83話
凛先導で冒険者ギルドの宿直室から酒場へ出ると大勢の客がいた。
彼らは前回のバーベキュー経験者で、凛が1週間後にまた行うと言う事を聞いていた為今回も行うのを知っている者達だ。
そして今回のバーベキューにも参加しようと昼まで時間を潰しがてら、始まった後暫く時間が経って落ち着いた頃にバーベキューの列に並ぼうとして酒場へ来た様だ。
皆既にほろ酔いなのか気分良くしながら飲んでいる。
それに対して酒場のマスターや従業員達が客の多さにてんやわんやしている。
ベータはマスターに改善して欲しいと言われていた点は既に改修を済ませている。
ベータも忙しそうにしながら作業をしている様だ。
しかし酒場内にあるテーブルとカウンターでは数が足りず、立ちながら酒を飲んでいる者達が結構いる。
「マスター、凄く忙しそうですね…。ベータが今後いなくなっても大丈夫な様に、代わりになる存在をこちらで用意しましょうか?」
「貴方に直して貰ってから、この子の評判が良いんだよ。それに正直ベータに抜けられたらかなり困るので助かる!」
凛は1人でマスターの所へ行って酒場のマスターへと尋ねる。
マスター汗だくになり、忙しそうにしながらも嬉しそうに凛へそう言った。
「ベータの代わりの新しい子と、その子をフォローする子を今晩用意しておきますね。」
「新しい子と、それをフォローする子?」
凛はそう言って軽く会釈して皆の所へ戻って外へと出る。
酒場のマスターはそう疑問に思いながら、再び忙しそうに仕事を行うのだった。
外に出ると冒険者ギルドの両端から外は大勢の人が集まっていて、森林龍の肉のバーベキューを今か今かと待ちわびていた。
ギルドの前にはガイウス、ダニエルが既に待っていて、アルフォンス達警備がバーベキュー会場内に人を入れない様にしていた。
凛はガイウスとダニエルに挨拶をしてテーブル等を設置する。
そして凛は領地で魔力を大量に込めた水を使った事で少し大きく実った玉ねぎを使ったステーキソースを、バーベキューの準備をしながら無限収納内で作っていた。
育てる予定の種を植えた土に、魔力を沢山使った水を与えるとどの種も次の日には芽が出る等の成長の早さを見せる。
その後も順調に育ち、今朝収穫出来る迄に成長したので収穫を行った。
凛は早速収穫した玉ねぎを試してみたいと思った様だ。
因みにそこそこの魔力を注いだ水をやると2日目や3日目で芽が出たが、ただの生成した水だと地球のと同じ様な成長速度の様で、漸く今朝になって芽が出た物もあった。
凛は先程収穫した玉ねぎを無限収納内で皮を剥いて半分に切る。
その後熱風で温めて加熱して辛味を抑え、甘味を引き出す。
そして玉ねぎをみじん切りにしたりすり下ろした物に醤油、にんにく、生姜等を使ってソースを作る。
砂糖や味醂を入れようと思ったのだが、ナビが入れると甘くなり過ぎるので止めた方が宜しいかと思われますと言われたので控えたのだった。
今回も人が多い様なのでバーベキュー用のグリルを10台とテーブルと作業台を用意する。
今回は美羽達が無限収納から肉を出してニーナ達料理組が肉を焼き、その他の者達が人々へ提供すると言う事を昨晩凛は皆へ伝えた。
ニーナは前回も参加していたので分かっているが、その他の料理組とコーラルは焼くだけとは言え初めて人前で調理するので少し緊張していた。
そして凛は設置が済んだのでガイウスへ準備が終わりましたと伝える。
ガイウスは警備へ指示して、今回参加する人々に各テーブルの前に並んで貰った。
開始時間直前になり、凛は冒険者ギルド入口前のグリルに火を点け、グリルの上に乗せた鉄板に森林龍の肉を乗せて焼き始める。
そして焼き目が付いた所で用意しておいたナイフとフォークを使いカットしていき、肉を皿に乗せる。
そして今朝取れたての玉ねぎを使ったソースを肉にかけて食べてみた。
「玉ねぎ甘っ!!」
凛は収穫した玉ねぎが入ったステーキソースに驚きつつ、前回よりも美味しく感じられた森林龍のステーキを味わう。
その様子を見ながら、森林龍の肉を食べに来た人達はごくっと生唾を飲み、シーサーペント代表の女性は口元に涎をだらだら垂らしていた。
「皆さんお待たせしました!それではバーベキューを始めます!!」
『おおおおおお』
凛は一切れのステーキを味わった後にそう言った。
すると住人達が大歓声を上げ、それを合図に各テーブルでニーナ達が肉を焼き始める。
料理組が焼いた森林龍の肉のステーキを美羽達が皿に移してソースをかけて人々へ渡す。
初めて食べた人はあまりの美味さに涙する者が多かった。
前回に続いて参加した者がほとんどだったが、それでも前回よりも更に美味しくなった事で驚いていた。
「私の分は?」
「勿論あるけど…、他の人は一生懸命配って回っているのに貴女だけ特別扱いは出来ないですよ。取り敢えず一切れだけ食べさせますから皆がやってる様にして下さいね。」
「えー…って!何これうんまぁぁぁぁ!!」
女性がそう言って来た。
凛は苦笑いを浮かべながらそう言って、女性へステーキを一切れ食べさせる。
すると両頬に手をやって食べながら叫んでいた。
暫くして女性は落ち着いたのか、今のだけじゃ全然足りないけど私だけここにいるのも何だし、私も皆がやってる様にすれば良いのねと言いながら近くのテーブルへと手伝いに向かって行った。
凛は今回は何かあった時にすぐ動ける様にフリーな状態でいた。
どこかのテーブルが肉を焼くのに手間取ったり上手く連携が取れずもたついたらそこのフォローに入ったり、手が空いた時にやって来たガイウス達と話をしたりしている。
ガイウスはやっぱり森林龍の肉は美味いなと言いながら笑い、ダニエルは肉も勿論ですがこのソースも良いですねと褒めてくれた。
凛は少し離れているアルフォンスの元へ行きお疲れ様ですと声を掛ける。
アルフォンスは割り込もうとする人を制しながら凛殿もお疲れ様ですと答える。
凛は毎回すみませんと少し申し訳無さそうに言うと、アルフォンスはいえ、仕事ですのでと言った。
続けて、それに凛殿のおかげで少しずつ人が街に流れて来てるので良い事だと思いますよと笑顔で言ったのだった。
凛は軽くアルフォンスと話したが仕事の邪魔をするのも悪いと思い、後で何か差し入れを渡そうと思いながら離れる事に。
そしてバーベキューを始めてから時間が経っていき、午後3時過ぎに紅葉から念話で連絡があった。
「(まだゴーガン様には伝えてはおりませんが、今しがたサーチを使用しました所、野盗達と思われる一団を見付けました。それと捕らわれている人が2名と殺されている人が3名いらっしゃるようです。如何致しますか?)」
「(直ぐに捕らわれている人達を保護したい所ではあるけど、今回の護衛の代表はゴーガンさんになると思う。ゴーガンさんに報告して意見を仰いで貰って良いかな?)」
「(畏まりました。)」
5分後
「(凛様、野盗達の捕縛或いは討伐に向かうとの事です。抵抗しなければ捕縛の様ですが…。)」
「(抵抗すれば討伐の場合もあるって事か…。出来れば無力化して捕まえたいけど無理強いは出来ないしな…。)」
「(いえ、私共が無力化してみせますのでご安心を。)」
「(ありがとう。けど、追い詰められた野盗達は何をするか分からない。紅葉達の身の安全を優先して構わないから気を付けてね?)」
「(ありがとうございます。今のお言葉で一層やる気が出て参りました。暁達にもお伝えしますね。それでは行って参ります。)」
紅葉はそう言って念話を切ったのだった。