515話
「ゼノン!?」
「「ゼノン様!?」」
「…。」
ゼノンがいきなり走り出した後、ボロボロの状態となって倒れた事にレオン達は驚きを露にする。
そこへ、『強欲』が斜め下にいるゼノンへ向け、右手を前にかざしたかと思うと、何の躊躇いもせずにいきなりフレイムスピアを放って来た。
「ちぃっ!ふざけるんじゃねぇぇぇぇ!!」
その事に気付いたレオンは獣神化を発動し、急いでゼノンの元へ向かう。
レオンはゼノンの前に立ち、迫って来たフレイムスピアに対し、魔力を纏わせた左の裏拳で斜め後方へと弾き飛ばした。
「エリックてめぇ、弱ったゼノンに攻撃するたぁ良い度胸だ!覚悟は…出来てるんだろうなぁぁぁぁぁ!!」
「…!」
「駿迅爪!」
「…ぬう、邪魔をするな!」
「私もいるって事を忘れないで下さい!」
「くっ。この…忌々しい有象無象共がぁ!!」
レオンは続けて、叫びながら空中にいる『強欲』を指差した後、地面を思いっきり跳んだ。
そして全身に風を纏わせながら『強欲』の元へ向かい、天歩で更なる跳躍を行った後、爪による素早い攻撃…駿迅爪を仕掛ける。
それを『強欲』は辛うじて避けるも、僅かに掠ったのか右肩に傷が出来ていた。
『強欲』は痛みで顔を歪めた後、苛立った様子でレオンに左手をかざそうとすると、そこへ上空から崩土の鎚を振り下ろす形でポールも参戦して来た。
『強欲』はポールの存在に気付き、左手で魔力障壁を展開させてポールの攻撃を防ぐと、更に苛立ちを露にしながら叫んだ。
それを機に、レオン達と『強欲』の戦いが始まるのだが、レオン達は『強欲』が魔法をメインとした戦い方をするのを知っていた。
その為、近接戦闘が苦手な『強欲』は離れて魔法を放とうとするも、レオン達はそうはさせまいとしてひたすら距離を詰めて来る。
業を煮やした『強欲』は戦い方を変え、用意するのに時間の掛かる上級以上ではなく、発動に1秒位しか掛からない初級と中級の炎や水魔法へシフトする様になった。
「………。」
「…エクストラヒールが効かない、ですか。やはり…ゼノン様は、もう…。」
その間、フィリップはゼノンを仰向けにしてエクストラヒールを掛け続けていたのだが、それですら回復の兆しが見えない程、ゼノンは弱ってしまっていた様だ。
エクストラヒールを1分以上掛けてもピクリとも動かった為、フィリップはエクストラヒールを掛けるのを止め、悲しい様子でゼノンの事を見ていた。
《エクストラヒールでも効きませんか。となると…あの方法でしかゼノン様を回復させる手立てはないのかも知れませんね。》
「…!ノーデンス様、ゼノン様を助ける方法があると言うのですか!?」
《はい、ありますよー…と言いたい所なのですが、私としてはあまりオススメ出来ない方法となります。とは言えゼノン様は現在、生死をさ迷っている様な状態となっていますし、このまま亡くなられでもしたら紅葉様の手で甦らせる以外に方法が…致し方ありませんね。フィリップ様、無限収納を開いて下さい。》
「…?はい…これで宜しいでしょうか。」
そこへいきなりフィリップの頭の中にノーデンスの声が聞こえて来た為、フィリップはこれに驚くも、助ける可能性があるとして物凄く食い付いた。
ノーデンスは含みのある言い方をしつつフィリップへ促し、フィリップはノーデンスの指示に従って無限収納に右手を突っ込むと、指先に何かがぶつかる感触が伝わる。
「これは…ポーションを小さくした物の様にお見受けします。」
《そちらをゼノン様に飲ませて下さい。あ、飲み込ませる必要はございません、口の中に入れるだけで結構です。》
「分かりました!ゼノン様、失礼します。」
フィリップが無限収納から取り出した物…それは、ヤ○ルトを1回り小さくした様な大きさの、琥珀色をした瓶だった。
フィリップは取り出した瓶の存在を疑問に思いながらも、ノーデンスの言われた通りにゼノンの口を開け、瓶を開封してゼノンにとろみのある液体を飲ませる。
《フィリップ様、ゼノン様の上体を少しで良いので起こして下さい。》
「はい!」
フィリップは続けてノーデンスから出された指示に従い、ゼノンを軽く抱き起こした。
「ぐ…む…。」
「ゼノン様!!気が付かれたのですね!」
「あ…ああ。俺は…どう言う訳か生きているのだな。正直このまま死ぬものだとばかり…む?」
それから10秒程経ち、ゼノンの意識が戻った事にフィリップが喜びを露にする。
ゼノンは不思議そうに上体を起こし、真っ直ぐ向いたまま話をしていると、少しずつ焼失した腕が生えて来ている事に気付く。
ゼノンは寝起きと言う事で少しボーッとしていたが、フィリップはギョッとした表情でゼノンの右腕を見ていた。
《ゼノン様。どうにか一命は取り留めた様ですね。》
「ノーデンス様か。一体どうしたのだ?」
《今回は緊急措置として、ゼノン様にエリクシールを飲んで頂きました…が、その反動でゼノン様はデミゴッド、つまり神に近い存在となりました。》
「「ぶっ!!」」
《エリクシールは翠様の木に実った黄金の林檎をベースとした薬になります。口に入れた際、対象者が生きてさえいれば効果を発揮しますが、数百年に渡って細胞の賦活作用…つまり若返りと自己修復の効果が発動し続けます。ゼノン様の体内では現在、最適化させようとして物凄い速度で破壊と再生が繰り返されている状態になっているかと。》
「「………。」」
ゼノンはノーデンスから話し掛けられて不思議そうにし、ノーデンスから爆弾発言を受けた事でフィリップと共に吹き出してしまう。
そして2人はノーデンスからの説明を受け、エリクシールのトンデモ効果に絶句していた。
ついでにではあるが、体の一片でも残っていれば、最終的には体全体が戻る事も可能だったりする。
2人はエリクシールの効果を知り、本当に使っても良かったのかと思っている様だが、そうでもしなければゼノンは30分もしない内に亡くなってしまう位、かなり危険な状態にあった。
そしてゼノンはエリクシールを服用後、少しずつ火傷や右腕が治りつつ、同時に若返り始めてもいたりする。
「…ゼノン様、今回は色々と災難でしたね。」
「ああ…全くだ。後でタリア妃に今回の顛末を報告しても罰は当たるまい。」
「ええ、仰る通りかと。」
フィリップは苦笑いの表情でゼノンに話し掛け、ゼノンも釣られて苦笑いとなった事で微笑んだ後、ゼノンが少しキツそうな様子で立ち上がるのを手伝った。
「…どうにか動けん事もないな。さて、俺達も行くとするか。」
その為、ゼノンの体力自体は減ったままでほとんど回復してはおらず、話しながら軽く左手をグーパーグーパーと開いたり閉じたりしていた。
それからゼノンは地面に刺した大剣を左手で引き抜き、無限収納から鞘を取り出して大剣を収め、火炎の大剣を無限収納に戻す。
「ゼノン様。エリクシールの効果である程度良くなったとは言え、あまりご無理をなさらぬ様…。」
「ああ。少しずつ回復しているのは感覚で分かるが…同時に体力を失った事も理解出来てしまった。だがまぁ、丁度良い機会ではあるな。俺は(苦手な)魔法で補助や牽制に徹するとしよう。」
フィリップは前に進んだゼノンに心配そうな表情で話し掛け、ゼノンは真面目な様子でフィリップを一瞥して答えた後、レオン達がいる方向を向く。
そこでは、宙に浮た『強欲』が絶え間なくレオンとポールに初級や中級魔法を放ち続け、レオン達は何とか防ぎながらも少しずつダメージを負っている様子が見て取れた。
フィリップはゼノンの横に立ち、互いの顔を見合って頷く。
そして同時にレオン達の元へと駆け出した。
「…!」
ガキィィィン
2人が走り出したのは同時だったものの、フィリップはレオン程ではないにせよ、ゼノンと比べてかなり足が速い。
その為、ゼノンがレオン達の元へ着くよりも前に『強欲』へ攻撃を仕掛けるのだが、『強欲』は死角からフィリップが斬り込んで来た事を察知し、即座に右手で魔力障壁を展開して攻撃を防いだ。
「ここからは私もお相手致します!」
サクッ
「ぐ…くそっ、何なのだ!次から次へと鬱陶しい!!」
フィリップは魔力の流れを見る能力が優れており、そう叫びながら『強欲』が展開した魔力障壁の弱い部分を突いた。
するとフィリップが持つ光焔の剣が魔力障壁だけでなく、『強欲』の右腕も突き抜けた為、『強欲』は痛みを堪えつつ、左手で炎系中級魔法フレイムエッジを放つ。
フィリップは1メートル程で横に広がった炎の刃を避け、四方八方から『強欲』を攻め始める。
『強欲』は再び魔力障壁を貫通されては堪らないと判断し、両手を使って障壁を厚くした事で防戦一方にさせられた。
「待たせたな。」
「ったく。来るのがおせーんだよ。このまま2人で倒そうかと思ってた位だぜ。」
「ふっ、それは悪かった。とは言え、少しずつ回復してはいるが…今はこんな状態でな。美味しい所は3人に譲るとしよう。」
「………。」
「…すまん。」
「レオンよ、謝罪…と言うか、今は口よりも手と足を動かせ。それと、後で奥方に報告と請求をさせて貰うからな。」
レオンとポールはフィリップが戦っている様子を見ていると、後ろからゼノンの声が聞こえた。
ポールはゼノンの方を向き、レオンは流れ弾が来ても大丈夫な様に、前を向いたまま返事を行う。
ゼノンは話しながらレオン達を通り過ぎ、肘から先がない状態の右手を上下に動かしてみせる。
先程からゼノンの腕を見ていたポールは何か言おうとするも言葉を発せず、レオンは苦悶の表情で謝罪を行う。
しかしゼノンは軽く後ろを見て答えただけで追及をせず、すぐにフィリップの援護をしに向かって行った。
「うわー…お仕置き確定じゃねぇか。」
「仕方ありませんよ。レオン様、ひとまず私達もお2人の元へ向かいましょう。」
「…そうだな。(つか、ゼノンが若返って来てる気がするんだが…気のせいか?)」
これにレオンはがっくりと肩を落とし、ポールが肩に手を当てて慰めた後、ポールもゼノンを追い掛ける。
レオンはそう呟くのだが、ゼノンが5歳位若返った見た目となっていた事を不思議そうにしながら走り始めたのだった。




