3話:学校に通う理由?登下校中に推しに会う為ですけど
それから月日が経ち、18歳になった私のもふもふへの愛は変わっていなかった。むしろ抑圧された欲は膨らみ続け、周囲からは引かれるほどになっていた。
近所の野良猫の多さと制服の可愛さで高校を決めた私は、今日も登校中に推し(野良猫)を見つけジリジリと猫に近づいている最中だ。
「うへへ…猫ちゃん…かわいいねぇ~ちょっとでいいから触らせて…」
最近の推しはこの子。とってもワイルドなお顔をしたぽってりお腹が自慢の野良猫くん。この周辺を縄張りにしてるからよく見かける。
耳の先がカットされてるから、この辺の地域に住むみんなでお世話をしてる地域猫くんだね。まん丸お腹を見るに野生を忘れかけてるな?あぁぁ可愛いねぇ♡
「ほぉ〜ら怖くない、いい子だね〜。あぁぁ〜可愛いっ…あと少しで触れる…へへへっ…」
「シャー!」
「あぁっ!!逃げないでっ!」
私と目があった瞬間、猫ちゃんはビクッとして逃げていってしまった。
今日も失敗だ。あの子は毎回逃げちゃうなぁ。きっと照れ屋なんだ。そうに違いない。決して私の顔にビビったわけじゃない。
気を取り直して通学路に戻る。もちろん他の野良猫がいないか探しながらだから、まだまだ寄り道はするけどね。
「おはよぉ~」
結局あの後は他の野良猫たちに会うことができなかった。なぜだ。垣根とか草むらとか駐車場の車の下とかあんなに探し回ったのに。
私は自分の席に座ってため息をつく。
「おはよ」
隣の席の美人がジトッとした目で私を見てくる。な、なんだね。
「ゆんちゃん、また来る途中で野良猫触ろうとしてたでしょ。またゆんちゃんママに怒られても知らないわよ」
「チッ、バレてたか」
通学路から少し逸れた道でのことなのにバレてるとは、なんて鋭い子。どこから見てたんだ。
この子は志乃原 凛。私の幼馴染。幼稚園からずっと一緒。
この進学校に推薦で入るほど頭がよく、運動の成績もそれなりにいい。なんでもそつなくこなす素晴らしい子。この学校に通うために必死で勉強した私とは大違いだ。
そしてなにより美人。大きい少しツリ目気味な目はクールな印象で黒髪のボブがよく似合ってる。裏表なく物怖じしない性格で男女関係なく憧れる、私の自慢の幼馴染だ。
ちなみにゆんちゃんは私のあだ名。凛ちゃんだけが呼ぶ特別な呼び方。
「ゆんちゃん、もふもふ好きなのは充分わかってるけど、こないだも怪我した犬を助けようとして喘息出てたでしょ。身体もたないわよ?」
凛ちゃんは私のもふもふ好きも動物アレルギーもわかってるから、いつも私を見張ってる。すぐ動物に近づこうとする私を見てて欲しいと、私の親からも言われてるらしい。
「もふもふが私を呼んでるんだもん!今日の猫ちゃんだってあんなに尻尾ゆらゆらさせて、あれは絶対私を誘ってるよ!私に触ってくれって言ってるよ!」
「何言ってんの。あんたの顔見てビビって逃げてたじゃない。動物触ろうとしてるときの自分の顔見たことある?」
「あっ!ひっどい言い方~!あの猫ちゃんは照れ屋なだけだし、私の顔が少しくらい変だったとしてももふもふは許してくれるもん!もふもふは寛大なのよ」
「あらそう?なら今度動画撮っていてあげる。すんごい顔してるから」
なんてひどい。鬼か。あんたの血は何色だ。もし撮られたら仕返ししてやる。こっちは凛ちゃんの寝相がすごい悪いってこと知ってるんだぞ。こっそり撮ってやる。へへっ。
「何企んでるのか知らないけど、ゆんちゃんのその考えてること全部顔に出る癖どうにかしなさいよ。折角顔が整ってるのにもったいない」
「褒めたって貴様の寝相を盗撮するのはやめてやらないぞ!」
「やっぱり企んでた。ゆんちゃんとはもう泊まってやんないわ」
「あっ」
そこで1限目の鐘がなり、私はむっとした顔で授業を受ける羽目になった。
~放課後~
「ゆんちゃん…途中からずっと寝てたね。あんた何しに学校に来てんの」
「登下校中に推しに会う為ですけど?」
すみません。あと少しだけ現世パートです。