60話
凛達は森から帰還したのが昼前だった事もあり、そのままキッチンに向かって昼食の用意を行う事に。
完成後、凛は外で作業をしていた者達を呼び、皆で昼食を摂り始める。
「…そう言えば、ウタルさんは農地組を選んで下さったのでしたね。ウタルさん、申し訳ないのですが、農地組の皆さんを引っ張る為、代表になっては頂けないでしょうか?」
「それは…ですが、私のせいで皆に背負わなくて良い苦労を背負わせてしまった。そんな私が代表など…。」
「正直な所、やってみなければ分からないのが本音と言う所ではありますね。」
「でしたら…。」
「ですが、先程農地組の皆さんに指示を出したり、ウタルさんがお手本として動いていた事を(ナビから)伺ってます。その方が自然体…皆さんもウタルさんが代表だとやりやすいのではないかと思いまして。」
食事中、凛はウタルの方を向き、まだ決まっていない農地組の代表の話を持ち掛けてみる事にした。
ウタルは村長だった時の失敗から、かなり自信なさげに答えるも、凛に諭された事で辺りを見回す。
『(こくこく)』
「…それに、僕もウタルさんだと色々と言いやすいのが本音だったりしますしね。」
「…皆、ありがとう。凛様、至らない所が多々あると思いますが、その役目、精一杯努めさせて頂きます。」
「ありがとうございます。宜しくお願いしますね。」
「こちらこそ。」
すると、一緒にやって来た村人達だけでなく、妖狐族の者達までウタルの顔を真っ直ぐ見たり、力強く頷いたりして同意を示した。
凛はウインク交じりで話を行い、ウタルは感極まって泣きそうになるのを堪え、そう話してから凛に深く頭を下げる。
そして凛はウタルの元へ向かい、互いに握手を交わした。
昼食後、エルマ、イルマ、篝の3人は、進化に備えて休む為に自室へ向かう。
そして、紅葉、暁、旭、月夜、小夜の5人は、ナビの恩恵を受けて空を飛べる様にはなっているものの、まだ日が浅い事もあって上手く飛べないでいた。
そんな彼女達が飛行訓練をする為、森の外にある平原へ向かって良いかを凛に尋ね、凛はこれを了承する。
そのついでと言うか、凛達のやり取りを見ていたリーリアが、空を飛ぶ事に興味を持った様だ。
視線に気付いた凛がリーリアに話し掛け、ナビとリンクで繋がっている今なら習得しやすい旨を伝えると、リーリアも紅葉達と一緒に屋敷を出て行った。
凛は紅葉達を見送った後、火燐、雫、翡翠、楓の4人は、人の姿をした炎の精、水の精、風の精、土の精…つまり上位精霊の様な存在である事をウタル達やサム達に伝える。
「魔法が使えれば、ここでの生活を送る上で役に立つかも知れませんし、何かに襲われた時の自衛にもなります。属性の適性があり、希望されるのであれば、その方に合った加護を授けますよ。」
更に凛がそう話すと、ウタル達やサム達の中でどよめきが起き、その後話し合いが始める。
何故凛が加護の話をしたかと言うと、昨日ウタル達の村を訪れた際、凛はナナと手を繋いで歩いていたのだが、その時に弱いながらもナナに炎と水の適性があると言うのが分かったからだったりする。
凛は他の者達にも適性があるのが分かっており、心境が変化する切っ掛けを与えた方が良いかと思い、今回話を切り出したと言う流れとなる。
ウタル達、サム達はどうするかを話し合ってはいるものの、今まで魔法を使った経験がなかった為か、その顔は笑みを浮かべながらだった。
その後、凛はウタル達やサム達の熱い視線を受け、適性のある者は火燐達から加護を与える事になった。
全属性に適性のある美羽が(ナビの協力の元で)1人1人の手を触って適性があるかを調べ、適性がある者は火燐達の元へ誘導、火燐達が適性のある者の手の甲に手を添え、加護を与えると言う手順で加護を付与していく。
凛は一旦部屋に戻るから後は頼むと美羽達に伝え、美羽達はそれぞれの答え方で答えて凛はこの場を後にする。
(適性の弱い者を含め)ウタル達は全員が1つずつ、或いは複数の適性があったと喜ぶ。
そして、サム達は妖狐族だからと言うのも影響しているのか、全員が(少なくとも)炎属性の適性があった。
ウタル達やサム達は火燐達から加護を与えられ、魔法が使える様になれたと喜びを露にする。
因みに、これが切っ掛けでかなり強い戦闘集団が出来てしまい、しばらく経った痕に人々から畏れられたりする。
そんな事を知らない凛は、アルファの妹分となるベータを創る為、自室へと向かっていた。
先程凛達が森を散策した際、森林龍よりも下位のドラゴンとなる銀級のランドドラゴン、それとランドドラゴンが進化して金級となった土竜の群れを見つけた。
ランドドラゴンは全長4メートル程で、コモドオオトカゲを少し大きくした様な姿の下位竜。
土竜はランドドラゴンを全長8メートル位にまで大きくし、少しゴツくした様な見た目の上位竜となる。
ランドドラゴンと土竜は群れで行動していた為、凛が以前遭遇した森林龍は、群れからはぐれたのか、元々1体だけで行動していたのかも知れないなと思った。
一行の戦闘にいた凛がそんな事を考えていると、ランドドラゴン10体と土竜4体の群れが凛達に気付き、一斉に攻撃を仕掛けて来た。
凛達は1分程で土竜の群れを討伐した後、肉だけ食用として分けるか少し悩んだものの、他にも食べれそうな魔物を討伐していた。
その為、今回は群れ丸ごとベータの素材として使わせて貰う事に。
凛は1時間半程で作成を終え、凛の目の前にはベータが目を閉じた状態で立っていた。
ベータはアルファと似た顔立ちをしてはいるが、背は少し低く、背中までの長さの銀髪で少し笑みを浮かべた状態となっている。
しかし完成したのは見た目だけで、まだ必要となる無限収納等の機能を何も付けていない為、細かな調整は後でとなった。
凛は目の前にいるエクスマキナにベータと名付け、ベータを起動させる。
「ベータ、おはよう。今はまだ歩く事位しか出来ないと思うけど、調子はどうかな?」
「マスター、おはようございます。…はい、良好です。」
「良かった。もうすぐ僕は出掛けるからさ、その前にベータの事を皆に紹介しようと思ってね。早いとは思うけど起動させて貰ったんだ。それじゃベータ、皆の所に行こうか。」
「畏まりました。」
凛は起動したベータとのやり取りの後に移動を行うのだが、ベータはアルファみたく転ぶ気配はなかった。
その事に凛は安堵するも、では何故アルファは転ぶのかと言う謎が生まれ、歩きながら考え込む様になる。
そんな凛を、ベータは後ろを付いて歩きながら不思議そうに見ていた。
凛がベータと共にダイニングへ戻ると、ウタル達やサム達は明るい表情を浮かべ、互いにどんな属性が扱える様になったかを話す等し、盛り上がりを見せていた。
どうやら、暗い表情を浮かべている者がいない事から、全員が加護を貰えた様だ。
しかし、雫が私の所には4人しか来なかった…と言いながら1人落ち込んでおり、翡翠と楓が雫を慰めていた。
因みに、加護の多い順番だが、妖狐族全員が来た事で火燐がダントツのトップ。
次いで、畑に向かう頻度の高さもあったからなのか、村人を中心とした楓、その次に翡翠、翡翠の半分位だった雫となる。
「美羽ー、戻ったよー。どうだった?」
「あ、マスター、お帰りなさい。皆何かしらで適性があってね、ウタルさん達はバラバラ、サムさん達は全員に炎属性があったんだ。火燐ちゃんが少し忙しそうにしてたよ。…それでマスター、その子が前に言ってたアルファちゃんの妹?」
美羽は苦笑いで雫を見ており(火燐は呆れた表情だが)、凛に声を掛けられた事で笑顔となる。
そして説明していく内に、凛の後ろで立っているベータの事が気になった様だ。
話の最後に体を左へ傾けて凛に尋ね、皆もベータに意識が向いたのか、ベータに視線が集まった。
「うん。美羽の言う通り、この子の名前はベータ。今は少し訳あって不在にしてはいますが、普段は屋敷の外で領地を守るアルファの妹分になります。ベータは作業向きに用意しましたので、戦闘と言う意味ではアルファよりも弱いです。ですが、それでも金級の強さはありますのでご安心下さい。」
『(金級…!)』
「それと、今はまだ使えませんが、後でベータが無限…空間収納スキルを使える様に調整します。ベータは補助と言う形でトーマスさんに付かせ、商店を支える役目になって貰おうと思います。ベータ、あちらにいるトーマスさんが君の上司となる人だよ。挨拶をお願い。」
「宜しくお願いします。」
「…あ、ご丁寧に。こちらこそ宜しくお願いします。」
ウタル達やサム達は話が付いて行けずに呆然としている中、凛が皆にベータの紹介を行い、話の最後にトーマスの方を向いた。
トーマス、ニーナ、コーラルの3人は「アルファだけでなくベータも創ったのか…」と言いたそうな表情を浮かべており、トーマスはいきなり視線を向けられた事で軽く驚いた様子を見せる。
ベータも凛に倣ってトーマスの方を向き、トーマスに対してお辞儀をする。
トーマスは創られた存在から挨拶を受け、少しぎこちない様子ながらもお辞儀を返すのだった。