リモートワーク
いよいようちの会社も、リモートワークが取り入れられた。
中規模量販店に勤務する僕の仕事は、基本的には事務担当。
しかし昨今の人員不足で、事務処理のみならず、時には従業員の不満の声にこたえ、時には店舗に出てお客様対応をし、時には施設の不良箇所を修理し、時にはイベントを運営する。
僕の業務は、休む暇を与えられないほど、忙しい。
昼飯を食べる暇もないほどだ。
今日からは、自宅勤務になるからな。
久しぶりに、飯が食えるな。
そんな普通のことに、ほくそ笑む自分がいる。
出社せずに、自宅で勤務。
僕にとっては、初めての試みだ。
自宅パソコンから、会社のパソコンへとログインする。
何も問題がおこらなければ、いいけど。
今日の仕事内容は、データ打ち込み、売り上げ確認、拡販計画、月間売り上げのレジュメ作成、自己アピールシートの作成、クレーム案件の対応に対する返答、イベント企画の立案。
通常の出社勤務だったら、3日はかかる、仕事量だ。
コーヒーをキーボード横に置いて、自宅での仕事を、スタートさせる。
思いのほか、集中して仕事がこなせる。
キーボードを叩く音が、スピードを増す。
普段であれば。
パソコンに向かっている最中に、従業員から声がかかり。
パソコンに向かっている最中に、呼び出され。
パソコンに向かっている最中に、電話がかかり。
パソコンに向かっている最中に、上司に怒られ。
パソコンに向かっている最中に、営業が訪問し。
パソコンに向かっている最中に、誰かの声に、反応する。
集中力を持続するのは、難しいと思っていたけれど。
何のことはない、持続はできるものなのだ。
ただ、会社で。
集中力を途切れさせる事例が頻発していただけなのだ。
とりわけ。
人が。
人が作業を中断させる。
仕事上のことであれば、まだ、いい。
ただの、雑談が、厄介なのだ。
コミュニケーション?
昨日のテレビの感想を聞くことが?
心のケア?
従業員の恋の行方を聞くことが?
親睦を深める?
上司の趣味が悪いという話で盛り上がることが?
信頼を築くため?
従業員同士の醜いチクり合いを受け止めることが?
絆を深める?
愛想笑いを返しているだけなのに?
必要ないな。
従業員同士の、無駄な時間なんて。
現に僕は今日、こんなにも仕事をこなせたじゃないか。
もう、出社する気になれない。
僕は、与えられた仕事をすべてこなし、与えられていない仕事を今からこなすつもりだ。
新企画の、提出。
リモートワークの必要性について。
無駄な時間は、もう要らない。
無駄な人間関係など、必要ない。
この企画は絶対通る。
通して見せる。
僕はもう、人とは関わり合いたく、ない。