91話
「(ここはフーリガンと言う街だそうです。街に住んでると思われる方々は下を向いておられるのと、強面の方が堂々と闊歩されるのが目に付きますね。)」
「(フーリガン…、盗賊が支配ってだけでなく街の名前も物騒だね。街に住んでる人達は生きた心地がしないだろうなぁ。)」
「(そうですね…。街の皆様は痩せている方が多い様にお見受けしま…申し訳ございません、一旦失礼しますね。)」
「(? 分かった。)」
3分後
「(先程は失礼致しました。盗賊と思われる方々から絡まれたので対処しておきました。どうやら治安が物凄く悪い所の様ですね。それと、この街にある奴隷商は奴隷に対する扱いが良くない様で、危険な状態の人が結構いらっしゃいます…。)」
「(そうだったんだ。それは拙いな…。これから冒険者ギルドに寄るんだよね?)」
「(はい。これから昨晩襲って来た盗賊を引き渡す予定でございます。)」
「(ひょっとしたら冒険者ギルドがグルになって紅葉達に向かって来るかも知れないから気を付けてね。)」
「(畏まりました。)」
凛はその後も紅葉達と念話のやり取りを行う。
紅葉達は冒険者ギルドへ昨晩捕らえた盗賊達を引き渡しに向かった。
昨晩捕らえた盗賊達は上半身を数珠繋ぎにして縛って歩かせ、冒険者ギルドの中へと入れる。
ところがギルドは報奨金を支払わないどころか、逆にギルドに登録されている冒険者を痛め付けたからと言う名目で、紅葉達へ慰謝料を請求する。
紅葉達は当然それを断る。
すると周りにいた冒険者達…と言うか盗賊達20人程が一斉に武器を構えて向かって来た。
紅葉は凛から馬車も狙われる可能性があると伺っていたので、馬車の守りに月夜と小夜を充てていた。
その為、今冒険者ギルドの中にいるのは紅葉、暁、旭、それとゴーガンの4人だ。
月夜と小夜の方にも守りが薄くなって攻めやすくなったと判断されたのか次々に盗賊が襲って来た。
因みに馬車の中では商人は縮こまっていて、オズワルドは複雑な表情で、ルルは自分の武器があれば、と悔しそうな表情をしていた。
ルルの荷物は野盗を捕縛した後も見付からなかった。
サルーンの街にはルルが気に入った武器が見付からなかったので、ルルは休んでる時以外は戦闘出来ずにぶすーっ、とした表情をする事が多い。
紅葉達は何か用意しようか尋ねたが、王都に着いたら用意するので大丈夫と断られてしまった。
3分程で戦闘が終わる。
紅葉達は捕らえた盗賊を冒険者ギルドへ届けても意味が無いと判断した。
冒険者ギルドで1番偉い筈のギルドマスターでさえ自分達へと向かって来た位で、これ以上ここにいても何も進まずに不満が溜まる一方だと思ったからだ。
それと、同じ金級でも差があり過ぎたのか、直ぐにゴーガンがこのギルドマスターを倒した。
「僕と同じギルドマスターなのに嘆かわしいね。今回は街の中だから殺しはしないが…次はない。」
ゴーガンは溜め息をつきながら言った後、倒れたギルドマスターへ視線だけでなく殺意を混じらせて言う。
紅葉達は向かって来た者達に対し骨折や打撲を与えただけでそれ以上の事はしなかった。
あまりこの街に長居したくないからあくまでも今回はであった。
しかしこれからも盗賊が付き纏う様なら傷を付ける事を厭わなくて良いのではないかと言う事をゴーガンに言われ、紅葉達は頷いた。
紅葉は凛へ戦闘が終わった事を伝えると、奴隷商へ向かう様にと言われたので向かう事に。
紅葉達は先程と同じく月夜と小夜を馬車の守りに充てて、4人で冒険者ギルドのすぐ近くにあった奴隷商に入る。
するとすぐに酷い悪臭がした為紅葉達は顔を顰めてしまう。
悪臭の原因は奴隷達の糞尿だけでなく腐敗臭も強かった。
どうやらここの奴隷商はサルーンと違い奴隷達をほぼ放置している様で、捕らえられている檻から手を出したまま亡くなっている人も少なくない。
それと奴隷達は生死を問わず体に傷の多い者や四肢のいずれかが欠損している者の割合が多かった。
紅葉達は原因を考えようとしたが、この場所は環境が悪過ぎるので早く奴隷達をここから出そうと受付へ行き、紅葉が現在生きている奴隷を全て買うと伝える。
すると、受付からは特に調べる様子や考える素振りも見せずに金板1枚だと言われた。
紅葉達は相手が足元を見ている事が直ぐに分かったのでかなり頭に来ていたが、受付と関わる時間が勿体無いと判断して紅葉は懐を探って(いる風に見せ掛けて無限収納から)金板を1枚出して受付へと渡す。
受付の男性は吹っ掛けては見たもののまさか本当に出すとは思わなかった様で、少し目を見開いた後に気味の悪い笑い方をしながら金板を受け取る。
そして受付の男性は少し重い足取りで奴隷達がいる檻へと向かい、次々と開けて解放して行く。
そしてある程度進んだ所で現在生きている奴隷達21人が解放された。
紅葉が奴隷を檻から解放したと凛へ伝えると、ポータルを開いてくれたら迎えに行くと返って来た。
幸いここの奴隷商は受付にいた男性だけだった様なので、紅葉は暁に視線をやり暁が男性を入口の方へ連れて行って後ろを見ない様にさせる。
その間に紅葉は使い捨てのポータルを設置して開く。
直ぐに凛が領地からこちらへとやって来て紅葉と2人で頷いた後、美羽達もやって来て急いで購入した奴隷達を抱き抱えて領地へと運んだ。
1分も掛からずに作業は終わり、凛はゴーガンに慌ただしくてすいませんと頭を下げて帰って行った。
「(相変わらず凛君は大変だな…。)」
ゴーガンはそう思いながら巾着袋型アイテムボックスから映像水晶を取り出し、少し小声で話し始める。
「(暁、こちらは終わりました。)」
「(分かりました。そちらへ戻りますね。) 」
使い捨てのポータルを片付けた紅葉は暁に念話でそう伝えると、少しして暁と男性が戻って来た。
男性は奴隷達がいなくなった事を不思議に思ったが、特に興味が無かったので詮索しなかった。
「…………たい。………きたい。」
紅葉達は購入した奴隷達を領地へ送ったのでこの場所から出ようとして体を入口の方へ向け歩き出そうとした。
すると後ろの方向から少女らしき声が聞こえる。
サーチでしらべても特に生きている反応は無かったので、紅葉達は顔を見合わせたが聞き間違いかと思った。
「ひっ、また出やがった!」
しかし男性だけは違った様だ。
驚いた後少し怯えた様子になる。
「生きたい……。」
「貴方はこの声に心当たりがあるのですね?」
「あ、ああ。あれは何年か前に、病弱だった女のガキが死んじまってからこうして出る様になったんだよ。」
「出る…とは何がでしょうか?」
「幽霊だよ!」
男性は紅葉へ向かってそう叫び、入口の方へと逃げて行ったのだった。