7話
凛は2日目の自主訓練の際に、万物創造でビットと名付けた遠隔操作兵器を創った。
凛が操作するビットは攻撃と防御を切り替えて行う事が出来、それを用いる事で回避の訓練も出来るピンポン玉位の大きさの光の玉の形をした物となっている。
「行けっ、○ィン○ァンネル!」
その為凛はビットを創った当初、ナビのサポートを得ながら右肩の後ろにビットを斜めに並べて段階的に発射し、はしゃいだ様子でそう叫びながら射出した事が何度かあった。
別な時はビットの操縦をナビに任せ、魔力を針状に伸ばしたものをビットの中心から撃ち出せる様にする。
「当たらなければどうということはない!」
そしてビットの威力を極限まで落とした後に攻撃対象を自分自身に設定し、回避訓練と称してビットの攻撃を避け続けている途中で、どこかの赤い星の人の様に少しイイ声で叫んだ事も何度かあった。
「トラ○ザムッ!!」
他にも魔力による身体強化を初めて試した際、そう叫んだ後に練習を始めていたりする。
どうやら、凛は意外とノリが結構良い性格の持ち主の様だ。
「マスターと共有している知識の中に、今もマスターの近くを飛んでいるのと同じ様な物がありましたです!」
「(あー…。万物創造でスキルも作れたり付与出来たりってのが分かって、ノリと勢いで空間認識能力って言うスキルとビットを作ったんだっけ。そして僕が浮かれ半分で自主訓練してる所を美羽にバッチリ見られてたのかー…。これが黒歴史と言うものなんだね。うん…これからは気を付けよう。)…美羽。女の子がニュー○イプなんて言ってはいけません…。」
美羽は続けて、生徒が先生に尋ねる様に勢い良く右手を挙手しながらそう言った。
凛は内心やってしまったとめちゃくちゃ反省した後、元気なさげな様子で美羽にそう答える。
「えっ、でも…。」
「美羽ごめん。これは僕が完全に悪い。だけどこれから先もなんだけど、今の事に触れないで貰えるとありがたいかな。勿論マクスウェル様もお願いします。」
「うーん…?分かりました…。」
「分かったぞい。」
美羽は納得がいかなかったのか、少し困った表情で凛に追及しようとする。
凛はそんな美羽に対し、恥ずかしいのか両手で顔を覆いながらそう答える。
美羽は少し不満なのか残念そうにそう言い、マクスウェルはにこにことしながら答えた。
「創造神様から凛様は面白い方だと伺っておったが、確かに見ていて飽きないのぅ。」
凛はまだ恥ずかしさが拭えないのか、両手で顔を覆ったままだった。
マクスウェルはそんな凛の様子を見てふぉふぉふぉ、と笑った後、顎の髭を撫でながら凛に聞こえない様にそう呟いた。
14日目
「お二方共火・水・風・土・光・闇・無の全属性に適性があるとは流石じゃのう。光と闇と無に関しては使い手があまりおらんからか、存在自体が希少なのじゃ。まぁ闇は兎も角、光に適性がある者は、神聖国の女神教関係者が囲い込みたがるのが難点じゃろうがな。それと無属性じゃが、それなりの使い手になると多少の物を仕舞える空間収納が使える様になるのじゃ。空間収納は凛様の無限収納には遠く及ばぬとは言え、それでも部屋1つ分位の物を仕舞う事が出来るのは利点となる。その為か商国が空間収納を使える者を欲しがっておっての、無属性の使い手が余り世に出回る事はないのじゃ。」
「むー…。ボクはマスター程上手く扱えないですけどー。」
「女神教?」
「創造神様の事を女神様だ、と崇めている教団の事じゃよ。昔はそれなりに世界中の民から慕われておったのじゃが、今となっては権力を振りかざすだけの集まりに過ぎぬ。その為か神聖国以外の者からは良く思われておらんの。全く…嘆かわしいわい。」
8日目からはマクスウェルが毎日1つずつ、凛と美羽に属性の適性があるかを調べていた。
マクスウェルが扱えるのは地水火風の4属性である為、やや嬉しそうにしながらそう言う。
しかし美羽は褒められたものの、凛と比べて半分位の強さだったからか少々不満顔で答えた。
凛は美羽の事を苦笑いの表情で見た後、女神教と言う言葉に疑問を覚えたのかマクスウェルの方を向いて尋ねる。
マクスウェルは下を向いて少し不快そうな表情で説明し、説明の最後で溜め息をついた。
「えっと、里香お姉…創造神様も全属性の魔法を扱えるんですよね?」
「…そうじゃな。同時に色々な魔法を扱うお姿は流石の一言じゃ。じゃが儂の見立てでは、凛様は魔法よりも刀の扱いの方が向いてる様に見えるの。」
「(里香お姉ちゃんが魔法使いタイプで僕が剣士タイプって事なんだろうな。)成程…参考にしますね。」
「うむ。それでは、訓練の続きをするとしようかの。昨日までは調べる事も兼ねてそれぞれの属性の訓練を行っておったが、凛様も美羽殿もまだまだ魔力の制御が甘いからのう。今日からは更に厳しく行くぞい。」
「お、お手柔らかにお願いします…。」
話題を変える様に凛がマクスウェルに尋ねると、マクスウェルは顔を上げた後に凛の方を向いて答える。
凛は内心そう考えた後に納得した表情で答えるとマクスウェルは何故かやる気になっており、そう言った後にふぉふぉふぉ、と笑っていた。
凛はマクスウェルが意外とスパルタだと知っている為かやや引き攣った表情で答え、美羽は苦笑いとなっていた。
20日目
凛は一昨日の自主訓練の際に、万物創造で『天歩』と言うスキルを創った。
天歩は空間認識能力と併用する事で使える様になるのだが、自分が把握している空間の中に小さな箱の様な足場を設置する事が出来る様になる。
凛は同じく万物創造で先程造った飛行魔法と天歩を用いた事で、地面だけで無く空中でも飛んだり跳ねたりする等して移動していた。
「ふむ。お二方共、中々動ける様になったの。」
「先生が訓練の時、結構スパルタで指導して来ますからねー。おかげでこっちは必死ですよー。」
自主訓練が始まってしばらくの間、凛は飛行魔法と天歩を駆使して地上と空中を行き来していた。
しかし美羽は飛行魔法も天歩もまだ使えない為か、地上を動き回りながら素振りをする練習をしていた。
マクスウェルは微笑みを浮かべながら2人へ向けてそう言うが、凛はじとりとした目つきをマクスウェルへ向けてそう言った。
美羽も凛に同意しているのか、勢い良く何度も頷く。
「いやぁ、照れるのじゃ。」
「あ、マクスウェル様がデレた。」
「わしゃデレとらんわい。」
「(あ、戻っちゃった。)」
「マスター、『デレた』って何です?」
「(ふふっ、そう言えば里香お姉ちゃんがよく理彩姉ぇに対してデレって言葉を使ってたよね。なんだか懐かしく感じるな。)…デレって言うのはね、創造神様がよく使う言葉なんだけど…。」
マクスウェルは嬉しそうにしていた為凛は少し驚いた様にそう言うと、マクスウェルは今度は少しだけ不機嫌そうな表情になって答えた。
凛は知らない事なのだが、マクスウェルは今でもたまに里香に乗せられた後にからかわれる事があるからか、デレると言う言葉があまり好きではなかったりする。
凛は内心そう思っている内に、可愛らしく首を傾げた美羽に尋ねられる。
凛は地球にまだ里香がいた頃、里香が生真面目な性格の理彩をからかってはデレると言う言葉を使って怒られていた事を思い出す。
凛は思い出した後にそんな事を考え、美羽に説明を行った。
「どうやら凛様はまだまだ余裕がある様じゃの。明日からは凛様にだけ更に厳しめにいくぞい。」
「えっ?マクスウェル様、今でもキツいのに更に厳しくとか…冗談ですよね?」
「儂に軽口を叩ける位じゃしの。…何、凛様なら出来ると信じておるぞ?」
「そんなぁーーー!!理不尽だ…。」
美羽に説明した後でもまだマクスウェルは根に持っているのか、左目を閉じて顎髭を触りながら凛へそう伝える。
凛は叫んだ後、そう言って項垂れてしまった。
そして30日目の午前8時頃
「さて訓練も今日までと言う事で、これから最終試験を行うぞい。…今回は最後と言う事で、儂も少しだけ本気を出させて貰うとするかの。」
「うっ…。」
「くっ…。」
マクスウェルがそう言って放った見えない圧力の様な物に耐えられず、凛と美羽は呻き声をあげて片膝を突いてしまう。
その後も2人は苦しそうな表情をする事しか出来ず、中々身動きが取れないでいた。
「これは『殺気』と呼ばれるものじゃ。強い魔物や殺す事に慣れとる相手がこちらへ向けて『殺す』と、はっきりとした意思や感情を表す事じゃな。お二方共、来ないのであればこちらから行くぞい。」
「ぐっ…!」
「ほれ、このままだと…お二人共何も出来ずに死んでしまうぞい。凛様はそれで良いのかの?」
「(体が、まるで全身に重りでも付けられた様に体が重い…!けど…このまま、やられる、訳には…!こ、の、程…度ぉぉぉっ!!)」
マクスウェルはそう言った直後にふっ、とその場から消える。
そして直ぐに凛の目の前にマクスウェルが現れ、凛は持っている杖で胸を強く突かれ、30メートル程後方に吹き飛ばされてしまう。
マクスウェルはそう言って、更に殺気を強めながらゆっくりと凛に近付いて行った。
この時、凛には神輝金級の魔物が、美羽には魔銀級の魔物が放つ量の殺意をマクスウェルは向けていた。
凛はマクスウェルに吹き飛ばされて仰向けとなっていたが、そう考えた後に体に力を入れ始める。
やがて凛は上体を起こし、その後少しふらつきながらもゆっくりと立ち上がった。
「そうじゃ、意思を持って攻撃する者にはこちらも負けないとする意思を持って防ぐしか無いのじゃ。…凛様よ、まだ段階を上げていくからの、しっかりと付いて来るんじゃぞ?」
「全く、勘弁、して下さい、よっと!」
「どうやら少しずつ動ける様になってきたみたいじゃの。成長が早くて助かるわい。」
「ボクの事を忘れないでよねっっ!!」
「おっと。」
マクスウェルは凛を見てにこっと笑い、そう言いながら持ち上げた杖を凛に向かって振り下ろした。
凛は振り下ろされた杖を刀で左に払い、今度は左下から掬い上げた杖を鞘で右に払う。
その後マクスウェルがそう言いながら放った突き攻撃を、凛は少し必死な表情で避けながらそう答えて一旦距離を取る。
マクスウェルは嬉しそうにそう言うと、美羽がそう言って上空からマクスウェルに向けて攻撃を仕掛ける。
しかしマクスウェルにあっさりと避けられた事で、美羽の双剣は地面にガンッと叩き付けられてしまった。
「ふぉふぉふぉ、楽しいのう。少々名残惜しいが…あまり時間もない様じゃしの。次の一刀で最後とさせて貰うとするぞい。」
それから10分程3人は打ち合うのだが、マクスウェルはそう言って凛達から5メートル程距離を置いた。
「朧ー如月ー。」
「(一刀…? ッッ!!)」
マクスウェルがそう呟くと、凛が内心不思議がっている内にマクスウェルの姿が霞の様に朧気になっていった。
そして2秒程でマクスウェルの姿が完全に消えた事が分かり、凛は咄嗟の判断で左肩から右腹にかけての袈裟斬りの攻撃を、刀を縦にした事でキィンと防ぐ。
今の攻撃はたまたま防ぐ事が出来たが、どうやら凛の空間認識能力では今のマクスウェルがどこにいるかを把握する事が出来なかった様だ。
「(如月って事は2月、2にちなんでだろうから恐らくもう一撃来る筈!!)
凛は今の光景を防いで直ぐに前方を見回すが、マクスウェルの気配を感じる事が出来なかった。
「(…! 後ろか!!)…えっ?」
「惜しいのう。凛様は読みがちょっと足らなかった様じゃ。」
凛は何かを感じたのか、急いで後方上部を左手で添えるようにして刀を横に構えると、直後にキキィンと2回連続で金属同士が打ち合う音がした。
それから少しだけ間を置いた後に凛の後頭部にぽこっと軽く何か当てられた事で、凛は驚きの余り気の抜けた様な声が出てしまう。
凛の後ろには杖の持ち手部分を凛の頭の上に乗せたマクスウェルがおり、そう言った後にふぉふぉふぉ、と朗らかに笑っていた。
「実はこの杖は仕込み刀での、最後に当てたのは鞘にあたる部分で凛様の真似をしてみたのじゃよ。」
「ですが…最後の攻撃を防げなかったって事は、僕は不合格…と言う事になるんですよね?」
「む?おぉ、大丈夫じゃ。ちょいと儂が悪ノリをしてしまったがの、あれだけ戦えれば問題なかろうて。お二方共先程の殺気の中でも充分に戦えそうじゃしの。」
「あー、良かったー!もー、マクスウェル様酷いですよー!」
「(マスター可愛い!)」
「すまんのう。ともあれ試練は合格じゃ。もう少ししたら創造神様も来るじゃろうし、それまでは生活部屋で寛ぐ事にしようぞ。」
「「はい!」」
マクスウェルはいつの間にか好々爺然となっており、ドッキリが成功したと言わんばかりに少し嬉しそうな表情で凛へそう言った。
しかし凛は最後に頭に鞘を当てられた事で試練が駄目だったのではと心配だったのか、悲しそうな表情でマクスウェルに尋ねる。
マクスウェルは左手の親指と人差し指で丸を作りながら笑顔でそう言うと、凛はそれを聞いて安堵したのかその場に座り込んだ後に両頬を膨らませて不満を露にすると、美羽は凛の方を向いて内心そう思っていた。
マクスウェルがそう言った後に凛達は返事をし、揃って生活部屋へと向かう事に。
「皆お待たせ!」
途中でマクスウェルが(死滅の森の魔物の間引きの為に)1時間程不在になったものの、3人が生活空間で寛いでいる内に午前10時となる。
すると生活部屋の入口に里香が1ヶ月振りに姿を見せ、生活部屋の中にいる凛達へ向けてそう言ったのだった。