522話
5分後
アレックス達は『嫉妬』に付いて行けなくなって来たのか、体の所々に傷や血の跡が出来る様になっていた。
「やっぱ制限有りだとキツイかー…あ、そうだナル。そう言やよ、折角凛から阿修羅を貰ったってのに、よくよく考えたら思いっきり暴れる機会ってなかったよな。」
「うんうん、そうなの。ここに来るまで、大体1発殴ったら終わってたし。」
「ならよ、ミゲル達が戻るまで待とうと思ったが…いっちょ大技でも使ってみるか?」
「えっ、良いのー?やるやる!あたし頑張っちゃうよー!!」
ユリウスが『嫉妬』と戦っている中、地上に吹き飛ばされていたアレックスとナルが話し合いを行い、ナルのとっておきをお見舞いする事が決まった。
ドドォォォ…ン
「…お2人さんよ。人が苦労しながら相手を頑張ってるって時に、楽しそうに話すのは勘弁して貰えねぇかな。」
「わりぃわりぃ。けどよ、ミゲル達が戻る前にやりたい事が出来てな。」
「へえ?そりゃ勿論…俺も混ぜてくれるんだよな。」
「当然だろ。」
そこへ、『嫉妬』の攻撃を受けたらしく、ユリウスが地面に叩き付けられて来た。
ユリウスは仰向けの状態のまま、アレックス達にじと目を向けながら話し掛けたものの、アレックスがにやりと笑って答えた事に興味が湧いた様だ。
話しながら腕を使って飛び起き、アレックスから返事を貰うと、3人は固まりながら話を詰めていった。
「…話し合いは終わったかよ?」
「ああ、待たせて悪かったな。それじゃ行くぜぇ!」
アレックス達は空中で待っていた『嫉妬』の元へ向かうと、『嫉妬』が待ちくたびれたと言わんばかりな様子で話し掛けた。
アレックスはそう言って『嫉妬』に攻撃を仕掛け、ユリウスとナルがアレックスに続いていく。
「(何だ?さっきとあんまし変わってねぇ様な…いや。野郎2人が接近して戦うが、チビは遠距離攻撃だけ、しかも左手しか使ってねぇ。こりゃあ、何か企んでやがるな…。)」
アレックス達は戦い方を変え、それまで3人全員で掛かっていたのを、ナルだけが『嫉妬』から距離を取り、遠距離攻撃のみを行っていた。
そして、『嫉妬』はアレックス達との攻防の中でその様な事を考え、何があっても対応出来る構えを取る。
「(ん?チビが動いたか。)」
「よそ見してんじゃねぇ!隙だらけだ!冥獄龍咆ぉぉぉっ!!」
それから30秒程経った頃にナルが前進をし始め、それに気付いた『嫉妬』はアレックス達からナルに意識を向ける。
ユリウスはナルのフォローと『嫉妬』が見せた隙を突く為、村正を前に突き出して冥獄龍咆を発動させる。
冥獄龍咆は先程の黒炎龍牙よりも高い威力を持ったもので、冥闇と獄炎の頭文字から来た名前となっている。
そしてより冥く、ゴツくなったドラゴンが口を大きく開け、対象者に向けて強烈なブレスを吐く技となる。
「っ…ちぃ!」
『嫉妬』はユリウスがナルよりも近い距離にいるにも関わらず、まさか遠距離技を仕掛けて来るとは思わなかった様だ。
20メートル程の距離から冥獄龍咆を放たれた事で反応が遅れ、咄嗟に魔力を纏わせた左の短剣をブレスに向けて投擲する。
ユリウスが放ったブレスと『嫉妬』の短剣は空中でぶつかり、その影響で大爆発が起きた。
「行くよっ!魔炎流格闘技、最終奥義…。」
「やらせるかぁっ!…何っ!?チビめ…どこ行きやがった?」
爆発で起きた煙の中からナルが姿を現し、真っ直ぐ『嫉妬』の元へ向かって行く。
ナルは現在、右の拳に赤いエネルギーを纏っており、それを左手で覆っている状態だ。
『嫉妬』はナルが爆発に乗じて仕掛けて来ると予測していた為、右手に持った短剣で斬り掛かるも、全く手応えがなかった事で不思議そうにしていた。
斬られたナルは姿がぼやけていき、やがて最初からいなかったかの様にして消えた為、『嫉妬』は前方を見回しながらナルの事を探す。
「魔炎拳…。」
「…!後ろかぁ!」
「ビッグバンッッッ!!」
「ぐぅ!がぁぁぁぁぁああああああああああああああああっ…!!」
ナルは炎と水を用いた幻影を『嫉妬』の正面に向かわせ、本人は煙に乗じて後ろに回り込んでいた。
そして『嫉妬』の後ろで呟き、ナルの存在に気付いた『嫉妬』が急いで振り向き、ナルに攻撃を仕掛けようとするよりも先にナルの拳が『嫉妬』の胸に届く。
すると、ドンッと音が響いた後に『嫉妬』は吹き飛ばされ、ナルに拳を当てられた体勢のまま、数百メートル程進み続ける。
やがて彼を中心に、ニュークリアブレイズ以上の威力を持った爆発が起きる。
「ぐ…く……へ、へへっ。やってくれるじゃあねぇか。」
「お前、タフだなー…。」
「ようやく盛り上がって来たんだぜぇ?むしろ戦いはこれから楽しくなるってもんだろ!」
『嫉妬』は結構なダメージを受けたものの、あれ程の爆発でも五体満足で乗り切る事が出来ていた。
アレックスとユリウスが『嫉妬』の前に向かい、アレックスが呆れた様子で話すと、『嫉妬』は動きが少し鈍くなりながらも嬉しそうに告げる。
因みに、ナルは魔炎拳ビッグバンで全力を出し切ったらしく、足を伸ばしながら地面に座り込んでいたりする。
「はいはい。…お前の相手をしてやりたいのは山々だが、ミゲルも起きたみたいだしな。俺達の出番は終わりだよ。」
「何…?」
そしてアレックスが呆れたり肩を竦めながら話し、『嫉妬』は窺う様にして後ろを振り向く。
そこには服こそボロボロになっているものの、ミゲル達が傷1つない状態で浮いており、真っ直ぐ『嫉妬』の事を見ていた。
ギルバートとクリフの武器はそのままだが、ミゲルはそれまで使っていた火炎と水氷の短剣ではなく、リットゥとミュルグレスに変わっていた。
「待たせたな。出来ればスキルに頼らずに勝ちたかったが…ここからは全力で行かせて貰う。」
ミゲルはリットゥとミュルグレスを前に構え、そう告げるのだった。




