525話
スパッ
「…む?」
凛はルシファーとの距離を一気に詰めて逆袈裟斬りを放ち、ルシファーの左胸に傷を付ける。
ルシファーは初めて凛から傷を受け、ようやく凛の様子が変わったと気付き、懐疑的な様子を浮かべる。
「………。」
「ぐ…う…!」
そして凛はルシファーの前に戻るのだが、次第に体がぶれ始めたかと思うと、凛にそっくりな分身が3体出現した。
それらは九尾と影操作を用いて生み出したもので、凛と同じ身体能力を持っている。
それから凛は分身と共にルシファーの周りを高速で動き回り、夢幻刀を振るいながら全身の至る所に傷を作っていく。
対するルシファーは苦悶の表情を浮かべつつ、ひたすら凛の攻撃を耐え続けていた。
「くっ、この…!」
タンッ…シュババババババババ…
「何だと!?」
凛は再びルシファーの目の前に移動し、分身達を集めて1人の状態に戻る。
するとルシファーは今の内に凛を捕まえようとでも思ったのか、凛に向けて勢い良く右腕を伸ばして来た。
それを凛は居合いの構えを取りながら前方へ跳ぶ形で避け、抜刀からの超高速剣技を行い、ルシファーの右腕の肘の手前までを微塵切りにして納刀。
その後、凛は右手を前に掲げ、掃除機の様にして微塵切りにしたばかりの右腕を吸い込む。
ルシファーはその光景を見て、痛みよりも驚きの方が強かったのか、目を見開きながら叫んでいた。
「…まさか、ここまでの実力を隠していたとはな。考えを改めるとしよう、君は危険だ。ここで確実に息の根を止めさせて貰う。」
「…そうですか。」
ルシファーは右腕の肘から先を生やし、初めて警戒した様子で凛の事を見る。
対する凛は、最初からここで決着を付ける予定でいる為、特に影響を受ける事なく淡々とした表情で答えた。
「…ルースレスコフィン」
ルシファーは胸の前に右手をやり、人差し指を上に向けて呟く。
すると直径3メートル程の氷の球がルシファーの頭上に現れ、ルシファーが人差し指を振り下ろすと、氷の球から成人男性程の大きさの氷柱が次々と撃ち出されて来た。
凛はそれらを魔力を纏わせた夢幻刀で弾くのだが、その途中で数本の氷柱だけを敢えて避けてみる事に。
氷柱は凛の後ろにある木に当たった直後に凍り付き、しかも広がっていった事で瞬く間に樹氷が広がる結果となってしまった。
「…。(1発1発がアブソリュートゼロか、それに近い威力な訳か。今の僕なら当たっても特にダメージは受けないだろうけど、油断しないに越した事はないよね。)」
凛は背後に広がった樹氷を見てその様に思いつつ、向かって来るルースレスコフィンを刀と鞘で捌き続けていた。
そしてルースレスコフィンが終わる頃、ルシファーは同じく胸の前に右手をやり、今度は掌を上にして黒い球を生成する。
「…ディケイホール。」
「(これは…何となく、避けたら色々と面倒な事になりそうだな。)」
ルシファーが呟くと黒い球から槍投げの槍位の大きさの黒い棒が多数出現し、凛を囲う様にしてひろがりながら展開、手をぐっと握る事で一斉に襲い始めた。
凛はそう考えながら聖域結界を発動し、向かって来た黒い棒全てを浄化する形で無効化させる。
すると、ルシファーはまさか完全に防がれるとは思わなかったらしく、少し目を見開きながら消滅していく様を見ていた。
凛は聖域結界で無効化させたが、黒い棒が当たる事によって体は蝕まれ、当たった箇所から腐っていき、やがて絶命すると言う恐ろしいものだ。
しかも生半可な聖域結界では完全に消滅させるのは難しい為、アレックス以下だと危なかったと言える。
「…こちらは通用しないか。全く、面倒な存在になったものだ。」
ルシファーはルースレスコフィンよりも(相手がより苦しむ表情となる)ディケイホールの方が使用頻度が高く、精度を上げた経緯もあって得意にもなっていた。
しかし得意な方の攻撃が凛には通用しないと分かり、呆れた様子でそう告げるのだった。




