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はい、とても幸せです  作者: 鳴田るな
コウジ編
2/13

きみしだいです、いつでもどうぞ

 光に包まれ、次に目を開けたら草原のど真ん中だった。

 上には青い空と白い雲。

 空気が美味しい!


 さすが女神様、わかっていらっしゃる。

 前世の僕はけして社交スキル自信あり! なんて事はなく、どちらかと言えば休日は部屋にこもってゲーム三昧しているような奴だった。


 そんな僕がいきなり町のど真ん中に出されてもまごついてしまうから、最初は一人の方が、落ち着いて身の回りがチェックできて助かる。

 装備とか持ち物は散々来る前に調整したと言っても、やっぱり操作感とか、チュートリアル空間で慣れておきたいじゃん?


 ということで、まずは両手をチェック。

 指定通りのグローブ装備。ぐー。ぱー。うん、ちゃんと動くみたいだ。

 数歩歩いてみて足も問題なさそう、腰には剣や持ち物入れのポシェット。

 半袖だけど、気温も問題、ナシ!


 ちなみに、きめ細やかなサービスに定評のある女神様は、生まれ変わる見た目、それに年齢まで選ばせてくれた。


 見た目はよくプレイしたゲームのアバター作成みたいな感じ。しかも現実のゲームと違って、頭の中でこんな感じ、と念じるだけで選べる。


 よし、それじゃとびっきりのイケメンにしてやるぞ! ……なんて最初は思ってたんだけど、そういうキャラじゃない自分の染みつきが拭えなかったせいか、いまいちしっくりこなかった。


 結局、カラーリングは前世とほぼ同じモノトーン風味、見た目は普通……よりもうちょっといい感じ? ぐらいで落ち着いた。鏡は見られないから顔は確認できないけど、見た範囲では全部最初の設定通りだから特に心配はなさそうだ。


 年齢設定の方は、迷った末、十代前半で決定。

 赤ん坊の頃から天才児! ってコースも魅力的だったけど、あまり小さすぎると今度はできないことのせいでストレスの方が大きくなりそうだし、赤ちゃんはさすがに親を頼らざるを得ない、なんだか面倒そうじゃない?


 というわけで、ある程度成長したコースを選択。

 前世で十代後半だったからそのまま行こうか迷ったけど、どうせだから欲張って、少しだけ時を戻してもらった。


 あと、このパターンの場合、メモリインストールってのができるらしくて。

 要するに、本当に世界の誰とも関わらず異世界人状態でゲームをスタートするか、ある程度用意された設定をインストールして、半分ほど現地人の状態で旅を始めるか。


 たとえば、冒険者になろうと救貧院を飛び出した孤児、腕試しに旅立った貴族の子、修行に出た若き神官、果ては封印された魔王の転生体……! なーんて感じに、既にこの世界に生まれた誰かとしての記憶を自分のものにできるんだって。


 これもめちゃくちゃ迷ったけど、ある程度の常識をインストール、経験とかメモリとかはなしの純粋な異世界人としてスタートしてみることにした。


 最初変にこりすぎて、後悔するのも嫌だし?

 あと、やっぱりまだ、前世の自分が強いから。急に新しい家族とか幼馴染みとかできるのも、なんだか不自然だし。



 さて、それじゃ最後に……。


「ステータス、オープン!」


 おお! 自分の前に、なんかゲーム画面みたいのが浮かび上がった!

 今は口に出してみたけど、頭の中で念じるだけでもいいみたい。


 あと、この画面は他人には見えないし、他の人は普通こうやってステータスを自分で確認するようなことはできないんだって。

 鑑定所って所で見られるスキルを持った特殊な人達に、確認して書き起こしてもらうんだってさ。

 なるほどなあー。


「……ん? あれ、セーブできるんだ?」


 ええとちゃんとレベルや現在のステータス、スキルに装備、持ち物も確認できて……と確かめていた僕は、ふとメニュー画面の端に存在する項目に気がつく。


 調べてみたら、一枠だけだけど、セーブが可能みたいだ。

 うっわ、ゲームっぽい世界観ではあるけど、本当に親切。早速選んでみると、ちゃんと記録されたみたいだ。


「安全な状況でなければセーブはできません」


 だって。

 なるほどね、戦闘中とか、トラブルの時は駄目ってか。

 まあ、一枠しかないんだし、そんな事態の時に間違ってしちゃっても困るし、逆にこれは親切なのかな?


 でも更に気になったのは、「オプション」だの「最初の部屋へ」だのという項目まであったこと。


 オプションはまあ、地味にBGM機能が存在するとか、その程度だったけど。


 最初の部屋へ、は選んでみたら注意が浮かび上がった。


「この項目を選択すると、人生を中断し、女神ルームまで戻ります。再開時は、セーブ地点からのやり直しとなります。本当に戻りますか?」


 はい。いいえ。


 ……バッドエンディングとかまでコンプリートしがちだったゲーマーとしては、ちょっとだけはいを押したい気持ちも芽生えたけど、まだ何もしてないし? もうちょっと色々やってみてからでもいいだろう。


 なるほどね。

 そういえば出発前、「何か困ったことがあったら自分を呼べ」と言っていたのはこういうことなのかな?


 納得した僕は、そうだせっかくだからBGM設定でも、ともう一度オプション画面を立ち上げて、あれ? と更に首を捻った。


 他の文字よりも小さくて、しかも薄いから見落としていたと思うんだけど。


「人生に飽きたあなたへ」


 なんてボタンが、ひっそりとそこにはある。


「人生に飽きたあなたへ。真実を知る権利をあげましょう。ただし、新しい人生で得たものが全てなくなってしまうかもしれません。それでも、本当に、よろしいのですね?」


 反射的に、だろうか。

 説明文を読み上げた瞬間、身体に震えが走った。


「最初の部屋へ」を見たときは好奇心がむくっと動いたのに、これにはなぜだろう、怖気の方が強い。



 ザザ……。

 視界に砂嵐が走る。

 ザザザ……。

 アスファルトと、投げ出された手足。

 伸びて、広がる、赤い液体。

 血。僕の。血。

 ザザザ、ザ……。

 バタン。扉を閉じる音。

 靴音。近づいてくる。

 誰かが、傍らに、しゃがみ込んで――。



 我に返った僕は、慌てて画面を全部閉じた。

 荒い呼吸で辺りを見回せば、相変わらず脳天気な青空と草原が広がっている。


 まだ日は高い方、爽やかな陽気。


(……こんな所で、何してたんだろ、僕)


 新しい人生が始まるって言うのに、足踏みしすぎていたみたいだ。


 パン! と両手で頬を叩いて、僕は気を取り直した。


「ようし、それじゃ町を目指す! その前に軽い戦闘とかもしておきたいけど、まず第一目的はギルドに行って冒険者登録だあ!」


 ことさら明るく、言い聞かせるようにあえて口に出してから、勢いよく足を踏み出した。


 そうだ、こんなにいい気持ちの、駆け出しなのだから。

 ステータスの違和感だとか、変な映像だとか、気にしない。

 基本引きこもりだった前世の自分を引きずって、きっと新しい事を始めるのに躊躇してる気持ちが見せた不安のイメージ、ま、そんなようなものだろう。

 今度女神様の部屋に行ったときに、バグかな? って報告でもしようっと。

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