568話
アイル達はボス部屋の中に入り、少し進んだ所で全体が明るくなると、ボスの存在が露になる。
部屋の中央には、全身が黄金色の羽で覆われ、高さ8メートル程ある雄の鶏が立っていた。
その鶏は灼熱の如く紅く染まった鶏冠、それと同じく真っ赤に染まった肉髯を持っており、尾は鶏と同じではあるが、先の方にヒラヒラとしたリボン状のものが幾つも生えている。
「コケーーーーーッ!!」
その巨大な鶏はアイル達を視認すると、軽く飛び上がりつつ、羽をばたつかせながら大きな叫び声を上げた。
「うぉっ!…に、鶏…?」
《そう言えば、アイル様はご実家で養鶏のお手伝いをされていたのでしたね。あちらに見える鶏はヴィゾーヴニルと申しまして、黄金色の羽を持った鶏となります。》
黄金色の羽を持った鶏こと、ヴィゾーヴニルが軽くばたついた事で、激しい突風が生じる。
ココ達は維持していた障壁によって影響を受けなかったが、1人前に出ていたアイルは、右手で顔を、左手でスカートの前部分を押さえ、風が止むのをやり過ごす。
そして風が止み、左目だけを開けながら呟き、ノーデンスが答えた。
「何でその事を…あ、そうか。紅葉様に助けてもろた後、報告しに村へ里帰りしたんやった。きっとそん時やな。」
《はい。それと、今回と次のボスに限定させて頂きますが、通常の報酬とは別に、部位破壊報酬と言うのもございます。》
「部位破壊報酬?初めて聞く単語やな。」
《はい。今回のヴィゾーヴニルの場合ですと、鶏冠、嘴、両腕、尻尾の4箇所が破壊可能となっておりまして、指定された箇所が攻撃を行わなくなるのが破壊された合図となります。ただし、腕は片腕だけでは不可、尻尾も7本全てを破壊しなければ部位破壊完了とは見なされませんのでご了承下さい。》
「よー分からんけど、鶏冠、嘴、両腕、尻尾を攻撃して破壊すれば、報酬が上乗せされると考えればええんか?」
「ですね。通常とレアに加え、全ての部位破壊を終える事で、最高で報酬が4点追加されると考えて頂ければ。」
「よっしゃ!折角やし、狙ってみることにするわ。」
その後もアイルはノーデンスと話し合いを行い、アイル軽くやる気の表情でヴィゾーヴニルの元へ向かう。
5分後
「もう嫌やーーー、こんなんうちじゃ無理やってーーー!!もーお家帰りたいーー!」
アイルは先程のやる気になった表情から一転、泣き顔を浮かべ、左手でスカートの前を押さえながら、ヴィゾーヴニルの攻撃を魔力障壁で防いでいた。
と言うのも、ヴィゾーヴニルは鶏の見た目にも関わらず、素早いだけでなく自由に空を飛び回り、その度に強風を引き起こすからだ。
アイルは強風の影響でスカートが捲られない様にするので必死となり、最早戦闘どころではなくなっていた。
サティもアイルの今の心境が分かるらしく、ここが展開した障壁の中にいるにも関わらず、スカートを手で押さえながら応援していたりする。
ヴィゾーヴニルは他にも、空中から地上に向けて羽を飛ばしたり、
急降下からの蹴りを仕掛けたり、
急接近した後に嘴で突っついて来たりと言った感じの直接攻撃。
それと口から光属性のブレスを吐いたり、鶏冠の部分からは炎のレーザーやビームの様なものを飛ばしたり、両腕の翼からかまいたちの様に良く斬れる風を飛ばしたり、尾の先にあるリボン状のものを操作して突き刺そうとしたりと、実に多彩な攻撃方法を持っている。
「はぁ…。サーシャ、私はここを離れる。後をお願い。」
「あら?でもそれだと…。」
「うん。だからサーシャはさっき手に入れた…この風操作(大)で皆を守ってて。残る1つはアイルに使おうと思う…皆、それで良い?」
ココは嘆息し、首だけをサーシャの方に向けて話すと、サーシャは軽く首を傾げながら答える。
ココは頷いた後、自分の考えを述べて皆を見回し、サティ達はココの言いたい事を察したらしく、互いに見合って承諾の意を伝える。
ココはサーシャ達に説明しつつ、無限収納から風操作(大)のスキルボール(アイル達の中でそう呼ぶ事になった)を取り出し、サーシャに渡す。
ココがサーシャに渡したスキルボールは、74階層のスフィンクス、それと77階層のフレースヴェルグからそれぞれドロップしたものだ。
ココはパーティーの中で遊撃の位置におり、素早さもパーティーの中でダントツトップと言う事から、もしもの時の為に今まで得ていたドロップ品、そのほぼ全てを預かっていた。
サーシャはココからスキルボールを受け取り、早速自らの胸に押し込んで風操作(大)を習得。
それからすぐに2人は頷き合い、ココが障壁を解除して走り出すと、サーシャが代わりに障壁を展開し始め、ココは軽く確認してアイルの元へ向かう。
因みに、サーシャがスキルボールを胸に当てた際、ベックがガン見した事で、両頬にサティとココからビンタを貰う羽目に。
ベックはサティならまだしも、何故ココにまでビンタを貰ったのかが分からないと言う顔をしており、ココはココで少し気まずそうな表情を浮かべていたりする。
「アイル。」
「…ココ?…|アイスウォール・ディケイド!え、ここに来てるって、サティ達は大丈夫なん?」
「うん。…これは風操作のスキルボール。これと同じものをサーシャに渡して障壁の展開を頼んだ。」
「あー、さっきドロップしとったやつかー。そっかー、サーシャに使うたんやな。」
「そう。それで、これはアイルの分。皆からの承諾は既に得ている。」
「ほんまかー!!これ、うちが使って良いん!?」
「うん。その為に来た。」
「ありがとー!物凄う助かるわー!」
「私は今から部位破壊を試みてみる。その間、アイルはスキル習得と操作に専念してて。」
「分かったでー!」
ココはヴィゾーヴニルの攻撃を掻い潜りながらアイルの元へ向かい、後ろから声を掛けた。
アイルは涙を浮かべながら後ろを振り向いた後、すぐに前を向いてアイスウォール・ディケイドを唱え、分厚い氷の壁を生成してからココと話をし始める。
話が進むに連れ、ヴィゾーヴニルの攻撃で氷の壁が削られたり溶かされたりしていったが、アイルに笑顔が戻り、やる気を漲らせてもいった。
やがて、氷の壁が光属性のブレスによって完全に破壊され、ヴィゾーヴニルが続けてブレスを吐こうとした所、顔の真横に移動したココによって蹴り飛ばされてしまう。
更に、ココが天歩を使って瞬時に移動先へ向かい、今度は上方向に蹴り上げた。
それからココは天歩を駆使し、空中でヴィゾーヴニルに殴る蹴ると言った攻撃を仕掛けていく。
すると、鶏冠は削られ、嘴にはひびが入り、両腕からは羽がなくなり、尻尾は先が欠けて普通の鶏の様になっていった。
3分後
「…これ、ほんまに生きてるんか?」
「大丈夫、手加減はしておいた。」
「完全に死にかけやん。さっきまで逃げ回っとったのに、うちが止めを刺すとか、お前何しに来とんねんって突っ込みが入りそうで怖いんやけど…。」
「それも大丈夫。私達、基本的にアイルと一緒に走って、ドロップ品を回収してるだけ。」
「言われてみると確かに…。なら、一応はええんか?」
「ん。」
ヴィゾーヴニルは横に倒れており、泡を吹きながらピクピクと足を動かしていた。
アイルは微妙な顔でヴィゾーヴニルを指差しながらココに話し掛け、ココが満足げな様子で答えると、アイルは複雑な表情で納得しながら止めを刺す。
ヴィゾーヴニル討伐後、部屋の奥に赤色の宝箱が3つ、銀色の宝箱が2つ、金色の宝箱が1つ出現し、合流して開ける事に。
赤色の宝箱には、確定報酬である鶏肉の塊とレアドロップ品の金色の卵、それと金色の羽の絵が乗った透明な球が、
銀色の宝箱には、金色のベルトと金色のサークレットが、
金色の宝箱には、赤色の宝箱の絵が乗った透明な球がそれぞれ入っていた。
《開いた順番で説明していきます。鶏肉の塊と卵は確定とレアドロップ品、金色の羽の絵が乗った球は敷布団、掛け布団、枕が作れる量の羽が入っております。羽は保湿・保温・軽さに優れておりますので、ダウンジャケット等にするのも有りですね。》
「そない沢山の羽が入っとるんか。」
《はい。この部屋の手前で使った場合、全て飛ばされてしまうでしょうね。》
「いや、楽しそうに言わんでや…。勿体ない感が半端やないやろ…。」
《銀色の宝箱に入っておりましたベルトは、筋力が2割、素早さが1割向上する効果がございます。サークレットは女性が破壊すると入手出来る仕組みとなっておりまして、詠唱短縮、魔力自動回復、並列魔法使用可能の効果があります。》
「ほー、どっちも便利な装備品なんやな。」
《はい。最後の金色の宝箱に入っておりましたのは、ドロップ率が5分上がる効果を持つものです。》
「…え?」
《ココ様は簡単に破壊しておられましたが、入手先となる嘴は硬く、他と比べて部位破壊がしにくい箇所となっております。》
「そ、そうなんや…。」
アイルはノーデンスと宝箱の中身についての話を行うも、最後には引き攣った表情となる。
肉は1キロの重さで経木に包まれたものが5つ、卵は通常のものよりも1回り大きいのが10個入ったパック状のものだった。
ノーデンス曰く、卵はあくまでもレアドロップ品であり、何故雄鶏なのに卵がと突っ込んではいけないとの事。
それと、部位破壊報酬の入手確率は3割程となっている為、破壊したからと言って必ずしも手に入る訳ではない旨も伝えられる。
その後、アイル達は入手した装備品についての話し合いを行い、金色のベルトがサティへ行きそうだったのを、(嫌な予感がした)ベックが半ば強引にココを推薦してココに、金色のサークレットは魔法がメインのアイルとなった。
しかし、ドロップ率アップのスキルボールに関しては、話し合う余地すらなくアイルとなり、アイルは涙目になりながらスキルボールを受け取るのだった。




