四日目・夜 【回復】スキル
「ミコト、ステータス見てみろ。レベルが上がってるぞ」
「えっ! 本当ですか!!」
俺の言葉に、ミコトは表情を明るくするとすぐさまスマホを取り出して画面を食い入るように見つめた。
「やった! 本当に上がってる!! それに、新しいスキルも取得してます!!」
スマホから顔を上げて、ミコトは嬉しそうな声をあげる。
よほどレベルが上がったことが嬉しいのか、ミコトは口元をだらしなく緩ませながら、何度もその画面を見つめていた。
「どんなスキルだ?」
と俺はミコトの言葉に首を傾げた。
「【槍術】です!」
「ああ、武器系統術のスキルじゃな。書かれてる内容は、技術を高めればそれに応じたスキルを覚えるというものじゃろ?」
ミコトの言葉に、クロエが訳知り顔で言った。
「知ってるのか?」
俺はクロエへと問いかける。
すると、クロエは小さく頷いた。
「まあの。と、言うより我も持っとる。我のは【格闘術】じゃが」
そう言って、クロエは手を握ったり開いたりする。
武器系統術、とクロエが言っていたのを聞く限り、どうやら俺の【刀剣術】も、ミコトの【槍術】やクロエの言った【格闘術】は、同じカテゴリーに分類されたスキルらしい。
クロエの口調から察するに、武器系統術に分類されているスキルは、似たようなスキル内容なのだろう。
「このスキル、誰だって取得することが出来るのか?」
「そうじゃの」
とクロエは頷く。
「使ってる武器によって、スキルの名前はだいたい違うが……。書かれてる内容はみな似たようなものじゃ。だいたいのプレイヤーはストーリークエストをクリアした報酬で貰える武器を使うからの。大抵のプレイヤーは、その報酬武器に応じたスキルを持っとるようじゃ」
「まあ、それもそうだろうな」
と俺はクロエの言葉に頷いた。
この世界に武器なんてものは存在していない。いや、あるにはあるのだがどれも脆いのだ。必然的に、手にする武器はストーリークエストをクリアした報酬で出た武器となるだろう。
そんなことを考えていると、ふいにシャツの裾を引かれた。
目を向けると、ミコトが俺のシャツを引っ張っている。
「あの、そういえばなんですが……。ユウマさん、HPは大丈夫ですか?」
とミコトが聞いてきた。
「減ってはいるけど、まあ大丈夫だ」
と俺は答える。
「スキル使いましょうか?」
「使うMPがないだろ」
確か【遅延】を一秒も使えないぐらいにはミコトのMPは減っていたはずだ。
ミコトは俺の言葉に首を横に振って答えた。
「いえ、SPをINTに割り振ってMPの上限をあげれば、それに応じてMPの残量も増えますから」
……ああ、確かにそうだ。失念していた。
HPやMPというステータスは、上限が増えればその上昇分だけ残量も増えるのだ。
このステータス仕様を考えれば、確かにミコトの言う通り、SPをINTに割り振ればその分だけMP上限が増えて、なくなったはずのMPがすぐさま回復するだろう。
しかし、俺とは違ってミコトのほうがステータスとHPが低いのだ。
俺なんかよりも、【回復】は自分自身に使った方がいいと思うが……。
「そもそも、俺よりもミコトのHPは大丈夫なのか? 今いくつ残ってるんだ」
「残り16です」
そう言って、ミコトは画面を見せた方が分かりやすいと判断したのか、そのスマホの画面を見せてくれた。
柊 ミコト Lv:9→12 SP:0→15
HP:12/34→16/40
MP:0/42→0/48
STR:12→15
DEF:14→17
DEX:13→16
AGI:16→19
INT:42→48
VIT:14→17
LUK:26→29
所持スキル:天の贈り物 回復 遅延 槍術
「なるほど」
と俺はミコトのステータスを見て言った。
レベルが上がり、INTが増えてMPの上限が増えている。それなのにも関わらず、MPが0なのは、戦闘の最中にレベルが上がっていたからだろう。
レベルアップボーナスによって上昇したMPは、増えた傍から【遅延】によって消費されたに違いない。
俺はミコトのステータスに目を通すと、ミコトへと声を掛けた。
「ミコト、まずは自分に使えよ」
と俺は言った。
「ユウマさんのHPは残りいくつなんですか?」
「33だ」
俺の言葉に、ミコトは難しい顔で考えこむと首を横に振った。
「……いえ、やはりユウマさんを優先するべきです。私は中衛からの援護が主になりますが、ユウマさんは接近戦をするのでダメージを受ける割合も大きくなりますから」
「そりゃそうだけど。それでもミコトが回復するべきだ」
俺よりもミコトの方がステータスは低い。俺が耐えることが出来る一撃でも、ミコトからすれば致命傷になりかねない攻撃となる可能性だってある。
「ですが、それでもユウマさんをまずは回復させるべきです」
「ミコトの方がステータスもHPも低いんだから、ミコトを優先するべきだ」
「いえ、ユウマさんを」
「いや、ミコトを」
「…………」
「…………」
俺たちはお互いに譲らず、にらみ合った。
けれど、それも束の間のことで、すぐにミコトは呆れた表情となる。
「……分かりました。では、こうしましょう」
そう言って、ミコトはクロエへと視線を向けた。
「クロエさん、HP減ってますよね?」
「減っておるが……。それがどうしたのじゃ?」
と突然話の矛先を向けられたクロエが困惑をしながら言った。
ミコトはその言葉に頷きを返す。
「このクエストは間違いなく高難易度です。ですから、私はここにいる誰かが欠けてもクリアすることが出来ないと思っています。だから、全員で一回ずつ回復しましょう」
「全員、一回ずつ回復って……。えっ!?」
俺はミコトの言葉に驚きの声を上げた。
それはつまり、【回復】を三回使うということだ。【回復】スキルを一回使うことで消費するMPは5。少なくとも、MPが15も必要ということになる。
ミコトは、INTの伸びが他のステータスよりも多いから全部のSPをINTで使い切ることはないだろうが、それでも多くのSPをINTに割り振ることになる。
「お前はそれでいいのか?」
と俺はミコトに問いかけた。
前回でも、前々回のレベルアップでも、コイツはSPを一つのステータスに極振りしている。
もし今【回復】を使うとするならば、ミコトはまた極端に偏ったSPの割り振りをしなくてはならない。
だが、ミコトはそんなことを気にしていないのか、戸惑う俺にくすっと笑みを浮かべると口を開いた。
「ええ、構いませんよ。もともと、私は中衛型ビルドです。本来であれば、前に出るユウマさんやクロエさんの援護が主な仕事ですし。もっと言えば、私には【遅延】があるので、それを使う回数だって増やすことが出来ます。多少のステータス差ぐらいだったら、【遅延】を使えばどうにかできますからね」
「そりゃ……。そうだけど」
と俺は言った。
あのモンスターの大群に囲まれても、無事に生き延びることが出来るほど【遅延】スキルは強力だ。
【遅延】スキルがMPの消費で発動することを考えると、他のステータスよりもMPを重要視して伸ばすという手も、考えようによっては何もおかしくはない。
「本当に、良いんだな?」
と俺はミコトの目を見て言った。
「ええ、大丈夫です」
とミコトは何の迷いもなく頷く。
ここまで決意を固められたら、その言葉を否定するわけにはいかない。
俺はミコトへと頭を下げた。
「すまん、助かる」
「どうしてユウマさんが頭を下げるんですか。別に、無理して割り振るわけじゃないので気にしないでください」
とミコトは笑った。
俺たちの間に、クロエが割って入ったのはそんな時だった。
「ちょっと待て! 何をお主らだけで納得しておる!! お主らは、先ほどからいったい何の話をしておるんじゃ。回復がどうのとしきりに言っておるが……」
怪訝そうな顔でクロエはそう言った。
俺とミコトは、クロエのその言葉にどちらともなく顔を見合わせる。
雑居ビルの中では、信用の出来ないクロエに【回復】のことを隠しておこうと、俺たちの間で事前に話し合いで決めていた。
けれどその話し合いの後、俺たちはクロエが食屍鬼を呼び寄せた理由を知って、共にアンデットモンスターが溢れた『極夜の街』を駆け回るうちに、クロエが俺たちのことを陥れることがないことは分かった。
むしろ、どちらかと言えば俺たちに対してクロエは好意的で、積極的に助けてくれようともしている。
あのモンスターの大群の中でも、クロエは俺たちを見捨てず助けてくれたのだ。
それはつまり、クロエは本当に俺たちと共に、このクエストをクリアしようと思ってくれているということ。
そのクロエの行動を目の当りにしたからか。ミコトは、もうすでにクロエを信用しているようで、その証拠に彼女は、自分のSPを使用してまで、クロエも一緒に回復させようと考えていた。
……それに、クロエを信用しているのはミコトだけじゃない。
俺自身も、命を助けられたことで、クロエのことはもうすでにある程度信用してしまっている。
このクエストを進行するうえで、【回復】は幾度となく使うことになる。
当初と比べれば、クロエは信頼に足る人物だと思う。
【回復】に関して話をするなら、今このタイミングだろう。
いつも誤字脱字報告を頂き、本当にありがとうございます。
更新前に何度も見直ししているはずなのに、どうしてこう、誤字脱字が多いんでしょうね……。
また、多くのブックマーク、評価をいただきありがとうございます。
これからもどうぞ、よろしくお願いいたします。




