63話 13日目
13日目 午前6時前
凛は朝食の用意を済ませ、客間にいるガイウス達を起こしにやって来た。
しかしガイウス達に加え、ウタルやサムの様にナビの恩恵を受けずに飲み会に参加した者達は、完全に二日酔いとなってしまった様だ。
呻き声を上げたりかなり顔色を悪くする等、揃いも揃って起き上がれずにいた。
そんなガイウス達に対し、凛達はナビの恩恵を受けているおかげでアルコール…つまり毒に対する耐性が上がっており、昨晩の飲み会でも酔う事はなかった。
その為、凛は酔い潰れたガイウス達に毛布を掛けて休ませ、自分達は入浴等を行い、日付が変わる前には自室に戻って休んでいたりする。
因みに、今回の飲み会とは関係ないが、実は凛は酒がめっぽう強く、いくら飲んでも全く酔わない体質だったりする。
凛が20歳になった時に家族から受けたお祝い、それと就職した先で知り合った職場仲間や知り合いで集まった飲み会にて、姉達や同僚達等が凛を酔い潰そうとするも、凛が酔う事は一切なかった。
むしろ反対に潰されてしまい(自爆とも言う)、翌日酷い二日酔いになる等して地獄を見た例は少なくない。
そして今回の場合、凛に関してだけは、ナビの恩恵が役に立ったとは言えない…のかも知れない。
凛は苦笑いを浮かべつつ、光系中級魔法の1つで状態異常回復の効果を持つリカバーを、ガイウス、ゴーガン、ウタル達の順番で次々に掛けていく。
ガイウス達はリカバーの効果によって顔色が大分良くなり、起き上がれるまでに回復した。
凛は続けて、ガイウス達に水分補給をさせようと思ったらしく、昨晩ガイウス達に毛布を掛けた後に設置した魔導冷蔵庫へ向かう。
そして魔導冷蔵庫の中から、水やポ○リスエット風清涼飲料水が入ったペットボトル、それと味見で使うだろうとして一緒に入れておいた、使い捨てタイプでプラスチック製のコップを取り出す。
凛は水と清涼飲料水が入ったペットボトルをガイウス達に見せ、どちらが良いかを尋ねた後、プラスチック製のコップに清涼飲料水を50cc程注ぎ、清涼飲料水の味が知りたい者は自分の所へ来る様に促す。
そして凛が汗を掻いた時等に向いた飲み物だと説明すると、ウタル達は興味津々と言った様子で凛の所へ向かい、初めて体験する味に驚く。
ウタル達は次々に清涼飲料水を選択し、凛から清涼飲料水入りのペットボトルを受け取っていった。
その間、ガイウスとゴーガンはじっと魔導冷蔵庫を見ており、凛の話を全く聞いていなかった様だ。
凛はウタル達に清涼飲料水が入ったペットボトルを渡し終えてからガイウス達に再度尋ね、それでガイウス達は我に返ったものの、2人共生返事で水が入ったペットボトルを選ぶ。
ガイウスとゴーガンは凛からペットボトルを受け取ると、その冷たさに驚いた後、初めて見る魔導冷蔵庫についての質問を凛に行う。
しかし、凛が答えても次々に疑問をぶつけて来る事から、凛は少したじたじになり、2人は後から来た美羽によって宥められる事に。
「凛殿、すまなかった…。」
「ごめんよ、恥ずかしい姿を見せてしまったね。」
「いえ、まさかお2人があそこまで興奮するとは思いませんでした。」
「今思うと、昨晩の飲み会で氷が出て来た時点で、飲み物を冷やせる手段がある事に気付くべきだったのだろうな。とは言え、この屋敷に来てから、初めて見る物ばかりで感動しっぱなしだ。風呂やそこにある冷蔵庫、それにすき焼きに酒のつまみも勿論良かったのだが…1番は何と言っても酒だ。昨日飲んだ酒の数々…今まで飲んだ酒は一体何だったんだと言う位美味い物ばかりだったな。」
「確かに。本当に美味しいお酒ばかりだったね。凛君、良ければなんだけど、ギルドに併設した酒場にお酒やつまみを卸して貰う事は出来たりするのかな?」
「出来ますよ。…と言うか、実は近い内に相談するつもりだったんですよ。実際にカクテルを作るのは技術が必要なので今度にするとして、(缶の)ビールやチューハイ、ウイスキーやブランデー等でしたら昨日と同じ品質の物が提供出来ます。早速今日から導入してみますか?」
「「頼む(よ)。」」
「分かりました。ビール等、一部のものは冷えていた方が美味しく感じますし、冷蔵庫を設置する場所用に、酒場の一部をお借りしても宜しいですか?」
「(ごくり)…分かった、許可しよう。」
ガイウスとゴーガンが申し訳なさそうにする所から話が始まり、トントン拍子で酒や魔導冷蔵庫の導入が決まる。
ゴーガンは確実に街の目玉になると思って凛に相談し、ガイウスはビールを冷やすと更に美味くなるのかと思い、喉を鳴らして返事する場面もあった。
凛は凛でガイウス達の反応を見てからお酒類を広めるつもりだった為、ここまで好感触だとは思っていなかった。
しかし、ガイウス達がかなり乗り気な事から許可を出し、最初は水等の割り材や氷の使い方を酒場のマスターに覚えて貰い、慣れた頃にカクテルをと言う手順で考えている様だ。
因みに、酒場で提供されているエールは温く、現代のビールに比べて雑味が多い等し、味が何段か落ちる…と凛はナビから説明を受けていた。
凛はそれならあまり飲みたくはないかなぁ…等と、1人で納得していたりする。
ガイウスとゴーガンは凛達と一緒に朝食を摂り、屋敷の外で凛達に見送られながらポータルを潜り、サルーンへ帰って行った。
その後、凛はナビから訓練が出来る亜空間が出来たとの報告を受け、先程ガイウス達が通って行った建物の向かい側に同じ建物を建て、サルーンへ移動する等の為に使用するポータルとは色違いのポータルを設置する。
新たに設置したポータルは訓練部屋に直結する為のものとなっており、凛を筆頭に次々と新たなポータルを潜る。
すると縦横1キロ程、高さが100メートル程ある一面真っ白の部屋…その一角に凛達は出た。
凛達が出た所の隣にある壁一面には、頭と胴体部分のみで構成された西洋風の鎧が練習用の的として用意がされてあり、それが壁と水平になりながら10メートル位の間隔で設置してあった。
的のある壁もそうだが、白い壁部分に向けて魔法を放つと、壁が魔法を吸収し、この部屋を維持する為の魔力に充てるとの事。
加えて、しばらく部屋を維持するのに充分な魔力量だとナビが判断したら魔素へ変換、そこから魔石として生成し直し、無限収納に放り込むとの説明も受けた。
そして説明の最後、ナビからこの部屋を作る為に空間を弄っていたら空間拡張スキルを会得したと告げられる。
凛は内心で僕の知らない所でナビが益々凄くなっていくなぁ…等と思いつつ、これからも使えそうなスキルがあれば会得していく様に頼んだ。
凛は皆に使い方を教える為、近くにある的へ向かう事に。
《マスター、軽くで構いません。壁にぶつかってみて下さい。》
「壁?壁って、魔法を吸収するって言う白い壁で良いのかな?ナビの事だから何か意味があるんだろうけど…うわっ!」
凛はナビに促されるまま、壁に向かって走り出した。
そして凛は壁にぶつかるのだが、少しだけ壁が凹んだかと思うと、すぐに跳ね返されてしまった。
これに凛を始め、そこにいた全員が驚いた様子となる。
《魔法だけでなく物理衝撃も吸収し、ほぼ無効化出来る様にしております。マスターや美羽様は多彩な攻撃をお持ちですし、私の方で衝撃吸収機能も必要だと判断して付与させて頂きました。それと的に関してですが、破壊しても、魔力を消費して10秒後には再生する仕組みとなっております。》
『………。』
「へー!これなら周りに気を遣わなくて済むし、訓練が捗りそうだよ。ナビ、ありがとう。」
《恐悦至極。》
『(それだけ!?)』
ナビからの説明を受け、美羽達は広い部屋は勿論の事、衝撃や魔法を吸収する壁、破壊しても少ししたら復活する的と、今までに想像すらした事がない様なものばかりだった。
その為、言葉では言い表せない位に驚いていたのだが、凛があっさりとした感想を述べ、ナビも普通に返したのを目の当たりにしてかなり驚いた様子となる。
「それじゃ、テストと言う訳ではありませんが、的を破壊した後、元に戻るかを試してみようと思います。破壊する役をやってみたいって方はいらっしゃいますか?」
「…オレがやる。」
「それじゃ火燐、的に向けて何か魔法を放ってみて。」
凛は自分がやっても良かったのだが、何となく誰かに的の破壊をやらせてみたくなり、皆へ尋ねてみる事にした。
美羽達は顔を見合わせたものの、遠慮しているのか誰も名乗りを上げず、10秒程経ってから火燐が手を挙げた。
凛は火燐の方向を向きつつ、左手で的を指し示し、火燐へ魔法を放つ様に促す。
「…エクスプロージョン!」
火燐は的の前に立って目を閉じ、目を見開いた後に右手を突き出し、炎系上級魔法エクスプロージョンを唱える。
すると、火燐の前にある的を中心に、周辺の的を巻き込む様な大きな爆発が起きた。
凛達は複数の的が破壊されたか…等と思っている中、ニーナ達やウタル達、サム達はその威力の高さから、その場にへたり込む者が出る位に驚いた様子を見せる。
そして的が破壊されて少し経つと、まるで逆再生でもしているかの様に的が元の姿に戻った為、凛達は揃って驚きを露にするのだった。