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補助金の説明会

作者: 作家をめざしている不動産屋

学生時代の自転車の集まりのとき、先輩がボソッと言っていたことがある。

「本当にくだらない会議に出させられて、こんな時間まで仕事することになったよ・・」

その頃は、まだ今の不動産管理の仕事にも不慣れだった。だから会議はおろか、業者との電話のやり取りすら覚束ない有様。


だからいつか

『あぁ、くだらない会議だったなぁ』とか

『なんなんだよ!この会議!要らねえじゃねえか!』みたいな

大人っぽいセリフを吐いてみたいな、なんて子供じみたことを思っていたのだった。


だが現実に時間だけ長く掛かる会議に出席して、心底辟易とした。そういうお話である。


私が町会に入ったのは2019年だった。

都内での勤め先の町会には、年間9,600円も町会費を取られていた。

それなのに、毎年決算書が出てくるのが本当に遅かった。

決算書はまだなんですか、と何回も町会の役員たちをせっついている内に、

「貴方も町会に入りませんか」

と言われてしまったのだった。

例によって、何処の町会も少子高齢化が進んでいて、新しくなり手がいない。

だから私みたいなのは丁度持ってこいだったのだろう。


そんなある日、町会長から

「防犯カメラ整備事業というのがある。

もう日程に余裕がないから、早く書類に必要事項を記入してくれ。

補助金の説明会にも聞きに行ってきてくれ」

と言われてしまった。


東京オリンピックを翌年に控えていた2019年当時、新型コロナウィルスが世界中に蔓延するだなんて、勿論誰も予想していなかった。

だから予定通りオリンピックが2020年に開催されるものとして、誰もが行動していたのだ。

そんな折に防犯カメラ整備事業が始まった。


オリンピックの際、膨大な不特定多数の人間が海外からやってくる。

法律を守る善良な方々ばかりが日本にやってくるのであれば、こんないい事はない。

だが現実にはそうではない。

それに近年地域の繋がりも少なくなっていき、地元の町会主導での防犯というものも難しくなりつつある。

だから治安を維持する一つの方法として、防犯カメラが必要と。


ともかく私が聞かされたのは、そういったお話だった。

因みにこの防犯カメラ整備事業では、行政から補助金が支給されているそうだ。

「説明会を聞きに行ってくれ」

と町会長が言っていたのは、そういう事なんだろう。

カネと女絡みの話には、町会長は尋常ではない執着心を見せる。


―防犯カメラの補助金説明会、一体どんなものなのだろう?

事実それまでの不動産管理の仕事で、控えめにいって私は色々なことを経験してきた。

だから大抵のことに驚かない積りだったのだけれども、やはり驚くべき事が待ち受けていたのである。


東京は7月にもなるともう暑苦しい。だから本当は背広なんて着たくもないのだが、かといって普段の格好で役所に行くわけにもいかない。なんせ私は普段から職務質問の餌食になることが多いのだ。


夜7時から区役所で始めるとは聞いていたが、遅刻する訳にもいかない。

30分ほど前に最寄り駅に到着して、駅ナカの喫茶店で時間を潰す。

役所特有の、わかりにくい言い回しの書類を眺めるにつけて、

こんな事務手続き出来るのかなぁと心が折れてくる。

その一方で、

「これよりも数段面倒なことをくぐり抜けて来たのだから、これくらい何とかなるだろう」

と高を括っている自分もいる。恐らくこちらの方が本音に近いと思われる。


区役所は駅から歩いて数分の所にある。

その近くには、警察署とか消防署もあり、数百m離れたところには都税事務所や保健所まであった。やはりそれぞれの役所としても、あまり離れているとやりにくくてしょうがないのだろう。

ご多分に漏れず、区役所の建物は地上10階地下1階建てのとても立派なものだった。

そして補助金説明会は、10階の会議室で執り行われるらしい。


エレベータの中に入る。私の他にも説明会に来ていると思しき人間が2,3人。

「・・・こないだの打ち合わせで・・」

「ー私には、もう来ないでください、とか言ってきてさ!」

「チョットやり過ぎたんじゃねえの?」


勿論彼らの見た目は一見普通なのだが、何処がどうという事なく、何か違う。

『この人達は、普段どういったご職業に就かれているのだろうか?』

という疑問点を会話の端々から抱かずにはいられなかった。


ーなんて所に足を踏み込んでしまったんだ

と今更ながらに後悔した。だがもう遅い。エレベータの扉が開いて一目散に廊下に出る。

すると説明会の会場の扉が開かれていた。


・説明会

会場には説明者と思しき方が二人いた。区役所プロパーのお方と、警察署から出向されていると思しきお方。

このお二人が防犯カメラの補助金説明会を為されているという事実そのものが、色々な事を物語ってはいるな、とは思った。


区役所からお越しのお方とは、それ以前に電話で何回かやり取りをしていた。

会場で彼と名刺交換する。

ただこんな事をしているのは私だけで、それ以外の慣れた感じの方々は一切名刺交換なぞしていなかった。


それに背広を着ているのは私だけだ。他の方々は全員私服である。

30歳を過ぎると生き方が顔に現れるという。そうだと思う。そしてこの時ほど、この言葉を実感した事はなかった。説明会が始まってもいないのに、早くも帰りたくなってくる。他の人と会話しなくても済むように、最前列の席に陣取った。


・質疑応答がやたらと長い

区役所プロパーのお方が主に補助金の説明をする。説明自体は30分程度。大体が事前に受け取っていた資料について詳しく説明するといった感じだった。だがその後に続く質疑応答がやたらと長いのには辟易とさせられた。勿論、この区役所のお方の性ではない。


「事業計画に提出したときよりも見積もりの価格が上がるなんてあり得ませんよね!!」

と区役所のお方から念押しされているにも関わらず、

『消費税の値上がりとか人件費が変わって見積もりが値上がりしたらどうすんですか?』

と平然とした顔で質問してくる人間を見ると、自分とは違う世界に住んでいると言わざるを得ない・・・。

一応区役所のお方は

「消費税は、10%という事で宜しくお願いします。」

という大人の対応で受け流していた。そうするしかない相手だ。


案の定、会場がざわめき始めてくる。まだヤジなどは飛び出さないが、もう少し雰囲気が悪くなってきたらそうしかねない連中だ。そんな時にもう一方の説明員のお方が

「私も警察から出向してきているんですけど」

と前置きしてから話し始める。するとざわめきがピタリと止む。


ー”警察”という単語に異常に反応する人種というのは、確かにいるものだ。

と実感した。


他にも、防犯カメラの設置予算に対する補助金比率について根掘り葉掘り聞き出したり、

今年度と同じくらいの予算が来年度も確保されているのか、

などといったウンザリする様な質問が相次いだ。

挙句の果てには、

『希望者が多くて、各町会に支給すべき金額が補助金として確保した予算を上回ったらどうするのか?』

といった質問まで出る始末だ。


ー補助金が支給されなければ、防犯カメラなんて要らないという事なんだろうか・・?

何故そういった質問をしようとするのか。まさか担当者の言葉尻を捉えて補助金を少しでも多く掠め取ろうという訳でもないだろうし、釈然としない気分のまま、時間ばかりが過ぎ去っていく。不毛だなぁ、という思いだけが募っていった。


こうした会議に出て、思うことは唯一つ。


会議は、短く。


それだけ。

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