77話
街に着いた凛が先頭で宿直室を出ると、既に来ていたのかゴーガンが通路に凭れ掛かって待っていた。
「やあ凛君。ガイウスと商業ギルドの副マスター、それとダニエル君の3人が解体場で待っているよ。皆ベヒーモスを早く見たいらしくてね、凛君が来るのをそわそわしながら待っているんだよ。」
「そうでしたか。それでしたらこれ以上お待たせするのも悪いですし、このまま真っ直ぐ皆さんの元へ向かいましょう。」
ゴーガンは凛が部屋から出た事で壁から離れ、笑顔で凛にそう話し掛ける。
凛も笑顔で答えるとゴーガンは頷き、一同は解体場へと向かった。
凛達が解体場へ入ると、既にベヒーモスとアダマンタートルを出すのに充分なスペースが確保されていた。
そしてガイウス、ゴーガン、ダニエル、商業ギルド副マスター、ワッズ、それとルルと解体場の職人達が待っていた。
皆災厄と言われているベヒーモスの事が見たいのか、解体場へ入って来た凛の事を早く見せてくれと言いたそうな表情で見ていた。
「今日はあまり時間がありません。ですので済みませんが、見るのは手短にお願いしますね。」
凛はそう言って、用意されたスペースに無限収納からアダマンタートルとベヒーモスを出す。
「ふわー、大きいねー!」
「この様な魔物を倒せるとは…凛様流石です。」
その後5分程、凛達以外の一同は出されたアダマンタートルとベヒーモスを囲んで見ていた。
美羽は驚いた様子で、紅葉は納得の表情でそれぞれそう言いながらベヒーモスを見る。
その他の者達は、これが…や凄い…等と言いながら驚いた表情でアダマンタートルとベヒーモスの事を見ていた。
凛は興味深そうに見ている一同を他所に、アダマンタートルとベヒーモスを無限収納へと直した事で皆が悲しそうな表情となる。
凛はその様子を見て苦笑いの表情となるが直ぐに真面目な顔へ戻り、ダニエルと商業ギルドへこの2体は購入するかどうかを尋ねる。
「…ありがたい申し出なのですが、森林龍の素材を購入した事にお金を掛け過ぎてしまいました。ですので森林龍の素材を捌かないと我々商業ギルドにお金があまり無い状況でして…。」
「成程…、分かりました。一先ずベヒーモスとアダマンタートルはこちらで預かっておきますね。…あ、そうだ。ワッズさん、僕の空間収納内で魔物の解体と調合が出来る様になったんですよ。これでワッズさん達の負担が減ると思います。ですが僕が解体が出来る様になったからと言って、魔物をここへ持ち込む事を止める訳ではありませんので安心して下さい。」
「おお、そりゃ良かったぜ。ん?するってぇとあれか?例えばさっきの2体程じゃ無いにしても、強い魔物を解体したいからって事でこっちが指定する。そんで残った魔物を凛が空間収納内で解体…って事も可能になるのか?」
「そうですね、それも可能です。ですので、これからはワッズさんが解体したい魔物を指定して貰って大丈夫ですよ。」
「おおっ!」
「何ですってー!!」
ダニエルと副マスターは軽く話し合ったが、購入出来ない事を副マスターが残念そうに凛へ伝える。
凛は頷いて答えた後にワッズの方を向いて説明すると、ワッズは凛が持って来る強い魔物の解体が引き続き行える事に安堵した。
ワッズは左上に視線をやって少し考え事をした後に凛へ尋ねると、凛は頷いて答える。
凛が肯定した事でワッズは喜ぶが、副マスターがかなり驚いた表情で叫んだ事でうぉっと言って仰け反っていた。
副マスターは驚いた表情のまま凛の両肩をがしっと掴み、再びガクガクと揺らしながら凛を問い詰め始める。
「序でにって訳では無いのですが、これは試作品です。」
凛はその後、そう言って黒っぽい色と透明の色違いの半透明の楕円状のマシュマロ位の大きさのグミの様な塊が白い皿に乗った物を、無限収納から取り出して皿ごと右手の掌の上に乗せた。
それぞれのグミの中には、気泡らしき小さな泡の様な物が見える。
「これはですね、半透明の黒いのはコーラを微炭酸にしたジェル状の物でして、コーラ味のグミでコーティングした『ポーション』です。そして透明のはサイダーを微炭酸にしたジェル状の物を、サイダー味のグミでコーティングした『マジックポーション』になります。」
凛は皿の上に乗っているグミの様な物を、それぞれ左手の人差し指で指差しながらそう説明した。
ポーション及びマジックポーションはリルアース全体にあり、勿論サルーンの道具屋にも売っている。
ポーションはそこそこの体力回復効果と擦り傷程度なら治してくれる効果がある。
マジックポーションはその人が持っている、魔力の総量の2割程度を回復してくれる効果があるそうだ。
しかしポーション、マジックポーション共に魔力を込めて生成した水に色々な薬草や体に良い物を混ぜ合わせて作る為、非常に不味い。
凛は昨晩、今後も死滅の森を進む為に回復手段を増やそうとして自室で調合をしながら色々試していた。
「(そう言えば、アルフォンスさんに案内して貰った時に買ったポーションとマジックポーション、試しに飲んでみたけど美味しくなかったよなぁ…。ポーションやマジックポーションは薬みたいなものだし、せめてリ○ビタンとか、モ○スターやレッ○ブルの様な味なら皆普通に飲む様になるかな?あー、でもあの味は再現出来たとしても、あの味は独特だし知らない人が飲んだらコーラ以上に驚かれるかも知れないな…。)」
凛は試している内に、色々と思い出したり考えたりして苦笑いを浮かべていた。
そして凛が考えた結果取り敢えず形にしたのが、地球にある昔ながらの瓶に入ったコーラ味のポーションとサイダー味のマジックポーションだ。
凛は地球にいた時に瓶に入ったコーラを飲んだ事があった為、ポーションと瓶と栄養剤とエ○ジードリンクで考えたらこうなってしまった。
「(あれ?何か勢いで作っちゃったけど、これ良いのかな?…まぁ試作品だし良いか。)」
凛は作成してからそう思った様だが、取り敢えず納得する事にした。
「(取り敢えず今回はポーションの効果を持ったグミを作ってみたけど、その内身体能力向上のエナ○ードリンクでも作ってみたら面白いかもね。)…グミと言うのは、スライムみたいな感触をした食べ物と思って頂ければ大丈夫です。先程これがポーションだと説明したのはですね、戦闘中にそこそこの量の液体であるポーションを飲む余裕はあまりありません。ガイウスさんとゴーガンさんは先程飲んだから分かると思いますが、炭酸を飲んだ後にげっぷをする事でどうしてもげっぷする事に意識が向いてしまい、その結果敵に隙を与える事になります。」
「そうだな。コーラを飲んだ時は驚いたし、それと、げっぷだったか。あれをしたのは初めてだったからか、出た時は戸惑ったものだ。」
「正にそれです。なのでポーションを圧縮して一度に摂る量を減らしまして、炭酸をかなり弱めて口にしやすくしています。そして薬液が零れない様に、同じ味がするグミでコーティングしたのがこちらのグミ状のポーションになります。ガイウスさん、ゴーガンさん。お好きな方を食べてみて下さい。」
「なら俺はコーラ味のポーションを貰おう。」
「それじゃ、僕はサイダー味のマジックポーションだね。」
凛はそう考えつつ、皿に乗ったグミ情報のポーションを見ながら説明する。
ガイウスはそう言って頷いた後、少し複雑そうな表情で答えた。
凛はガイウスの方へ視線を移して頷き、そう言った後に皿が乗った右手をガイウス達の方へと向ける。
ガイウスとゴーガンはそれぞれそう言って、コーラ味とサイダー味のグミ状のポーションとマジックポーションを手に取って口にした。
2人は先程の訓練の後、火燐が350ミリリットル程の小さなペットボトルに入っているコーラやサイダーを飲むのを見て、火燐へ催促して自分達も飲んでいた事を凛は見ていた。
「…確かに、それっぽい味になっているな。」
「…そうだね。これが出回れば冒険者達の被害が減るかも知れない。ポーションの味を嫌がって飲まなかった事による事故や死亡は意外とあるからね。」
「(確かに美味しくは無かったけど、事故とかになる位ならポーションを飲んだ方が良いと思うんだけどなぁ…。)」
ガイウスはその事を思い出したのか少し複雑そうな表情で言った。
その後にゴーガンが悲しそうな表情で言った事で、凛は内心そう思いながら複雑な表情となる。
「それじゃ僕は試食、試飲会の準備をするので行って来ますね。」
「ああ、分かった。…しかし、凛殿はとんでもない物を作ってしまったな。」
「そうだね。さっきのポーションが出回れば瓶が割れる心配は要らないし嵩張らない。そしてなにより、甘いお菓子みたいな感覚で簡単に口へ入れられるのは大きな利点だよね。後は体へ掛ける用でポーションを準備すれば良いって所かな?」
「今迄のポーションの常識をひっくり返しますよね…。」
凛はガイウス達へそう伝え、美羽、紅葉を連れて解体場を出た。
ガイウスは取り敢えず返事はしたものの、凛達がいなくなった後にゴーガンや副マスター、ダニエルとで凛が出したポーションに頭を悩ませ始める。
ワッズ達解体場の職人は巻き込まれまいと凛が出て行った事に便乗してそろそろ仕事に…と言って逃げ、ルルもそれならあたいも手伝わないとと言ってしれっとワッズと一緒に逃げていた。
「マスター。ベータにはこれからやって欲しい事がありますので、済みませんが連れて行きますね。」
「えー…、ベータがいなくなると仕事の効率が下がるから困るんだけどなぁ。…なるべく手短に頼むよ?」
「今日と明日は夕方迄難しいかと…。」
「そうなのか…。」
凛は酒場のマスターにそう伝えると、マスターは少し文句を言いながらも渋々了承する。
マスターは困った表情で凛に尋ねるが凛も困った表情で答えた為、そういってガクッと項垂れてしまう。
凛達はギルドを出て正面の自分達の店の前に、事前にアクティベーションで用意した長机を縦に2つ、横に3つ重ねた様な大きなテーブルを商店側と喫茶店側に4つずつ並べる。
「(火燐。これから試食・試飲会を始めるから、ニーナさん達料理組とトーマスさん達商売組を呼んで貰って良いかな?それと、一緒に来れる人がいたら僕達が今いる場所まで来る様に伝えて貰えると助かる。)」
「(はいよー、分かったぜ。)」
凛は試食・試飲会の場所を用意しながら、火燐へ念話でそう伝えた。
凛達が着々と試食・試飲会の用意をしている姿を、アルフォンス達警備が道を封鎖している隙間から昨日来ていた人達がまだかまだかと言いたそうな表情で見ていた。
火燐達も凛と合流し、凛達はテーブルを並べ終えた後に一旦店内へと引っ込んだ。
凛は商店側はポテトチップスやクッキーと言ったお菓子、
お湯を注いで少し経つと食べれる様になるラーメンやスープと言ったインスタント食品、
お湯で温めてから封を開けて容器に移すレトルト食品、
お茶、緑茶、紅茶、果物の味の付いた水と言ったペットボトル飲料を並べる。
そして喫茶店側には林檎と蜂蜜を入れて少し甘くしたカレーライス、
ハンバーグ、
プリン、
ガイウスが再び食べたいと言っていた海鮮あんかけチャーハンを並べる。
以上を今回の試食・試飲として、凛は建物の周りにいる人達に食べて貰うつもりの様だ。
ベータには今回の試食・試飲会の事を既に伝えており、ベータは建物の中心にある従業員の休憩室で待機している。
そして試食・試飲会が始まったらベータにはひたすら試食・試飲用の品物や、既に出来上がって量産体制にある料理を無限収納から出して貰う事になっている。
ベータだけではとてもではないが手が足りない為、補助として美羽、火燐、雫、翡翠、楓、紅葉の6人にも手伝う様に凛は頼んだ。
美羽達は3人ずつで別れ、商店内と喫茶店内でそれぞれ出して貰う事に。
試食・試飲会で出す飲食物は、事前に2口3口で終わる量で小さな皿に移してある状態の物を用意した。
それをアクティベーションで登録し、魔力を消費して複製出来る様にしてある。
ベータや美羽達が出した試食・試飲用の飲食物をそれぞれの店の外へと運んでニーナ達、トーマス達へと渡す。
その後ニーナ達やトーマス達が住民へと渡し、試食・試飲をして貰うと言う流れとなっている。
「…かなり面倒で申し訳ありませんが、宜しくお願いします。それでは皆さんで一緒に頑張りましょう!」
『おー!』
凛はその事を美羽、火燐、雫、翡翠、楓、紅葉、藍火、リーリア、篝、それと手伝いに来てくれた元村人のウタル達と妖狐族のサム達に伝えた後、皆へそう言って頭を下げる。
そして頭を上げ、そう言って拳を上へ挙げると皆はそう言って拳を上に挙げる。
凛はもう直ぐ10時になると言う所で、商店と喫茶店の建物の前で用意されたテーブルの上にそれぞれ小さな容器に移された飲食物を並べる。
そして試食・試飲会を始める前に、凛は今回用意した食べ物や飲み物を1つ1つ説明していく。
「…以上で説明を終わります。それではお待たせ致しました、本日の試食・試飲会を始めたいと思います!」
そして凛は一通りの説明を終え、そう言って試食・試飲会を始める。
凛の合図で始まった試食・試飲会の結果を言えば、街中を巻き込んでの大盛況だった。
商店の物は、主に自分の家や街の外に出てから摂取する為の物な為か冒険者や商人等の関心が高かった。
そして勿論味も美味しい為、販売される様になったら纏めて買おうと意気込んでいる者が多い。
そして喫茶店の物はどれも刺激が強かった様だ。
カレーのスパイスにより食欲をそそる香りが、
割る事で中に入っているチーズが溶けてとろりと出て来るハンバーグを見てざわついたり、
上に乗せたカラメルソースを含めてスプーンですくおうとするとぷるんとした僅かな弾力があるプリンが、
チャーハンの上に乗せた海鮮のあんが光に照らされてキラキラと輝いている海鮮あんかけチャーハンが、
どれも食べるのが勿体無い位の芸術品だと言って、最初は食べるのを躊躇う人が大勢いた。
「…あの、感動して下さるのはありがたいのですが、美味しい今の内に召し上がって頂かないと後で後悔するかも知れませんよ?」
『…!』
しかしニーナがそう言った事で参加者は我に返り、次々に食べ始めてその美味しさに驚く。
そして満足するには量が全然足りない為、もっと食べたいと言う事で同じ列に並ぼうとするが、警備に1種類につき1人1回ですと止められてしまった事で非常に残念がる。
「本日の試食・試飲会は以上です。明日もまた行いますので是非来て下さいね。」
そして商店側のペットボトルに入った水等から始まって喫茶店側の最後にある海鮮あんかけチャーハンで終わる。
試食・試飲を一通り試して貰った人達は警備に言われ、残念そうにしながら帰宅するのだった。