不動修羅
今から10数年前になります。私は田舎の村に住んでおりました。
田舎の名の通り、少し山を登ると棚田のような田んぼが無数に並んでおり、町の道路は舗装されているものの、田んぼの道は半ば獣道となっておりました。
当時私は16歳でございまして、探求心と好奇心が旺盛の青年でした。
ある時、学校でとあるうわさが流れたのです。学校と行っても全校生徒が二桁行くか行かないかの人数ですから、校舎ではなく、元々公民館だったところが、町の役場と一緒になるということで使わなくなった建物を二部屋借りて、そこで毎日勉学に励んでおりました。
しかし、毎日勉強をしていたので、少しやんちゃをしたくなり、その手に通じている友人に話を聞きに行きました。すると「うちの村に狸屋敷があるだろう」と、話し始めました。
狸屋敷はもともとこの村の伝説である「不動修羅」に由来する祠があった場所に、それを信じない地主が、祠を壊して建設した家でして、そこに住んだ地主が、奇妙な死に方をしたと、30年前に一度村で話題になったことがあるそうで、その奇妙な死に方というのが、左手を切断され、腕と肩の断面に地主が家宝としていた立派な刀が切断するようにして床に刺さっていて、左手には縄が握られていました。
そもそも、不動修羅の説明をしていませんでした。不動修羅というのは、仏教界において、人の道から外れようとした人を縄で捕まえて、刀で懲らしめるという「不動明王」の、悪心に呑み込まれた姿であると言います。
【不動修羅の伝説の概要】
本来左手に縄、右手に剣という本来の姿とは逆に、肖像画は描かれています。修羅というのはこれもまた仏教の世界の一つである「阿修羅界」からきているものだそうで、その「不動修羅」は人間界のいわゆる「妖怪」に分類されているようで、その昔、不動明王が変貌してしまったことにより、仏教の世界でも一番偉く、不動修羅と密接な関係にあった大日如来に、力とともに世界を追放されたのでした。
その追放先が人間界でした。力を失ったとはいえ、不動修羅が得意としていた鬼道は使えるようで、人々を恐れさせました。しかし、人は学ぶものです。恐れてばかりはおりませんでした。いずれ、不動修羅を滅ぼす術を考えだします。とある村に、先代から伝え受けたありとあらゆる術をすべて継承した巫女がいるらしいと、あたりで有名になりました。時の王に呼び出され、その修羅を滅せという勅命を直々に受けた巫女は、目を閉じ、少しの沈黙の後、「はい」と静かに答えたそうです。巫女は不動修羅がいる場所に、満を持し、すべての勢力を持って向かいました。その数50人。すべて巫女の力を継承している女たちでした。
結論から言うと、不動修羅は巫女たちの力の前に倒れました。巫女たちは47人が死に、残った三人も、足がちぎれたもの、利き手が引き裂かれたもの、目が焼けたものがそれぞれいました。決して良い結果とは言えませんでした。47人が死に、3人が五体不満足になっても、不動修羅を完璧に討ち倒すことができなかったのです。できたのは巫女たちが作った空間に半永久に閉じ込めることだけでした。激しい戦いが終わった後、王は巫女を偲んで、不動修羅を恨んで二つの祠を立てました。一つは村の端に、一つは森の中に建てて、その後ろに杉の木を植えました。そしてその二つの祠の中に、ひとつずつ色違いの勾玉を供えました。
そこから死ぬまで毎日王は礼拝を続けたと言い伝えられています。
時がたち、村が大きくなり、不動修羅の祠が村の端になくなったころ、時の大地主が祠をずらして家を建てたいと言い出しました。もちろん村民から大反対を受けましたが、それを押し切って祠をずらして豪邸を立てました。それだけではとどまらず無駄に祠を豪華にして多色に彩るという余計なことをしました。。その身勝手な地主の行く末は、前にある通りです。家は狸屋敷と化しました。
その事件が起きたのは30年前、不動修羅が空間に封じ込まれたのは1900年前のことだそうです。
時間はまた現代に戻ります。
――そんなわけで今日この後その狸屋敷にいかないか?
クラスメイトの吉田が提案しました。その時その場にいた吉岡と田中は快くその誘いに乗りました。私は迷っておりました。確かに自分はついていきたかったのですが、自分はそういうことはしないと親や先生に思われていたに違いなかったため、ばれたら幻滅されてしまうのは変えようのない事実だったのです。ですがその場の空気もあって、自分はそれを了承しまいました。
学校のない日曜日、正午に吉田の家に集まりました。赤い懐中電灯と台所にあった塩を持って、三人で狸屋敷へと向かいました。向かうと言っても徒歩20分くらいのところで、近づくにつれて、胸の高鳴りが大きくなっていくのを感じました。汗が額に滲んで目に入って痛みました。だんだんと狸屋敷が見えてきました。並木のように並んで建っていた家々は狸屋敷に途切れ、空間と空間に挟まれた狸屋敷は、異様な不気味さと奇妙な神聖さに包まれていました。普段家でも学校でもちかづくなと言われている場所のため、じっくり見るのは初めてでした。
此処か。と吉田が言いました。吉田はこういう悪行には慣れている様子で、玄関から入ろうとはせず、裏に回り、割れている窓を見つけました。
その時吉岡が「やっぱりやめよう」と言いました。吉岡は怖がりでした。ここまで来て引き返すのかとみんなから非難されました。私も非難しました。だんだん泣きそうになってきたので一人だけ外に待たせることにしました。窓に手をかけ勢いよく体を持ちあげて足をかけて入りました。
中を見ると驚きました。乗り込んだ部屋の中央に畳を貫通して祠があるのです。あるべきでないものがあったのです。私と田中は目を合わせ、恐怖を分かち合いました。田中はおとなしい人でしたが、何を考えているかは容易にわかりました。吉田は驚きながらも足を止めずに祠の前に立ち、祠に手を伸ばしました。「やめろ」気が付いたら私は叫んでいました。
なんだよ怖いのかよと吉田があおってきたので返答に困りました。
必要以上に怖いわけでもなければ、祠が禍々しさを醸し出しているわけでもなかったのですが、確実に開いてはいけない禁断の扉だと、私は感じました。沈黙が秒数を曖昧にしていました。しばらくして、三人の時が動き、再び吉田が祠に手を伸ばしました。今度は止める暇もなく、祠の扉を開いたのです。中には小さい鳥居があり、無駄に長い注連縄が鳥居から垂れ下がり、その鳥居の中に緑色に錆びた勾玉が、確かにそこにありました。
その時です。確かに聞こえたのです。とてつもないほどの轟音が。それは十万億土から聞こえる銅鑼の音にも、業火の償いに苦しむ悲鳴にも聞こえました。私と田中はいてもたってもいられなくなり、吉岡の背中から目をそらして逃げ出しました。何の音だ?なんで鳴った?吉岡のせいか?吉岡は無事か?いろんなことが頭の中を駆け巡りました。
窓から外に出ると、距離の割に心臓が暴れていて、呼吸を整えながら思考の整理を始めました。田中もひざに手をついて息を荒くしていました。
吉岡が走ってきて、何があったのか聞いてきて、ことの顛末を説明すると、おかしいことを言い始めたのです。あの天を劈くような轟音が吉岡には聞こえなかったのです。鼓膜が破れてしまいそうなあの音を。
すぐ戻ってくるだろうと思っていた吉田は、いくら待っても戻ってきません。
本当は5分くらいなのでしょうけど、焦っている人の時間間隔は等速ではなくなり、時間がたつにつれて早くなっていき、30分ぐらい待っている気分でした。
さすがに置いては帰れないと判断した三人は懐中電灯をたしかに握って、互いが互いに密着して、ゆっくりと進んでいきました。窓から中をのぞくと吉田が床に伏せていました。怖さより心配が勝ったから、私は急いで吉田のもとに駆け寄ました。意識を失っているようで、二人も後からついてきてくれて、運び出すことにしました。家の横の空き地に寝かせ、無我夢中で名前を呼びました。全員で名前を呼んで、五回目くらいでやっと目を覚ましました。
「どうした、なにがあった」そう私が叫ぶと、吉田は何かにおびえた様子でガタガタと震えていました。口を利ける状況ではないと判断した私たちは近くの家に電話を借りに行き、救急車を呼びました。次に吉田の親に電話し、再び事の顛末を話しました。
救急車とは言えないほどとても粗末な車で、吉田と私たちは近くの診療所に連れていかれました。吉田は私たちが、親が迎えに来て家に帰るまで震えて居、口も利けずにいました。
家に帰ると、すべてを吉田の親から聞いた私の親に殴られ、問いただされました。「おい、あそこで何をした、吉田君は何をみた。」怒号のような声を出す父親に、厳しい顔をずっとしている母親を見て、自分は自分が思っているより愚かなことをしたのだと気付きました。
しかし気付いたころには遅かったのです。
学校で私と吉岡と田中がよびだされました。吉田は学校には来ていませんでした。
学校一厳しい先生に怒鳴られ殴られた後すべてを聞かされました。
あの祠は今でも生き残った三人の血を引く巫女たちが年に3回変わり番で呪いとお経を唱えて不動修羅を抑えているということ。その祠の扉は不動修羅のいる世界とこの世とをつなぐ糸のような役割を果たしているらしく、糸に例えたように不動修羅が出てこられることはなく、怪物の呪いが祠によって抑えられているということ。その呪いをすべて吉田が受けてしまったということ。その扉を開ける瞬間を目撃した二人にも呪いが飛び火してしまったこと。吉田はいまその巫女のところに行き、呪いの浄化を行っていること。私たちもそこに行かなければならないということ。生き残った巫女は三人。血を引き、継承した巫女も三人。そして呪いを受けてしまったのも三人。一対一で呪いを浄化するらしく、学校を早退して山奥にある神社にいくことになりました。
神社に着き、鳥居をくぐって建物の中にはいると、先生が神主と巫女を呼びに行きました。
身長はそこまで高くなく、歳は17にも見えれば、40にも見えました。「おや、あなたが例の」と言われたのですが、言葉がうまく出てこず、先生が代わりに答えました。「ええ、そうです。ですが、彼は扉をあけていません」というと巫女は少し表情が緩みました。
「そうですか、それでは」そういうと私を奥の部屋へと連れていきました。
電気がない部屋で四隅に塩が置かれ、ろうそくが一本立っていて、巫女も装束姿に着替えていました。鴨居には猿にも見えるし怪物にも見える模様が彫られていました。
「ここにお座りなさい」声に従って自然に正座をしました。「あの怪物の呪いを受けたらどうなるかをいっていますか」そう聞かれたので無言で首を振ると「あの怪物の呪いは非常に強力で、普通は呪いに耐え切れずに肉体が消滅します、ですがあなたの場合呪いは極微小で、私の力で十分浄化は可能です。しかしあなたの友達の命は保証できません」
私は唖然としました。自分の身の安心より、友の身の危険を案じました。どうにか、助かる方法はないのか、と尋ねると瞬きより長く目を閉じ、ゆっくりと目を開けて冷徹な声で言いました。「ひとつだけあります。ですが、保証はなく、下手をすれば死んでしまうかもしれません。とにかくあなたの浄化が最優先です。」数秒無言が続きました。巫女は目を瞑り、お経を唱えだしました。自分もそれに倣って目を閉じました。当たり前ですが、暗闇が広がっていました。お経を唱えてしばらくするとおかしな現象が起き始めました。
目の前にあるはずのない空間ができ始め、炎に包まれました。1メートル先に足が見えました。とてもごつく、大きい足でした。肌は黄色で、ゆっくりと顔を上げると、右手に縄、左手に剣を持った大きい体の怪物が目の前にいました。これが不動修羅か。と絶望しました。怪物の名にふさわしい仰々しさで、体が全く動きませんでした。怪物が剣を振り上げ、勢いよく振り下ろそうとしました。私は動かない体を呪い、絶叫しました。目を覚ますと布団の中に居ました。体を起こすと倦怠感と頭痛に襲われました。しばらくすると巫女がやってきて、なにがあったか教えてくれました。お経が終わったとたんに発狂して気絶したらしく、今は浄化が完了してから五時間が経過したそうでした。確かに夕日が差し込んでいて、空腹も感じました。私の浄化は無事に終わったらしく、学校に戻った先生が後で迎えに来てくれるとのことでした。吉岡も無事らしく、吉田のことは教えてくれませんでした。また凛とした表情に戻って正座すると、「あなたの友達を助ける方法が、ひとつだけあります。ですがさっきも言った通り、間違えると命を落としかねない結果になるかもしれません。それでも助けますか」私の答えは決まっていました。「はい。もともと自分たちのせいでこうなりました。落とし前をつけるという意味でも、やります」
自分は扉を開くという行為が、呪いをかけられるだけじゃないということを知っていました。流れ続ける水という呪いは栓いなければ延々と流れる。その栓を開いてしまったのは私たちであると知っていました。だから私が呪いを浄化し、封印しなければならない。そう思っていました。
「そうですか、それでは今から助ける方法をお教えします。実行するというのなら、私もついていきます。」
不気味な夕日が嗤っていました。
杉の木の前に立っていました。幹は私の体の3倍ほど太く、枝は見上げて二メートルほど上のほうから分かれていました。壮大なご神木の前に立ち、身震いをしました。不変性や永遠性をどことなく感じさせる不気味さと神聖さを兼ね備えたご神木は、その腹に祠を抱えていました。「この祠の中に、勾玉があります。あなたの友達が呪いを受けように、この勾玉にも、巫女の力が宿っているはずです。ですが、断言はできません。死んでいった巫女の呪いが込められているかもしれませんし、死んでもなお守りたかった巫女の思いが込められているのかもしれません。それでも、やりますか」私の決意は固く、無言で頷きました。
巫女は私に近づき、またお経を唱えだしました。唱え終わると何かが乗り移ったかのように「行きなさい」
透き通った声でした。
私はゆっくりとご神木に近づき、鍵の役割をしている板を外していき、木の扉を開きました。
どこからかやさしい唄の様な、天使の歌声の様な綺麗な音が聞こえました。腕を伸ばし勾玉に触れると、脳内世界にバグが起こったかのように現実世界から遮断されました。
巫女が三人いました。同じ格好で、同じ椅子に座っていました。一人は腕がなく、一人は足がなく、一人は目を瞑っていました。
急に光が闇を打ち消し、やさしさであふれた空間に居ました。
「おや、あなたが私たちを」と優しい笑顔で隻腕の巫女が言いました。
脳内の私は落ち着いていました。「ええ、僕は罪を犯しました。その償いをするためにあなた方を起こしてしまいました。」「いや、いいのですよ、すべてわかっています。ですが、の怪物は私たちが力を合わせても打ち倒すことができませんでした。」「いえ、大丈夫です、あなた方の力を貸していただけるのならば、確実に。」今思うと何の根拠もない妄言でした。
ですが隻腕の巫女たちをこの目で見た瞬間、確信しました。私は、あの怪物の呪いを浄化することができる。と、そう信じたかっただけなのかもしれません。
気が付くと目の前には祠があって、それを包み込むようにご神木がありました。錆びた勾玉を手に取り、巫女に「行きます。」と返事をしました。吉田が臥している神社はここから近く、急いで、それでいて冷静に向かいました。神社の前に着くと、長い階段がありました。
ゆっくりと一段一段登っていきます。息を整えながら100近くのきざはしをのぼっていきました。最後の一段を踏みしめました。深呼吸をして、鳥居をくぐりました。部屋の中に入ると、短期間でありえないほど瘦せこけ、目の隈が際立っていました。私は落ち着いて、勾玉を眠っている吉田の胸の上に置き、お経を唱えました。決して覚えていたわけではありません。自然と出てきたのです。そのお経を唱えている間。また現実世界を遮断しました。
病院に居ました。若いころの母親が、分娩台の上で苦しい顔をしていました。叫び声をあげて、父親が励ましていました。場所がかわると、次は幼稚園の頃の自分と、両親が手をつないで笑っていました。次は今の学校の入学式で、吉田との会話、吉岡とした勉強、田中とした笑い話。全てを第三者の目線で見ていました。ああ、これは走馬灯なのだろうか、私の命と引き換えに浄化され、彼は助かるのだろうか、それも、悪くない。視界が白くなり意識が途切れました。
目を覚ましました。どうやら生きていたようでしたが、体が非常に重く、息苦しかったのを覚えています。白髪の増えた母親が驚きと喜びの表情で「よかった。本当によかった」と、泣き崩れました。随分迷惑かけた。と思いました。「ごめん、迷惑かけて、ストレスで髪の毛も白くなったね。」母親は顔を合わせて、さらに泣きました。その泣き声に気付いた看護師が様子を見に来ると、また驚いた様子で駆け寄ってきました。「大丈夫?どこも変なところない?」そんなに驚くことなのだろうか、少し体が重いことを申告しながら思った。
「先生を呼んでくるわ」と母親と看護師が出ていきました。そのうち医者がやってきて、「君、まずは無事で何よりだ。一つ大事な話があるんだが、起きたばっかりでだが、大丈夫か」
痛いところもなかったからうなづいた。「よし。じゃあ話そう。まず君は、神社で倒れているのを発見された。そう君の友達の吉田君に覆いかぶさるような形でね。それは覚えているかい」
自分は覚えがあったので、首肯した。まだなにも大事な話には思えない。そんな考えは次の医者の一言によって払しょくされた。
「それが6年前の話だ。」
驚きを隠せず、え?と聞き返すと同じ調子で医師はいう。「君は6年間寝続けていたんだ」
意味は分かるが理解できない。
そのあと全部話半分で聞いていたが、こういうことらしかった。
倒れているところを発見した巫女は、その神社の神主に頼んで救急車を呼んでもらい、この病院に運ばれた。吉田もあの後3日後に目を覚まして特に問題はなかったらしい。
そして、なんでこんな長い期間眠り続けていたかに関しての巫女の見解はこうだ。おそらく呪文によって私の「力」というものは使い果たされ、壊れてしまったらしく、それの修復のために眠っているのではないかと言っていた。母親の白髪の原因はストレスではなく時間の経過による老化だった。
検査が終わり6年間眠り続けていたことによる筋力の低下のリハビリが次の日から行われた。
半年の入院を経て退院した。私はまず吉田のもとに向かった。6年の歳月が過ぎたのだ。きっと何もかも変わってるのだろう。家についてインターホンを押したが誰も出ない。出かけているようだ。あきらめて帰ろうと家に面した道に出ると、目を疑いました。
あの歩き方。吉田です。6年の歳月をものともしない日常的に行う運動は、彼であることを物語っていました。彼もゆっくりと近づいてきます。お互い目があった瞬間走り出しました。
そうして抱擁しました。いつまでもいつまでも。抱き合っていました。
〈了〉
〈後日譚〉
吉田と語りあった後、巫女のところに行きました。あの神社は少しすたれた様子でしたが美しい神社でした。
あの引き戸を開くと音に気付いた足音近づいてきました。
顔を見るなり口角があがりました。「あなたでしたか」
巫女も笑っている様子でした。「ええ、お久しぶりです」
おあがりなさいと言われたので、家にお邪魔することになり、この眠っている間に起きたことを話してくれました。
話の流れで聞きました。
呪文を唱えたとき、呪文を受けているとき、脳内世界で起きていたことは「天啓」というものだそうです。天啓は私の頭の中だけで起こっていた出来事のため、本当の姿ではない。と教えてくれましたが、私はどうにも腑に落ちないのです。あの不動修羅の禍々しさ、隻腕の巫女たち、走馬灯。それらが、自分の中だけで起こっているとは到底思えませんでした。神様はいる。きっと在る。そう信じています。