5話
「………。」
「?」
凛が少女を見た後に固まってしまった為、少女は数メートル歩いて凛の目の前にやって来た。
「マスター?どうかしましたかー?」
「…はっ!?ごめんごめん、美羽があまりにも可愛くてさ。びっくりし過ぎて止まっちゃってたよ。」
「マスター、ありがとうございます♪ 美羽…それがボクの名前ですね!だけど…ボクよりも…マスターの方が…可愛いと思いますよー?」
「それは仕方ないわよ。だって凛ちゃんだもの。」
「そうですよね!」
くりくりっとした目をした可愛らしい少女はそう言いながら体を傾け、未だに呆けている凛の目の前で手を軽く上下させて凛に意識があるかどうかの確認をしていた。
凛は我に返って返事すると、美羽はむむむ…と唸りながら、凛の周りをぐるぐる周りながら答える。
そこへ何故かどや顔で里香が答えると、美羽もそう言って嬉しそうに共感する。
「(ちょっと2人共、何で納得してるのさ。いくらなんでも身内補正が過ぎると思うんだけど…。)」
凛はそのやり取りを見た後、内心そう思いながら2人の事をじと目で見ていた。
「凛ちゃんは相変わらず、自分への評価が低いのよねぇ…まぁいいわ。それで凛ちゃんと美羽ちゃん、だったわね。凛ちゃん達とナビで『管理者』となって、これからは世界の人々を導いたり、生活する為の手助けをして欲しいなって思っているの。」
「「『管理者』?」」
「ええ。一応シロ…じゃなかった。白神と黒神も管理者なんだけど、あの子達は裏方役でね。今の凛ちゃんと違ってナビも眷族もいないから、フォローするのにも限界があるのよ。」
「(だからさっき、シロはすぐには会えないって言っていたのかな?)そうなんだ。里香お姉ちゃんじゃ、その管理者って役目は出来ないの?」
「んー…。私の世界だし、やりたくない訳ではないのよ。だけど昔侵略があった影響か、この世界に歪みが出来てしまったみたいなの。私はその歪みを抑える為の処理をしないといけないから、あまり手が離せないのよ…。困ったわー。」
里香は溜め息混じりでそう呟いた後に佇まいを正し、凛の方を向いてそう言った。
凛と美羽が揃って首を傾げて尋ねると、里香は頷いてから説明を行い、凛は内心そう思った後に頷いて再び里香へ尋ねる。
里香は凛からの問いに困った表情で答え、言葉の最後で後頭部をぽりぽりと掻いていた。
「結論から言うと、現在の冒険者を含めた人達で魔素点…特に世界の中心にある死滅の森に対抗出来るような人材がいないのよ。魔素点にいる魔物はわざわざ魔素点から出てまでして、他の所にある魔素を得る必要がないから、今自分がいる魔素点から出ようとはしないの。私達がある程度間引いてるから今の所は人的被害はないのだけれど、それでも魔素点にいる魔物は増える一方なのよ。」
「その死滅の森って所があるせいで、お姉ちゃん達の手が全然足りてないんだね。」
「そうなの。昔は一攫千金目当てに死滅の森の魔物を狩ろうとする高位の冒険者が多かったのだけど、広大な森の中で次々に現れる魔物による冒険者の犠牲が多過ぎたみたいでね。それが影響して死滅の森に挑む人が段々と減って来たのと、死滅の森と比べて規模が小さくて弱い魔物が出る、他の魔素点でも満足する様になっちゃったみたいなの。昔は冒険者ランクで言う神金級もそこそこいたんだけど、今は安全を重視し過ぎた影響で、神金級どころか魔銀級が数名しかいないのよ。」
「守りに入るとって聞いた事があったけど、重視し過ぎるとそうなるんだ…。」
「本当よね…。まぁそれが原因で、死滅の森どころか他の強めの魔素点でも人手不足な状態になっちゃってね。それを補う為に、周りの人々に気付かれない様にウェル爺達に負担してもらってる様な状態だし、私はこの世界そのものを守らないとだからあまり動けないの。本当は凛ちゃんを巻き込みたくはなかったんだけど、私に近い存在で管理者の役職に向いてそうなのが凛ちゃんしかいなくてね…。」
「あー…確かに。上のお姉ちゃん達って、自分が前に立って何かをするってタイプじゃないもんねぇ…。」
「そうなのよ。理彩姉さんは私達家族には優しいんだけど、それ以外には物凄く厳しいキャリアウーマンだし。莉緒姉さんは猫みたいに自由と言うか、かなりのマイペースなのよねぇ…。」
「だよねぇ…。」
「「ははは…。」」
里香は凛へそう説明しながら段々とげんなりとした表情となり、説明の最後に右手で額を押さえて俯いた。
凛は里香の説明を受ける内に段々と難しい表情になり、里香の説明の最後を聞いて遠い目をする。
そして姉弟揃っての苦笑いとなってしまう。
「そんな訳でとりあえず1ヶ月間、隣の大広間で体を慣らしたりとか色々試したりしてみて頂戴。私も一旦仕事に戻るから、また1ヶ月後に会いましょう…。と、その前に。」
「わぷっ…!」
「はぁーっ!これも久しぶりだわぁ…。次に会うまで、凛ちゃん成分をしっかり補給しておかないとねぇ…。」
里香は凛の元へ来て再びぎゅっと抱きしめる。
凛はいきなり抱きしめられた事に驚くが、里香はお構いなしとばかり凛の頭の上に顎を乗せたり凛の髪に顔を埋めてすーはーすーはーと呼吸する等して、今の時間を堪能する様に言った。
どうやら里香は謎の凛の成分と言う物を補給する位に、重度のブラコンの様だ。
3分後…
「良し!取り敢えずは大丈夫だわ。ありがとね、凛ちゃん。また1ヶ月後に会いましょう。…ウェル爺、美羽ちゃん、ナビ。私がいなくなった後は任せるわね。」
「うむ、承知しましたぞ!」
「はいっ!」
《畏まりました。》
里香は充電が完了したのか、気合いの入った表情でそう言って凛の頭を撫でる。
そしてマクスウェル、美羽、そして斜め上へ向けて伝えると、それぞれから返事が返って来る。
それを里香は満足そうに頷いた後、傍に控えていた瑠璃と共にどこかへ転移したのだった。