556話 156日目
156日目
ミヨやハンゾウを含めた村人達は、終始落ち着かない様子だったものの、凛の勧められるがまま屋敷に泊まった。
翌朝、ミヨは割り当てられた部屋で目覚め、上体を起こしたタイミングで凛が来訪し、コップ一杯分の黄金の林檎のジュースを渡された。
そして、今日から数日の間、食事の度にジュースを渡すので、それ以外は部屋で安静にする様に伝える。
一方のハンゾウだが、名前の通り忍者に憧れを持っているのだが、昨晩ステラがねこにん隊…つまり忍者の隊を率いる隊長と知る。
ハンゾウは土下座でステラに入隊を申し込み、ステラはこれを承諾。
ステラはハンゾウ以外にも入隊を希望した猫科の獣人達もまとめて受け入れ、今日から教育を施していくとなった。
他の獣人達は丞やミゲルに預け、各々適性がある職場や鍛練へと割り振られる事に。
因みに、雫は昨日、夜遅くに帰って来た為にミヨと会えず、凛から新しく人を迎えたとしか聞いていなかった。
その為、ミヨに対してそれ程関心を示さずにいた。
しかし、朝食時に初めて対面した際、ミヨの説明を受けた雫が「…!ご、合法ロリ…だと…」と呟いた事で火燐から拳骨を貰い、涙目になっていたりする。
所が、雫は全く懲りておらず、たんこぶを作った状態でハンゾウを『ニャンゾウ』と呼び、火燐、ハンゾウ、ミヨの3人からかなり微妙な顔をされていたりする。
午前8時頃
ダンジョンエリア内にて
エリア内には既に大勢の人達が集まっており、受付前にいたアイル達、それと火燐や雫の事を見ていた。
「アイル、分かってるな?今日中に超級ダンジョンをクリア。それがお前への罰であり、与えた課題でもある。」
「ん。当然、出来なかった場合はお仕置き。」
「うう…分かってますよぅ。やればええんやろ。やれば。」
「…雫。アイルの奴、昨日の扱きじゃ足りなかったらしいぜ。」
「ん。アレックスやゼノン達は楽しんでたと言うのに…情けない。それじゃ、今からでも…。」
「わーー!うち、精一杯やらせて頂きます!!ですから昨日のアレは勘弁して下さいー!このとーりですー!あのゴブリンの相手はもう嫌なんですー!」
火燐が腕組みをしながら、雫は両手を前で組んでいる状態でそれぞれ話し、アイルが相当低いテンションで答えた。
火燐は呆れた様子で隣にいる雫へ話を振り、雫は澄まし顔のままで告げようとすると、アイルは話しながら土下座し、最後には体を震わせていた。
アイルはどうやら、昨晩の扱きがかなり堪えたのか、深夜前に帰って来てから「おかしいって…何でゴブリンにあんな動きが出来るん…?」等とぶつぶつ呟いたり、寝ている時もうなされたりしていた。
『(昨日、アイルの身に一体何があったんだろう…。)』
その為、イーノック達や客達は土下座するアイルを見て、複雑な心境となっていた。
「…と言うか、各国の代表達が戦闘狂ばかりとか、正直頭がおかしいんじゃないか思うのは、うちの気のせいやない筈。」
「アイル…お前、冒険者ん中で最も強い位っつっても、一応は一般人だろ?そんな事言ったら不敬罪で牢屋にぶち込まれんぞ。」
「…あ。」
アイルは恐る恐ると言った感じで頭を上げて呟き、火燐が呆れた様子でダメ出しを喰らった事で言葉に詰まってしまう。
「…話を戻すぞ。戦闘は最低限。余計な探索はせずに交代で(サーチを使って)真っ直ぐ進めば、10階進むのに1時間は掛からねぇ筈だ。」
「ん。それにアイル、サーシャ、ココの3人には新しい力も与えた。いざと言う時、それを使えばエリアボスだろうが瞬殺。」
「…その事なんですが、ホンマに貰って良かったんです?あまりにも畏れ多い様な…。」
「ん。問題ない…と言うか、『あらあら。心配してくれなくても大丈夫なのに。むしろ宣伝の為にバンバン使ってくれて良いからね、うふふ。』って話してた。」
「ウンディーネ様ー!?」
「他も似た様な感じだったぞ。」
「うわー、ホンマかいなー…。」
「…さて、ここまでお膳立てしてやったんだ。まさか、出来ねぇなんて言わねぇよな?」
「は、はいぃぃぃ!そ、それじゃ、うちらはこれで失礼します!!」
アイルは火燐と雫から煽られてかなり驚いたりした後、最後は火燐達から逃げる様にして受付へ向かい、そのまま階段を駆け降りていった。
「はぁ…サーシャ、ココ。アイルを頼んだ。」
「「分かりました。」」
「イーノック達もだ。またアイルの奴が悪さしようとしたら、オレや雫の名前を出してくれて良いからな。」
『はい!』
雫は溜め息交じりにサーシャとココへ、火燐はイーノック達の方を向いて話し、サーシャ達はそれぞれに返事をしてアイルを追って行った。
「さ、て…んじゃ、オレ達は管制室に向かうとしますかね。」
「ん。お菓子でも食べながらアイル達の戦い振りを観察する。」
「お、良いな。それなら朔夜も呼んでやるとするか。」
「朔夜の場合、モニターを観ながらひたすら食べてそう。」
「言えてら。」
火燐と雫はイーノック達を見送った後、それぞれそう話しながら従業員スペースの方へ歩いて行く。
そして扉の向こうへ移動し、転移魔法でダンジョンマスタールームに移動した。
「あら、いらっしゃい。」
「よ、翠。邪魔するぜー。」
「アイル達がダンジョンを進む様子を(大画面モニターで)観に来た。勿論寛ぎながら。」
「あらあら。2人共、何だかんだであの子達に目を掛けてるのね。」
「「馬鹿弟子だから(な)。」」
「(くすくす)そう。分かったわ。」
「おかーさん、ここはー?」
「ここはね…。」
火燐達がダンジョンマスタールームに入ると、翠が桜にダンジョンに関する勉強を教えている所で、金花と銀花の姿はなかった。
金花と銀花は普段、朝から夕方までの間は農業の指導の為に世界中を回っており、今日は神聖国内の街で指導を行っている。
翠は火燐達が転移した事に気付いて声を掛け、2人はそれぞれ翠へ挨拶を行う。
翠は2人の仲の良さに笑いを浮かべ、桜が尋ねた質問に答えていくのだった。
雫「ニャンゾウ。
火燐「………。
ミヨ「………。
ハンゾウ「………。




