67話 14日目
14日目
7時前にガイウスとゴーガンの2人がポータルを使い、凛の屋敷を訪ねて来た。
しかしガイウスは片手剣と盾を携え、ゴーガンは大きな刃が左右に付いた大斧を持っていた。
そしてそれぞれ金属の鎧を着けており、まるで2人共今から強敵にでも挑む様な物々しい雰囲気を纏っている。
「おはようございます。あのお二人共、何だか完全武装の様に見えますが…。」
「凛殿おはよう。いやなに、凛殿は強いと分かっているのでな。気合いを入れようと思い、冒険者の時に使っていた防具を着てきたのだ。普段は事務作業ばかりで全然動かないからな、たまには思いっきり体を動かさないと鈍ってしまうのだよ。」
「凛君おはよう。ガイウスに話したら凄い乗り気になって、昔の鎧を着る事になってね。良ければなんだけど後で手合わせ願えないかな?」
「(多分だけど、手合わせするってなったら暁辺りが怒りそうだな。)僕は構いませんが…一応皆に話を通しておきますね。その前に朝食を用意していますので、良ければガイウスさん達も一緒に食べませんか?」
「うむ、忝ない。」
「お邪魔するよ。」
ナビから2人が来たと報告を受け、迎えに行った凛が屋敷の入口のドアを開ける。
すると屋敷の前には金属の鎧を身に纏った完全武装の2人が立っており、何事かと思った凛が尋ねると2人はそう答えた。
なので凛は内心そう思いつつ、2人を先ずは朝食へと招待する事に。
「今日はガイウスさんとゴーガンさんが訓練に参加したいとの事で来ています。お二人共、僕と手合わせしたいそう「凛様、お待ち下さい。」…暁、どうかした?」
「失礼します。いくらお二人でも、いきなり凛様と手合わせする事に俺は納得がいきません。先ずは俺と手合わせして頂き、俺に勝ちましたら凛様と手合わせと言う形で宜しいでしょうか?」
その後朝食を摂りながら凛は皆にそう尋ねた。
すると凛の想像通りに暁が待ったをかけ、ガイウスとゴーガンへ向けてそう言った。
ガイウスとゴーガンは凛に相手をして貰うつもりで来ていた。
2人は暁を宥めるのだが、暁は頑として譲らなかった。
ガイウスとゴーガンは暁が金級の妖鬼族だと知っていたが、2人は何度も金級の魔物を討伐した経験を持っていた。
その為暁では自分達の相手をするには役不足で、本気を出すまでもないだろうと思いながらも渋々手合わせをする事に。
8時になり、凛達戦闘組にガイウスとゴーガンの2人を加えて的の無い通常の訓練部屋へと移動する。
訓練部屋へ入ると暁が1人で部屋の中央へと向かい、無限収納から不動ではなくその前に凛から貰った量産品の大太刀を取り出す。
「…どちらからでも構いません。用意が出来次第掛かって来て下さい。」
「! …俺が先に行こう。」
暁はガイウスとゴーガンの2人へ向かってそう言った。
ガイウスとゴーガンは暁も空間収納スキルが使える事と、以前凛から貰った刀よりも大きな物を暁が持っていると言う事に驚く。
しかし暁からやや喧嘩腰で言われた事でガイウスは少しカチンと来たのか、そう言いながら剣と盾を構えて暁へと向かって行く。
「………。」
「馬鹿な…。」
ガイウスは剣と盾を駆使して暁へと挑むも、2分も経たない内に自身の首元に暁の大太刀を突き付けられる。
ガイウスはそう呟いて固まってしまった。
その後割とあっさりと暁に負けた事がショックだったのか、ガイウスはすごすごとしながら皆がいる所へと戻って行った。
「暁君、宜しく頼むよ。」
「…宜しくお願いします。」
そして凛の代わりに暁が相手では役不足だと思っていたが、その考えは間違っていたと思わされ、やる気を出したゴーガンが大斧を右手に構えて暁の元へとやって来てそう言った。
暁も返事を返し、それぞれ武器を構えて手合わせが始まる。
ゴーガンは右手で、或いは左手や両手で斧を持ち、大きな斧を扱っているとは思えない速度で振り回しながら暁へと攻めて行った。
しかし5分後には暁に大斧を弾き飛ばされ、ガイウスと同様に自身の首元に刀を突き付けられてしまう。
「ははは、参ったよ。」
「…俺は貴方達よりも少しだけ強いです。しかし、凛様はそんな俺よりも圧倒的に強い。いくらお二人でも、そう簡単に訓練で凛様のお手を煩わせる事は恐らくここにいる皆が快く思っていないと思います。…凛様、出過ぎた真似をして申し訳ありません。」
そして暁はそう言った後、凛へ向かって深くお辞儀をした。
「ガイウス様、ゴーガン様、一介の従者の分際にも関わらず、口を出してしまい申し訳ありませんでした。」
そしてガイウスとゴーガンの方を向いてそう言った後、深くお辞儀をするのだった。
「ガイウスさん、ゴーガンさん。仲間が済みません。…あの、怒ってらっしゃいますか?」
「「いや、大丈夫(だ)!」」
凛は申し訳無さそうな表情になりながらガイウスとゴーガンへとそう言ってお辞儀をする。
その後凛は頭を上げて尋ねると、2人は元気良くそう答えた。
「いや、以前から分かってはいたんだがここは強者揃いだな!」
「本当だよね。今迄、自分はこの世界の上位だと思っていた事が恥ずかしいよ。今後の参考の為に、良ければ凛君の手合わせする様子を見せて貰っても良いかな?」
「うーん、そうですね…。それじゃ美羽、軽く手合わせ良いかな?武器のみで手技と足技は無しね。」
「オッケーだよ♪」
ガイウスは興奮しながらそう言い、ゴーガンも同様だが純粋な興味で凛へと尋ねる。
凛は少し考えてから美羽へと頼み、美羽は了承する。
「…それじゃ美羽、始めようか。」
「うん!」
凛と美羽は量産品の刀と双剣を無限収納から出して持ちながら訓練部屋の中心付近で少し距離を取って向かい合う。
そしてお互い同時に動いて鍔迫り合いになる所から手合わせが始まり、キィンと音を立てて2人は一旦距離を取る。
それからはお互いに速度を生かした動きで地を、壁を、それと空中を跳ねたり蹴ったりしながら訓練部屋を縦横無尽に動き回り、絶えず地上や空中から足音や剣戟が響き渡る。
「美羽、そろそろ止めようか。」
「はーい♪」
そして10分程経ち、凛がそう言って動くのを止めると美羽も返事して動くのを止めた。
「取り敢えずはこんな感じでしょうか。今回は僕は刀だけで手合わせをしましたが、普段はこれに僕は刀の鞘、それと互いの足技が加わります。」
凛が刀を鞘へ収めながら皆の所へと戻ると、どうやら今屋敷にいる人達全員が今の様子を見ていた様だ。
火燐は自分では力不足だと思っているからか少し悔しそうな表情で、
雫、翡翠、楓、紅葉、暁、旭、月夜、小夜は流石と言いたそうな表情だった。
しかし残りの全員は吃驚し過ぎたのか固まっていた。
「流石は神輝金級と言うだけの事はあるな!いや、非常に良い物を見させて貰ったぞ!!」
「凛君と手合わせをして貰おうと考えていた僕が間違いだったよ!この歳になってこんなに血の滾る様な高揚感を覚えるとは思わなかった!」
「そ、そうですか。お二人に喜んで頂けて何よりです…。」
何やら2人は非常に喜んだ様子でそれぞれそう言った為、凛は少し引き気味でそう答える。
凛はガイウス達にそう言った後にニーナ達、ウタル達、サム達を見てみると、強さの次元が違い過ぎると思ったのか凛と美羽に平伏していた。
しかし20歳未満の子供達数人はまるでヒーローにでも思えたのか、凛と美羽の事を尊敬の眼差しで見つめていた。
今回の手合わせを切欠にガイウスとゴーガンは嬉々として毎朝の訓練に参加する事になり、訓練の前の朝食を一緒に摂る事になる。
「ニーナさん、あの時はどうして皆さんあんな体勢になってたのですか?」
「あー…あれね。あれは最初、農地組の1人が暁様とガイウス様の手合わせを見ていた事から始まったのよ。私達は今迄争いとは無縁の生活をしていたから、人同士の手合わせなんて見た事が無かったわ。その影響もあってか、次々に人を呼んで見物する人が増えていったの。そして凛様と美羽様の手合わせの時には全員で見てたのだけれど、暁様とゴーガン様の手合わせとは次元が違い過ぎて畏れ多いと思ったみたいでね。気がついたらああなっていたのよ…。」
「そうだったんですね。後で皆さんを宥めないとかな…。今は難しいと思いますが、いずれニーナさん達も慣れると思いますよ。」
「そうかしら?あんな目で追うのがやっとな動きに慣れる自信が無いわ…。」
後で凛はニーナに何故平伏していたのかを尋ねると、ニーナは複雑な表情になりながら答える。
凛は苦笑いを浮かべてそう言うとニーナはそう言って難しい表情になってしまった。
「そう言えば凛君。昨日商業ギルドで最後に会った男性なんだけど、彼は商業ギルドの副マスターなんだよ。彼らは森林龍の素材を王都に持って行きたいものの、素材が素材だからか中々上手く行かないみたいなんだ。さっき会った時に、ギルドに依頼として出すかも知れないって言われてしまったよ。」
「商業ギルド?ああ、ギルドの向かいの建物の件で行ったんだな。」
「そうです。依頼ですか…。森林龍の素材を売ったのは僕ですから、何か対策をしておいた方が良いかも知れませんね…。」
「…………。」
訓練後に凛、ガイウス、ゴーガンで話をしていたが、内容の一部が紅葉に聞こえていた様だ。
「それじゃそろそろ10時になるみたいだし、昨日凛君が購入した建物へと向かおうか。」
「はい。」
「俺も一緒に行こう。」
ゴーガンがそう言うと凛が返事をしてガイウスも一緒に行くと付いて来た。
「ギルドマスター!丁度良い所に来て下さいました…。こちらのドワーフのお嬢さんが大怪我をしておりまして、出血が酷いだけじゃ無くかなり衰弱してる様なんです。ですが私達では応急処置がせいぜいで、あそこ迄の怪我は手に負えませんでした。ギルドマスター、彼女を助けてあげて下さい!」
ゴーガン先導の元でポータルをくぐり、宿直室からギルドへと入る。
すると受付嬢がゴーガンの元へと駆け寄り、懇願する様にしてそう言われた。
ゴーガンはその後も受付嬢に色々と言われるのだが、凛は大怪我をしている人の様子を見ようと自身の体をゴーガンの横へとずらす。
「ぐ、く……。」
凛の視界の先には、左腕の付け根から先が無く右手で左肩を押さえて苦悶の表情を浮かべている、小柄で褐色の肌をした少女がいたのだった。