~prologue~
~prologue~
遮光カーテンの隙間から、朝だというのに鋭い夏の太陽の光が差し込んでくる。
男はまだ重そうなまぶたを開けて、また閉じた。
昨晩は飲み会で、帰宅したのは0時を過ぎていた。着替えもそこそこにベッドに倒れ込み、気がつけば朝だった。今日は休日。もう少し寝てもバチは当たらないだろう。
・・・と、男の鼻をあるニオイがくすぐった。
味噌汁だ。
(何だこのニオイは? 昨晩飲み過ぎたか?)
男は社会人になって故郷を離れてから、ずっと一人暮らしだ。
自分以外の誰もいない部屋に、勝手に味噌汁のニオイが漂うわけがない。
(隣の家から流れてきたか?)
男は再び目を開けて窓を見たが、窓は開いてなかった。
(だとすると、このニオイはなんだ・・・?)
男が布団から顔をあげて室内を見ると、人影が動いていた。
サラサラとしたロングヘアーの髪を緩く束ねて、男が以前、必要ぽいから一応買っておいたが結局一度も使ってないエプロンを勝手に着けて、台所に女が立っていた。
男「なっ!? 誰だお前!」
女「誰だとは失礼ねー、鍵が開いてたわよ。来たのが私で良かったわね。今日、約束してたの忘れたの?」
男「あ、ああ・・・、なんだお前か」
男は胸を撫で下ろした。そして思い出した。
今日は、久しぶりに会う約束をしていたコイツとデートする日だったと。
男「っていうか、どうしたんだよその髪。声も何だか違うような気がするし、ホントにお前か?」
女「なになにー? 疑ってんの? この部屋に来たのは初めてじゃないって証拠でも見せよっか?」
女が意味ありげに壁際の箪笥の一番下の段の左側を睨み付ける。男は慌てて謝辞を述べた。
男「わかった、悪かった。お前は間違いなく今日会おうって約束してた奴だ」
述べつつも、反撃も忘れない。
男「でも疑われても仕方なくねぇか? 外見かなり変わってるだろ。前と同じ所を探す方が難しいじゃん」
言われた女は悪びれもなく、どこか呟くように言う。
女「そっかー、もう結構会ってなかったもんね。2年くらいだっけ」
そうか・・・、最後に会ってからもうそんなに経ってたんだな。
女は自分の髪の毛を摘まんでクスッと笑った。
女「2年もあればこれくらい伸びるよ?長い髪の方が好きって言ってたじゃん。自分が伸ばすのは嫌がってたクセに」
男「お? おお・・・、似合ってるよ」
女「嬉しいこと言ってくれちゃってぇ」
女は、摘まんだ髪の毛をスッと耳に掛けると、笑顔になった。
その如何にも女性として自然な仕草を見て、そしてどこか誇らしげな笑顔を見て、俺も笑顔になる。
3年前、ずっと泣いてばかりだったアイツはもう居ないんだな。
男と女は同時に口を開いた。
男「しかし、お互い変わったな。学」
女「でも、お互い変わったよねぇ、恵子」