78話
ガイウス、ゴーガン、ダニエル、商業ギルド副マスターの4人は住人達と同様にきちんと列に並…ぶ事は無く、凛が付き添いの元でニーナ達、トーマス達がいる各テーブルの後ろへと赴いて試食・試飲を行っていた。
ガイウスとゴーガンは凛が以前商店を出したいと提案された時に、ある程度は食べたりした経験があった為か少しだけ懐かしく感じている様だ。
「凛殿。このカレーライスと言う食べ物は美味しいのだが、折角の辛さが後から来る甘さで物足り無くなってしまうな。」
「そうだね。人によっては、この甘さは要らないと思うんだ。」
「お二人の言うのもごもっともです。ですが辛さに慣れてない人がいきなり甘さを抜いた辛いカレーを食べた事でビックリしてしまい、カレーそのものを食べなくなってしまう可能性があると思いまして。辛さに慣れてない人でも大丈夫な様に、今回食べて貰ったのを甘口として出します。そして物足りない人へ向けて、甘さを無くした辛口(地球だと中辛程度)としてメニューに載せるつもりです。」
「「成程…。」」
しかし今回初めて食べたカレーライスは、2人にとって少し甘く感じた様だ。
ガイウスは微妙な表情で凛にそう伝え、ゴーガンもガイウスと同感なのか頷いて答えた。
凛がそう答えると2人は納得したのか、そう言って頷く。
「このカップ麺、と言う食べ物は凄いですね。熱いお湯を容器の中に入れて少し待つだけで食べれる様になるとは…。」
「そのカップ麺以外にも、お湯を注ぐだけで食べれる物がこんなにあるんだな…。」
ダニエルと副マスターは完全に商人目線で見ている。
特にお湯を注ぐだけで良いインスタント食品に注目しており、ダニエルはお湯を入れたカップ麺を注視しながらそう言っていた。
副マスターは1食分で個包装された卵スープとコーンスープを持ちながらそう言う。
凛は今回の試食・試飲として、予め容器に入っている醤油味のヌードル、
それと中に入っている袋を開け、袋の中身をマグカップや深めの器に入れてお湯を注ぐ卵スープ、コーンスープ、かぼちゃスープを出した。
スーパー等に並んである1食分が入っている容器を、住人に提供する為に用意したテーブルの上に見本としてそのまま置いている。
2人はその見本を手に取り、手軽なのに美味しいインスタント食品について暫く話し合っていた。
「(暁、おはよう。起きたばかりで悪いんだけど、今僕達がいる所迄来れそうかな?)」
「(凛様、おはようございます。…旭、月夜、小夜に確認しました所、寝起きの為か少しふらつくものの特には問題無いそうです。準備が出来次第、直ぐにそちらへ向かいますね。)」
「(分かった。ふらつくのは最後の進化だからかも知れないな。来るのは落ち着いてからでも大丈夫だからね?)」
「(分かりました。お気遣いありがとうございます。)」
午後3時頃に、ナビから暁達が目覚めたとの連絡が入る。
凛は暁に念話で連絡を取り、暫く念話でのやり取りを行ってこちらへと来る事が決まる。
「暁達が進化から目覚めたそうです。準備が出来たらこちらに向かうとの事でした。」
「おお、そうか!暁達が進化したとなると、恐らくは魔銀級の強さになるのだろう。今日は目出度い日になりそうだな。」
「そうだね。…ルル君、ちょっとこっちに来てくれるかい?」
「(ビクッ)な、なんだい?」
凛は近くにいるガイウス達にそう伝えると、ガイウス達は少し驚いた後にそう言って喜ばれた。
その後、ゴーガンはちゃっかりとテーブルの後ろに回り込んで試食、試飲会に参加しているルルを近くに呼んだ。
ルルはビクッと体を強張らせた後、怒られると思ったのか少しびくびくしながらゴーガンの元へと向かう。
「オズワルド君。森林龍の素材を王都へ運ぶ護衛依頼の件なんだけど、僕とルル君も付いて行く事にするよ。僕が不在でもゼル君がある程度はやってくれるからね。」
ゴーガンは商業ギルド副マスターであるオズワルドにそう伝えた後、横に立ったルルの背中にぽふっと右の掌を乗せる。
ゼルと言うのは冒険者ギルドの副マスターの事で、少し恰幅の良い30代男性だ。
仕事は出来るのだが少し気が弱い所があり、ゴーガンに頼み事をされたらまず断れ無かったりする。
「それにルル君は王都でも偉い立場であるロイドさんの孫なんだ。今はまだ大丈夫なんだろうけど、どのみちルル君の怪我の事をロイドさんに知られると思うんだよね。その時に王都へ呼ばれた上にかなり叱られるってなる位なら、少しでも軽くする為に先にこちらから出向いて謝った方が少しでも丸く収まるんだよ。」
「そう言えばあたい死にかけてたんだった。凛が現れてから楽しいの連続ですっかり忘れていたよ。ゴーガン、あたいの爺ちゃんが済まないね…。」
ルルの祖父はロイドと言い、ドワーフが進化して金級の強さを持つ様になったエルダードワーフなのだそうだ。
そしてサルーンには無いが王都にある鍛冶ギルドの長をしており、孫であるルルを溺愛している。
ゴーガンが苦笑いの表情でそう言うと、ルルはそう言って少し申し訳無さそうにしていた。
「それでしたら僕も一緒に王都へ向かいますよ。そして僕はそのまま商業ギルド本部へと向かいまして、ベヒーモスとアダマンタートル、それと凛様が商店で販売する予定の商品の交渉を致します。」
「…!(しまった!)」
「僕が言うのも何だけど、副マスターであるオズワルド君が抜けても大丈夫なのかい?ユリウス君は日々の書類で一杯一杯だから、とても動ける様子では無いと聞いているよ。それにオズワルド君の方が実力が上だからか、商業ギルド内で影が薄いとも聞いているんだよね。」
「僕がいない間のカバーはダニエル君がある程度やってくれるし、帰って来て仕事が溜まっていたとしてもその時頑張れば良いだけですよ。」
ゴーガンが王都へ向かうと言った事で、オズワルドは乗り気になったのかそう言ってきた。
これにダニエルは先手を取られたと言いたそうな、悔しい顔をしてオズワルドを見ている。
ゴーガンは心配そうな表情でオズワルドへそう言うと、オズワルドは笑顔で答える。
どうやらオズワルドは、ゴーガン達と一緒に王都へ行く気満々の様だ。
「オズワルド君にここ迄言われるなんて、ダニエル君はやはり優秀なんだね。」
「冒険者ギルドマスターであるゴーガン様にお褒め頂けるとは…恐縮です。」
ゴーガンがダニエルの方を向いて褒めると、ダニエルはそう言って深く頭を下げる。
「どうやら暁達が着いたようですね。…おーい!こっちだよー!」
「「「「凛様!」」」」
ダニエルが頭を上げた所で、どうやら暁達が冒険者ギルドの入口へとやって来た様だ。
凛がそう言った後に暁達を呼ぶと、暁達は凛に気付いて向かって来た。
暁達は進化しても紅葉と同様に背丈は変わっていなかったが、4人共少し雰囲気が変わっていた。
暁と月夜は少し格好良さが増した表情となり、旭と小夜は少し大人びた表情になった様だ。
そして4人共1本だけ生えている額の角が少し伸びていた。
まだ試食・試飲会を行っている為か人は多いが、始まった時に比べて大分減っている。
しかし暁達は少し狭いとは言え全く苦にしてないのか人混みをすっと避け、直ぐに凛の元へと辿り着いた。
「暁、旭、月夜、小夜。進化おめでとう。」
「「「「凛様、ありがとうございます。」」」」
「4人共、おめでとう。今日は目出度い日だな。」
「そうだね、おめでとう。」
「「「「ガイウス様、ゴーガン様。ありがとうございます。」」」」
凛は暁達へお祝いを述べると、暁達はそう答えて凛へ向けてお辞儀をする。
続けてガイウスとゴーガンもお祝いを述べ、暁達はガイウス達にもお辞儀をした。
「俺達は進化して魔銀級の強さを持つ鬼神へとなりました。」
「「「おぉー!」」」
「「「ま、魔銀級(だって)…!」」」
暁はお辞儀を終えた後にそう伝えると、凛、ガイウス、ゴーガンはそう言いながら喜んだ。
しかし、ダニエル、ルルの3人は先程ガイウスが言った事は聞こえていなかったのか、暁が言った魔銀級の強さと言う単語にかなり驚いたのだった。