6話
「…あー、びっくりした。里香お姉ちゃんと久しぶりに会ったって言うのに、いきなり抱き着く癖は抜けてないんだもんなぁ…。」
「(創造神様に抱き着かれるなんて、なんて羨ま…おっと。いかんいかん)…ごほん。さて、創造神様も行かれた事じゃし、そろそろ訓練を始めるとしようかのう。」
「「はい!」」
凛は少し複雑な表情でそう呟くとマクスウェルは凛の呟きが聞こえたのか、内心そう思った後に咳払いをする。
そしてマクスウェルは佇まいを正し、立派な顎髭を撫でながら凛達に向けてそう話し掛けてきた。
凛と美羽は元気良く返事を行い、マクスウェルの案内で会議室の横に大部屋へと移動する。
大部屋は会議室と同じ部屋の作りをしており、200メートル四方はありそうな広さとなっていた。
「凛様と美羽殿のお二人には、まず武器と魔力の扱いについて慣れて貰おうと思うのじゃ。それで宜しいかの?」
「…マクスウェル様。僕達はマクスウェル様に教えを乞う立場です。僕の事は凛と呼び捨てにして貰って全然良いですよ?」
「ボクも美羽と呼んで貰えれば…。」
「…それはいかん。儂は創造神様を信頼しておるでのぉ、創造神様の弟君である凛様を無下に出来ぬ。無論、それは凛様の眷属である美羽殿も同様じゃ。」
マクスウェルが凛と美羽へ尋ねると2人は不思議に思ったのか、互いの顔を少しの間見合う。
その後凛は少し申し訳無さそうな表情で言うと、美羽も同様にしてマクスウェルへ伝える。
しかしマクスウェルはふぉふぉふぉ、と朗らかに笑った後、顎髭を撫でながらにこにことしながら答える。
「………。(僕は構わなけど、マクスウェル様がそう言うのなら従った方が良いよね。)」
「…。(こくっ)」
「「分かりました。」」
凛は内心そう思いながら美羽へ視線を送ると、美羽も理解したのか頷いた。
その後、凛と美羽はそう答える。
「うむ。凛様は先程の刀を使うとして、美羽殿には何を使って戦わせるつもりなのじゃ?」
「…マスター、そう言えばボクって、どんな武器を使えば良いんですかー?」
「あー…そうだね。美羽は剣の二刀流が良いと僕は思ってるんだけど。あ、双剣とも言うか。」
「二刀…流?双剣?」
マクスウェルから尋ねられた事で美羽は下を向いて少し考えるが、答えが分からなかった様だ。
美羽は顔を上げて凛の方を向き、少し困った様に尋ねる。
そして凛がそう説明するのだが美羽は分からないのか、可愛いらしく頭をこてん、と斜めに傾けて答えた。
「うん。口頭で説明するよりも、イメージを伝えた方が伝わりやすいかも知れないね。ナビ。僕がやった様に、美羽も同じくナビとリンクする事って出来るのかな?」
《可能です。》
「良かった。それじゃ美羽ともリンクをお願い。」
《畏まりました。少々お待ち下さい。》
凛は少し上を向いてそう言うとナビは肯定した為、美羽とのリンクを頼む。
ナビは返事をした後、自身を介して凛と美羽へ見えない繋がりの様な物を形成し始める。
2分後
《接続、完了しました。》
「ナビ、ありがとう。」
《恐悦至極。》
ナビから報告があった為、凛は再び上を向いてお礼を言うとナビはそう答える。
「美羽。こんな感じなんだけど、上手く伝わってるかな?」
「わぁぁぁ、素敵です!!これがマスターの言う、二刀流や双剣の使い方なんですね♪」
「そうだね。美羽が双剣姿で舞う姿をイメージしてみたんだけど、喜んで貰えて良かったよ。」
凛はリンクを通じて、美羽と同じ様な容姿をした女の子が右手に白い剣、左手には黒い剣をそれぞれ持ち、まるで踊ってるかの様に武器を自在に振り回している姿の映像を美羽へ見せた。
美羽はぱぁ、と満面の笑みを浮かべて凛へそう言うと、凛は上手く伝わって良かったと安堵の表情を浮かべる。
「ボクもマスターが見せてくれたみたいになりたいです!早く練習しましょう!」
「まあまあ慌てないで。まずは武器を用意しないとだよ。美羽が使う剣はイメージと同じ物で良いのかな?」
「あ…そうでした。はい!マスターが見せてくれたのと同じ物が使いたいです!」
「分かった。それじゃ用意するね。」
美羽は両手を握って胸の前に持っていき、まるで新しいおもちゃを与えられた子供みたいに拳を上下へ動かし、目をキラキラとさせながらそう言う。
一旦恥ずかしがる部分はあったものの、美羽の動作は凛が創造を始めるまでの会話のやり取りを行っている間続けられていた。
そして凛は先程の刀を作った事で少し慣れたのか、立ったまま腰の前に両手を持っていき、両掌を上に向けて再び創造を開始する。
5分後
先程の様な流れを行った後、凛の両掌の上には全長70センチ程で柄から鞘まで真っ白で剣と、同じく真っ黒な剣が横向きで創られていた。
「美羽お待たせ、剣を2本共用意出来たよ。」
「マスター、ありがとうございます♪」
「お二人共用意が出来たようじゃな。それでは始めるとするかの。」
「「はい!宜しくお願いします!!」」
凛はそう言って美羽に白と黒の剣を渡すと、美羽は2本の剣を抱き締めながら凛にお礼を言う。
マクスウェルは美羽が白と黒の双剣を受け取った事を確認してそう言うと、2人は再び元気良く答えた。
「凛様は創造魔法で魔力を消費しとるじゃろうし、魔力訓練は明日からにしようかの。まずは2人共素振りからじゃ。」
「「はい!!」」
マクスウェルがそう言った事で2人は返事を行う。
その後凛は無限収納から刀を取り出し、既に双剣を構えている美羽と共に素振りを始める。
素振りはマクスウェルが止めるまで1時間程続くのだが、凛達はその間マクスウェルから色々とアドバイスを受けていた。
「少し武器の扱いに慣れてきたようじゃし、そろそろ儂と打ち合ってみるとするかの。ほれお二人共、掛かってきなされ。」
「…僕達はまだまだ不慣れだし、動きも完全に素人そのものです。ですが、それでも僕達が2人がかりでマクスウェル様へ挑んでも大丈夫なのですか?」
「なぁに、大丈夫じゃ。儂はこう見えて創造神様の次に強いからのぉ。いくら凛様達が相手でも、負けてやるつもりは全く無いぞい。ほれほれ、良いから掛かってきなさい。」
「ふふっ。分かりました、それなら全力で行かせて貰いますね。美羽、行くよっ!」
「はい!マスター!!」
マクスウェルは持っている杖を自身の顔の少し前の位置へと持って来て言うと、凛はマクスウェルの見た目が老人である事に気を遣ってか、少し困った表情で答える。
しかしマクスウェルは全く問題ないとばかりに、杖を持っていない左手でくいっくいっと凛の事を挑発する。
凛は軽く笑った後に表情を引き締めてやや前傾姿勢になり、そう言って駆け出した。
美羽もそう言って、凛から少し遅れる形で駆け出す。
「よっ!やっ!はぁっ!!」
「えいっ!ていっ!やぁぁっ!!」
それからしばらくの間、キィン、キィン、キキキィンと音を立て、凛の刀と美羽の双剣がマクスウェルの杖と打ち合う音が響く。
凛と美羽は初めての組んだとは思えない程に上手く連携し、色々な方向からマクスウェルに攻撃を仕掛けていた。
「むっ。おっ。…まだまだじゃの。ほれ、美羽殿は足元がお留守じゃ。」
「わわっ!!」
「きゃぁっ!!」
しかし2人の攻撃はマクスウェルの持つ杖で打ち合ってたり、或いは往なされたりして防がれていた。
その後、凛は杖を持っていない左手でマクスウェルに投げ飛ばされ、美羽は杖による足払いでその場に転ばされる。
「攻撃も大事じゃが、他を疎かにすると足元を掬われるぞい。お二人共まだ動きが不慣れと言う事もあるがの。」
「うーん…素振りで少しは慣れたつもりだったんですけどね。けど実際に動くのは思ってたよりも難しい、と言う事ですか…。」
「なぁに、これから学んでいけば良いんじゃよ。凛様と美羽殿は人でありながら半分は精神生命体じゃ。体の動かし方も人のそれとは違うからのぉ。じゃがそれでも、儂が想像していたよりも動けておるから安心して良いぞい。お二方の連携も中々じゃったしの。」
「ありがとうございます!マクスウェル様、これからもご指導をお願いしますね!」
「うむ!その意気じゃ。」
マクスウェルが指摘すると凛は困った様に言い、腕を組んで少し考え始める。
しかしマクスウェルはふぉふぉふぉと笑った後も、笑顔のままでそう言った。
凛は少し驚いたものの少し嬉しそうに言うとマクスウェルは優しく微笑んだままそう答え、3人はその後も数時間稽古を続ける事に。
凛と美羽はマクスウェルが止めるまでの間、ずっと訓練した為かくたくたになってしまった様だ。
2人共風呂へ入らずにマクスウェルから割り当てられた部屋へふらふらとした様子で向かい、そのまますぐに寝てしまった。
因みに、凛達が訓練を行っている大部屋の横には、キッチンが備え付けてある20畳程のリビングダイニングルームらしき生活部屋が設けてあった。
その生活部屋の隣には10畳程の浴室が、その浴室の向かいには現在凛と美羽が休んでいる様な、ベッドが備えてある6畳程の部屋が4部屋あった。
訓練2日目 午前5時前
凛は早く起きてキッチンにいた。
凛は昨晩くたくたになってしまった事で、訓練の後に好きな料理を行う気力が起きなかった。
その為料理を先に作って出来上がった物を無限収納へ仕舞い、出来たての状態を維持したままいつでも食べたい時に取り出せば良いと思った様だ。
今日はこの世界に来て初めての調理と言う事もあってか、念の為にと地球にいた時よりも1時間程早く起きて調理へ臨む事にした。
「へぇ~…。地球のと少しだけ形が違うけど、中は完全に冷蔵庫なんだ。」
凛はキッチンを一通り見た後、そう言いながら魔導冷蔵庫を色んな角度で見ていた。
魔導冷蔵庫はキッチンに備え付けてあり、地球の冷蔵庫とほとんど同じ様な見た目をしていた。
凛はまだ知らなかったのだが、魔導冷蔵庫はここと里香が暮らしている所にしかない為、この世界に他の魔導冷蔵庫と言うのは存在していない。
この世界では5人に1人は何らかの魔法が使えるからか、魔法を使って冷やすや温める等してそこそこの生活を維持出来ている。
そして人々の大半は今の生活で満足している為か機械その物の概念がなく、鉄等の金属類は専ら武具や貴金属に充てられている。
因みに、魔導冷蔵庫は電気ではなく、魔物の心臓の横にある魔力を帯びた『魔石』と呼ばれる石を動力源としている。
しかし今の所、魔石の使い道が魔法に関する事にしか使用されない為か、冒険者達は魔石をあまり重要視していなかったりする。
凛は魔導冷蔵庫を見て何かを設置するであろう器具があるのは分かったのだが、中身は空っぽで魔石もついてなかった為か仕組みが全く分からなかった。
「んー…でもこの場所みたいに、この冷蔵庫の仕組みが分からない所があるなぁ。後でマクスウェル様に聞いてみるか…。」
《………。》
凛はその後も5分程魔導冷蔵庫を見ていたが、使えない事が分かると魔導冷蔵庫を使用する事を諦めた。
ナビは何か言いたそうにしていたが、自身の情報元は凛の知識や経験、地球の事に関するもので魔導冷蔵庫についての情報を持ち合わせていなかった為、黙るしかなかった。
凛は取り敢えず今日は万物創造で食材を出して調理を行い、魔導冷蔵庫については朝食を食べながらか朝食後にでもマクスウェルへ尋ねる事を決める。
凛は調理を始める前に軽く万物創造の検証をした事で、生きている動物以外は造り出せる事が分かった。
その為スーパー等で売られているパック詰めの肉等の食材を創造魔法で出し、同じく調理前に創造魔法で作った鉄素材のフライパン等の調理器具を用意する。
それらをキッチンに備え付けてあった、魔力を用いる事で使用出来る魔導コンロ(これも同じく世界に2台しかないそうだ)を使って調理を行う。
凛は小学生の時から母の料理を手伝っていた為か、手慣れた様子で先にお昼ごはん用のサンドイッチ(胡椒で軽く味付けしたスクランブルエッグ、レタスとベーコンとトマト、ツナとマヨネーズを混ぜたもの)を作る。
それが終わると今度は夜ごはん用に、鶏の胸肉と長ネギと塩・胡椒・ニンニク・マヨネーズを使った鶏胸肉のネギマヨ焼き、それとサンドイッチで余ったスクランブルエッグとツナマヨネーズとトマトとレタスを使ったサラダ、ペペロンチーノ、コンソメの素とウインナーとキャベツを使ったスープを作り、それらを無限収納へと収める。
凛は収納を終えた後に朝御飯用に焼き上げたパンケーキを皿に乗せ、苺ジャムとブルーベリージャム、それと牛乳を創造魔法で用意して調理を終わらせた。
午前7時頃
「甘ーーい♪これ美味しいですー!」
「…うむ。果物以外にここまで甘い食べ物を口にするのは儂も初めてじゃ。」
「マクスウェル様、この世界には甘い物が少ないのですか?」
「左様。この世界では果物はそのまま食べるし、パンもそのまま食べるかスープに浸して柔らかくして食べるのが主流なんじゃ。魔素点の近くならまだしも、一般に売られている果物には魔素があまり入ってない為かそんなに甘くないじゃろうな。更に言えば、この『ぱんけーき』や『じゃむ』なる物は存在してない筈じゃ。」
美羽は凛が食べているのを見様見真似で行い、パンケーキにジャムを乗せてナイフとフォークを使い幸せそうに食べながらそう言った。
マクスウェルは同じく見様見真似で食べながら言うと、不思議に思った凛がそう尋ねる。
マクスウェルはブルーベリージャムを付けたパンケーキをフォークで刺した物を目の前に持っていき、パンケーキを興味深そうに見ながらそう言った。
「食料事情や調理方法は多少聞いてはいましたが…これを変えるのは苦労しそうですね…。」
「そうじゃな、創造神様も其方に期待しておったからの。儂ら精霊は大気中や地中からでも魔素を得られる為か、食事は然程必要ではなかったのじゃ。しかしこれから凛様の美味い食事を食べれるとなれば、儂も楽しみになってきたぞい。」
「呼吸や排泄が必要なくなり、食べた物がそのまま魔素の回復を促進してくれると言うのはありがたいですけどね。とは言え、元人間の僕としては少し複雑ではありますが…。」
凛はナイフとフォークを置いた後にはぁ~っと盛大に溜め息をつき、俯きながらそう言った。
マクスウェルはふぉふぉふぉ、と笑いながら答えると、凛はそう言って何とも言えない複雑な表情となる。
午前8時頃
「さて、今日から午前中は体内の魔素を扱う魔力の訓練、正午に1時間の休憩を挟んだ後からは武器の訓練、夕方は自主訓練の順番で行っていくぞい。魔素は自然に回復するが、寛いでる方が回復が早いのじゃ。1日を通して、訓練を終えるのは夕方までとしようかの。」
「…マクスウェル様。夕方の自主訓練って、具体的には何をすれば良いのですか?」
「何でも良いぞい。今日習った事を含めた復習に充てるも良し、何か思い付いたのであればそれを試すのも良しじゃ。」
「成程…。つまり、そこで創造魔法を使っての訓練を行っても良いと言う事ですね?」
「左様。余程変なのでなければ訓練して貰って構わないぞい。」
「(やった!)分かりました!」
凛達は朝食が済んでから大部屋へ移動した後にマクスウェルがそう言うと、凛は少し不思議に思ったのか右手で挙手してからマクスウェルに尋ねる。
マクスウェルが答えると凛は納得した後、少し考える素振りを見せて再度マクスウェルへ尋ねる。
マクスウェルがそう答えた事で、凛は内心ガッツポーズをした後にそう言った。
「さて…魔力訓練を始めようと思うのじゃが、魔力を扱ったり感じたりするにはいくつかの方法があるのじゃ。詳しく説明したい所じゃが、あまり時間もないからの。儂の魔力をお二方に流し、流れる魔力を感じ取って貰う事から始めようと思うのじゃ。凛様、美羽殿。2人共儂の手を握って貰って良いかの?」
マクスウェルはそう言って、自身の両斜め前にそれぞれ手を広げる。
凛はマクスウェルの右手に握手するような形で手を握り、美羽もそれに倣ってマクスウェルの左手を握った。
「少しでも魔力を感じやすい様に、目を閉じた方が良いかも知れないの。」
「「はい。」」
「うむ。それでは…始めるぞい。」
「…マクスウェル様。何か流れて来た様に感じましたけど、これが魔力なのですか?」
「左様。凛様、その流れて来た魔力を体内に巡らせた後、儂へ戻す事は出来るかの?」
「うーん…やってみます。」
マクスウェルがそう言った事で、凛と美羽は目を閉じて集中し始める。
マクスウェルがそう言って10秒程経った頃、凛は右手を通じてマクスウェルの方からぽかぽかとした少し温かい何かが流れてくるのが分かった為、そう尋ねながら目を開ける。
マクスウェルは肯定した後に今度は凛へ尋ねた事で、凛は難しい表情になりながらも再び目を閉じて集中し始めた。
10分後
凛は身体中の血管に血液が流れる様なイメージで、魔力を手から腕、頭、心臓、足へ巡らせた後に再び手に戻す様にして、魔力をマクスウェルへと届ける。
「…この様な感じでしょうか?」
「初めてにしては上等じゃ。凛様は飲み込みが早いのう。」
「良かった…。なんとなくは分かったのですが、魔力を使いこなすのは苦労しそうですね。」
「うむ。じゃが魔力の扱いに長けると色々と役立つし、これからの凛様の為になるのじゃ。ここでの1ヶ月の訓練が終わった後も日々研鑽を積むと良いぞい。」
「はい!分かりました!」
凛は目を閉じたままでやや自信なさげに言うと、マクスウェルはそう言った後にふぉふぉふぉ、と嬉しそうに笑う。
凛は安堵の表情を浮かべて言うとマクスウェルはにこにこしたままで答えた為、凛は元気良く答えた。
「マスタぁ~…。」
「ん?美羽、どうかした?」
「左手に何か流れて来たのは分かったんですけど、この後どうやれば良いのかが全然分からないです…。」
「「あ~…。」」
「これはちょっと…。」
「うむ。美羽殿だとまだすぐに分からなくて、当然と言えば当然じゃのぉ。」
「ですよね。美羽は昨日生まれたばかりでまだ知識、経験共に浅いですもんね…。」
凛は右の方から弱々しい声が聞こえた為、疑問を浮かべた表情で美羽の方向を向く。
すると美羽はかなり落ち込みながらそう言った為か凛とマクスウェルは複雑な表情になり、2人の何とも言えない様な声が重なってしまう。
凛は困った様に言いながら空いている左手の人差し指で頬を掻き、マクスウェルはそう言いながらやや申し訳なさそうな表情となる。
「うぅっ、ごめんなさい…。」
「大丈夫だよ美羽。僕も美羽の立場だったら、今すぐに流れを分かれって言われても難しかったと思うんだ。僕も手伝うからさ、2人でこれから一緒に少しずつ色んな事を学んで行こうね。」
「はい…!」
美羽は項垂れながらそう言うと、凛は左手で美羽の肩に手を乗せて励ます様に言う
美羽は凛に言われた事で少し元気を取り戻したのか、気合いの入った表情で答えた。
因みに、訓練が終わった後に晩御飯で鶏胸肉のネギマヨ焼きを出したのだが、美羽に非常に好評だった。
「この長ネギが美味しいですーっ!!」
「そ、そう?(…何故だろう。美羽がネギが好きなのは分かっている事なんだけど、何か納得がいかないな…。)」
美羽が美味しそうに晩御飯を食べながら長ネギだけを褒めた事で、凛はそう言いながらも内心は複雑だった様だ。
4日目の夕方頃
「…凛様。以前から言おうと思っていたのじゃが、其方変わった戦い方をするのじゃな。刀そのものだけでは無く、刀の鞘と足技も用いるとはの。」
「あ、ボクもそう思ってました!」
「美羽は双剣使いですし、マクスウェル様は空いた左手を使ったり予想もしない角度から杖の攻撃をしてきますからね。それに対して刀1本だけだと手数が足りないかと思いまして。それに鞘は逆手に持っていますので、戦いながら居合術にも使えるかなぁなんて思いながら練習している所なんですよ。」
「成程、色々と考えてるんじゃのぉ。」
「自分で言うのもなんですが僕は小柄ですからね。小回りを利かせて手数を多くした方が良いでしょうし、鞘もそれなりに長いから腰に差さないで持ったままにしようかなと思いまして。」
「「成程(のう)…。」」
自主訓練の時間となり、凛は昨日から右手に刀、左手に刀の鞘を持ちながら素振りを行う様になる。
他にも素振りの合間に、ハイキックや飛び回し蹴りを行う等していた。
その事にマクスウェルは不思議に思ったのか自主訓練中の凛へそう尋ねると、同じく自主訓練をしていた美羽も同意する様に右手を挙手しながら言う。
凛は少し恥ずかしくなったのか下を向き、後頭部を掻きながら答えた。
マクスウェルは顎髭を撫でながら言うと、凛は左手に持った鞘を見ながら答える。
2人は凛に言われた事で納得した様だ。
そして7日目の自主訓練が終わる頃
「マスター。マスター。」
「どうしたんだい美羽?」
「マスターは、にゅーたいぷ?なのですか?」
凛が今日から新しい試みをしている所へ、不思議そうな表情をした美羽が来て尋ねる。
凛は作業を中断して答えると美羽は左手の人差し指を頬に当て、少し首を傾けながら尋ねるのだった。