五日目・朝 準備を終える
スマホの時計を表示させると、ステータスの割り振りを始めてから三十分以上が経っている。
思いのほか、ステータスの割り振りに時間を掛けてしまった。
俺は、同じ様にステータスを割り振っていたミコトへと目を向ける。
すると、俺を見つめていたミコトと目が合う。
「終わりましたか?」
とミコトが小首を傾げながら聞いてきた。
「ああ、終わった。何かあったか?」
「いえ、私もユウマさんのステータス見たいなー……って。新しいスキルとか、ステータス画面に表示されてるっていう種族同化率のことも気になりますし」
ミコトはこれまで何度か俺のステータス画面を目にしている。
追加された項目が気になるのだろう。
今さら、ミコトに隠すものは何もない。
俺は素直にミコトの言葉に応じることにした。
スマホを表示して、ステータス画面をミコトへと向ける。
ミコトは俺のステータス画面に一通り目を通すと、俺へと視線を向けてきた。
「ユウマさん、この括弧の中が種族スキルによるステータス補正値ですか?」
「ああ、多分な」
「ということは、ユウマさんのステータスは実質、INT以外すべて50を超えてるわけですか……」
言って、ミコトは自分のスマホ画面へと目を送る。
「……レベルはほとんど変わらないのに、ステータスに圧倒的な差がありますね。【曙光】でしたっけ? やはりレベルを重ねれば重ねるほど、その効果の大きさが目に見えて分かりますね」
「ミコトは、結局何に割り振ったんだ?」
「STRに4つ、DEX、AGI、VITに三つ、DEFに二つです」
とミコトは俺の問いかけに答えた。
言われて、俺は直前のミコトのステータスを思い出し、頭の中で現在のミコトのステータスを補完する。
柊 ミコト Lv:18 SP:0
HP:56/56→62/62
MP:78/78
STR:26→30
DEF:24→26
DEX:25→28
AGI:32→35
INT:80
VIT:25→28
LUK:36
所持スキル:天の贈り物 回復 聖域展開 遅延 夜目 槍術
ミコトの現在ステータスは、こんなところだろう。
どうやら、ミコトは結局LUKには割り振らないことにしたようだ。
そのことを問いかけると、ミコトは苦笑して、
「さすがに、お二人にあれだけ言われたら振りにくいですよ」
と言っていた。
それから、俺たち二人で江東区へどうやって行くのかルートの相談をしていると、クロエがくたびれた様子で帰ってきた。
「……戻ったぞ」
「おかえり、大丈夫だったか?」
「曇っておったおかげで、ローブさえ着ておれば何とか歩き回れた」
とクロエはそう言ってフードを外す。
顔には疲労の色が浮かんではいたが、ダメージを負っている様子はなかった。
その様子を見て、俺はクロエへと言葉を続ける。
「街はどうだった?」
「食屍鬼が数匹ほどじゃが、モンスターはいた。じゃが、周囲に居たのはそれだけじゃ。他のモンスターの姿はなかった」
とクロエはそう言って、背負っていたバックパックを地面に下ろした。
クロエはその中を開けて、赤黒い液体の詰まった2Lペットボトルを1本取り出す。
その中身は半分ほどしか埋まっておらず、その成果は芳しくないことがクロエのその表情から分かった。
「一時間でこれだけじゃ。モンスターもいない、日中で全力を出して動くことも叶わない。……もう少しモンスターが居れば何とかなったかもしれんが、割に合わぬ収穫になったの」
そう呟くと、クロエは採ってきたばかりの血液へと口をつけた。
数口飲んでクロエは口の中を潤すと、そのペットボトルを大事そうにバックパック中へと仕舞う。
その様子を見て、ふとした疑問が浮かんだ。
ことあるごとにコイツは血液を飲んでいるが、いったい一日でどのくらいの量が必要なのだろうか。
「お前、一日で必要な血液はどのくらいなんだ?」
俺は、その疑問をクロエにぶつけてみることにした。
クロエは俺の質問に、考え込むように視線を空中に彷徨わせながら答える。
「そうじゃな……。間食をしとるから自分でも具体的には分からぬが、だいたい3Lぐらいかの」
「3Lか……」
言って、俺は考え込む。
クロエが取ってきた今の血液は2Lだ。一日の量にしては少し足りない。
「一日に必要な量を摂ることが出来なかったら、どうなるんだ?」
と俺はクロエに問いかけた。
クロエは唇を歪めて笑いながら答える。
「どうにもならん。必要な量を摂取するまで、飢えと渇きが収まらぬ。……ただ、それだけじゃ」
ただそれだけ、とそう言っている割には、クロエのその言葉には実感が籠っていた。
おそらくだが、クロエはこの世界に来てからその状態に陥ったのだろう。
必要な血液量を摂取するまで、収まることのない飢えと渇き。
それは、想像するだけで恐ろしいものだった。
そんな、俺の表情を見て何かを察したのだろう。
クロエは心配させまいとするかのように、小さく笑った。
「まあ、夜になれば本気を出せる。その時に、また調達に出るから何の心配もないわ」
夜になればクロエは種族デメリットを気にすることなく動くことが出来る。
そうなれば、確かにクロエの言う通り問題なく血液を調達することが出来るのだろう。
「手が必要だったら言ってくれ」
と俺はクロエに言った。
「まあ、必要になったらの」
とクロエは俺の言葉に応えてから、話題を変える。
「それよりも、ステータスの割り振りは無事に終わったのか?」
「はい、問題なく終わってます」
とミコトがクロエの言葉に答えた。
クロエはその言葉に一つ頷くと、俺へと視線を向ける。
「ユウマ、江東区への行き方は分かるのか?」
「ああ、今ミコトと確認をしていたところだ」
と俺は頷いた。
江東区は東京湾に接する区域だ。ここから、さらに東へと進めば江東区に辿り着くはず。
問題は俺もミコトも、普段住んでいる場所が東京の西側だから、23区内の土地勘があまりないということだった。
おおよそのルートは決めることが出来ても、どこの道路を通れば最短ルートで辿り着くのかが分からない。
街には錆びれて支柱の折れた道路標識や、植物の蔦が巻き付いた案内標識が至る所にあるから問題はないだろうが、それでもやはり不安は残る。
ひとまず、東に向かうしかない。
そのことをクロエに伝えると、クロエは小さく頷いた。
「我は土地勘がない。お主たちに任せる」
クロエは、元が日本へ来ていた旅行者だ。土地勘がないのも仕方がなかった。
「ああ、それと。江東区に向かう前に、一つユウマに確認しておきたかったいことがある」
そらからふと、何かを思い出したかのようにクロエが声を上げた。
「俺に?」
と俺はその声に首を傾げる。
クロエは俺の顔を見つめると、真剣に問いかけてきた。
「うむ。お主、リッチとの戦いで身体をボロボロにしていたじゃろ。ミコトの【回復】で傷はなくなったはずじゃが……。限界突破の反動はもう何もないのか?」
その言葉に、俺はクロエの顔を見つめた。
正直に言えば、反動の痛みはまだ身体の中に残存している。
身体を動かせば身体中が筋肉痛のように軋むし、ふとした瞬間に鈍痛が頭を襲ってくる。
だが、その痛みも目が覚めた時と比べればだいぶ落ち着いてきた。
おそらくだが、あと半日もすれば反動の痛みも消えるはず。
この状態で無理に限界突破スキルを使わなければ、ひとまずは大丈夫そうだろう。
「問題ない」
と俺はクロエの言葉に頷いた。
クロエは俺の顔をジッと見つめていたが、そこから息を吐いて視線を逸らす。
「ならば、よい。ひとまず雑魚モンスター相手に限界突破スキルを使うのだけはやめた方がいいじゃろうな」
その意見には俺も同じ意見だ。
俺は、小さく頷きを返す。
「レベルも上がって、新しいスキルも手に入った。流石に、そう何度も限界突破スキルに頼ることはしない」
そう言って、俺はミコトへと目を向けた。
「ミコト、ルートの最終確認をしよう」
「分かりました」
記憶を頼りに、俺とミコトはルートの最終確認の話し合いをして、結論を出す。
「ひとまず、新宿駅に向かおう。そこに行けば、確か甲州街道に出られるはずだ」
甲州街道に出れば、道なりに東へと進めばなんとかなる。詳しい道順は、朽ちた道路標識が教えてくれるだろう。
行先を決めて、俺たちは少ない荷物を纏めた。
忘れ物がないかだけを軽く確認をしてから、俺たちは都議会議事堂の外へと、揃って足を踏み出す。
スマホを取り出して時間を確認する。
午前八時二十二分。
次のクエストまで、まだ十二時間以上ある。
つまりそれは、俺の種族同化率が進むまでの時間と等しい。
「……よし、行こう」
俺の言葉に、二人が頷いた。
俺たちのクソゲー攻略、五日目が始まった。
お待たせしました。以上で考察と準備回の終了です。
次回よりクソゲー攻略の五日目、スタートです。
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