66話
《マスター。マスターのご要望通り、的を設置していない訓練部屋をご用意致しました。》
「おっ、早かったね。普通の訓練部屋のポータルの場所は魔法訓練部屋の正面に設置しようか。」
凛はナビからそう言われる。
凛は魔法訓練部屋を後2つは設置したいと思っていた為、そう言いながら通常の訓練部屋の位置を魔法訓練部屋の隣では無く5メートル程離れた真正面に設置した。
凛はその後魔法訓練部屋へと入る。
「皆ー、もう少ししたらお昼だよ。汗をかいたままだと気持ち悪いだろうから、先に風呂に入ってさっぱりすると良いよ。」
『はーい!』
「オレ達はイルマ達みたいに動いてないから汗をかいてないんだよな。まぁでも折角だから一緒に入る事にするか。雫も一緒に行こうぜ。」
「分かった。」
魔法訓練部屋に入った凛は、皆へ向かってそう伝える。
美羽達や紅葉達は教える側と言うのもあるが、凛、美羽、火燐、雫、翡翠、楓の6人は元々汗をかかない体質だ。
対するエルマ、イルマ、藍火、リーリア、篝の5人は思いっきり訓練が出来て楽しかったからか汗だくになっていた。
エルマ達、火燐、雫はそう言って皆で風呂へと向かって行った。
「…ナビ、この的の数だと皆で訓練するには足りないと思うんだ。魔法の訓練は普通の訓練と違ってあまり動かなくて済むだろうから、この(魔法訓練)部屋にある的を反対側の壁にも同じ様に用意する事って出来るかな?後、部屋の入口を的を設置してない壁の真ん中に移動して貰えると助かるかも。」
《畏まりました。マスターもあちらへと向かわれた後、その様に調整しておきます。》
「うん、お願いね。」
凛は部屋に自分以外いなくなった事を確認した後、ナビにそう尋ねるとナビは了承する。
その事で満足した凛は屋敷へと戻って皆で昼食を摂る事に。
凛が屋敷に戻ると、既に昼食の用意がされていた。
今回は事前に用意してあった色々な肉料理や魚料理、それとパスタ類とサラダを並べて貰った。
これらはニーナ達料理組が現在練習している料理だ。
「凛様が用意してくれたキッチンに私達がまだあまり慣れていないのもあるんだけど、それでも凛様達が見本として出した物に比べて綺麗とは言えないわ。…うん、それに味もまだまだね。」
「(ニーナさんはそう言うけど、指導してまだ日も浅いのにここまで出来れば充分だと思うんだけどなぁ。)」
ニーナは意外とストイックなのか、凛に報いようとしているのか分からないが自分達が作った料理を食べた後にそう愚痴っていた。
凛は内心そう思うのだが、ニーナは愚痴った後で熱心にメモを書いていたので敢えて言わない様にした。
因みに以前の屋敷で、凛は紅葉、月夜、小夜の3人に軽く屋敷の掃除や手入れ方法等を教えていた。
先程3人は訓練を早々に切り上げ、屋敷組に屋敷の掃除や手入れ等を色々と教えていた様だ。
商売組は凛が商店にて販売する予定の商品を勉強している。
販売予定の物をガイウス達に実際に見せてみないと判断されないが、凛は大体の商品は分かりやすい様に同じ値段で揃えて販売したいと考えていた。
「商店のオープン予定日はトーマスさん達次第だから頑張ってね?」
「はは…、それは責任重大だな。少しでも早く開けられる様に頑張って覚えるよ。」
凛がトーマスにそう言うとトーマスは苦笑いを浮かへながらそう答えた。
昼食後に気分転換も兼ねて、イルマ達だけで無くウタル達を含めた皆を連れて魔法訓練部屋へ向かう。
その後夕方迄凛達は魔法に不慣れだった者へ魔力の扱い方を教え、ある程度慣れた者は実際に的へ向かって魔法を放つ訓練をして貰っていた。
しかし訓練を受けた者達はそれ迄魔法とは縁がなかった為か、最初は中々魔力の流れについて理解して貰えずにいた。
しかしその中で今迄魔法を使った事が無かった篝が最初にファイアーボールを的に向かって放てる様になる。
その後刀に炎を纏わせる事が出来る様になり、的を斜めに切り落とした事で歓声を浴びていた。
そして村人の中ではナナが最初にアイスニードルを放てる様になった事で皆がやる気を出し、訓練が終わる頃には何人かが魔法が放てる様になり喜んでいた。
「今回の訓練を通して魔法が使える様になりましたが、危険ですので決して人や魔物に向かって使わない様にして下さい。それでもどうしても魔法を使いたいのであれば、僕に言って下されば僕達の誰かが傍に付かせて頂きます。皆さんに怪我をして欲しくないのできちんと守って下さいね?」
『はい!』
「(皆で一度に訓練したいんだけど、的も訓練部屋も全然足りてないな…。このままだと訓練よりも待たせてしまう時間の方が長くなってしまうか。折角皆が乗り気になってくれた事だし、僕もそれに応えて早く環境を整えないと。)」
凛は皆にそう言って厳命すると、ウタル達が元気良く返事を行う所でその日の訓練は終わる。
凛はこれからが楽しみと言いたそうな皆の表情を見て内心そう思ったのだった。
《マスター、ガイウス様より映像水晶へと連絡が入っております。》
「おっ、そうなんだ。ありがとうナビ。…ガイウスさん、どうされました?」
「おお、凛殿か!ゴーガンから受け取ったのだがパスカードを用意してくれて感謝する。それと早速なんだが、俺も訓練に参加したいと思ってな。明日の朝にゴーガンと2人でお邪魔しても良いだろうか?」
「いえいえ。僕達は6時から朝食を摂って少し食休みを挟んで、7時から訓練を始めるんですよ。ガイウスさん達は7時からの訓練開始でも大丈夫ですか?」
「そうか…、それなら朝食の少し前に着く様にするか。早起きには慣れているしな。」
「分かりました。それじゃ朝食の用意をしておきますね。」
「宜しく頼む。」
その後凛は夕食の用意をしていると、ナビにガイウスから連絡が来たと報告を受けて無限収納から映像水晶を取り出す。
映像水晶に軽く魔力を込めるとガイウスの顔が映り、その後やり取りを行ってガイウスとゴーガンが訓練に参加する事が決まった。
「エルマ、イルマ、それに篝。以前約束した新しい武具をこれから用意するね。」
「やった!」
「ありがとう凛さん…。」
「楽しみにしているよ!」
凛は夕食後に3人で行動していたので丁度良いと思い、3人へ向けてそう話した。
エルマはガッツポーズを、イルマは両手を重ねてお祈りをする様な構えで、篝はキリッとした表情だが内心嬉しいのか尻尾をぶんぶんと揺らしながらそれぞれそう言った。
「凛君~?私の分は~?」
「そう言えばリーリアさんも進化したんだったね。分かった、リーリアさんの分も用意するよ。」
「ありがとぉ~♪」
そこを通り掛かったリーリアにやや拗ねながら言われた。
凛は苦笑いを浮かべながら了承するとリーリアは機嫌が直ったのか、そう言いながらにっこりと笑う。
イルマ達に武具に対する要望は特に無かったので、凛は一先ず自室へと向かって用意する事にした。
凛は白神が着ていた白いワンピースドレスの事を思い出し、そのワンピースドレスを短くした様な服と盾に収まっている剣をエルマへと渡す。
エルマに渡した剣は柄の部分に、それと盾の表面に天使の翼の装飾を施しており、どちらも白を基調としている。
「これは鞘みたいにして盾の表面に剣を収納出来る様にしていて、剣を収めるとそれぞれの翼が合わさって4枚になる様にデザインしてみたんだ。名前は…盾をハナ、剣をレイアにしようか。僕の世界の言葉の1つで合わせると活発な天使って意味になる。エルマにピッタリな名前だと思うんだ。」
「ちょっとそれ酷くない!?…でも嬉しい、ありがとう凛さん。」
イルマはエルマのワンピースドレスとお揃いのデザインだが反対に真っ黒にした物と、先端に水晶を付け繋ぎ目の所に2対4枚の小さな蝙蝠の羽をあしらった黒い杖をイルマへと渡す。
「イルマは悪魔なのに小動物みたいに可愛らしいからこの杖はリリィアクアって名前にしようか。リリィは小さい、アクアは神って意味だけど悪魔みたいな存在もいたみたいだから付けてみたんだ。リリィアクアだと長いからリリィで良いかもね。」
「私が可愛らしい…、ああありがとうございます凛さん!」
篝への防具は以前渡した物があるので、篝に尋ねてから決めようと考えた。
凛は先程刀に炎を纏わせていた事を思い出し、鍔と鞘だけを黒にして残りは朱色にした刀を用意して篝へと渡す。
「篝はさっき刀に炎を纏わせていたのを見たからこの刀…炎刀・焔を渡すね。さっきよりも炎を扱いやすくなってると思うよ。服はどうする?」
「服は今のが気に入っているしこのままで充分だよ。これからももっと頑張るからな!」
リーリア用の弓は枝を絡ませて所々に葉っぱをあしらった物を用意した。
それとリーリアは痩せているのに色々と肉付きが良い為、油断すると見えてしまう時がある。
なので凛はリーリアが普段着ている様な、若草色の衣装を少しだけゆったりさせたデザインの服と白いニーソックスを弓と一緒にリーリアへと渡す。
「リーリアさんは風の精霊と一緒にいるので風って意味と葉っぱって意味でリーフと名付けた弓を渡すね。この弓で風を扱いやすくなれると思うよ。防具は今着ているのと同じ様なデザインだけど防御力は上がるから着て貰えるとありがたいかな。」
「嬉しいわ~、凛君ありがとぉ~♪」
エルマは突っ込みを入れつつ照れながらお礼を言い、
イルマは顔を真っ赤にしながら慌てて、
篝はやる気に満ち溢れ、
リーリアは少し首を斜めに傾けつつはんなりとしながらそれぞれ嬉しそうに受け取って自室へと戻る。
その後凛はワッズから預かった解体用の道具を改良して休むのだった。