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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~  作者: 灰島シゲル
【第一部】 極夜の街と幼い吸血鬼

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三日目・夜 少女の想い

「スキル獲得の条件と、確率でのスキル習得、か……」



 俺はミコトの言ったことを考える。


 トワイライト・ワールドのゲームシステムは未だに謎が多い。

 これまで、俺が獲得したスキルは初期スキルである【未知の開拓者】を除けば、種族内における初討伐ボーナスだといって与えられた【曙光】スキルのみ。

 スキルと呼ぶからにはもっと別の、他の手段でスキルを手に入れることも出来たはずだ。



 もし仮にミコトの言うように、この世界でスキルを獲得するためには何らかの条件が必要で――その条件を満たしていたとしても確率によって習得出来ていなかったのだとしたら、俺たちがこれまで初期スキルと、討伐ボーナスで貰ったスキルを除いて、何もスキルを習得していなかったことにも納得ができる。



「つまり、ミコトが習得した【回復】スキルは、この世界での種族が『天使』であることと『神に祈る』という行為が条件だった、というわけか?」


「はい、そういうことになります」


 ミコトは頷きを返した。



「あの時、私はユウマさんの命を救うべく必死でした。とにかく必死でユウマさんを助けたいと神様に祈ったんです。あの時の私は、本当に何もできなかったので……。魔法、なんていう眉唾な存在に頼るしかなかったんです」


 そう言って、ミコトは笑みを浮かべた。



「でも、それだけじゃ【回復】は使えなかったかもしれない。ユウマさんがホブゴブリンを倒してストーリークエストを完了してくれていたから、私の【天の贈り物】の効果でスキル習得の確率があがった。その結果、たまたま条件を揃えた私は【回復】スキルを獲得できた。そういうことだと思います」



 ミコトの言葉に、俺の手は未だに頭に巻かれたままの包帯へと伸びる。

 ミコトの【回復】のおかげで、きっとこの包帯の下には傷が無くなっている。

 けれど【回復】がなければ今頃は、頭に傷を負っていたはずなのだ。



 その事実に、背筋が凍る。

 力が足りない自分自身に、嫌気がさしてくる。



「……強く、ならなきゃな」



 俺は小さな声で呟いた。

 次に同じようなことがあれば、生きてはいないかもしれない。

 強くなったつもりでいたけど、まだまだだった。

 自分自身の不甲斐なさが悔しい。



「ッ!」



 俺は強く唇を噛みしめて、拳を握りしめる。

 慢心は死につながる。

 そう思っていたはずなのに、いつの間にか慢心していたのだ。


 ストーリークエストを進める前に、レベルをもう少しだけ上げておくべきだった。

 もっと、モンスターを倒しておくべきだった。

 この世界で生き残る努力を、もっとしておくべきだった。



「――自分ひとりで、抱え込まないでください」



 唐突に彼女がそう言った。

 驚いて彼女へと目を向ける。

 ミコトは今にも泣きだしそうな顔で俺を見つめていた。



「ミコト?」


 名前を呼ぶと、ミコトの顔がさらにくしゃくしゃになる。


「どうして、ユウマさんは一人で戦おうとするんですか?」


 夜空を思わせるような黒い瞳が揺れて、大きなその眼に涙が溜まる。



「確かに、ユウマさんには【曙光】というスキルがあります。私よりも高いステータスを持っています。そのスキルがあれば、ユウマさん一人でもモンスターと戦えることでしょう。でも――!!」



 やがて、溜まった涙が零れると同時に、ミコトは堪えていた気持ちを吐露するように口を開いた。



「私がいます。ユウマさんの傍には、私がいるんです! 二人でモンスターと戦えるように、連携だって練習してたじゃないですか! それなのに、どうして肝心な時に一人で戦おうとするんですか!? もっと、私を頼って下さい……。自分ひとりで、戦おうとしないでください。私は、ユウマさんのパーティメンバーです。ステータスだって、ユウマさんに助けられたあの時とは違う! きっと役に立ちます――いえ、立って見せます!! だから……。もう、二度と一人で戦わないでください」



 ミコトの大きな目から溢れる涙は止まらない。

 隠していた気持ちを吐露した感情は収まらない。

 ただただ、彼女の涙は俺の心に突き刺さる。

 彼女が涙を流す理由が、痛いほど理解することが出来たから。

 出会ってから、俺の役に立とうと頑張り続けていた彼女を、俺はあの時裏切ったのだ。



「………………ごめん」


 俺は頭を下げることしかできなかった。


「俺は俺なりに、君に生きていて欲しかった。死んでほしくなかったんだ。……でも、それは俺のエゴだったんだな」


「ええ、そうです。だから、強くなるなら私も一緒です。二人で一緒に、私たちは強くなるんです」



 ミコトはそう言って、最後に笑った。

 残った涙が焚火の炎に照らされて、きらきらと光る。


 ……やっぱり、彼女は笑った笑顔が良く似合う。


 俺は彼女の笑顔を見て、素直にそう思った。



「もし、ユウマさんが私を頼ってくれないなら、私はユウマさんに追いつくようユウマさん以上にレベルを上げます」


 と彼女が目元に残った涙を拭いながら言った。


「それは……。俺たちはパーティだろ? ミコトが倒せば、俺にだって経験値が入る。ミコトのレベルが上がれば、俺だってレベルが上がるぞ」


「じゃあ、パーティ解消します」


 決意を込めたミコトの言葉に、俺は慌てて口を開く。



「わ、分かった。もう一人で倒そうとしない。約束する。だから落ち着け」

「絶対ですよ? 絶っ対に、私を置いてモンスターと戦ったりしないでくださいね?」



 ミコトは俺の言葉の真偽を図るかのように、俺の瞳をまっすぐに見つめてきた。

 俺はミコトの目を見据えると、しっかりと頷きを交わす。



「ああ、もう二度とミコトを置いて自分ひとりでモンスターと戦ったりしない」

「私を一人にしないでください」

「分かった」

「……じゃあ、許します」


 小さくミコトが笑った。



 ひとまず、パーティ解消の危機は去ったらしい。

 俺は心の中で安堵の息を吐き出す。



「これから、ユウマさんはどうされるんですか?」


 とミコトが聞いてきた。


「……そうだな」


 と言って、俺は考える。



 そしてゆっくりと考えを口に出して伝える。



「まずは、何と言ってもレベルとステータスの底上げだな。もっとたくさんのモンスターを俺たちは倒さなきゃいけない」


 俺の言葉にミコトは頷いた。



「そうですね。この世界にホブゴブリンが一匹だけとは限りませんし、出来ればホブゴブリンを簡単に倒せるぐらいにはレベルを上げておきたいです」


「そうだな。それと、ミコトのおかげで分かったスキルの獲得だな」



【回復】スキルの存在が大きいように、やはり戦力を底上げするのならば今以上の何かしらのスキルは必要だろう。

 そのためにも、まずはスキル獲得の条件を満たす必要がある。

 スキル獲得の条件さえ満たすことが出来れば、あとは確率で習得できるまで何度も繰り返し望めばいい。



 例えるなら、スキルの獲得は条件付きで回せるガチャだ。

 そのガチャを回すためにはある特定の条件を満たすことが必要で、条件を満たすことでようやくガチャを回すという権利が得られる。

 そして、仮に運よくガチャを回せたとしても、ガチャからは当たりが出るとは限らない。


 ……うん、考えただけでもクソガチャだな。


 やっぱり、この世界はクソゲーで間違いない。



「……それにしても。どのくらいの確率でスキルは習得できるんだ?」



 俺は自分のスキル欄へと目を向ける。

 スキル獲得率が大幅に上がると言ったところで、どのくらい上がるのかは分からない。

 仮に、もともとのスキル獲得率が0.1%だとして、【未知の開拓者】や【天の贈り物】の効果がその確率を1%まで上げるのだとしたら、やはり低確率なのは間違いがないけれど、それでも確率としては大幅に上がったことになる。



「そもそも、俺は何系のスキルを習得しやすいんだろう」



 ミコトの【天の贈り物】は回復系とはっきり書かれていた。

 それに対して、俺の【未知の開拓者】はスキル獲得率とだけしか明記されていない。

 どのくらいの確率でスキルが習得できるか分からない以上、習得しやすいスキルの傾向があるならそれを習得したほうがよほど効率的だ。




 どうしたものか、と悩んでいると何かを思い出したかのように、ミコトが声を上げた。



「あ、そうだ! ユウマさん、そういえばストーリークエストの報酬が出たんでした!」


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[一言] かつてないウザさ。
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