559話
「…暑いわね。」
「うん、暑いね。」
「暑いよねぇ…。」
アイル達は41階層に続く階段を降りた直後、サティ、イーノック、アルバートの3人が暑がる素振りを見せながら呟いた。
「…いや、まぁ、うちらは少し特殊やし。多少の暑さ寒さ位やったら全く問題ないんよね。」
「ゴメン…。」
「(暑そうにしている)サティちゃん達には悪いと思うんだけど…。」
そして、サティの視線が平然としているアイル達の方を向いた為、アイルは苦笑いで、ココとサーシャは申し訳なさそうに告げる。
「…いえ、こちらこそごめんなさい。ただ、アレを見ていると無性に腹が立ってしまって…。」
「ああ…。」
サティはアイル達に(嫌な事を思い出させたと言う意味で)気を遣わせてしまったと反省し、視線を別な所へ向ける。
アイルはそんなサティを見て納得した様子となり、彼女と同じ方向を向いた。
「おーい!皆何やってんだー!?早く先に進むんだろーー!!」
サティ達の視線の先では、ベックが一人だけ元気な状態でこちらの方を向き、早く来いと言わんばかりに手を振りながら叫んでいた。
ただし、ベックはフードを被っており、ノスフェラトゥの効果により快適状態でいる為か、汗1つかいていなかったりする。
「…ベック、取り敢えず殴っても良いかしら?」
「僕も軽く良いかな?」
「何で!?」
アイル達は歩いてベックと合流した後、文字通りベックが涼しい顔をしているのにイラッと来たらしく、サティとアルバートの2人はそれぞれ汗を流しながら話す。
しかし、ベックは何故サティ達が頭に来ているのかが全く分かっていないらしく、驚いた様子を浮かべていた。
「皆、(ベックを叩いても)疲れが増えるだけだから止めようよ…。」
「…そうね。何だか馬鹿らしくなって来たわ。」
そこをイーノックが宥め、サティは暑さで溜飲が下がったのか、ベックをひっぱたこうとした右手を下げる。
それから、サティがやはり納得いかないからと言う理由で、ベックからノスフェラトゥを剥がそうとし、ベックはそれを阻止する為に抵抗すると言う、微妙にしょうもない争いが始まってしまう。
今度はそこをサーシャとアルバートが宥め、サーシャは風操作を用い、自身を中心に涼しい風を一帯に送り始める。
続けてアルバートが光系上級魔法『プリズムカーテン』を周囲に展開し、キツい日差しも気にならない位に緩和された事で、サティの機嫌が一気に良くなった。
プリズムカーテンはある程度のものを反射、或いは屈折する形で相手からの攻撃を防ぐ防御魔法だ。
ただし、使い方によっては魔法だけでなく、矢や投擲武器等の遠距離攻撃も防ぐ事が可能。
それと、昔から太陽の日差しも防ぐと知られていた為、今ではアゼルでリゾートを満喫する際にも利用されていたりする。
アルバートとサーシャは維持する係として戦闘に参加出来ず、サティはサーシャの近くを離れたくないと言い、イーノックも遠慮がちなものの似たような感じだった。
その為、自然と戦闘はアイルとココに任せる形になり、宝箱はベックが開けると言う役割が決まると(本人はかなり嫌そうにしていたが)、一行はボス部屋に向けて砂漠を突き進む様になる。
41~43階層では、金級のバジリスクを魔銀級へ進化させたバジリスクキング、
同じ魔銀級の強さであるスカーレットアントを伴い、神輝金級中位の強さであるスカーレットアントクイーン(夜になると、対であるシアンアントとシアンアントクイーンに変わる)、
それと神輝金級の強さを持つ(頭と尻尾にドラゴンの頭を持つ)アンフィスバエナ、スフィンクス、巨大な鳥の魔物であるジズが、
44~46階層では上記に加え、神輝金級の強さで幾つもの頭を持つドラゴンであるラードーン、神輝金級中位のベヒーモスキングや、蠍の魔物であるパピルサグが、
47~50階層では更に、同じく神輝金級中位で、全身至る所が白銀色の剣となっているセイバードラゴン、ミノタウロスを進化させたカルコタウルス、神輝金級で馬の魔物であるグラニが姿を現した。
アイル達が移動を始めてすぐ、バジリスクキング達が攻撃を仕掛けて来た。
その際、主力攻撃である石化の視線を向けて来るも、アイル達は元々効かない上に避けられていた。
バジリスクキング達は一行の中で効果のありそうなサティ達に視線を移すのだが、プリズムカーテンの効果であっさりと防がれてしまう。
それから割とすぐに討伐される形にはなったものの、バジリスクキング達が不思議そうな様子で仲間同士で見合う姿を、アイル達はほっこりとしながら見ていた。
やがて、アイル達が移動を開始して1時間半程経ち、一行は50階層にあるボス部屋の前に辿り着くのだった。




