4話:残念すぎる
ホームルーム終了のチャイムが鳴る。今日も私はその音を目覚まし代わりにして起きる。
退屈な授業が全部終わった。さぁ、推し事の時間だ。
「ゆんちゃん待って」
「なんだい?」
バッグを掴んで席を立とうとした時、凛ちゃんに呼び止められた。
「今日はボランティアの参加、ゆんちゃんだけなんでしょ。私も今日は部活ないから付き合うよ」
「なんで知ってるの…?エスパーか?」
満面の笑みで振り向いた私は、一瞬で困惑の表情に変わる。そんな私とは対照的に顔色一つ変えない凛ちゃん。
「ボランティアの人達から聞いた。今日ゆんちゃん1人だからよろしくって」
「いつの間に!?」
私は学校周辺を活動拠点にしている保護猫ボランティアに参加してる。野良猫や捨てられた猫を保護して、新しい飼い主を探すのが主な活動内容。あと、地域で飼ってる猫ちゃんたちの体調管理もやってる。
私は、その最初の部分、野良猫とか捨てられた猫がいないかを探して、見つけたら保護係の人達に連絡する係をやってる。初参加の時はもふもふの誘惑に耐え切れずに、見つけたらそのまま自分で保護しようとした。
結果見事にアレルギー症状が出てしまい、他のメンバーに「どうしてアレルギーだと教えてくれなかったのか、今後は見つけたらすぐに自分たちに連絡するように」と注意されてしまった。
それでも猫に近づこうとする私をみたメンバーは、常に監視役として1人以上付き添うようにというルールを設けた。
今日はどうしても他のメンバーの都合が合わなくて、私1人で探しに行く予定だった。けどまさか凛ちゃんがボランティアの人たちと仲良くなってるなんて。
「ボランティアの人達、会うたびに話しかけてくるからみんなの名前覚えちゃったわ。こないだはお菓子まで頂いちゃった。すごくいい人達よね」
クスッと笑みを浮かべる凛ちゃん。可愛い。流石、天然人たらしめ。きっとみんなその美貌にやられてるんだ。黙っていても人が寄ってくるんだな。
はっ…!そうか!私もその美貌を手に入れたら、もふもふが魅了されて寄ってくるんじゃないか?
黙って立っているだけでもふもふに囲まれる人生。最高だな。
「よし凛ちゃん、その美しさの秘訣を教えてくれ」
「なによ突然。特に何もしてないわよ」
「くそ、これだから美人は」
私の「凛ちゃん直伝☆美貌を手に入れもふもふにモテモテ大作戦」が作戦の段階で失敗に終わった。
悔しそうに天を仰いでいる私を無視して、凛ちゃんは話し続ける。
「ボランティアの人達、ゆんちゃんの話しかしないのよ。あんなに楽しそうに話してくれるから私まで嬉しくなるわ。普段バカなことしかしないのにこんなに愛されてるのは、やっぱりその人懐っこい性格なのかしら?バカなのに」
「なんだよ急に。そんなに褒められたら照れるじゃないかぁ」
「褒めてないわ」
おぉう。切り捨てられた。
「写真だけなら美少女なのにね。「ナントカ大作戦☆」みたいなこと考えてるような子だとは思わないわよ。残念すぎる」
「なっ…まさか私の心の声を読んだ?いつの間に読心術を身に着けたの?やっぱりエスパーだったか」
ずるいぞ!美貌に加えて読心術まで!
…ん?心を読む?相手の考えていること、求めているものが分かる?私にその力があれば、前から考えてた作戦のうちのひとつ「もふもふと心を繋げ☆愛の言葉でズッキュン大作戦」が決行できるのではないか?
「読んでないわよ。ゆんちゃんの場合は顔と態度に出てんのよ。昔からバカそうな作戦考えるのも得意だったじゃない。見てればわかる」
「私の作戦をバカにしたな?やるか?お?やる気か?」
戦闘態勢に入る私。すたすたと歩きだす凛ちゃん。
「逃げるのか卑怯者~」
「なにやってんの。ボランティア行くんでしょ?」
「行く!!待ってよ凛ちゃ~ん!」
全く振り向くことなく教室を出て行った凛ちゃん。ファイトポーズのまま取り残された私は急いで追いかけた。