虚乳狩り
傍点、及びルビで振った×は展開やオチのネタバラシや言葉の強調に使われてます
あの話を聞いたのは数日前の帰り道、ガラガラの駅構内での事だ。
『ねぇ、知ってる?
この駅って出るんだって!』
『出る?痴漢?』
『違う!違う!コレよ、コレ!』
そう言って少女はヒュ〜ドロを口ずさみながら両脇を閉めて手首を持ち上げ両手を垂らす。
『歌って踊れるゾンビ?』
『違うって!幽霊よ、幽霊!』
『U-Ray?』
『なんで離れるのよ!
そうじゃなくてオバケ!超常現象!』
そこで漸く合点がいったのか聞き役の少女が手を打って答える。
『ああ、アレね。
頂点になると並び立つ人がいな…』
『ボケはもう良いって!』
話し手が力の入らない裏手打ちを入れ、少女達の笑い声が駅構内を充たす。
『で、話を戻すんだけど…』
『いや、私は全く興味がないんだけど…』
話し手の少女が元の話題に戻そうとするが聞き役の少女は顔を顰めて手を振る。
だがその顔に乗せた嫌悪は薄い、恐らくいつものやりとりなのだろう。
聞き役の少女が『仕方ない、聴いてやるか』と溢すと話し手の少女も『ヨ、待ってました!』と合いの手を入れた。
その際に警笛が聞こえた。
貨物列車らしき姿が見えたので後ろに下がる。
まるで算数の問題に出るたかしくんのように走り去ってく車両を見送り、再び静まるのを見計らって話し手の少女は話を再開した。
『…んで、出るらしいのよ』
『ハイハイ、それは分かったからとっとと続けなさい』
少女は呆れながらも聞き役を続けるようだ。
話し手の少女は手首のミサンガを弄びながら話を続けた。
『私が聞いた話だとね、私達の学校の女子がこの駅で彼氏にフラれたんだってぇ』
何が楽しいのか分からないが、話し手の少女は伽羅伽羅と笑った。
聞き役の少女は不謹慎だと思ったのか片眉がピクリと動く、だが話の腰を折って長引かせるより話の続きを促した。
『で、フラれた女子はショックでやって来た電車に向かってど〜ん』
口で『タッタッタッシュビ!』っと効果音を入れながら走るポーズをする話し手の少女。
『あっという間だったらしいよ〜?』
戯ける少女に何が楽しいのかさっぱり分からないと返す聞き役の少女。
『だって私とカレのLOVE♡はこのミサンガでキュンと結ばれてるしぃ♡』
『ミサンガで結ぶな。
切れたらどうする』
ミサンガは願掛けの一種だ。
擦り切れる程に努力する事を誓い、切れた時に願いが叶うように祈りを込める物だ。
決して縁を結ぶような物ではない。
因みに彼氏と一緒に観に行ったボディビルの大会で買ったペアグッズらしい。
繋がりが分からない、というか彼氏が哀れではなかろうか?
『切れたら互いのLOVE♡が深まるように願掛けしたから大丈夫♡』
そう言ってたのが数日前、アレから帰りのタイミングが合わないのでここしばらくあのウザ絡みもない。
寂しい?
否!寧ろ開放的ですらある!
無人駅の何もない入り口を潜りホームに入る。
何か違和感があったが無視してペンキの禿げた木製長椅子に座る。
今日はとても静かだ、恐らく前の電車が出たばかりなのだろう。
いつもなら自動改札の渋滞をウザ絡みする友人と愚痴り合いながら並び、満員でいつも座れないプラスチックベンチを恨めしく思いながらなかなか来ない電車を待っていた筈だ。
あまりにもおかしい。
改めて周りを見る。
数年前の自動改札化で新しくなったと聞く駅舎の面影は何処にもない。
禿げ一つ無かったホームの転落防止柵は白塗りに錆びが浮き形状も記憶と一致しない。
上りと下りに別れていた筈のホームも一つしかない。
ホームには疎らに草が生え明らかに老朽化している。
極め付けは駅名標だ。
隣駅の名前の部分は二つとも空白。
更には駅名が『きょにゅう』
あのウザ絡みする友人の事だ、こんな駅名だったら確実に駅内で交わす挨拶が『おぱ〜い』になる!
断言してもいい!
あまりの異常事態に人っ子一人いない駅から逃げ出そうとした。
なのに足がホームから離れない、慌てて足元を見る。
何故か触手が絡み付いていた。
健全な触手と見た目は何一つ変わらない。
なのに視界に入れただけで生理的嫌悪感で怖気立ち肌が泡立つ。
こんなモノはこの世に有ってはいけない、何故かそう思えた。
そもそもこの駅はこの世の範疇なのか!?
それすらも分からず必死に踠く、必死に身を捩り健全な触手を引き剥がそうとするも離れない。
手にした学生鞄の角を自ら怪我を負う事を厭わない程に叩きつける。
「離れろ!」
鞄の金具で指に傷が出来、鞄を叩きつけた事で足が鈍く痛む。
それでも触手は痛痒を見せるどころか何事も無かったかのように足に絡みついたままだ。
それどころか先ほどまで無事だった方からも新たな触手が次々と絡みついてくる。
思わず悲鳴を挙げてなんとか逃げ出そうとするが触手に対し何の意味も見せない。
むしろそれを隙と見たのか一斉に這い上がって来る。
這いずり回る触手に吐き気を感じる間も無…。
何かが聞こえた気がした瞬間、触手塊の中から掻っ攫われた。
触手塊に囚われ闇に閉ざされてた視界に光が戻るも光順応が間に合わず視界が焼ける。
白く滲む視界、自分を助けてくれたであろう人影がやけに近いような…。
「無事…、とは言えないようですね」
視界が少しずつ戻る。
その声はやたらと低い、TV番組なら悪役以外やらせて貰えないのではなかろうかと思うほどに。
だが、その人物の特徴はそれを上回る衝撃があった。
曽てNowなYoungだった人達ですら被ってなさそうな学帽、染められていないであろう黒髪、学ランの上からマントを羽織る姿はこの短編の時代設定を数十年、下手すると百年単位で間違えてなかろうかと心配したくなるほどに時代錯誤。
だが一番の特徴は顔がある筈の場所。
そこには何も無く光すら呑むような宇宙の闇を思わせる深淵、暗黒惑星の蒸発光にも似た瞳を連想させる二つの光芒が有った。
助かったと思ったら今度はコイツに襲われるのかと息を飲んでしまっても仕方ないと思う。
「 、怖がらせてすいません。」
なのにコイツは恐らく私の命を助けてくれたであろう相手に対してとってはいけない失礼な態度にすら申し訳なさそうな声で答えた。
「普通こういった乙女のピンチには少女漫画に出てきそうな白馬の王子が助けに来るべきなんでしょうが、生憎こんな容貌でして」
驚きによる硬直はまだ解けてない。
だからフツメンちゃうやろ!というツッコミは喉から出る事は無い、精々魚のように口をパクつかせながら声にならない声を挙げるばかりだ。
というか今気付いたけど綺麗な迄に横抱きの体勢だよ!
しかもこの人?の声、めっちゃ甘!
カラメルソースか何かってくらい甘い、しかもプリンと混ぜても確実に喉が痛くなるくらいのレベルだよ!
そりゃ少女漫画とか言い出すよ!
しかもイケメンボイスとお姫様抱っこで吊り橋効果爆上がりだよ!
ていうかこの人?何者!?
さっきから足元の触手どもを文字通り蹴散らしてるんですけど!?
めがっさTueeeeee!
「これじゃ落ち着いて話が出来ませんね」
そういうとこの人?っていうか一々疑問符つけるの面倒いので悪役風激甘ボイスさんと呼ぶ事にしよう!
「少し響きますよ?」
そう言って体を傾けながら片脚を高々と上げる。
傾ぐ事で頭に血が上るのを感じながら、触手の所為で百年の恋も冷めるレベルで痣だらけになった体にムチ入れてそれでも必死にスカートを抑える。
その視界の先で180度開脚された悪役風激甘ボイスさんの足が革靴越しでも抑えられない程に光り輝いていた。
「破 !」
裂帛の気合と共に振り降ろされた足が光条と化し激しくホームを打ち据え、私達の周囲に群がっていた触手群が瞬時にして塵と化す。
「墳 !」
そしたら今度は彼の胸が光り輝き、その光が私達を包み込む大きさまで広がっていき、その光に触れた触手が次々と塵になっていく。
「さてと、お次は…」
悪役風激甘ボイスさんが私の体をホームに優しく降ろしてくれる。
「その傷、治しますね」
そう言うと「失礼します」と悪役風激甘ボイスさんが私を抱きしめた。
私が羞恥と冷めやらぬ興奮で顔を真っ赤にしていると彼がその甘く蕩かすようなイケボで囁いてくる。
「大丈夫、天井のシミを数えてる間に終わるから…」
ここめっちゃ野天なんですけど!
嗚呼、お父さん、お母さん、私、今からこの人と大人の階…。
「治療、終わりましたよ」
へ?治療?
慌てて体を見渡すと体中の痣や足の怪我、それどころか授業中に出来た吹出物まで含めた各種肌トラブルまで綺麗に治っていた。
思わず苦笑する。
吊り橋効果がガン極まりしてたとはいえ頭の中が完全にピンク色思考に染まってたよ。
ホント、ナニやってんだろ?
自分のあっさりお花畑思考に染まる頭に呆れるしかない、そう思っていたら、
「これ、使って下さい」
と彼が羽織っていたマントを私の肩に掛けてくれた。
「目のやり場に困りますので」
彼に言われて漸く気付く。
今、私の着てる制服は触手の粘液で塗れて無地の下着が透けて見えてる。
何で今日に限ってこんな色気の無い下着を選んだのかと声が下がる。
お陰でだいぶ冷静になれた、うん、私は冷製だ。(※注 まだ動揺してます)
「さて、お話しする余裕も出来ました」
そう言って正座する彼、痛くはないのだろうか?
「何から訊きたいですか?」
「付き合ってる女性はいますか?
若しくは付き合ってないけど好意を寄せている御相手さんとかは!?」
って私何をのっけから訊いてるんだ!
消え去れ、煩 …!
「えっと付き合ってる相手はいないですし、好意を寄せる相手もいないですね」
ぃよっしゃぁああああ!
なんか後半部分がよく聞き取れなかったけど私の心が意思と関係なく快哉を挙げた。
いや、待て。冷静になって。
今訊くべきはそこじゃ無い!
現状を把握すべきだ!
故に次に言うべき言葉も決まってる!
「結婚を前提に御付き合いして下さい!」
…。
……?
!?!?
私は何を言っているんだ〜!?!?
兎に角落ち着け!こういう時は深呼吸だ!
ふ〜、落ち着いてきた。
…何か聞き逃しちゃいけない事を聞き逃したような気もするけど。
まずは必要な情報を集めよう。
「では気を取り直しまして、この全国の鉄道ファンに全力で喧嘩売ってるような意味不明な場所は何ですか?」
こうして質問してる間も触手群は次々と私達に近寄ろうとしては光に焼き払われている、いつまで続くかわからないけど本当に安全な場所のようだ。
「この場所は異空間式封印結界と言います。
今、僕達を襲っているコイツ等が外に出ないよう、土地の過去の記憶を元に再現し一時凌ぎ的に作られた通常の空間とは異なる空間です」
うん、なんていうか情報量の暴力が酷い。
多分、彼にとっては当たり前の知識なんだろうけど、私の知らない事だらけだ。
一つずつ考えよう。
異空間式封印結界って言ってたよね。
通常とは異なる空間、だから略して異空間。
封印って出れないようにする事とか開けたら分かるように付けた目印の事、…だったかな?
で、最後は結界?
確か空間を区切る事だっけ?
つまり要約すると、…出れないって事!?
ずっと?多分違う。
彼は言った筈だ。
コイツが出れないようにする一時凌ぎだって。
ならずコイツを何とかすればデレる!
じゃなかった出れる筈!
更に言ってしまえば私はもう、…デレている!
つまり無問題!
となると次に訊くべきは…。
「なら悪役風激甘ボイスさ…」
「いけぼさ?」
しまったぁあああっ!心の声がぁっ!
落ち着け!兎に角挽回しなきゃ!
「ごめんなさい!
名前知らないからなんて呼べば良いか分からなくて!
だから旦那様の名前と連絡先教えて下さい!
あ、私弘原海真砂って言います!」
土下座する勢いで三つ指ついて頭を下げた。
…。
……。
アレ?反応がない。
恐る恐る顔を上げたら恐らく顔から困ってる雰囲気を醸し出している彼がいた。
「えっとまず僕の名前だよね。
火星軍と言います。
それと連絡先だけど…、ごめんなさい!ウチの村は圏外だからケータイ持ってません!」
驚愕の事実です。
国内で圏外の所があるなんて…!(※注 割と有ります)
けど、この程度で諦めませ…。
「連絡先は何とかします!なので後で貴女の匂いが付いた物を貸して下さい!」
お互いの顔が真っ赤になる。
私は深読みし過ぎたが故の羞恥で(その後に聞いたが彼の方は初めて女の子に連絡先を要求された事に)
…何処かでカラスがアホウと鳴いた気がした。
取り敢えずそういった物を求めているって事はさっきの告白にOKしてくれたって事だよね!
ならば私は生還する!
生還してこの人との家族計画を立てる!
その為には触手を何とかしなきゃ!
だから次に訊…。
「僕からも質問良いですか?」
「何でも訊いて!」
凄く勇気がいるけど旦那様が訊いてくれるならB(UTC)WHどころかまだ未使用な女の子機能の角から角までなんだって答えるわ!
そう思うとドンドン勇気が湧いてくる、もう、何も怖くな…。
「弘原海さんって霊感持ちですか?
若しくは最近心霊トラブルにでも巻き込まれたりしましたか?」
思っても見なかった質問に思考が一瞬止まる。
冷感?触るとヒンヤリするアレ?
でもその後に心霊トラブルって訊いてるから違うよね。
って事は幽霊とかを見たりする方の霊感?
ナイナイ、今まで一度も幽霊なんて見た事無いもん。
「心霊トラブルって言っても友達からいつも使ってる駅で死んだ人がいて幽霊になって出てきたって話を聞いたぐらいしかないよ?
私は一度も見てないけど」
「おかしいですね。
少し濃い目の心霊体験でもしてない限り一般人が異空間に迷い込む事なんてないはずですが…」
そういうと彼は少し考えるそぶりをしてから口を開いた。
「ま、考えても分からない事は後にしましょう!
他に訊きたい事は有りますか?」
勿論旦那様の事が聞きたいです!という欲望を必死に抑える。
あんまりグイグイ行ったらドン引かれる。
他にも訊かなきゃいけない事は沢山あるんだから。
という訳で…。
「さっきからピカピカ光ってるのは何故ですか?」
漫画だったら表現の類いで七孔噴輝する人がいてもおかしくないけど現実で見るのは初めてだもの!?
訊かないという手は無いよ!
「コレですか?」
そう言って再び胸を光らせる。
「何で胸?」
頷きながら更に問いかける。
学ラン越しに分かるってどんだけ光ってるの?
「コレはπとωの力です。
詳しい事は省きますが世界に遍在する力の一つで生き物の胸に集まる性質を持ってます」
「パイとオメガ?
数学に出てくる円周率とか角速度だよね?
それが何で光るの!?
さっぱり分からないよ!?」
「無理して分かろうとしなくて良いですよ。
踠くほど遠ざかる真実と言いますからね」
彼はそう言ってクスクスと笑う。
嗚呼、この微笑みだけで脳汁がドバドバ出そう。
こんな状況じゃなきゃ思いっきり浸れるものを…!
「それに無駄に光るのは制御が甘い証拠ですからね…」
今度は遠い目をしながら苦笑する。
嗚呼、この笑顔プライスレス。
うん、顔が無くても表情ってけっこう分かるんだね。
恋をして初めて知ったよ。
「じゃあさっきコイツ等を一気に蹴散らしたのって?」
「アレは四股ですね」
「なるほど禍祓いか!」
魔を祓って地を〆る神事として有名だもんね。
ン?何か驚いてるっぽい?
「いえ、相撲の方が先に出ると思ってたので」
「?航空相撲の国際大会だったら毎年見に行ってるけど?」
力士達が華麗な空中格闘戦を繰り広げながら国技館の土俵に次々と舞い降りる降空土俵入りが見物なんだよね。
今年はコロナで中止されたけど…。
来年こそは手形色紙を貰うんだい!
「って事は視界を埋め尽くす触手をさっきの四股で祓うの?」
私達を覆う光の外はビッチリと触手で埋まっている。
さっきの四股の威力は凄かったけど触手の増える速度の方が早いよね?
「それだと時間がかかるのでちょっとした裏技を使います」
今度は悪戯っ子の笑顔だ。
頭の中の記憶フォルダがの一つが彼の笑顔で次々埋まっていく。
この快感、堪らない!
「で、この触手って結局何?」
死にかけた元凶であり彼との出会いをくれた存在。
知らない訳にはいかない!
「コイツ等は霊的虚乳と呼ばれる存在の末端ですね」
巨乳?
そんな事言い出すなんてやっぱりオトコノコって大きい方が好きなのかな?
自分の胸を見る。
うん、Dは決して小さくない筈だ。
「因みに虚は虚と書きます」
どうやら私の自意識過剰だったみたいだ。
「貴女の胸の形は綺麗ですよ?」
ぃよっしゃぁああああ!
本日二度目入りました ぁああっ!
しかも照れ顔まで頂きました!
ゴチになりやす!
あ、咳払いした、仕切り直し入りま〜す!
「霊的虚乳とは胸に対したり関したりする負の感情のエネルギーが集合体化する事で発生する衝動的な自我を持った擬似エネルギー生命体や災害の事を言います」
「なるほど、非物質とか非物理の意味で霊的な訳ね」
「理解が早くて助かります」
私の知らない世界だけど知らない事ばっかりでもないんだね。
「さて、そろそろ準備も出来たので僕は行きます」
やっぱり?
けっこう長話したもんね。
回復と準備の為の時間稼ぎだった訳だ。
彼の全身が再び淡く光を放つ。
ううん、彼だけじゃない。
今まで気づかなかったけど周りから彼の胸に光が集まってくる。
その光は暖かで、それでいて穏やかで、とても優しい。
まるで彼そのもののような光だ。
そして集まった光が両手に移り激しく輝く!
その腕を頭上で交差させ一気に振り下ろす!
「π/!」
両手から光の束を放ちながら高速で乱回転する彼。
光の束が世界を焼き尽くす!
…けどどうやって/と\を同時に発音してるんだろう?
なんて考えてたらいつの間にか光は収まり、私達の周りに触手はなく胸像、否、筋肉質な男の胸らしきものが私達の前にいた。
アレが…、虚乳!
「…もうプロテインは飲みたくない!」
「谷間が…!谷間が出来ないんです!」
「筋量よ、何故増えない!」
「筋肉痛だと!?俺のトレーニングは…!」
「…もう、無理ポ」
虚乳から放たれた怨嗟の声。
アレがみんなの苦しみ!痛み!嘆き!
いつしか私の頬には涙が流れていた。
「今、楽にします」
そういうなり彼は虚乳を抱きしめた。
彼と虚乳、互いの胸が重なり、彼から放たれる優しい光が虚乳を包み込む。
「大丈夫だ、まだ違う味がある」
「トレーニングは裏切らない」
「その苦しみ向こうに光がある」
「さあ、逝こう!」
これは…、声?
ううん違う、光が宿す想念が、慈しみが、場を満たして虚乳の傷ついた魂を浄化してるんだ!
そして光が収まった時、私達は普段の、あの見慣れた通学駅にいた。
「虚乳は?」
「彼は逝きました。
乳なる世界に、乳なる諸神群に導かれて」
そう言って彼は歩き出す。
「また会えるかな!?」
「互いの道行きが重なる時が有れば」
その姿が見えなくなる。
また会いたい。
彼から受け取ったマントを抱きしめる。
『…ねぇ』
それは数日ぶりのウザ絡みする友人の声。
そちらを見ると
『…聞いてよ』
血塗れの千切れたミサンガ。
それを手首にかけた肘から先が無い腕。
そういえば彼は言っていた。
最近霊障はなかったかと。
やがて貨物車の警笛ぐ聞…。
グチャ!
作中の言葉の簡単な解説と予測Q&Aと設定諸々
死語・スラング
・ヒュ〜ドロ→生温い風とおどろおどろしい雰囲気を表現する際に使われる有名BGM
・Now→今時の、今風の
・Young→若者
・めがっさ、めっさ→とても
・破、墳→そこそこ使われてる気勢の声に対する当て字。有名な類例として『滅ッ!』がある。
・ぃよっしゃぁああああ!→喜びを表わす言葉、及び、気勢。傾奇者ではない。なので文・ルビのどちらで読んでも違いは無い。
・ひっひっふー→ラマ〇ズ法として有名な呼吸法。決して深呼吸ではない。
・旦那様→一般的に妻から夫に対する敬称の一つ。どのような字を充てるかは発言者の好みや環境によって異なる。
・七孔噴輝する人→漫画やアニメ、ゲーム等の映像作品で頻繁に見られる表現。
人物
・火星 軍
高校一年生の虚乳狩人。
家族構成は父、母、父の飼ってる伝書鴉一羽、母の飼ってる伝書鴉二羽、自身の飼ってる伝書鴉一羽。
飼ってる伝書鴉の名前は調和
幼い頃からπとωの力を認識していた。
体術は母に、πとωの力の使い方は小学生時代の担任の先生に教わった。
中肉中背の細マッチョ、かなりバキバキ。
髪色は黒。
自分の容貌を気にしており前髪をかなり伸ばして、普段はそれで顔がある部分を隠している。
髪以外の頭がある筈の場所には深い闇が広がって、瞳が有る筈の場所には暗黒惑星の蒸発光を思わせる光芒が湛えられている。
通学時、それなりの速度で走らなければ間にあわない為、制服カタログに載ってた学校指定の学帽とマントを防寒具として購入した。
学校側も本当に買う人間がいた事に驚いた。
・弘原海 真砂
高校一年生のオープンオタク。
家族構成は父、母、弟。
オタク趣味は広く浅くの器用貧乏系。
興味を持った事を満遍なく極める万能系や一つのジャンルを完璧に網羅するような一芸特化型は尊敬してるが自分がそれらになるのは無理と理解している。
毎年航空相撲の国際大会を観に行く程のファン、手形色紙は欲しいけどチケット代と新幹線代でバイト代をほぼほぼ使い切る為に買う機会は無い、代わりに毎年有る訳ではないが無料ファンサービスで紅葉手形が貰える時は毎回並ぶ。
身長・体重は秘密。一応出るとこは出てて引っ込むとこは引っ込んでるD。
シャンプー・リンス代節約の為にショートヘアにしている、無自覚美少女。
興奮すると心の声や欲望がダダ漏れになる事を最近知った。
・調和
軍が飼っている白い伝書鴉。
軍の母が飼っている伝書鴉の烈将と闘将の妹。
本文中で一度だけ鳴いた。
設定
・異空間式封印結界→様々な怪異・超常の類いを一時的に封印する為の結界。
現実空間を模したり土地の記憶を利用する等して異空間を作る事で安定化とコスト削減を両立させている。
・圏外
軍が住んでいる村には電話が役場に移動式の一台しかなく、それすらも使う為には山を幾つか越えなければいけない為、村民は普段の連絡用に何らかの動物を飼っている。
・B(UTC)WH→ルビに書いてある通りスリーサイズの事である。それぞれ
B→バスト
U→アンダー
T→トップ
C→カップ
W→ウエスト
H→ヒップ
を指している。詳細に書くと規約に触れる可能性があるので自力で調べて下さい。
・まだ未使用な女の子機能→規約に触れる為、書けません。
・πとωの力
世界に遍在する力の一つ。
πの力が生物の胸に集まりやすい性質を持つのに対しωの力は生物の胸部や大胸筋の輪郭線に集まりやすい性質を持つ。
意志の力により様々なエネルギーに変換する事が可能。
これらの力を制御する為にはこれらの力を実際に認識した上で訓練する必要がある。
・航空相撲
世界的競技ではあるが日本ではややマイナー。
屋外と屋内の試合の違いは土俵入りの開始地点。
屋内戦の場合建物の天井にビッシリと隙間無く張り付いた選手達が一斉に飛び立ちながら、屋外戦の場合は上空約4000㍍から飛び立ちながら地上の土俵を目指しながら空中で格闘戦を繰り広げる。
この時、過去の戦歴等から実力等を鑑み、格闘戦能力が高い者は中心側へ、駆け引きや立ち回りの上手い者は外園側に配置される。
全ての選手が地表に着地した時点で予選である土俵入りは終了となり本戦トーナメントへと移行する。
また、このルールを利用し終盤まで外園部でやり過ごした上で先に土俵の外に着地した選手を足場に八双飛びで土俵入りした記録もある。
予選に当る『土俵入り』を勝ち抜いた者には本戦トーナメントの参加権と『力士』の称号が授与され、ベスト4入りした者にはそれぞれ東西南北の内の一字を冠した『横綱』の称号が授与される。
勝敗の付け方は『土俵の中で足の裏以外で着地した』『土俵の外に着地した』等の場合は敗北、『選手や力士以外の者を傷つけた』場合は失格となる。
失格のペナルティは称号の剥奪と無期限の試合・大会参加禁止、選手育成の禁止、元航空相撲の選手であった事を利用する商売の禁止等がある。
尚、ファンサービスの紅葉手形は双方の合意・了承がある場合失格条項に当てはまらない。
・霊的虚乳
胸に対したり関したりする負の感情のエネルギーが集合体化する事で発生する衝動的な自我を持った擬似エネルギー生命体や災害の事。
その性質上、発生する度に周囲に物的被害を出す可能性が高い。
・π合わせ→互いのπの力を同調させて包み込み、癒し浄化する技
無防備になる為、相手によってはカウンタークラッキングを受けやすい。
・π/
πの力を圧縮して形成したエネルギー性の刃、或いは既存の物質をπの力で補強した得物で相手の右肩から左腰、若しくは逆順に左腰から右肩にかけて切り裂く技。
後述のπ\とは左右反転している。
・π\
πの力を圧縮して形成したエネルギー性の刃、或いは既存の物質をπの力で補強した得物で相手の左肩から右腰、若しくは逆順に右腰から左肩にかけて切り裂く技。
前述のπ/とは左右反転している。
・π/
本来、左右反転した技を同時に放つ事は非常に難しく暴走しやすい。
それを逆手に取り、意図的に暴走させた技。
大雑把に言うと自らの身体を座標固定しながら両手から圧縮したπの力を制御をある程度手放した状態で放射する。
こうする事で両腕の僅かなブレとエネルギー放射の反動で身体が乱回転する。
これにより移動する事なく周囲を薙ぎ払う技として活用出来る。
尚、座標固定ではなくベクトル固定して放つと左右からの反動でひしゃげる、『何が?』とは敢えて言わない。
・乳なる諸神群
πとωの力に目覚めたモノが果てなき修行の末に高次元存在へと進化したモノ達を指す言葉の一つであり複数の個、或いは個体群を指し示したり性別を問わない場合に用いる言葉。
男神である場合は乳なる神、女神である場合は乳なる女神と表記される。
彼等、或いは彼女等は飽くまで修行者である為、後進が迷える時に導く事は有るが加護を与える事は少なく、与える場合は苦行と引き換えか、既に何等かの形で苦行を果たしたモノに加護を与える事が稀に有ると言われている。
・乳なる世界
乳なる諸神群が修行の果てに辿り着くと呼ばれる『凡ゆる胸の苦しみから解放される理想郷』。
無数の次元の壁の更に向こう側にあるとされている。
一説によれば『進化による高次元化が度重なった結果、自我、及び自我の境界線が希薄となり世界と乳なる諸神群の境目が無意味化した世界』とも言われているがその実態を知る者はいない。