64話
火燐が的に向けてエクスプロージョンを放ったのを切っ掛けに、次々と的に攻撃を仕掛ける者が現れる様になる。
「…メイルシュトローム。」
雫が氷結の長杖を前方に掲げながら、水系上級魔法メイルシュトロームを唱えると、的を中心に足元から半径5メートル弱の渦潮が発生し、
「…サイクロン!」
翡翠が風系上級魔法サイクロンを唱えると、同じく的を中心に半径5メートル弱の竜巻が発生し、
「…ボルダーストライク。」
楓が頭上に豊穣の枝杖を掲げ、土系上級魔法ボルダーストライクを唱えると、上空に直径5メートル程の大きさの大岩が現れる。
そして、豊穣の枝杖を振り下ろすと、ボルダーストライクは少し斜めに角度をつけながら、的に向かって真っ直ぐ落ちて来た。
「あたしも金級の強さになったんだ!もっと上を目指さなきゃ…ジャッジメント!」
エルマは昨日、中級天使から金級の強さを持つ上級天使へと進化していた。
しかし、ガイウス達の登場でお祝い所ではなかった(と言いつつ、しっかりとすき焼きやチューハイ、カクテル等を楽しんでいた)為、少し自棄になりながら光系上級魔法ジャッジメントを唱える。
すると、的の上に直径5メートル程の魔方陣が現れ、光のレーザーの様な物が真下にある的へ向けて発射された。
「私だって!…アビス!」
イルマもエルマと同じく、中級悪魔から上級悪魔へ進化しており、進化に伴って適性も上昇していた。
そんなイルマが闇系上級魔法アビスを唱えると、的を中心に半径5メートル弱の半球状の黒い塊が現れ、黒い塊が的を飲み込んでいった。
「グォォオオオッ(自分も行くっすよ)!!」
藍火は的の前に立った後、人から龍形態に姿を変える。
すると周りが騒然となり、部屋の中で悲鳴が飛び交う様になるのだが、藍火はそんな事はお構いなしとばかりに咆哮を上げ、的に向けて青い炎のブレスを吐いた。
藍火から放たれたブレスは的に当たり、直径5メートル程、高さ30メートル程の巨大な青い火柱が発生する。
「…行きます!」
紅葉は目を閉じて腕を交差させ、颯と圷を開く形で構えていた。
そしてすっと目を開けた後に叫び、颯と圷を斜めに扇ぐと、2本の鉄扇からピンポン玉位の大きさをした緑色と茶色の玉状のものが飛んで行く。
それらが同時に的へ当たった直後、大小様々な大きさの石を含ませた、翡翠が放ったサイクロンと同じ規模の竜巻を発生させた。
「次はボクの番だねー!…行けっ、ミーティア!」
紅葉が的に攻撃を当ててから少し時間が経ち、美羽は再び的が再生された事を確認する。
美羽は元気の良い声を出した後に右手の人差し指を挙げ、無属性超級魔法ミーティアを唱えながら右手を振り下ろした。
すると、楓がボルダーストライクを放った時の様に、上空に魔方陣が形成される。
しかし楓のとは異なり、魔方陣は大きさこそ同じではあるものの、その数は十数個に増えていいた。
そしてそれぞれの魔方陣から赤熱した隕石の様な物が姿を現し、次々と斜め下方向へ落ちて来ては、美羽の前方広範囲の床部分にランダムで当たる。
その度に爆発が発生し、魔法の発動中は凛以外の皆を唖然とさせ続けていた。
「(ナビ。改めて思うんだけど、ミーティアは炎や土属性…って言う訳ではないんだよね?)」
《はい。マスターが不思議に思うのも分かりますが、一応無属性魔法として分類されております。他にも、幾つか似たような魔法がございます。》
「(そうなんだ。ファンタジーって謎が多いなぁ…。)」
凛はミーティアを放つ美羽の後ろ姿を見つつ、心の中でナビに尋ねてみた。
しかし、ナビからきっぱりとした様子で答えを受け、複雑な表情を浮かべながらそんな事を考えていたりする。
因みに、空間収納が使える者は無属性魔法が使え、初級で30センチ定規位の大きさをしたマジックアロー、中級で電柱位の太さをしたマジックスピア、上級で直径100メートル近い爆発を起こすマジックバーストが放てる様になる。
しかし、空間収納持ちは存在そのものが貴重で、無理して強くならなくても一生安泰とされていた為、ほとんどの者が初級で止まり、残る者達も中級で終わったりする。
「終わったよー♪」
「…誰も行かないみたいだし、ひとまず僕で最後…で良いのかな?」
美羽がご機嫌な様子で戻るのだが、萎縮してしまったのか誰も前に出ようとはしなかった。
凛は軽く辺りを見回し、そう話しつつ、的から少し離れた位置に立ち、ビットを展開し始める。
凛はビットの性能を上げた事により、大きさもピンポン玉からテニスボール位の大きさとなり、数も同時に20基までを操作出来る様になっていた。
そして、次々にビットを展開しては1メートル程手前の位置に向かわせ、円を描く様にして動かす。
ビットの存在を知らないウタル達、サム達、ニーナ達、それと篝はこれから一体何が始まるのかと思ったらしく、凛やビットを見ながら戦慄した表情(篝と子供達だけはワクワクした様子)を浮かべ、美羽達は呆れ半分、残り半分は興味ありげな様子で見ていた。
「…ビットを最大の20基展開…エネルギー充填開始…。」
凛はそう言いながらビットを増やしていき、最大の20基する頃には、そこそこゆっくりとした速度の観覧車とでも言おうか、直径2メートル程の巨大な輪っかの様な状態となったビット達の姿がそこにあった。
そして、ビット達は凛の合図で回転する速度を少しずつ早めていき、高速回転と呼べる頃には赤黒いプラズマが周囲へ発生する様になる。
「エネルギー充填完了!…行けーー!ハイパーブラスターキャノンっ!!」
凛は十分だと判断したのか右腕を前に突き出し、的に向けてビット達が最大までチャージした砲撃…ハイパーブラスターキャノンを発射させる。
すると、ビットから超高エネルギーの光線が撃ち出され、的を軽く通り過ぎて壁にぶち当たるのだが、凛が放ったハイパーブラスターキャノンは、当然ながら高い威力を持ったものだ。
まだ凛達が会った事のない神輝金級の魔物ですら、消滅させるだけの破壊力を持っていたりする。
「きゃっ!」
「うぉっ!」
『………。』
そんな技を壁にぶつけた事で、部屋は大きく揺れ、美羽達ですらまともに立てない状態となる。
それ以外の者達は、ほとんどが体勢を保つ事が出来ずに座り込んだり、場合によっては倒れる等していた。
《…マスター、やり過ぎです。威力を抑えた方もいらっしゃいましたのに、マスターが張り切ってどうするのですか…。》
「ごめんごめん。脅威に少しでも対抗出来ればと思って考えてはみただけど、撃てる機会って中々なかったでしょ?だから嬉しくなって、つい張り切っちゃった。…皆もごめんね?」
凛はナビに呆れられてしまったものの、凛は軽く反省しただけで満足げな様子を浮かべていた。
凛は右手で後頭部を掻きながらも笑顔でナビに謝り、笑顔のまま後ろを振り向きつつ、皆に対しても謝る。
『………。』
しかし、一同は凛に謝られた後も、あまりの威力の高さからか、驚いた表情で固まったままだった。
因みに、凛はビットを4基重ねた射撃をブラスター、10基重ねた状態による射撃をブラスターキャノンと呼んでいる。
「あ、そうだ、ナビ。上級魔法って、威力は高いけど広範囲なものが多いでしょ?少しでも皆が練習しやすい様に、的をずらして欲しいんだけど…出来るかな?」
《可能です。》
「良かった。それじゃさ、的同士の間隔を10メートルじゃなく、100メートル位に広げて貰って良いかな?それでこの部屋は、魔法を中心に訓練する魔法訓練部屋にしようと思う。それで今後、この部屋とは別に、わざと的を設けないで体を動かす為の部屋とか、壁際に少しだけ的を設置して弓と魔法を当てる部屋なんてどうかな?」
《畏まりました。マスターが仰られた内容ですと、時間をそれほど必要と致しません。午前中に全て終わらせておきます。》
その後、凛は話題を変えるのも兼ねてナビと話をし始め、凛が少し嬉しそうにしながらナビに頼むと、ナビからその様な返事が返って来た。
「あ、ありがとう…。(何だか、ナビの仕事っぷりが更に早くなってる気が…。)」
凛はナビから了承されたものの、作業は早くても夕方位に終わると思っていた。
その為、顔を引き攣らせながらお礼を言いつつ、内心では困った様子を浮かべていた。
《…マスター。ご本人様が気付き次第お知らせをしたかったのですが、現在も気付いてらっしゃらないご様子。この場をお借りし、ご報告をさせて頂きたい事があるのですが宜しいでしょうか?》
「ん?ナビ、急に改まってどうしたの?」
《今朝方、リーリア様がエルフからハイエルフへ進化を済ませております。》
「えっ、そうだったの!?…リーリアさん。どうやら昨晩寝ている間に、エルフからハイエルフへ進化していたみたいですよ。」
「あらぁ~、そうだったのぉ~?全然気付かなかったわ~。」
凛は改まった様子のナビから報告を受けて驚き、リーリアの方を向いて伝えられた内容を話した。
しかし当のリーリアは、驚くどころか右手を頬に当ててはんなりとした様子で答えた為、凛を含めた周りの者達をずっこけさせる事に。
昨晩リーリアは、(今もそうだが)進化出来ると言う事に全く気付いておらず、少し眠たいな~位にしか感じていなかった。
そして、私も早く強くなりたいな~なんて思いながらベッドに入り、寝ている内に進化していたと言う流れになる。
凛達は紆余曲折あったものの、ようやく訓練を開始する事に。
凛は翡翠にリーリアと組む様に頼み、ハイエルフとなって体や魔力の動かし方に変化があるか等を見て貰う。
そして美羽達へは、ウタル達に体の動かし方や武器の使い方を教えるよう頼んだ。
一方、凛は藍火と組み、手足だけを部分的に龍の状態に戻す為の指導を行っていた。
と言うのも、凛は昨日、藍火に様々な武器を使わせてみたものの、どれもしっくりと来なかったからだ。
凛は藍火を自らの手足で戦う拳闘士として育てる事にし、手足だけをドラゴンの状態に変えれば格好良いのではとの考えから、部分的に龍へ戻してみようとなった。
因みに、凛は剣術では最終日でもマクスウェルに遠く及ばなかったものの、素手でならマクスウェルよりも技術が上だと認められ、素手に関してはマクスウェルから免許皆伝を受けている。
むしろ、マクスウェルが凛に教えを乞おうかと考える程だったり。
「マスター、藍火ちゃんばっかりズルいよー。ボクもマスターから教えて貰いたいのにー…。」
「ご、ごめんよ?でもさ、その代わり美羽には双剣と足技を教えてるでしょ?それで我慢して貰えないかな?」
「むー…。」
「?」
その途中、美羽は凛から指導されている藍火が羨ましく思った様だ。
指導する役目を放り出し、頬を膨らませながら凛に近付いて不満を漏らす場面があった。
これに凛が苦笑いの表情を浮かべ、やんわり断ると、美羽は更にむくれてしまう。
それからも凛は軽く必死な様子で美羽を宥めるのだが、藍火は今の凛達の様子が珍しいと思ったのか、不思議そうな表情で凛達の事を眺めていた。
しかし、すぐに自分では理由が分からないとして考えるのを止め、訓練を再開する事に。
凛はどうにか美羽を宥め、10分程藍火の指導を行った後、今度は篝の元へ向かった。
篝は仙狐から金級の強さを持つ天狐に進化しており、凛の次に太刀の扱いが上手な暁と旭の2人から指導を受けている。
「篝ー、調子はどう?」
「凛!ああ、天狐に進化してから体が軽くなったのは良いんだが、動きに少しズレが出る様になってな。暁と旭も同じ経験をしたと聞いて、色々と話をしている所だったんだ。」
「そうなんだ?まぁでも、ゴブリンからいきなり妖鬼に進化して体が大きくなった紅葉と違って、反対に暁達はオーガから進化して体が小さくなったんだもんね。紅葉も慣れるのに苦労してたけど、暁達はそんな紅葉が心配する位だったっけ…。なんだか、ほんの少し前の事の筈なのに懐かしく思えるよ。」
「お恥ずかしい…。」
「凛様、あまりその話は…。」
「ははは、ごめんごめん。」
「凛。その話、是非詳しく聞かせてくれ!」
凛は篝に声を掛けると、篝は凛が来たと言う喜びからか、少し大きくなった尻尾をぶんぶんと振り、嬉しさを露にしながら返事を行う。
暁と旭はゴブリンからオーガに進化した際、勢い余って皿をひっくり返したり、フォーク等が上手く使えずに汚れたりしていた。
オーガから妖鬼に進化した時は力加減が中々掴めず、食器や箸を壊し、心配した紅葉が一緒に凛へ謝ると言う事も起きたりする。
暁と旭はそれらを思い出して恥ずかしそうにしつつ、4人で軽く話を行い、凛は篝達にこのまま訓練して貰う様に告げて離れる。
因みに、話をした時に出たのだが、昨日飛行訓練へ向かい、多少ふらつきながらも出来る様にはなったとの事。
その後、設置された的に向かって魔法を放つ練習をしたり、木刀による剣戟を響かせる音が幾つも響く様になっていった。
「(皆、頑張ってるなー。)」
凛はそう思いつつ、1人でポータルを潜り、そのまま屋敷の敷地内から外に出る。
そして農地組の人達が作物に水を与える為の貯水槽を3種類設け、それぞれの貯水槽に水を貯めた後、再び訓練部屋に戻るのだった。
イルマの闇魔法を探すのに滅茶苦茶時間かかったのに結局選んだのがアビス、、、(苦笑)
凛のハイパーブラスターキャノンは何となく響きが良かったから書いてみただけで深い意味はないですw
美羽のミーティアは昨年流行ったボカロ曲から引用してます。