552話
「皆、お疲れ様。モニター越しに、お客さん達がアイル達の様子を見てたんだよ。」
アイル達は困惑したままでいると、前方から凛が現れ、アイル達を軽く労ってから事情を説明し始める。
凛の後ろには美羽とステラの姿があり、2人はアイル達に向け、笑顔で手を軽く振る仕草を取っていた。
すると、サティが美羽の所へ、ココはステラの元へ向かい、手を重ね合ったり話す等して喜び合う。
アイル達が魔導列車エリアの探索を始めてすぐ、凛はアイル達が遅くなるとの報告をノーデンスから受けた。
その為、凛達はいつもより少し早く夕食を済ませ、先程ホズミモールへ到着したと言う流れになる。
「あ、凛様。…え、何でここに…モニター越し?」
「そう、モニター越し。ノディから、ダンジョンエリアにいるお客さん達がアイル達の動きをお手本にしてるって報告を受けてね。それならダンジョンの宣伝を兼ねてって事で、店中にあるモニター全てをアイル達の映像に切り替えたんだよ。」
「え?つまり、少なくともここにいる人達は、うちらがダンジョンを進む様子を観てたって事なん?」
「そうだね。店にいるお客さん達はずっとモニター越しにアイル達を観続けてたし、今日の所は全員ダンジョンから引き上げたからアイル達が最後って訳。けど、僕の配下以外は(ノーデンスの存在を)知らないからね。結構な頻度でアイルが独り言を喋ってる…と言う風に見られてるんじゃないかな。」
「うわー…うち、たまに叫んどったし、完全に痛い人って感じやん。」
アイルは驚きを露にしながら凛に尋ね、凛は笑顔で答えるとアイルは暗い表情となり、その場で崩れ落ちた。
「(くすくす)サーシャとココはそれが分かってたから、アイルのフォローに入ってくれてたんだよね。僕達は30分位前にここへ来たけど、その前から色々とノディから報告は受けているよ。」
「…アイル、貴方やっぱり忘れてたのね。」
「…アイル、単純過ぎ。」
「ぬがーーーーっ!!2人共、何でそない大事な事、うちに教えてくれんかったんや!?」
「「…? …その方が面白そうだから。」」
「よっしゃ、その喧嘩うちが買ったる。晩ご飯の前に、3人で語り合おうやないの!」
凛は軽く笑った後、アイルからサーシャ達の方を向いて話し、サーシャとココの2人は呆れた様子でアイルの方向を向いて呟く。
アイルは両手で頭を抱えてから立ち上がり、右手の人差し指でサーシャ達を指差して叫んだ。
サーシャとココは互いに見合い、全く同じ答えを告げた事でアイルはにやりと笑い、頬を引くつかせながら右の拳を左の掌に当てて話す。
ガシッ
「…ん?」
「ア・イ・ルぅ♪」
「うぉ!いきなり誰や…って、か、火燐様!?」
「ん。私もいる。」
「雫様まで!?…お2人共、いきなり現れてどうしたんです?」
そしてアイルががに股で歩き出した所、いきなり後ろから肩を組まれた事で、不思議そうな声を上げた。
そしてアイルが後ろを振り向こうとするよりも前に、アイルの右隣から火燐が笑顔で、左隣からは雫の淡々とした声が聞こえた為、アイルはかなり驚いた様子となる。
アイルは何となくダメ出しをくらうと思ったらしく、恐る恐ると言った感じで2人に尋ねた。
「ノディから聞いたぜ?アイルお前、大活躍したんだってな。」
「ん。師匠として鼻が高い。」
「い、いやぁ…そんな…大活躍って程では…。」
「…で、だ。アイル。お前…何かオレ達に言う事があるんじゃねぇか?」
「え、言う事…ですか?い、いえ、うちは特に…。」
「…アイル。貴方、本気で言ってる?」
「え…?」
「は…?」
「………。」
火燐は笑顔のまま、左手でアイルの左肩をバシバシと叩きながら、雫はどや顔でそれぞれ話すと、アイルは照れ臭そうに答える。
しかし、変わらず笑顔でとは言え、明らかに火燐がアイルに尋ねる際の声のトーンが変わった事で、アイルは困惑した様子となる。
そして雫がアイルに尋ねても答えらしい答えが返って来なかった為、今度は火燐と雫が驚き、大丈夫かこいつ?と言いたげな表情を浮かべていた。
「…アイル、僕はさっき、ノディから色々と報告は受けているって言ったよね。それはつまり、最後だけじゃなく最初もって意味だよ。」
「…え、最初?…!!ま、まさか…。」
「あーあ、ダンジョンはオレ達が苦労して創ったってのに、楽して攻略しようとする奴がいるなんてなぁぁぁ。しかもそれが身内からとは…残念だぜ。」
「いや、あの、あれは言葉のあやと言いますか、決して本気と言う意味では…。」
「まーまーまーまー、詳しい話はあっちで聞くからよ、ひとまずオレ達は移動しようや。…ってな訳で、アイルはしばらく借りてくぜ。」
「あ、はい。分かりました。」
「ん、良い返事だ。イーノック、お前はこの先も真っ直ぐ育ってくれよな。」
「あ、ありがとうございます…。」
アイルは凛から説明を受け、本来ならば出ない筈の冷や汗を流し始める。
どうやら、火燐と雫がここにいると言う事は、間違いなく碌な目に合わないと悟った様だ。
そうしている内に火燐と雫から(少し大げさに)悲しそうな様子でそれぞれ告げられると、アイルは大量の冷や汗を流し、目を泳がせながらも何とかこの場を乗り切ろうと言い訳をし始める。
しかし、火燐が話しながらイーノックの頭を撫でる等した後、アイルと肩を組んだまま状態で歩き出し、火燐から少しだけ遅れる形で雫も付いて行った。
「あの、火燐様、雫様。移動するってどこにです?」
「ん?良い所だよ。」
「良い所?そんな場所…ん?この先って、従業員が休んだりする場所やったよーな…あれ?もしもーし!無視?お2人共無視なん?うちの話聞いて…。」
バタン
アイルは移動中、何度も火燐と雫の方を向いて尋ねるも、雫は黙ったまま、火燐も漠然とした答えしか返さなかった。
そして従業員スペースに大分近付いた所で、アイルが不思議そうな様子で2人に尋ねる。
しかし問い掛けられた側である筈の火燐達は何も言葉を発さず、アイル1人が喋り続けた状態で扉が閉じる。
━━━━え、火燐様。何で部屋に入ってすぐポータルを…え、今から行く?うち、家に帰りた… 痛ぁ!!火燐様!首っ!首が締まって…って、雫様!何で後ろから押すん!?━━━━
━━━━ふふ。楽しみ。━━━━
━━━━雫様、怖っ!!うちの背中押しながら舌なめずりとか怖いって!?あ、ちょっ、お2人共っ、やめっ、あっ、アッーーーーーー…………━━━━
3人が移動してからしばらくの間、扉越しにアイルの叫び声がダンジョンエリアへ届けられた。
『………。』
しかし、完全にアイル達が沈黙した事で、客達は先程までのお祭り騒ぎから一転。
揃って真っ青な顔を浮かべるのだった。




