狂った世界
なんとなく続けて投稿できたらいいと思っているしだいです。
昔‥空は青かったらしい。朝には光り輝く太陽が大地を明るく照らし、夜には月が暗闇を薄らと照らす。
大地には緑が生茂り、透明な川が流れ、青々とした海へと続いていた。
そして、今よりもっと、人やエルフ、魔族、獣人、その他様々な動物、昆虫、精霊がいた‥らしい。
いろいろと争いは絶えなかったがそれは美しい世界だと小さい時から聞かされていた。
だが今はどうだ?どうしてこうなった!何故なんだ‥。
かつてあったという世界、それは今ここにはなかった。
空は夕焼けを赤くしたような色をしている‥。辺りを照らす太陽は黒く輝いている。
不思議なことに何故か視界は保たれている。そして、夜は赤い月が浮かび何も照らすことなく漆黒の闇となる。
赤い雨が降り、赤い川となり、深紅の海へと続き、草木はまるで刃物のように鋭く、生物は皆人を喰らう異形の怪物に置き換わった。
空気はどこか淀み、それは毒となって肺を侵す。人、エルフ、魔族や獣人を問わず‥。
故に昔に全種族は争うことをやめ、地底深くへと逃げ込んだ。空へと逃げた。この世界から逃げた。
いつから何故こうなったか、ヤツらがどこから来て、何者なのかも‥誰にもわからない。
一説には地底深くから来たのだと‥。
いや、海の底から来たのだ‥。
いや、別の世界から来たんだ。
いや、月の裏側から来たんだ‥。
いや、アレはこの世界を‥‥‥‥
しかし、もうどうでもいいことだ‥。俺は今から食い殺される‥ことだろう。
そこに救いはない。一緒にいた仲もみんな死んだ。後戻りはできない‥。俺たちが暮らしている拠点は逃げている方と逆だ。
ある者は体を内側から食い破られ‥
ある者は八つ裂きにされ‥
ある者はヤツから発する毒に侵され‥
喰い殺された。
死にゆく仲間の顔を思い出すと恐怖で足が止まってしまいそうだ。
だが、死ぬのだとしてもそんな苦しい死に方だけはごめんだ!俺の死にかた俺が決める!
俺は、刃物のような木々が生茂る森を駆け抜け、今はまるで剣山を生やしたような草原にいる。
体の至る所に切り傷ができていた。小さい切り傷なのに何故か血が止まらない。
自分の口からゴポゴポと音がする。だいぶこの淀んだ空気に侵されてしまった。
口の中に血の味が混ざる。息が苦しい。ヤツらが追ってくる。
俺たちは外の調査を任せられていた。10人編成の隊で一人生き残ればいい‥。持って帰ってくる情報なんて、たかが知れている。
ただ、死にに行くような部隊だ。
俺たちは獣人と違って身体能力も高くなければ、特殊な能力もない。エルフや魔族のように魔法に長けてもいない。
俺たちは武器を作り振るうことしかできない!
今日まで俺たち人族が生きていられるのは、遥か昔に人族を生み出したという神族によってもたらされた遺物による恩恵である。
そのおかげで奴らには俺たちの拠点は、まだバレていない。
そして、思い知らせれた。ヤツらは剣で切ろうが、槍で突こうが殺せないということを‥
「ゴホッ‥クソが!」
悪態をつく。ヤツらがすぐ近くまで来てやがる。羽の羽ばたく音が聞こえる‥。蛙のような鳴き声が聴こえる。
音が鳴き声が大きくなるにつれて走るスピードが速くなる。剣山に鋭い草で作る傷が増えていく。
ある場所を一直線に進んでいる。前の調査で奇跡的に生還した人が描いた地図では目指している場所は崖になっている。本当はこんな使われ方をするために描かれたものではないと分かっている。
だが‥そこから飛び降りてこの狂った世界からサヨナラだ!
あともう少し、あともう少しだ!もう崖が見えている。終わりが見えている‥。
「どうして逃げたんだ?」
隊長―?聞き慣れた声に思わず振り返ってしまった。
そこにいたのは―――――
白くヌメッとした蛙に似て非なる生物がいた。目も鼻もない、手のひらに乗るサイズだが‥異常に鋭く長い爪を持ち、口の中に蛙に似つかわしくないほど鋭い歯が生えそろっている。
そして、ありえないことに不自然な翼が生えている。あんな翼は見たとがない。まるで、普通の蛙の腕を取ってつけたような‥。どうして飛翔できるのか分からない。
そいつが、部隊長の声を真似してきたのである。知能があるのだろうか?
表情なんて分かるはずないというのにどこか嗤っているように見えた。
一匹だけだ‥ヤツらは群れで行動しているのか接敵した時は、餌に群がる虫如き数がいたのだが‥。
どうやら幸いなことにヤツらは移動速度はそこまで速くないらしい。
「クソ蛙が‥!!」
その瞬間、クソ蛙から見えない何かが吐き出される。
これを吸って仲間は悶え苦しんだ。そこを爪で八つ裂きにされ、その歯で食い破り、殺戮した。
そして、俺は運悪くそれを少しだけ吸ってしまった。
体が痺れ激痛が走り、走る速度が落ちる。
ふざけるな!!ここまできて‥
腰にある短剣に手を伸ばす。短剣を口に突き入れ自害なんていうことはしない。
この武器を作った人たちはそんなことを望んで作ったのではない‥分かっている。
クソ蛙が俺の首に噛みつこうとしていた。
どうせ死ぬんだ。腕くらいくれてやるよ。俺は食い殺そう大きく開かれた口に握りしめた短剣ごと腕を突っ込んだ。
湿った感触、俺の血かクソ蛙の血か分からない。クソ蛙が少し身悶える。どうやら予想外だったらしい。
すぐに腕の感覚がなくなり激痛が走る。食い千切られたのだ。黒い髪が返り血で赤黒くなる。
爪で引き裂き殺せばいいのだが、口に入った俺の腕を必死に吐き出そうとしている。
俺は最後の力を振り絞り崖にたどり着いた。死ねるには十分な高さだ。
俺はクソ蛙に振り返った。ちょうどクソ蛙は俺の腕を吐き出せたらしい。
俺がやろうとしていることをどうやら悟ったらしい。表情なんて分からないが、どうやら怒っているみたいだ。
ハハッ!ザマアミロ!!
クソ蛙は俺を食い殺そうと飛びつくが、俺が崖から飛び降りる方が速い。
祖父も祖母も父も母も死んだ!俺の大事な弟もヤツらは殺した!!
だが俺は殺されない!俺の命は俺が決める!!
長身痩躯の青年は崖から身を投げる。この狂った世界に未練もなければ、もう救いなんていらない。
死後俺の体がヤツらに喰われようが、苗床になろうがどうでもいい。
俺が俺の手で命を終わらせる。それがこの狂った世界に叛逆した証明だ!!
俺の体が重力に任せ加速する‥。そして、必然的に訪れる衝撃により俺は絶命した。