二日目・夜 魔法実験
古賀 ユウマ Lv:3→4 SP:0→10
HP:22/22→24/24
MP:3/3
STR:7→8
DEF:6→7
DEX:5→6
AGI:9→10
INT:4→5
VIT:7→8
LUK:17→19
所持スキル:未知の開拓者 曙光
「どうでした?」
「思ってた通りだ。レベルが上がってる。ミコトも上がってるんじゃないか?」
俺の言葉に促されて、ミコトは寝転がっていた身体を起こすと、自分のポケットからスマホを取り出した。
「……本当だ。私もレベルが上がってます」
言って、ミコトはステータス画面を俺へと見せてきた。
柊 ミコト Lv:1→3 SP:0→10
HP:12/12→16/16
MP:3/3→6/6
STR:2→4
DEF:3→5
DEX:3→5
AGI:4→6
INT:4→8
VIT:3→5
LUK:2→4
所持スキル:天の贈り物
俺のレベルアップは一つだけだったが、ミコトは二つも上がっていた。
おそらく、俺の【曙光】のおかげで多めに経験値をもらっているからだろう。
ミコトは自分のステータス画面をまじまじと見つめた。
「レベル、二つも上がってますね。私」
「パーティを組んでから、モンスターを結構狩っていたからな。ミコトはレベル1だったし、レベルが低いうちは少ない経験値でレベルアップしやすいんじゃないか?」
【曙光】スキルの存在を隠して、俺はそれっぽいことを説明した。
ミコトとは打ち解けてきたものの、まだこのスキルの存在を伝える気にはならなかった。
いずれは俺の成長速度の早さに疑問を持つだろうが、それまでは何も言わないでおこう。そう思うほどに【曙光】というスキルはこの世界でのプレイヤーにとってはチート過ぎるスキルだ。
「どれに、ステータスを割り振りましょうか」
スマホの画面を見つめながら、ミコトが唸り声をあげた。
「ユウマさんはステータスをどう割り振りますか?」
「そうだなぁー……。全体的に底上げしながらSTRとDEXをもう少し伸ばそうかな。特化型にしても良いんだけど、それだと咄嗟の時の対応とかできなさそうだし」
ミコトの質問に答えながら、俺はSPを割り振っていく。
古賀 ユウマ Lv:4 SP:10→3
HP:24/24→26/26
MP:3/3→6/6
STR:8→9
DEF:7→8
DEX:6→8
AGI:10
INT:5→6
VIT:8→9
LUK:19→21
所持スキル:未知の開拓者 曙光
DEXには二つ、AGIを除くそれぞれのステータスに一つずつ割り振った。
INTが6になったことで、思った通りMPの上限量が増えている。
残りSPは三つとなったが、これはいつものように予備として取っておく。
「ミコトはどうするんだ?」
「私は……そうですね。正直、私がSTRとかを伸ばしても、もともとの力がないので決定打に欠けると思うんですよね。だったら、先ほどの連携みたいにユウマさんをサポートしつつ自分の身を守れた方がいいと思うんです」
ミコトはそう言って、悩むように一つずつSPを割り振っていく。
「あと、INTも出来るだけ伸ばしておこうかな、と。MPってやつが何かわかりませんが、こうしてステータスにある以上何かの役に立つでしょうし」
柊 ミコト Lv:3 SP:10→0
HP:16/16→18/18
MP:9/9→12/12
STR:4
DEF:5→7
DEX:5→7
AGI:6→7
INT:8→14
VIT:5→6
LUK:4→5
所持スキル:天の贈り物
振り終わったステータス画面をミコトが見せてきた。
パッと見でSPが残り0であることと、STRを一つも上げていないことに気が付く。
そしてINTが随分と伸びて、MPの上限がまた増えていた。
ずいぶんと思い切った振り方をしたものだ。
直前に見たステータス画面との違いに、俺は思わず内心で舌を巻いた。
「どうでしょうか?」
「……結構、様変わりしたな。何にどう割り振ったんだ?」
「えっと、DEFとDEXにSPを二つ、AGI、VIT、LUKにSPを一つ、INTにSPを三つ割り振りました」
ミコトはINTが上がりやすいからか、レベルアップによるボーナスととSPを三つ割り振っただけで今やINTの数値は二桁に乗っていた。
最初の数値が1だったことを考えれば、数字上で言えば単純に十五倍だ。
その影響で、MPの上限も体力とほぼ同じ数値となっている。
「INTとMPが増えて何か実感することはあるか?」
「いえ、特には……。あ、でもMPが増えるにつれて、自分の中で言葉にできない何かがあるのを感じます」
「言葉にできない何か?」
俺は首を傾げた。
俺もMPは増えているがそんな感覚がない。
まあ、俺とミコトとではMPも二倍以上違うのだから感じるものも違うのだろう。
ミコトは俺の言葉に頷き、口を開いた。
「はい。なんだか、こう、もやもやとしたような、でもぽわっと温かいような……。すみません、私の言葉じゃこの感覚は表現できないです。でもこの感覚こそが、MPが増えたってことなんだと思います。明らかに、今までの私とは違う――そんな感覚です」
言葉にできない歯がゆさからか、ミコトは悔しそうにしながらもそう口にした。
感覚、ということはやはり魔力的なものなのだろうか。
元の世界では人間にないその力も、この世界でならステータス次第でその力に目覚めてもおかしくはない。
だとすれば、魔法もこの世界にはあるんじゃないか?
「実験、してみるか」
「はい?」
俺の言葉にミコトが不思議そうな顔をした。
「ミコト」
「はい」
「『ファイヤーボール』って言ってみてくれないか?」
「……は? ユウマさん、急に何を言って――――いや、実験ってそういうことですか」
すぐに俺の言葉を理解したミコトが、眉根に皺を寄せて激しく首を横に振った。
「絶対に嫌です!」
「そこをなんとか! 言うだけでいいんだよ!」
「い、や、です! 確証もないのに、恥ずかしくてそんなことできません!」
「頼む、一度でいいんだ!」
「そんなに言うなら、ユウマさんが自分でやればいいじゃないですか!」
「俺は、ほら。身体の内側にある感覚ってやつが分からないから。多分だけど、一定以上のMPがないと意味がないんだよ!」
その言葉に嘘はない。
どんな魔法でもある一定値以上のMPがなければ発動はしないだろう。
この世界に魔法があったとして、初級魔法がどれほどのMPを消費するのかは知らないが、MP6の俺がやるよりもMP12のミコトがやった方が魔法を発動させる可能性としては高いはず。
「な、頼むよ。ちょっとでいい、ほんの少しだけでいいから、やってくれ。な?」
両手を合わせて、俺は頭を下げた。
見た目が小さい女子高生に、必死に頭を下げる大学生。
客観的に見れば、なかなかにヤバい絵面だったが、ここには俺たち以外の人はいない。
警察がこの世界にいなくて良かった。
ミコトは必死で懇願する俺から視線を逸らすと、顔を真っ赤にして唸り声をあげた。
「~~~~~ッッ! もう! 一回だけですよ!? それ以上はしませんからね!」
「さすがミコトだ! ありがとう」
ミコトは顔を真っ赤にしながらも立ち上がり、咳払いを一つすると右手をまっすぐに前へと突き出した。
身に着けたローブと相まって、恰好だけは非常にそれらしい。
俺はミコトから距離を取るとわくわくとした心持ちでそれを見守る。
「それじゃあ、いきますよ!?」
やけっぱち気味にミコトは言った。
「ああ、頼んだ!」
その言葉に俺は頷きを返して、これから起こる出来事を目に焼き付けようと注視する。
ミコトは一度自分を落ち着けるかのように、目を閉じて深呼吸を繰り返した。
それから、一度大きく息を吸い込むと息を止める。
カッと目を見開き、ミコトは小さなその唇を開いてその言葉を口にした。
「――ファイヤーボールッ!」
誰もいない瓦礫の民家にミコトの言葉が響いた。
「……」
「……」
何も起こらず、春先を思わせる冷たい風が俺たちの間を吹き抜ける。
焚火だけが風に煽られて炎を揺らし、パチパチと枯れ木が爆ぜた。
「…………」
「…………」
俺は何も言わず、彼女も何も言わなかった。




