90話
ハーピィは茶髪の頭と胴体部分が人間だがその他の部分が鳥の魔物だ。
そして衣服等で隠す事無くありのままをさらけ出しているので、女性の象徴たる2つの山がぽろん、と前に出ている。
ハーピィは茶色い翼の様な腕と鳥の様な足に生えている爪、それと風魔法を使って戦う。
銀級下位の強さを持っていて、普段は木の上等の高い所や空を飛びながら攻めてくると言う狡猾さを持っている。
「(貴女いきなり失礼ねー。いきなりやって来て女王様に会わせろだなんて有り得ないわ。)」
「五月蝿いわね!貴女に用はないの、さっさとあいつの元へ案内しなさい!」
「(あいつ?…貴女、私達の女王様に向かって何様のつもり?)」
ハーピィはにべもなく女性の要求を断る。
しかし知らない女性が自分達の女王の事をあいつ呼ばわりした事で苛立って来た様だ。
「シーサーペント代表の私が今日こそハーピィクイーンに引導を渡してあげるわ!」
「(シーサーペント?貴女近くの湖のシーサーペントの代表だったの?あははは!貴女いつも女王にこてんぱんにやられてるじゃない!ああ、今日も酷い負け方をして私達を笑わせに来たのね。)」
「ふっ、いつまでも私をあの時のままだと思わない事ね!」
ハーピィが両腕の翼を口元にやって笑うと、女性は右手で髪をかきあげ自信満々な顔で言った。
「(蛇風情が偉そうに!貴女なんて私1人でも充分だわ、今ここで殺してあげる!)」
「甘いわね!」
「ガッ!ガボ、ガボボ…。(何!くる、苦しい…。)」
その様子を見て頭に来たハーピィが女性へと向かいながら翼を広げ、左足を下に向けながら爪で攻撃しようと急降下して来た。
それを女性は嘗て雫がやった様に、ハーピィの頭の周りに水で出来た球で覆う。
ハーピィは苦しそうにもがいているが中々水の球から抜け出せない。
30秒経っても水の球が解ける気配が無くハーピィも動きが鈍くなって来た。
そこへ、
「はいはい、そこまでだよ。」
凛は前に出てそう言いながらパチン、と指を鳴らす。
するとハーピィの頭の周りにあった水の球が弾ける。
ずぶ濡れになったハーピィが、ぜーはーぜーはーと言いながら荒い息をしていた。
「ちょっとー!!何し「火燐。」「はいよー。」まだ私が話…ぎゃふん!!」
女性が凛の方を何か言いたそうにしていたが、その途中で凛が火燐の名前を言う。
すると火燐が女性の後ろへと向かい、前回よりも少し力を入れて頭へとチョップする。
女性は頭がー、頭がー、と叫びながらごろごろと転がっていた。
「(…助けてくれてありがとう。けど貴方、その蛇のお仲間じゃないの?)」
「確かに一応…、この子の主は僕です。この子とやり取りをしているのを見て貴女に知性を感じました。なので話せば分かるかも知れないと思い、勝手ではありますが争いを止めさせて頂きました。と言うか、僕達もこの子にただ付いて来てとしか聞いてないからさっぱりなんですよね…。」
未だに痛くて転がってる女性を無視し、息を整えたハーピィが凛へ何故助けたのか尋ねた。
凛はハーピィが知性ある魔物だと判断し、話を始める。
そして自分達の仲間にならないかを尋ねた。
そのハーピィは助けて貰った恩もあるので、自分だけでは判断出来ないと渋々ながら女王の元へ凛達を案内する。
「藍火、お前の仲間を助けなくて良いのか?」
「助ける…って、あの未だに転がってるシーサーペントの人にチョップしたのは火燐さん、貴女っすよね?それに仲間って何のっすか?」
「チョロいドラゴン…つまりはチョロゴンの仲間だな。」
「自分あの人と一緒にされたくないっすよ…。それにあの子は主様に向かって叫んでいたんだから自業自得っすよね。」
「いや、意外と藍火と似ている所があるとあたしも思うぞ?」
「篝さんも酷いっす…。」
火燐も篝も酷いが藍火も一緒にされたくないからか、シーサーペントの女性に対して結構辛辣である。
藍火は溜め息をつきながらシーサーペント代表の女性の元へ行き、皆は先に行った事を伝える。
女性はまだ頭は痛む為少しよろけながら皆の後を追い、藍火も女性の背中を押しながら小走りで追いかけるのだった。
「(貴方が我が同胞を助けてくれたそうですね。その事については感謝してます。…しかし、いきなり来ておいて女王である私を筆頭に群れの皆が貴方の軍門に下れなんて。私達がその蛇と仲間になれと?それは少々…おふざけが過ぎるのではないかと思うのだけれど。ねぇ、皆もそう思うわよね?)」
女王ことハーピィクイーンはそう言った。
ハーピィクイーンは金級下位の強さを持つ魔物でハーピィ達を纏めている存在だ。
ハーピィクイーンは凛が仲間を助けてくれた事には感謝していたが、仲間を攻撃したシーサーペントの女性やその主である事を快く思っていない様だ。
かなり殺伐とした雰囲気で群れの仲間30体程を、凛達へと一斉に攻撃を仕掛けようとする。
「…へえ?凛が助けた命を無駄にするってなら構わないぜ?漏れ無くオレが全員焼き鳥にしてやるよ。」
火燐が群れへ向けてかなりの殺気を飛ばしながら前へと歩き、背中の紅蓮の大剣を抜いて自身の右へ持って行く。
そしてゴォォォォ、と刀身の周りに業火を纏わせる。
「…そう、残念ね。もう少し話の分かる相手だと思っていたけど私の思い違いの様ね。仕方ないから相手をしてあげる。」
雫が凍てつく様な視線を群れへ向け、こちらも前へ歩きながら氷結の長杖を前に構え、雫の頭上にラグビーボール程の大きさにしたアイスニードルを幾つも用意する。
すると、
『…調子に乗ってすいませんでしたー!!』
ハーピィクイーン達は火燐と雫を見て怒らせてはいけない相手を怒らせてしまったと激しく後悔し、わたわたと慌てながら森の木を伝いながら地上へ下りる。
そして凛達へ向け一斉に土下座をした。
ハーピィなのに土下座するんだ…。
凛はガタガタ震えながら土下座するハーピィクイーン達を見てそう思ったのだった。
「全然やり足りなかったけど、スカッとしたから良いわ!それで、私もあの子達の様に名前が欲しいのだけど…。」
その様子を見たシーサーペント代表の女性は頭の痛みも吹き飛んだのか分からないが、腰に手を当ててどや顔で言った。
そして満足したのか次は名前を付けて貰おうと琥珀と瑪瑙、紫水を見た後にもじもじしながら上目遣いで凛を見て言う。
「それなんだけど…、名付けは一旦保留にしようと思う。君の場合、連携とか考えないで1人で突っ走りそうだから周りのメンバーが気を遣うだろうし。琥珀、瑪瑙、紫水の3人は互いに気を配っているから、彼らの動きを参考にして訓練や戦闘をすると良いよ。僕が見て大丈夫かなって思ったら改めて名前を贈るね。」
「そんなっ!!」
凛がそう言うと女性は驚き、やがて崩れ落ちてしまったのだった。
凛はハーピィクイーン達をどうにか宥め、未だにしょんぼりしているシーサーペントの女性と共に屋敷へと戻る。
凛達が屋敷の前のポータルへ出ると、そこへ男性になったシーサーペントが通り掛かった。
そのシーサーペントは群れの副代表の様な存在で、代表の女性のフォローをしている。
その男性は凛達と一緒に来たハーピィクイーン達を見て驚くが、代表の女性とは違いハーピィ達に勝とう等とは思っていなかった様だ。
その男性は自分達の代表がいつも喧嘩を吹っ掛けて済まないと右手を後頭部へやってハーピィクイーンへと謝ると、
ハーピィクイーンがこちらこそいつも貴方達の事を馬鹿にしてごめんなさいと頭を下げる。
ハーピィクイーン含むハーピィ達は凛達に心を折られた事で従順になった様だ。
シーサーペントの男性はここまで大人しいハーピィクイーンを見た事が無かったので驚いていた。
その後ハーピィクイーン達をシーサーペント達がいる湖へと招いて早目の昼食と言う事でバーベキューを開いた。
ハーピィクイーン達が30体程だったので屋敷のダイニングでお昼をとなると数が多いので窮屈だ。
それにハーピィクイーン達は翼があるので動きにくいし食べにくいだろうと凛が判断した為、今回は屋外で昼食を摂る事にしたのだ。
今回はミノタウロスとオークの肉を中心に焼いて食べた。
ハーピィクイーン達は最初ビクビクとしていて食べようとはしなかったが、凛がタレを付けた肉を近付けたら美味しそうに見ていたので食べさせる。
すると美味しかったからか先程迄の恐怖が和らいだ様で1体、また1体と参加していった。
途中で火燐と雫がさっきは脅して悪かったと言いに来た。
ハーピィクイーンはこちらこそ気が立っていたとは言え身の程を弁えずにごめんなさいと謝る。
その後ハーピィクイーン達も少しずつだがバーベキューに慣れて来た様だ。
凛は先程降伏した時に土下座をしていた事が不思議だったので尋ねてみた。
ハーピィクイーンによると、今の場所に来る前は死滅の森の表層のやや南西側、入口付近にいたのだそうだ。
「卵?」
「ええ、卵です。自分達で言うのも何ですが、美味しいので結構頻繁に獣人に挑まれるんですよ。正直鬱陶しかったので何年か前に今の場所へ移動しました。あ、勿論御主人様にはこちらから提供させて頂きます。」
ハーピィ達が産む卵は無精卵だがハーピィクイーンは有精卵と無精卵とで分けられるそうで、戦いでハーピィ達の数が減っても少ししたら今の数に戻るそうだ。
獣人がハーピィクイーン達の美味しい卵目当てに挑んで来るのだが、普通の人よりも少し身体能力に優れた獣人とは言え銅級以下がほとんどだった。
その為、ハーピィクイーン達は逆に返り討ちにするのだそうだ。
その時に結構な頻度で土下座をされるので自分達もしたとの事。
凛が食事等がしやすくなるのでシーサーペント達の様に人にならないかと尋ねると、ハーピィクイーン達は了承したので夕食に間に合う様にとナビへ頼んだ。
因みに、シーサーペント代表の女性は先程迄のしょんぼりしていた気持ちよりも食欲の方が強かったのか、結構な勢いで肉、野菜、ご飯を食べ進めている。
そして大分賑やかになった所で、
「(凛様、一応街に入りはしたのですが…、どうやら盗賊が街を支配している様です。)」
そう言って紅葉から凛へと念話での連絡が入るのだった。