6話:すべて説明してしまったら面白くないじゃないですか。私が。
ここどこ? 柱でっか。広っ。天井たっか。
こういうとこ世界遺産とかで見たことある。大理石とかでできてるおっきい建物。
なんていうの、ギリシャ神話っぽいというか、太い柱がいっぱい立ってるあれ。神殿っていうんだっけ?マイクラの海の中にあるやつ。伝わらんか。
え?てか私さっきトラックに轢かれかけてたよね?なに?瞬間移動?超能力?
なんで生きてんの?そもそも生きてんの?
「あー、あー」
喋れる。手足は?付いてる。
…ん?
「身体透けてんじゃん!!やっぱ死んでる!!」
そっかぁ。死んじゃったか。てことはここ天国なんかな?ぶつかった衝撃とか痛みを感じる前に死んだとかそんな感じかね?
あっ!猫ちゃん!あのあと大丈夫だったかな?怪我が悪化してないといいけど。
「おーい。そろそろ話してもいいかの?」
あ、忘れてた。目を開けたら知らない場所にいて、誰かに話しかけられたんだった。
振り向くと神殿の奥の椅子におじいさんが座っていた。
「とりあえずそんなところにいないで近くにおいで」
「おぉう」
おじいさんが手招きすると、ぐいっと身体が引っ張られてるみたいに前に進んだ。某映画に出てきた湯〇婆みたいじゃん。この場合はおじいさんだから湯爺爺?この後死ぬまで働けとか言われるんかな?もう死んでるけど。
待ってこっちもデカくない?近付いてみると椅子も人も超でかかった。3メートル以上はあるってこれ。
優しい顔してるけどサイズのせいで威圧感凄い。おじいさんの見た目はというと、白い服、ボリュームのある白い髭につやっつやな白い髪、なんか後光も射してる。神様っぽ~。
「まずは自己紹介からすべきだったね。私は君たちがいた世界でいう神だ」
はいきた神様~。私言いたいことがあったんです~。
「君の言いたいことは分かっておるよ。すまんかったね。私が管理している世界はシステム上、どんな人間が生まれるかはランダム生成なんじゃ。だから私の意志でどうにかできるものではないんじゃよ」
おじいさん改め神様は、すごく申し訳なさそうな顔でそう言った。
システム?ランダム生成?ってことは神様は元からあるシステムを使って管理してるだけで、そのシステム自体はいじれないってこと?ただの管理職であって、システムを作る側ではないのか。
「そういうことじゃの」
なるほどね~。じゃあ私が文句を言いたいのはこのおじいさんじゃないや。そのシステムを作ってる側だわ。そっちに会えないの?
「残念ながら私にもその存在に対してのアクセス権がなくてのぅ、君と合わせることは出来ないんじゃ」
えぇ~じゃあこの悔しさはどこにぶつけたらいいのさ。あとさっきから当たり前のように考えてること聞こえてるのね。便利だからこのまま会話しよ。
「その問題を解決するための提案をしようと思って、君の魂をここに呼んだんじゃ」
提案?このシチュエーションだと転生とかそういうの?
「おぉ、話が早くて助かる。簡単に言うとそういうのじゃ」
転生・転移モノの作品は色々見てるからね。まさか自分がその体験するとは思わなかったけど。
「念の為、世界の仕組みを簡単に説明しておこうかの。君たちが住んでいた世界の他にも、別次元の異なる世界がいくつもあってな。パラレルワールドという言い方が分かりやすいか」
うんうん。その辺はありがちなやつだね。理解しやすくて良い。
「儂の管理下にあるこの世界では生まれをコントロールすることは出来んが、その辺を多少いじれる世界がいくつかあっての。君の魂をその世界に移そうと思うとるんじゃ」
そんなことできるんだ。システムってやつが結構厳しそうなのに。
「通常は儂の世界での魂はシステムの中のみで循環する。しかし死ぬ直前に少しだけシステムから外れるタイミングがあってな。そのタイミングで君の世界をシステムから引き抜いて、この空間に留めておるんじゃ」
へぇ。でも頻繁には出来ないよねきっと。
「そうじゃの。今回は少し特別なんじゃ。その辺は後で話そうかね」
おっけ。とりあえず仕組みは何となく理解した。
「そして、その世界ごとに私のような管理者がいるんじゃが、今回は君の要望に合いそうな世界の管理者に連絡しておいた。そろそろ来る頃だと思うぞ」
その直後、おじいさんの横がふわっと光って、そこからひとりの女性が現れた。わぁ、こっちもでかい。そっか管理者だからおじいさんと同じサイズなのね。
「いつもタイミングがいいのぅ。紹介しよう。彼女がこれから君が転生する世界の管理者だ」
私はペコっと頭を下げる。
すごい綺麗な人。やっぱファンタジー世界の女神ってこんな感じなんだなぁ~。スタイル抜群で羨ましい限りです。転生後の私にもそのお胸分けてください。
「初めまして、七美 紫。貴女の前世での行いは全て見ていましたよ。この爺が言った通り、私の世界でなら貴女は夢を叶えることも大儀を成すこともできるでしょう。貴女が私の世界で何を成し、どんな影響を与えるのか、楽しみにしています」
そう言って優しく微笑む女神。
大儀か。私はただもふもふをこの手で触れる身体が欲しい。それだけでいい。その夢が叶うならそりゃもう最高だけど、大儀までは遠慮しようかなぁ。
「それだけでは私が退屈…いえ、折角の転生が勿体ないではないですか。転生者は貴重なのですよ?気が向いたら考えてみてくださいね」
今この人自分が退屈するからって言いかけた?
「さて、早速ですが転生を開始しましょうか」
そういうと女神は手をかざし始めた。私の身体が淡い光に包まれていく。
あ、それだけ?こんな世界だよーっていう説明とか、転生あるあるの神様からのギフトとかそういうのないの?ほら、隣のおじいさんがちょっと慌ててるじゃん。
「これから暮らす世界について、すべて説明してしまったら面白くないじゃないですか。私が」
ついに本音を言ったな?
「ギフトは私のほうでいくつか選定して渡しておきました。さぁ、貴女らしく自由に生き、私を楽しませてくださいね」
大丈夫かな。心配になってきたよ?
「こんな奴じゃが悪いようにはせん。次の世界ではやりたいことはなんでもできるはずじゃ。私も見守っているから安心してお行き。元気での」
おじいさんのその言葉を最後に、急な眠気に襲われて意識が薄れていった。おじいさんがそういうなら大丈夫なのかな?
私のやりたいことができる。女神が来てからがあっという間で感情が追い付かなかったけど、実感が少しずつ沸いてくる。
好きに生きていいって言ったね?ならそうさせてもらおうじゃん。
今度こそ完璧なもふもふライフをこの手に!
決意を新たに固めて、私は睡魔に身を委ねた。
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「ところでなんのギフトを渡したんじゃ?」
「これです」
そう言って女神は空中からファイルを取り出して爺神に渡した。
「とてもいい魂ですね。この仕事は退屈で仕方ないですが、あの子の活躍によってはこの先の楽しみが増えそうです。ではまた」
そう言って女神は自分の世界へ帰った。
「相変わらずじゃの。え~どれどれ…」
爺神は渡されたファイルに目を通す。
「……ちと渡しすぎではないかの?」
思わずこぼれた爺神の言葉は、誰もいなくなった神殿にやけに響いた。