四日目・夜 【回復】スキル2
「ミコト、話してもいいか?」
念の為に、確認の意味を込めて俺はミコトへと尋ねた。
「はい。構いませんよ。クロエさんは信用できる方だと分かりましたし。そもそも、これからクロエさんにもスキルを使うので知っていて欲しいことですし」
とミコトは頷きを返す。
本人の了承も得て、俺はクロエへと目を向けた。
「クロエ。これから言うことは他言無用で頼む」
「んん? 他言無用じゃと? まあ、何かは分からぬがお主らが誰にも言うなというなら、誰にも言わぬ」
怪訝そうにしながらも、クロエはしっかりと頷いた。
「ありがとう」
と俺はクロエに言ってから、言葉を続けた。
「まず確認なんだが。HPを回復させる手段について確認したい。この世界では、HPは減少したら怪我が回復するまではHPは減ったままだ。そうだよな?」
「そうじゃの。我は動けないほど大怪我をしたことはないが、初日にモンスター相手にHPを半分にまで減らしたプレイヤーは、初日はずっとそのままじゃったよ。まあ、二日目になればHPが一つ回復したらしいが」
「HPの回復は一日で一つなのか?」
「さぁ? どうじゃろうな。HPとは結局体力じゃ。その本人の回復力にもよると思うが」
とクロエは言った。
そうだろうな、と俺は納得する。
俺がこの世界で致命傷を避け続けた理由はそこだ。
HPの回復手段が分からない以上、無駄にHPを減らすことは出来なかったのだ。
だからこそ、ミコトの【回復】は現状ではかなり重宝されるスキルだ。
「クロエ。そのHPが、たった数秒で回復出来る手段があったとしたらどうする?」
と俺は言った。
その言葉の意味をすぐに察したのだろう。クロエの目が大きく見開かれる。
「――まさか」
とクロエは呟く。
「まさか、お主らが先ほどから言っておった『回復』という言葉は、そういうことか?」
「ああ、そうだ」
と俺はクロエに頷いた。
クロエはそのことがかなり衝撃的だったのか、呆然として俺たちを見つめた。
だがその放心も束の間のこと。
クロエはすぐに我を取り戻すと、顔を手で覆い唇の端を吊り上げて笑いだした。
「く、くくっ、くははははははははは!! なるほど、そうか。あったのじゃな、やはりこの世界には、回復スキルが!」
クロエは顔を覆っていた手を除けて目を輝かせながら俺たちを見た。あまりにも興奮しているのか、その頬は朱色に紅潮している。
「どうやって手に入れた! それさえあれば、この世界をクリアするのも今まで以上に容易になるぞ!」
「ちょ、落ち着け! このスキル、ミコトじゃないと使えないみたいなんだ!」
俺は興奮して詰め寄ってくるクロエに向けて言った。
クロエは俺の言葉を耳にすると、不思議な顔で首を傾げる。
「ミコトにしか使えぬ? どういうことじゃ」
「このスキル、取得条件が『天使』であることなんだよ」
「……なるほど、種族スキルか」
状況を理解したのだろう。
クロエは興奮が冷めたのか冷静な顔になると、ゆるゆるとした息を吐き出した。
「それじゃあ、我にそのスキルを手に入れることは叶わぬか」
「種族スキル? いや違うと思うぞ」
と俺は首を捻る。
ミコトから聞いた話では【回復】スキルを手に入れた時にアナウンスなんてなかったはずだ。
一方、クロエが教えてくれた種族スキルの取得の際には、何かしらアナウンスがあったはず。
だから、ミコトの【回復】は、種族スキルであるとは言えない。
「どうしてそう思う?」
とクロエが聞いてきた。
俺はクロエに答える。
「ミコトがこのスキルを取得した時には、アナウンスなんてなかった。そうだろ?」
言って、俺はミコトへと目を向けた。
ミコトは頷く。
「はい、聞いてませんよ。必死にユウマさんの傷を治すことだけを考えていたら、取得したスキルです」
クロエは俺たちの言葉に、はっきりと首を横に振った。
「お主ら、勘違いしとるようじゃが。我は種族スキルの取得がアナウンスによって与えられる、なんて一言も言っておらん」
「えっ、でも。あの時、クロエは種族スキルの取得の時にアナウンスがあったと言ってただろ」
と俺はクロエに向けて言う。
「確かに、そうは言ったがそれが取得条件だとは我は言っておらん。あの時、我が言ったのは、何かしらの取得条件があってそれを満たせば得られるもの、ということだけじゃ。ミコトのその、スキルの条件の一つが『天使』であることなら、それはもう種族スキルじゃよ」
クロエはそう言うと、ミコトへと目を向けた。
「お主、そのスキルを取得して何か変わったことはあったか?」
「変わったこと? いえ……。特には」
ミコトが首を横に振った。
「……ふむ。それは、ありえないことじゃと思うが。まあ、よい。何か変わったことがあれば包み隠さず言うがよい」
とクロエはそう言うと俺へと目を向けた。
「それで、我にこのことを話した、ということは回復スキルを使うのじゃろ?」
「あ、ああ。そうだ」
と俺はなんとか頷く。
思いがけないところでミコトの持っていた【回復】スキルが、種族スキルだった――ということが判明して、それに気を取られていたからだ。
「それじゃあ、ミコト。よろしく頼む」
と俺は当初の予定通り【回復】を使ってもらうよう、ミコトへと声をかけた。
「あ、はい。分かりました」
とミコトはこくりと首を縦に振ると、スマホの画面を操作する。
何度かミコトは画面をタップし、その操作が終わると再び顔を上げた。
「終わりました。いつでもできます」




