54話
凛はゴーガンの部屋を出た後、宿直室にあるポータルを介して先程建てた小屋へ移動すると、屋敷の前で美羽達が待っていた。
どうやら彼女達は屋敷の散策を終え、凛を迎えに来た様だ。
「お待たせ。それじゃ、皆で(作物の)種を蒔こうか。」
そして凛が美羽達の方へ向かいつつ、右手を挙げながら告げると、美羽達はそれぞれの言葉で返事したり、頷いたりして応えた。
凛は美羽達と共に北西エリアへ向かい、無限収納から玉ねぎの種を取り出す。
すると、美羽達は種そのものを見るのは初めてらしく、揃って不思議そうにしていた。
凛は軽く苦笑いを浮かべ、今取り出したのは玉ねぎの種だと伝えた後、
北西エリアには玉ねぎ、人参、じゃがいも、サツマイモと言った根菜類を、
北東エリアには大豆、キャベツ、レタス、とうもろこし、苺、メロンを、
南東エリアには林檎、桃、オレンジ、レモン、葡萄、それにカカオを加えた、狭いながらも果樹園を、
南西エリアには小麦や米と言った、主食や様々な料理に使える作物を育てていくと言う内容の話を、空いた右手を使って指差しながら告げる。
続けて凛がそれらの種や苗等を一定の間隔で植えて欲しいと頼むと、美羽達は了承し、凛から玉ねぎの種を受け取って植え始めた。
凛が美羽達に渡した玉ねぎの種は、昨晩までに万物創造やアクティベーションで用意したものだ。
凛は用意した種を無限収納内で保管しており、次々に種を取り出しては美羽達に渡しつつ、自分も種蒔きに参加すると言う流れになる。
やがて、米以外の作物を一通り植え終え、凛は10分程時間を掛けて水田を用意し、その場で苗を創った。
その苗を美羽達に渡し、すぐに苗を創っては美羽達の中の誰かに渡し、再び苗を創るを繰り返す形で植え進めていく。
それからしばらくして苗を植え終え、美羽達は互いに労いながら思いっきり背伸びをしたり、肩や首をこきこきと鳴らしたりしていた。
そして作物に水を与えるとなり、雫がその場で水を生成しようとする。
「あ、雫、ちょっと待って。8割の作物に対しては普通に生成した水で良いんだけど、1割はこっちの水を、もう1割はこっちの水を与えてみようと思う。」
凛は雫に待ったをかけ、そう言いながら自身の左斜め上と右斜め上に生成した水の塊を指差す。
「…? 同じ水に見える。けど、込められてる魔力の濃度が違う…?」
「そうなんだ。与える水を変えると、出来上がりの品質も変化があるのかなって思ってね。」
「ん…面白そう。」
雫は首を傾げながら呟くも、凛の説明を受けて納得顔となり、その様子を見た美羽達は興味津々と言った表情を浮かべていた。
凛が自身の斜め上方向に生成した水は、どちらも生活魔法で出した『生成水』を用いたもの…と言う点は共通している。
しかし凛が最初に指差した左上の水には、その数倍…初級魔法よりも少し多めの魔力を、
そしてもう片方である右上の水は、通常の何十倍…それこそ上級魔法と同じ位の魔力を注いで生成したものとなっている。
凛はそれらの水を作物に与え、作物にどの様な変化を齎すかの実験を行う事に。
話は変わるが、凛は昔から様々な料理を作っては、少しでも身長や体格が良くなる事を期待して、普通の人より少し多めの量を食べ続けている。(結局凛が望む結果にはならなかったが)
そしてどちらの意味でも和食…その中でも特にお米が1番好きだったりする。
しかしリルアースへ来てすぐ、この世界には米がないとナビから知らされ、悲しみのあまりその場で崩れ落ちてしまった経験を持つ。(その様子を見た美羽とマクスウェルが何事かと思い、心配そうな表情で凛の元へ駆け寄ると言う事態に)
そして味噌や醤油はおろか、調味料は砂糖、塩、胡椒等のスパイス位しかないとも聞かされた為、凛はやる気を出し、現代日本にある調味料や料理をリルアース中に普及させる事を決める。
マクスウェルとの修業中や地上に降り立った後、肉じゃがや豚のハーブソテー、ジャークチキンと言った肉料理を、
香草焼きやカルパッチョ、酒蒸し、鮪の漬けや鉄火丼や海鮮丼、サーモンの赤ワインソースと言った感じで、魚の切り身に手を加えた魚料理を、
それとミネストローネや野菜の卵とじ、かき揚げ(丼)、サツマイモの炊き込みご飯、茄子の煮浸しと言った野菜中心の料理をマクスウェルやエルマ達に出してみると、いずれも好評でお代わりが来る程だった。
そしてガイウスやゴーガンに肉や魚の缶詰を食べて貰った時も反応が良かった為、凛は今ある食事処に頑張って料理を覚えて貰わないとかな?と考えをシフトする様になっていく。
因みに、生魚は制限に引っ掛かる為生成不可、〆られた後の状態でも何故か不可だった。
それと、料理で使用した日本酒とワインをマクスウェルが気に入り、瓶に入った状態のものを食事後に渡したり、サルーンの出店や食事処で出された料理を購入し、屋敷に戻ってから食べた事がある。
しかし料理は下処理がしっかりとされておらず、肉の臭みやえぐみ等が主張し過ぎた為、危うく吐き出しそうになったりする。
その後、全作物の内の8割の水を雫が受け持ち、火燐、翡翠、楓で手分けして、
1割を美羽が受け持ち、魔力を込める際のさじ加減等を凛に尋ね、
残る1割を凛が受け持ち、上級魔法位の魔力を注いだ水を作物に与えながら美羽にアドバイスすると言う形で作業を行う。
いずれも如雨露を用いながら水を与えるのだが、火燐、翡翠、楓は楽しそうに、雫は淡々と、美羽はやや四苦八苦した様子を、凛はそんな美羽を見て苦笑いを浮かべていた。
そんなこんなでもう少しで昼になろうとする頃に作業を終え、凛達が屋敷に入ってダイニングへ向かうと、皆が寛いでいる中に篝が座っていた。
凛は篝の存在に気付き、彼女へ話し掛けようとする。
するとナビから、篝は10分程前に起き、鉄級の妖狐から銀級の仙狐に進化したと言う説明を受ける。
凛が篝にお祝いの言葉を述べると皆も祝福モードとなるも、篝は褒められた経験がほとんどないからか、わたわたとした様子になってしまう。
そんな彼女を皆で宥め、一緒に昼食を摂るのだった。