53話
美羽達は新しい屋敷に入った後、屋敷内を走る等して見て回り、凛はしばらくダイニングで美羽達が戻って来るのを待っていた。
しかし一向に戻る気配がなかった為、凛はまだまだ時間が掛かりそうだと判断して移動を始め、屋敷から外へ出てすぐの所に向かう。
そして凛は6畳位の広さの小屋を立て、中にポータルを設置して屋敷へ戻る。
《マスター。間もなく午前10時となります。解体用の道具をワッズ様へお返しするのに良い時間ではないかと。》
「おっと、もうそんな時間なのか。ちょっとのんびりし過ぎた…皆ー、ちょっとサルーンに行って来るねー!!すぐ戻るからー!!」
凛は屋敷に入り、再びダイニングに向かう為に玄関で靴を脱ごうとした所、ナビからその様な報告が届いた。
凛はその場で靴を履き直し、かなり大きな声で叫んでからその場を後にした。
「わー!マスター待って待ってー!!…って、もういない…。」
「美羽、ドンマイ。」
凛の叫び声が聞こえたのか、美羽が急いだ様子で階段を降り、ダイニングを抜けて玄関へ向かうも、既に移動した後で凛の姿はなかった。
美羽は凛がいないと知って悲しそうな様子を浮かべ、探索するのに飽きて一足先にダイニングに戻っていた雫から慰められる事に。
凛は美羽に気付かないまま急いでポータルを潜り、サルーンの街の冒険者ギルド内にある宿直室へ移動した後、そのまま解体場へ向かう。
「おっ、来たか!」
「ワッズさん、おはようございます。」
「ああ、おはようさん。お前さんが来たってこたぁ、修理が終わったんだな。」
「はい、道具のお返しに参りました。修理した際に強度を上げておきましたので、魔銀級の魔物でも問題なく使えると思います。」
「そいつぁありがてえ。こっちだ。…そこに置いてくれるか。」
凛が解体場へ入ると、すぐにワッズが気付いた様子を見せた。
凛は軽く見回してからワッズの元へ向かい、互いに挨拶や報告を行った後、ワッズは道具置場へと凛を誘導し始める。
凛はワッズの後ろを付いて歩き、指定された場所に昨晩修理した道具を置くと、ワッズは頷きながら道具全てが戻って来たのを確認する。
そして徐に道具の1つを掴み、少し見た後ににやりと笑った。
「そういやよ。お前さんが来たら部屋まで来るようにってギルドマスターが言ってたぜ。商人がさっき来てたみたいだし、森林龍の素材に関する事じゃねぇか?」
「分かりました。僕はこのままゴーガンさんの所へ向かいますね。」
「おう…と言いたい所だが、凛、ちょいと待ってくれ。前に魔物の名前と数が載った紙を見せてくれただろ?修理を終えた道具の調子を見てみてぇからよ、何でも良い。金級の魔物を何体か出して貰えるか?」
「あ、はい。分かりました。でしたら、取り敢えずダイアウルフを5体出しておきますね。…それでは、改めて行ってきますね。」
「ありがとよ!これからもこいつらを使って解体出来るなんて…滾ってしょうがねえぜ。おう、野郎共!!今からダイアウルフの解体を始めるぞ!とっとと準備しやがれ!」
『おお!』
ワッズは笑ったまま凛にそう告げると、凛はこれ以上ゴーガンを待たせるのも悪いと思ったらしく、返事しながら体の向きを変えようとする。
しかしその途中でワッズに呼び止められ、全部で11体ある内の5体のダイアウルフの死体を出す事に。
するとワッズは持っている道具を掲げ、張り切った様子で見回しながら吼え、職員達はそれに応える様にして叫んだ。
凛はそんなワッズ達を苦笑いで見た後にゴーガンがいる部屋へ向かい、ノックして中に入る。
「やあ、よく来たね。それじゃ早速だけど、森林龍の話から始めようか。先程商人が来てね、森林龍の素材を白金貨50枚で買ってくれたよ。これが凛君の取り分で、売却額の半分に当たる白金貨25枚。確認をお願いね。」
「ありがとうございます。」
「…その商人は昨日のバーベキューを見てたみたいでね。仕事中だから食べる事は出来なかったけど、住民が美味しそうに食べる様子から、ドラゴンの肉が美味しいのだと初めて知った…って悔しそうに話していたよ。素材とは別に、住民に出したのと同じ肉を個人的に売って欲しいと言われたんだけど、全て返却したからないと断ったんだ。そしたらこの世の終わりみたいな顔をされてね、それからは一気にやる気を失ってたかな。」
「あー…すみません。肉の鮮度が落ちるのは良くないと思って全部引き取りましたが、どうやらそれが仇になってしまったみたいですね。」
「いや、むしろ全然構わない位さ。森林龍を提供してくれたのは凛君な訳だし、向こうの都合に合わせる必要はない。これからも凛君のやりたい様にしてくれて大丈夫だよ。」
「ありがとうございます。話は変わるのですが、つい先程、修理を終えた仕事道具をワッズさんにお返ししたら、どうやらやる気になっちゃったみたいでして…。金級の魔物を出してくれと頼まれましたので、取り敢えずダイアウルフを5体出させて頂きました。」
「そうなんだ?ワッズがやる気になるなんて余程嬉しかったんだね。これからも魔物を持ち込んでくれるなら…ポータルだっけ?それはそのままにしてくれても大丈夫だよ。多分だけど、凛君か、その配下にしか使えないものだろうし。それと…良ければで構わない。僕にもガイウスに渡した水晶を譲って貰えるかな?」
「映像水晶の事でしょうか?勿論構いませんよ。」
「ありがとう。何か急ぎの用事が出来て、それを伝える為の連絡手段が欲しかったんだ。」
「成程。それでしたら、ガイウスさんの映像水晶とも連絡が取れると良いでしょうし、互いに連絡が取れる様、こちらで調整しておきますね。」
「うん、分かった。」
「それでは、僕は引っ越しの作業に戻りますね。」
「うん、色々とありがとう。これからも宜しく頼むよ。」
「こちらこそ。」
凛は部屋へ入り、ゴーガンと話をしながら白金貨が入った袋を手渡されたり、無限収納から映像水晶を取り出してゴーガンに渡す等した後、互いに笑顔の状態で部屋を出た。
「森林龍の素材を買っていった商人、このまま素材を王都に運んで捌くつもりなんだろうけど…多分上手く行かない気がするんだよね。はぁ、素材が素材だし、場合によっては僕が王都へ向かわないとかなぁ…。」
凛が部屋から出て少し経った頃、ゴーガンは凛から貰った映像水晶を右手で転がしつつ、左手で頬杖をつき、物憂げな様子でそう呟くのだった。