四日目・深夜 始まり / 決意の夜
今回、途中で視点が変わります。
そんな話をしていた時だった。
その声はやはりと言うべきか――――唐突に、俺たちの間に割って入った。
≫≫ストーリークエストを受信しました。
笑っていた俺たちの顔が、その声に反応して凍り付く。
≫≫ストーリークエスト:極夜の街 を受諾しました。
そんな俺たちのことなんかお構いなしに、スマホから聞こえてくる声はクエストの始まりを告げる。
俺たちはすぐさま笑みを引っ込めると、睨み付けるようにそれぞれのスマホへと目を落とす。
≫≫…………ストーリークエスト:極夜の街 の開始条件を満たしていません。
≫≫ストーリークエストは新宿に到着することで開始されます。
「新宿」
と俺は思わずその地名を口に出した。
図らずしも、その場所は俺たちがもともと目指していた場所だ。
しばらく待ってみるが、アナウンスはもうない。
それを確認し、俺は改めて口を開いた。
「……急に、ストーリークエストが始まったな」
「そう、ですね」
唐突に始まったストーリークエストに戸惑いを隠せないのか、ミコトが不安を覗かせた顔で頷いた。
「どうやら、日付が変わったタイミングで届いたようです」
言って、ミコトは自分のスマホの画面を指さす。
4月4日 0時01分
日付と時間が表示されたその画面は、確かに。この世界での四日目が始まったことを示していた。
「ストーリークエストは日ごとに届くのか?」
「それはないと思います。二日目の朝、最初にストーリークエストを受け取って、三日目にはストーリークエストのアナウンスはありませんでした。……おそらくですけど、前回のストーリークエストの討伐対象であるホブゴブリンを倒して、日にちが変わったからストーリークエストが届いたのだと思います」
「なるほど」
俺はミコトの言葉に納得した。
「新宿って言ってましたね」
ミコトが先ほどのシステムアナウンスを思い出すように言った。
「だな。ちょうど、行こうとしていたところだ」
「はい。それはちょうど良かったんですけど……」
ミコトが顔を曇らせた。
「ストーリークエストの名前が気になりますね」
「極夜の街、だもんな」
その言葉だけでは、どんな内容なのかが想像がつかない。
けれど、どんな内容にせよストーリークエストがある街にはこれまでとは違うモンスターがいることは間違いない。
前回のストーリークエストのことを考えるに、ストーリークエストで討伐対象となるモンスターは強敵である可能性が高いだろう。
そして、どうやらミコトもその可能性に気が付いたらしい。
ミコトの瞳が不安で小さく揺れた。
「今の私たちで大丈夫でしょうか?」
「……そればっかりは、分からない。今の俺たちに出来ることは、出来るだけ万全の状態で新宿に向かうことだ」
「そう、ですね」
ミコトは硬い笑みを浮かべた。
不安を隠していることは明らかだった。
「今から向かいますか?」
とミコトは硬い表情のまま言った。
その言葉に俺は首を横に振って口を開く。
「とりあえず、今日はもう休もう。今から動こうにも、俺はもうへとへとだ。ミコトだって、MPがないだろ?」
俺の言葉に、ミコトはこくりと頷いた。
MPは身体を休めれば回復する、と言っていた。
だったら、まずはMPを回復させることと、疲れを取ることが先決だ。
「それじゃあ、今夜も私が見張りに立ちますね」
「いや、さすがにミコトも少しは寝るべきだ。途中で交代しよう」
「大丈夫ですよ」
とミコトは言った。
「気にしないでください。私は、眠らなくても大丈夫なので」
「それで身体は休まるのか?」
「まあ、特に何もしてませんからね」
とミコトが小さく肩をすくめる。
俺としては、しっかりと身体を休めてほしいのだが……。
「はぁ……」
ため息を吐いて、ミコトの言葉を受け入れる。
押し問答をしている暇があるなら、早く寝よう。
途中で起きて、強制的に見張りを交代すればいい話だ。
焚火の火を消して、
「それじゃ、おやすみ」
と言って俺はバックパックを枕にして横になった。
瞼を閉じると、
「はい、おやすみなさい」
という言葉が耳に届く。
疲れた身体に微睡みは早く、すぐに意識は遠くなる。
俺が眠りに落ちるのは、遅くなかった。
▽ ▽ ▽
この世界の夜は、彼女にとってはいつも心細くなる。
電気もなく、人の気配もない。
暗闇だけが広がる植物に覆われた夜の街を眺めていると、知らず知らずのうちに胸の奥がぎゅぅと締め付けられた。
誰もいない世界が怖い。
だから柊美琴はいつも、ユウマが寝入ると膝を抱えて丸くなる。
じっと朝日が昇る数時間を耐え忍ぶ。
「四日目、か」
美琴は暗闇に向けて言葉を吐いた。
言葉にすれば短い。けれど、実際にはそれ以上に長く感じる数日だった。
「大丈夫かな」
と美琴は誰にともなく言った。
美琴の頭の中には、ホブゴブリンと死闘を繰り広げたあとのユウマの姿がちらつく。
もう二度と、彼の傷ついた姿を見たくはなかった。
だから、彼が戦うなら自分も一緒に戦うと彼に言った。
でも、今の自分に彼を支えることが出来るだろうか。
また、自分の力不足で彼が無茶をするのではないだろうか。
「っ!」
不安を覚えて、美琴は強く膝を抱きしめる。
自分は彼のように強いスキルを持っていない。ステータスだって高くない。
それでも、彼の傍に居たい。そのために、レベルを上げようと頑張ったのだ。
「大丈夫」
と美琴は言った。
「大丈夫」
と美琴はさらに自分に言い聞かせるように言葉を繰り返す。
あの時よりも、自分のステータスは伸びている。【回復】という自分にしかないスキルがあるじゃないか、と自分を励ます。
レベルだって、あの時から5つも上がっているのだ。
「レベルアップかぁ」
美琴はつぶやいた。
レベルアップは楽しい。彼の役に立てるようになるから。
レベルアップは楽しい。さらに自分が強くなるから。
レベルアップは楽しい。あの時の自分とは確実に違う自分になれるから。
だから、美琴はレベルを上げたい。
レベルが上がれば、上がったその分だけ、彼が楽を出来るはずだから。
「…………」
美琴は暗闇を見つめる。
そこには、寝ているはずのユウマの後ろ姿がある。
ユウマとは違って【夜目】のスキルを手に入れていない美琴には、暗闇で寝入る彼の姿はぼんやりとしか見えない。
規則正しく寝息を立てて上下するユウマの後ろ姿に、美琴は優しい笑みを浮かべた。
「大丈夫」
と美琴はユウマの後ろ姿に言う。
今度は自分がユウマを守る。
そう固い決意を秘めて。




