない」


 私が、ケイトが私に(意味不明な)婚約破棄をしてきた事を話すと、不思議な事に、ジーク様は納得した様な顔を浮かべた。


「やはり婚約破棄か……」


 そう、意味深に反芻する。


「意味深な事言うわね。女の子のブラジャーやパンティーが大好きな下着フェチの癖に」


「今、僕の性癖いじる必要無くない?」


「ふふ……私、ケイト・ファルクラムの履き古した下着は、捨てずに全てジーク様にプレゼントしていますよ! どう? ヴァルはジークにパンティー一枚プレゼントした事があるかしら?」


「馬鹿な、ケイトがこの私に、マウントを取ってくるだと?!」


「止めて。変な情報開示しないで。イケメンキターーーッ! って喜んだであろう、女性読者達の僕への好感度が急降下している気がする!」


「このままだと感想欄に、変態王子のザマァはよ、とか書かれちゃうわよ」


「挽回出来る様にするよ」


 ひとまず深呼吸したジーク様。少し落ち着いたらしい。


「今、この国……いや、世界では婚約破棄が流行っている。皆、身分差のある恋愛にうつつを抜かし、周囲の声が聞こえなくなり、最終的に公衆の面前で婚約者に、婚約破棄を叩きつけてしまう」


「そんなに流行っているの?」


「1月30日現在までの時点で、表ざたになっただけで、14,508件の婚約破棄が確認されている」


「そんなに、ですか」


 ケイトは驚愕する。確かに、最近よく、貴族同士の婚約破棄がどうのこうの、みたいな噂をよく耳にする。


「我等が創造主(さくしゃ)が関わったものだけでも、4件の婚約破棄が発生している」


「なによ、我等が創造主って……それにしても、まさに、大婚約破棄時代ね」


「全く、奇怪な事だ。ケイト、今日、婚約破棄のでっち上げをしようとしたのは、よく考えた上で、これが最善と判断した上での事かい? どう考えても問題しかない行動だが」


 すると、ケイトは首を横に振った。


「いえ、なんとなく、突然思いついて、ワンチャンいけるかな? と思ったら、もう止められなかったからです」 


「この様に、婚約破棄をした人物達に、何故そんな行動をしたのか聞くと、皆一様に、何故こんな行動をとってしまったか、分からないらしい。突然、頭が悪くなるとでも言うかな? 本来、慎重で、頭の良い人でさえ、身分差の恋をして、周囲の声が聞こえなくなり、最終的に問題しかない公衆の面前での婚約破棄をしている」


「……私達の耳に入る噂で、婚約破棄をした人の中は元々、割と優秀な人もいるわね。勿論、元々うつけ者の放蕩息子なんかもいたけど」


「それを疑問に思った僕は、少し調べてみた。するとね、面白い情報に行き当たった」


 もったいぶった様に、一呼吸置くジーク様。散々期待させてから、口を開く。


「少なくとも、この国の一連の婚約破棄騒動は、ある事件以降急増している」


「事件、ねぇ……。どうせ陰謀論めいたこじつけじゃないの?」


「ま、聞いておくれよ。我が国における婚約破棄の増加。これには、この学園の裏の山にある、ザッマ神社にある祠が関わっている、と僕は見ている」


「あ、この国、神道に相当する宗教が存在するのね」


「別にこの世界、中世ヨーロッパ相当の文化や技術とは一言も言ってないからね」


 ジーク様は話を続ける。


「どうも、その神社の曰く付きの祠を破壊したアホがいるらしくてね。我が国の婚約破棄は、その祠が破壊されて以来急増している」


「因果関係がある……ご主人様はそう見ている、と?」


 ジーク様は、ケイトの言葉に頷いた。


「そう。世界的な婚約破棄の増加については分からないけど、少なくともこの国の一連の婚約破棄騒動には関係していると見ている」


「……この話、異世界恋愛ジャンルよね? そんな伝奇ホラーみたいな展開やって大丈夫?」


「この世界の創造主様、この前ジェット戦闘機が出てくる異世界恋愛もの書いてたから大丈夫だよ。多分」


「まーた露骨な宣伝を……」


「……という訳で、王子として、この国に大混乱をもたらしている、この怪異? 異変? を解決したいと思っている。協力してくれないか?」


 私達はジーク様にそう言われた。まあ、協力しても良いだろう。


 ***


 それから私達は、祠について調査をした。なんでも祠は、婚約者のいる女性から、相手の男性を寝取って、制裁された不貞女性達の魂の鎮魂の為に建てられたものらしい。


 これが破壊された事で、これまで封じられていた女性達の怨念が吹き出したのではないか? そんな考察をして、再度怨念を封印する方法を私達は探した。


 その過程で、謎のおじさんから「お前達、あの祠を壊したのか!?」とか詰め寄られたり、封印の方法を探す為に、三人で、ハイファンタジージャンルに投稿出来そうなくらいの大冒険をしたり、san値をガリガリ削られ、不定の狂気に陥る様なホラー体験をしたりと、それなりに苦労させられたが、過程は全てカットである。全部書いてたら十万字くらいになりそうなんだもん。


「……という事で、封印の儀を始めようか」


「長かったわね。ここまで」


「ご主人様、お姉様。お慕いしております。あなた達とならきっと、ハッピーエンドにたどり着けると信じています!」


 その過程で、ケイトがなんか百合に目覚めて、私の事をお姉様と呼んでくる様になったが些末な事であろう。ちなみに、彼女のドMは悪化した。毎晩、【自主規制】をねだってくるのは勘弁して欲しい。


 私達が調査中も、我が国における婚約破棄事情は悪化の一途をたどり、数多の悲劇、あるいは喜劇を生み出している。


 今度の卒業パーティーでは、ジーク様の兄にあたる、第一王子殿下が、浮気相手の男爵令嬢と共に、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を突きつけるつもりらしい。


「ジーク様は、王位に興味は無いので?」


 破壊された祠の前まで来た私達。私は、そうジーク様に問う。


「まぁ、兄上がやらかしたら、国王陛下(ちちうえ)は激怒するだろうねぇ。もしかしたら、僕が代わりに立太子する事になるかもだけど、僕は王様とか責任ある立場は勘弁したいってのが本音だ。今から教育とか面倒くさいし。だから兄上の婚約破棄は阻止したい」


「貴方も大概、向上心の無いバカ男ね」


「ふふ……それに国益の為でもある」


 ジーク様はイケメンとも言える美しい顔で、不敵に笑みを浮かべた。中々の美丈夫ぶりだ。我が婚約者ながらドキリとさせられる。


「ケイトは知っている事だが、君には初めて話す。僕の生い立ちについてだ」


「何か、私に隠し事してたの? あの子には話して、私に話さないなんて、ちょっと妬いちゃうわよ?」


「あぁ、まぁ、あまり愉快な話じゃないしな。知らなければ、それで良い話ではあるんだ」


「隠し事をしないのは、夫婦円満の秘訣の一つよ。話して?」


 すると、ジーク様は、ゆっくりと語り始める。


「……僕は、陛下の子じゃないんだ」


「……?! 随分なカミングアウトをしてくれたわね。……それは実は王族では無いって事かしら?」


「いや、王族の血自体は引いている。僕の実の父は、おじい様(先の陛下)なんだ」


「こんなふざけた小説で使って良い設定じゃないわね」


「ああ、まったくだ。……おじい様は好色家でね、美人のメイドや貴族令嬢には、一通り手を出したらしいが、そのうち、今の陛下。当時の王太子の妻にまでおいた(・・・)をしてしまった。よりにもよって、彼が隣国との戦争に出征している時にね。そして、出来たのが僕だ」


「そして、こんな話が伝わっている辺り、バレたと」


「ああ。ナニとは言わないけど、タイミングがおかしかったらしいからね。下々の人達には上手くごまかしたけど、上の連中には、この事を知っている人間は沢山いる。そんな人間が王太子になったら、いらん混乱が生まれかねない。だから兄上には、なんとか王太子を続けていただく」


「乳母が貧乏侯爵家で、嫁が伯爵令嬢っていうのは、その辺りの事情もあったのね。あんまり力を持たせたく無い、と。長年の疑問がスッキリした」


「意外と、ショックは受けてない様だね」


「そりゃあ、貴方が貴方である事が変わる訳じゃないからね。引き続き、私は貴方の許婚でいますよ」


「……ありがとう」


「どういたしまして〜。これでも理解のある妻を気取ってるからね」


 私は、壊れた祠を一瞥する。


 怨念の封印に成功したら、第一王子殿下のIQも多少はマシになり、真実の愛だの寝ぼけた事は言わなくなる……はず。王太子になんかなりたくない、というのがジーク様の願いなら、許婚として、叶えて差し上げるべきだろう。


「これより、怨念封印作戦を開始する! まずは封印の魔法陣を描く! 怨念が妨害してくるだろう。注意!」


「「了解!」」


 私達は地面に、呪文を唱えながら、魔法陣を描いていく。生贄として供物として捧げた動物の血で描いているので、端から見たら明らかにヤバい宗教の儀式だが、これが正式な封印方法だから仕方ない。


「……来たぞ、妨害だ! 僕が対応する。二人はこのまま作業を続けてくれ!」


 見ると、空中で影の様なものが集まって、人の様な形になっていく。それは最終的に、漆黒の女性の形になり、実体化すると私達に襲いかかってきた。


「妻と忠臣をやらせるかよ!」


 ジーク様は剣を抜くと、黒い影に斬りかかる。元々、武芸は不得手なインテリ気質な彼だったが、この一連の冒険で随分鍛えられた様だ。カットされたけど。


 黒い影も、腕の先を剣状に変形させて応戦し、ジーク様と影の激しい剣戟の音が響く。

 ジーク様が時間を稼いでいる間に、私達は魔法陣を描いていく。


「完成したわ!」


「お姉様、呪文を!」


「お互い、仕事が早くて結構ね」


「当然! なんだかんだで私達、腐れ縁じゃないですか! お姉様と息を合わせるのは自信ありますよ」


 私は完成した血塗れの魔法陣の前にひざまずくと、封印の呪文を唱えた。


 それを妨害しようと、黒い影が襲いかかってくる。


「敵に背中を見せるとは、随分余裕みたいじゃないか」


 だが、それは、ジーク様が背後から斬りかかった事で防がれた。そうするうちに私の詠唱が終わり、地面に描かれた魔法陣が発光し始める。


「ギャアアアアアアアアアアアアア!!」


 黒い影は、地獄の底から響く様な悲鳴を上げた。やがて、光に溶ける様に消滅していき、最終的に、一つの指輪だけが残った。


「……やったか?」


「ジーク様、そういう事は言わない方が良いわ」


 私は、慎重に指輪に近づいて、それを拾い上げた。


「依代ってやつかしら、これ。こいつに、ザマァされた女性達の怨念が集まっていた、と」


「祠を直して、これはその中に安置しておく、辺りですかね。対応的には」


 ジーク様やケイトも、おっかなびっくり近づいて、指輪を眺めている。指輪は、かなり年季の入ったもので、錆さえ付いている。


「祠の修理は僕が手配しよう。……後は、婚約破棄騒動が収まるか、だが」


 ***


 結論から言うと、第一王子の婚約破棄は行われなかった。


 今まで、真実の愛がどうのこうの言って、男爵令嬢を侍らせていた第一王子殿下であったが、人が変わった……というより、元々の思慮深い性格に戻り、現在は彼女と別れ、婚約者(義姉上)との関係修復を行っているらしい。


 やはり、突然アホになったのは、あの黒い怨念の影響だったのだろうか。


 それに伴い、第二王子であるジーク様の立場は以前と変わりない。引き続き、殿下をお支えするという役割を果たす事になる。


「うーむ。婚約破棄ブームが収まったのは我が国だけで、世界的には、まだ熱狂が収まってない様だね」


 ジーク様は読んでいた新聞を、机の上に置いた。一面には某国の第二王子が婚約者に婚約破棄を突きつけた旨が書かれていた。


 ここは、学園の屋上庭園。椅子と机が置かれ、休憩スペースにもなっている。そこに、私と、ジーク様、ケイトはいる。


「あの黒い怨念は、他にも沢山いるって事かしら」


「さぁね。人の心に悪意がある限り、あれは何度も発生するのかもねぇ……」


「げに恐ろしきは、人の心の闇って事ね」


 私は、ジーク様の言葉にうんうんと頷いた。


「なんか、二人とも、無理矢理綺麗に終わらせようとしてません?」


 少し呆れた顔をしつつ、ケイトが言う。


「いやぁ、今回私達がやった事って現状維持だけだし。まとめとしたら、こんなもんかなって」


「裏で動いてたから、他人から讃えられる戦いでも無かったし……」


「ジ・アンサング・ウォーってやつですか? こういうの、貧乏くじって言うんですよ? まぁ、個人的には、こういう刺激的なのは嫌いじゃない、むしろ好きな部類になりますが」


「まあまあ、裏方仕事ってやつさ」


「あぁ、ジーク様がこの一件で、オカルトにハマらなきゃ良いんだけど……」


「そう? 私は結構好きよ、こういうノリ。元々オカルトは嫌いじゃないし」


「そりゃ、妖怪が跋扈してる様な所の生まれの娘はそうでしょうよ」


 それからケイトは、一呼吸置いて言葉を続けた。


「……そういえば、オカルトで思い出しましたけど、最近、うちの学園、夜になると幽霊が出るって噂があるらしいですね」


「ほんとに唐突ね!」


「ほほう……」


 ジーク様は、興味深げな声を出した。あ、これは、もしや……。


「調査してみる価値、あるかもしれないな」


「ジーク様〜……私、もうオカルトはお腹一杯なんですが……」


「姉御がギブアップっていうなら、無理強いはしませんよ。私とご主人(ジーク)様で調査するんで」


「お姉様を通り越して、姉御にランクアップしたわね。…………とはいえ、二人でいちゃいちゃされるのも面白く無いわね」


 私はため息を一つついて、首を縦に振った。


「良いわ。新しい幽霊調査、付き合ってあげる」


 二人は私の言葉に満足したのか、ハイタッチをした。思えば、昔からこの腐れ縁には振り回されてきた気がする。


「さっそく調査開始だ。行こうか、二人共!」


「「おー!」」




 私達の戦いは、これからだ!


読了、お疲れさまでした。九十九BARRACUDA先生の次回作にご期待ください!


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