三日目・夜 新たな武器
「あ、そうだ! ユウマさん、そういえばストーリークエストの報酬が出たんでした!」
「えっ? 報酬はスキルの効果が追加されたことじゃなかったのか?」
「いえ、それはあくまで〝ストーリークエストの初回クリアボーナス〟です。報酬は別にありました」
「報酬はなんだった?」
「武器です。ユウマさんが小太刀、私が直槍だったと思います」
ミコトに言われて、俺は自分のステータス画面をスワイプして倉庫画面を出す。
すると、そこには刀の絵がマス目の箱の中に入れられていた。
「……本当だ。刀がある」
「それ、どこにあるんですか?」
俺と同じようにスマホの画面を見ていたミコトがそう言った。
どうやら、自分の報酬を確認したいらしい。
俺は、ステータス画面を左にスワイプすると、クエストクリアの報酬を受け取ることが出来る倉庫画面があることを教えてあげる。
「あ、出来ました! 私にも、槍があります」
倉庫画面に辿り着いたのか、ミコトが声を上げた。
「とりあえず、出してみるか」
「そうですね」
俺たちは顔を見合わせて頷いた。
「俺から出してみる」
そう言って、俺は刀の絵をタップする。
≫小太刀を倉庫から取り出しますか? Y/N
もちろんYesだ。
タップをすると、目の前に小太刀が現れていた。
黒い鞘に包まれた、長さが六十センチほどの刀だ。
鞘には意匠が施されておらず、漆が全体に塗られているのか滑らかだった。
思わず、唾を飲み込む。
この世界に来て、初めて手にする武器らしい武器だ。
手を伸ばし、柄を手に掴む。
小太刀には白い糸が幾重にも巻かれていて、握りしめるとそれはよく手に馴染んだ。
持ち上げると、想像していた以上に重たい。
ズシリとしたその重みは、包丁なんかでは比べ物にならない武器としての安心感があった。
鞘を手に掴み、抜いてみる。
すると、白銀の刃が黒い鞘から顔を出す。
波うった刃文に、俺の顔が反射して映った。
「うわぁ……。綺麗ですね」
取り出した小太刀の刃文を見たミコトが感嘆の声を上げた。
確かに綺麗だ。けれど、同時に恐ろしくもある。
これまで、俺が手に扱ってきた刃と言えば料理包丁ぐらいだ。
それでも簡単に人を殺すことが出来たのに、この刃はさらにより簡単に人を殺せてしまう。
でもだからと言ってこの武器を使わないわけにはいかない。
この世界には、人間以上のモンスターが存在しているのだから。
「よかったですね。武器が手に入って」
とミコトは言った。
「そうだな」
と俺はその言葉に頷きを返す。
「ミコトのはどうだ?」
「私のは……。ちょっと、取り出してみますね」
ミコトがスマホの画面を操作した。
「っ!?」
ふと気が付くと、ミコトの目の前には直槍が置かれていた。
全体の長さは約2メートルほど。穂先には刃をカバーするためなのか革袋が巻き付けられている。
柄は俺の小太刀の鞘と同じく黒色。そこには鞘と同じく漆が塗られているのか滑らかだった。
なるほど、他の人から見ると倉庫からアイテムを取り出す瞬間はこうなっているのか。
初めて客観的に見たその光景に、俺は心の中で驚きを隠せなかった。
「大きいですね……」
呆気にとられながらも、ミコトが直槍を手に取った。
ミコトの身長は150センチほどしかないから、直槍を構えると直槍の大きさがさらに際立つ。
ミコトは直槍の穂先へと手を伸ばすと、そこを覆う革袋を取った。
すると、長さにして二十センチほどの刃が顔を出す。
直槍、と言うだけあってその刃には返しが付いていない。
ただ、斬って突く、それだけに特化した槍だということが目に見えて分かった。
「これで……。私たちはモンスターを倒しやすくなりますね」
「うん」
「モンスターを倒せる、ということは、この武器は同じ様に人間を殺すことも出来てしまうんですよね?」
「そうだな」
「そうですよね……」
ミコトはジッと直槍の穂先へと目を向けた。
「私、数日前まで普通の女子高生だったんです」
穂先を見つめながらミコトは言った。
「それなのに、たった数日でこんな武器を手に取って戦わなくちゃいけなくなって……。これを手に握った時、改めて思ったんです。ああ、これでいよいよ私は普通の女子高生じゃなくなるんだな、って」
そう言って、ミコトは革袋を丁寧に穂先へと巻き付けると槍を自分の傍へと立てかける。
それから、ぼんやりと星空を眺めるとまた口を開いた。
「覚悟が足りてなかったな、って思いました。簡単に人を殺せる武器を手に取って戦う覚悟が。……でも、もうそんなことを言ってられませんね」
ミコトが力なく笑った。
それから、傍に立てかけられた直槍を手に取り、立ち上がる。
俺は立ち上がったミコトを見上げた。
「私は誓ったんです。ユウマさんと一緒に、この世界で生きるって。何がなんでも生き延びてやるんです!」
星空を背に、翼を生やした少女は言い切った。
それは、少女がこの世界に対して行った宣誓だった。
「ね? そうでしょ、ユウマさん?」
気持ちの良い笑みを浮かべて少女が俺の名前を呼ぶ。
「もちろんだ」
と俺は笑って少女に言い返す。
この世界は間違いなくクソゲーだ。
だとしても、この少女と一緒なら何が起きても生きていける。
そんな気がした。




