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ゆるふわふぁんたじあ  作者: 天空桜
死滅の森開拓&サルーン都市化計画編
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68話

その左腕の無い褐色肌の少女は、凛と同じ位の背丈で幼い印象を残していた。


少女は少し尖った耳を生やしており、ややつり目で背中までの長さの焦げ茶色の髪を一本に纏めていた。


「おや?君はワッズの知り合いの…?」


「ああ、ルルだよ。あたいとした事がしくじってしまってさ、ウルフに腕を持って行かれちまったんだよ…。」


「そうか。…凛君、悪いんだけどこの子を治してやってくれないかな?費用が掛かる様なら僕が負担するよ。」


「(…こいつは一体誰なんだい?)」


ゴーガンの知り合いと思われる少女は、左目を閉じて下手を打ったと言いたそうな表情でゴーガンとやり取りをしている。

ゴーガンが凛に話を振った事で、ルルは凛へと視線を移す。




「いえ。どうやらゴーガンさんのお知り合いの様ですし、お金は大丈夫ですよ。」


「…あんたは?」


「僕は凛と言います。説明するよりも先に回復しますね。…清浄クリーン、エクストラヒール。」


凛はそう言ってルルの元へと向かう。

ルルが凛へ尋ねると、凛はそう言ってルルの体全体を清浄で綺麗にし、ルルの左肩に上級上位回復魔法のエクストラヒールを掛ける。


凛はそのままエクストラヒールを当て続けると時間が経つにつれて無くなったはずのルルの左腕が再生されていき、30秒程で左腕が元通りになった。


ルルはもう一生見る事はないだろうと思っていた左腕が再生した事を確認しようと、左腕を動かしたりグーパーグーパーと拳を握ったり開いたりする。


確認が終わるとルルはぺたんと座り込んで下を向き、ぷるぷると震えながら泣き出してしまう。




ゴーガンは奴隷商にいた妖狐族の少女こと篝が、凛が購入した時はルルよりも酷い怪我をしていた事や、凛の回復魔法によって完治した事を聞いていた。


ゴーガンは先程、すっかり元気になった様子の篝が訓練部屋にて指導を受けていたのを見ていた。

なので凛ならルルの怪我を治せると思っていたし、どの様にして治していくのかと言うのをを見てみたかった様だ。




サルーンには一応女神教の教会があるにはあるのだが、サルーンは辺境の為か位の低い若い司祭と良い歳をしたシスターが2名いるだけとなっている。

そして司祭は位が低いからか、中級回復魔法のハイヒールどころか初級回復魔法のヒールがせいぜいとなっている。


凛の回復魔法でルルが完治していく様子を、周りにいた人達は信じられない物を見た様な表情で見ていた。

その中にはルルの回復の手助けにと呼ばれた女神教の司祭も含まれており、真っ先に我に返った後、直ぐにどこかへと向かって行った。




「…さっきはすまなかったね。あたいはルルって言うんだ。助けてくれてありがとう。」


ルルはそう言って凛へとお辞儀をする。


その後のルルの説明によると、解体場にいるワッズはルルが小さな頃から知っている仲なのだそうだ。

ワッズ達が使っている解体用の道具がそろそろ年1回のメンテナンスの時期になろうとしていた為、ルルは道具を回収しようとして王都を出てサルーンへと向かった。


しかし大分サルーンに近付いた昨日の昼前に、野盗に襲われてしまう。

その野盗は必死の形相だった為かルルは圧倒されてしまい、気が付いたら野盗に囲まれそうになった。

ルルは仕方なく荷物を置いて逃げたのだが、幸いにも野盗の目的は荷物…と言うか食料だったからか、ルルを追いかけて来なかったそうだ。


しかし逃げたは良いものの、ルルは武器も何も持っていない手ぶらな状態となってしまっている。

ルルは急いでサルーンへと向かったのだが、その日の晩に運悪くウルフの群れに遭遇してしまう。




ルルは鍛冶ギルドに所属しているが、一応銅級冒険者でもあったので何とかウルフの攻撃をかわしていた。

しかし朝ご飯を食べてから何も口にしていなかった為か、空腹の影響で直ぐに疲れてしまう。


そしてルルが疲労で動きが鈍くなってしまった所を、ウルフの1体がルルの首元へ噛み付こうとして飛び掛かって来た。


ルルはそれを体を捻ってかわそうとするが、避けきれずに左腕を噛まれそのまま左腕を食い千切ちぎられてしまう。


ルルは左腕を食い千切られた痛みで気が狂いそうになるが、ウルフ達が左腕に夢中な事が分かった。

ルルは死と隣り合わせな状況だが、出来るだけ冷静になる様に努めて命からがら逃げる事が出来た。


それから少し進んだ所に村があったので、ルルは助けを求めようとした。

しかし既に凛が村人達を移動させた後だった為、村には誰もいなかった。

ルルは仕方なく自分の服を割いて傷口に巻き着けて止血させ、空腹と痛みに耐えながら一晩明かしてここに来たのだと説明する。




「ガイウスさん…。」


「また野盗か…。これ以上被害が酷くならない様に討伐か捕縛した方が良さそうだな。しかしまさか、凛殿が村人を移動させた事で弊害が出てしまうとは…。」


「そうだね。凛君、さっきの商業ギルドの話を前向きに考えておいてくれるかな?多分だけど王都から来たお客さん…ルル君が被害にってしまったから、説明をしに僕も王都へ向かわないと不味そうだ。」


「あー…、はい。帰ったら皆と相談してみますね。一先ひとまずワッズさんの所に向か「グゥーー」…その前に軽く食べましょうか。」


「うん、すまないね…。」


ルルは一頻ひとしきり泣いた後、すっきりした表情になって説明を終えた。


凛達は今後について話し合おうとしたが、それを遮る様にしてルルのお腹の音が鳴ってしまう。


恥ずかしそうにお腹を押さえるルルを見て、凛は笑いを浮かべてパンとコーンポタージュスープを無限収納から出し、申し訳無さそうな表情をしているルルへと渡す。


「なんだいこれは!このパンあたいが知ってるパンとは全然違うし、スープは甘くてなんだかほっとするねぇ…。」


その後ルルは椅子に座り、初めて見るふわふわのパンとコーンポタージュスープを堪能していた。

その事でお腹も気分も少し落ち着いたのか、このままワッズの元へ行こうと言う事になった。




「ルル!おぇー、王都から来てたんだな!…どうかしたのか?」


ワッズはルルが来た事で喜びをあらわにするが、どうやら雰囲気がおかしい事に気付いたのかルルへと尋ねる。


「あたいが昨日ドジって左腕を失ってしまったんだけど、ついさっきそこにいる凛さんが治してくれたんだよ。」


「そうか…、そいつぁ済まなかったな。ルルは俺が王都にいた時に世話になった人の娘さんでな。ルルにもしもの事があったらその人に顔向け出来なくなる所だったぜ。」


「いえ、当然の事をしたまでですよ。ワッズさん、顔を上げて下さい。」


ルルが説明するとワッズは凛に向けて深くお辞儀をする。

凛はワッズの元へ向かい、そう言ってワッズの体を起こさせる。




「そうそう、お借りした道具の改良が済みましたのでお返ししますね。」


「おう、済まねぇな!」


「改良…?凛さんあんた、ドワーフでもないのに鍛冶が出来るってのかい?」


それから凛はそう言ってワッズへ改良した解体用の道具を渡すと、ルルが改良された道具に非常に興味を持つ。


「こっちのやつ(道具)も凛が改良してくれたんだよ。それに、凛は道具を改良しただけで無く、つい先日変わった酒を酒場に提供したのも凛なんだ。」


「酒だって!?こうしちゃいれない、あたいはその変わった酒とやらを味わってくるよ!」


ワッズがルルを連れて別な所にある改良が済んだ道具も見せながら伝える。

するとルルは酒と言う単語に食い付いたのか、いきなりダッシュして解体場を出て行った。


凛達は唖然としていたが、ワッズだけは腹を押さえながら豪快に笑っていた。




「あっ、10時を少し過ぎてる!ワッズさんすみません、また後で来ますね!」


「あいつも忙しい奴だな…」


凛は約束した時間を過ぎている事に気付き、慌てて解体場の外へと向かって行った。

それを見てとワッズはそう呟いた。


「遅れてすみません!」


「いえ…。私、1時間程前からここに立っておりました。先程、大怪我をしたドワーフと思われる女性が冒険者ギルドへと入って行かれた様に見えましたが…?」


「あ、はい。僕がその子の治療をしていたので遅れてしまいました。」


「治療ですか…。一先ひとまず応急処置をして安静にと言う事なのですね。」


「いえ、完治して今はお酒の試飲をしていますね。」


「完治?あの怪我を?それに酒の試飲とは?」


凛が冒険者ギルドの正面の建物へ急いで向かうと、そこで既に待っていた商業ギルドのギルド員に説明する。


するとギルド員が凛の話に興味を示し凛へと質問責めを行う。


その様子を、追い付いたガイウスとゴーガンが不味いとでも言いたそうな表情で見ていた。




「多分説明するよりも見た方が早いと思います。僕達と一緒に中へ入りましょうか。」


「…失礼します。…これは!?」


「かぁーーっ、美味い!!どいつもこいつも美味いじゃないか!」


凛に促されるままギルド員が一緒に入って酒場の方を見る。

本来ならばそこには、先程辛そうに左肩を押さえて冒険者ギルドへ入ったドワーフの少女がいる筈だった。


しかし実際は、その少女がカウンターに並べられたカップを片っ端から飲んでは美味い!と叫んでいた。


凛はうわぁ、と少し引いた様子で、

ギルド員は信じられない物を見た様子で、

ガイウスとゴーガンは右手で目を抑えながら天井を向いていたのだった。

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