49話
ナビは凛が地球にいた頃の記憶から神話の情報を元にし、身長が170センチ程、20歳位の見た目をしたヴァルキリーとしてエクスマキナを作製した。
《こちらの試作型エクスマキナは、これからマスター達が向かわれる集落を守る為に用意した守護者となります。》
凛はナビから説明を受けたものの、ナビの声が全く耳に入っていないらしく、部屋の中心にいる銀髪の女性を色んな角度から見て凄い!格好良い!と言って興奮していた。
《…こちらのエクスマキナは、マスターの世界の神話にある様なヴァルキリーを模して作製致しました。マスター、出来はいかがでしょうか?》
その為、ナビが凛にエクスマキナの出来を尋ねた時の声色は少し呆れが混じっていたものだったりする。
「(こほん)…ナビ。僕はこの守護者の事がとても気に入った。良い仕事をしてくれたみたいで感謝するよ。」
《それは重畳。名前を呼ばれる事で起動致します。マスター、こちらのエクスマキナに名前をお与え下さい。》
凛は少し恥ずかしくなったのか、咳払いをして仕切り直した後に真面目な表情を浮かべて話し、ナビは心なしか少し声が弾んだ様子で凛にそう促された。
凛はこれから拠点を移すに当たり、様々な物を植えたり育てたりしながら少しづつ南方面へ拡大して行くだろうと考えていた。
そして今回はワイバーンの素材を用いて目の前のエクスマキナを作ったが、今後(凛が許容出来る範囲内で)良い素材が手に入った時は妹分を作っていくと判断する。
因みに、ナビからアルファを作るのに何が良いかを尋ねられた際、凛は即答でワイバーンを選んだ。
これは(例え下位でも)ドラゴンの素材を用いたと言う響きが格好良かったからだったりする。
本来であれば、ナビが凛の返答後に森林龍の素材を用いたいとして説得を行ったのだが、試作とは言え作るのに失敗したら勿体ないとして凛がこれを渋った。
その後、ワイバーンや森林龍以外にも他の魔物もエクスマキナの素材として上げられるも、凛はサイプロクスやウルフ系ならまだしも、オークやマンティス、ヌエ等は自身を含め、周りが生理的に受け付けないだろうと言う事で断っていた。
「…そうだね。これからももっとエクスマキナが増えるだろうし、ここはシンプルにアルファと付けようか。アルファ、起きてくれるかな?」
「…はい。」
凛は考える素振りを見せ、目の前にいるエクスマキナの女性に名付けを行うと、女性は返事をした後にゆっくりと目を開ける。
「目の色も髪と同じく銀色なんだね。明日から住む予定の所に少し魔物が入り込んでるみたいだし、アルファの性能を見るのも併せてちょっとそこに行ってみようか。アルファ、このままポータルへ向かう為に下に降りるから、先に部屋を出て貰える?」
《アルファ、貴方の目の前にいらっしゃる方をマスターと呼び、私の事は…そうですね、サブマスターとでも呼びなさい。》
「分かりました。…あっ。」
「…あ。」
凛は真っ直ぐ自分を見ているアルファの目を同じ様に見つつ、アルファがどれくらいの強さなのかを見ようと思い、説明を交えながらアルファにそう促す。
凛に続いてナビが伝え、アルファは頷いて返事を行った後、ドアへ向かう為に体を反転させた。
しかしまさかの1歩目で躓いてしまい、そのまま思いっきり顔面から床に倒れてしまう。
「(へー、白なんだ…じゃなくて。)ナビ、これは一体…?」
《…申し訳ありません。戦闘に特化したあまり、戦闘以外で行う動作が鈍くなってしまった様です。すぐに調整致しましょうか?》
「まぁ、倒れただけでは調整失敗とは言えない…と思う。取り敢えず、アルファの様子を見てみようか。」
《はい…。(何たる失態…)》
アルファが床に倒れた際にスカートがふわりと舞い、その影響でその中身が見えてしまった為、凛は軽く感心した様子を見せた後、頭を左右にぶんぶんと振ってナビに尋ねる。
ナビは戦闘に重きを置き過ぎたよる調整ミスだと捉えており、今すぐにでも再調整するつもりで凛に答えつつ尋ねてみるも、凛からそう言われたことでやや元気なさげに答えた。
アルファは金属の骨組みに加え、ワイバーン達の素材をかなり圧縮して形成している為、体の重さが1トンを越える。
見掛けによらずその様な超重量のアルファが床に倒れた事で、ドォォォンとかなり大きな音を立てただけでなく、屋敷が揺れる程に大きな衝撃を与えていた。
尤も、凛はアルファが倒れた事に意識が向き過ぎてしまい、爆音や衝撃に全く意識が向かなかったりするが…。
コンコン
「マスター、大丈夫?何か凄い音がしたからビックリしたよ。皆、マスターが心配みたいで部屋の前に集まってるよ。」
「あー、驚かせちゃったみたいだね、ごめん。音の原因は僕じゃないから大丈夫と言えば大丈夫なんだけど…アルファ、立てる?」
「はい…申し訳ありません。」
その為、自室にいた者達(未だにすやすやと寝息を立てているナナを除く)はかなり驚いてしまい、何事かと思って部屋から出て来た様だ。
現在は妖狐族の少女とナナを除く全員が凛の部屋の前に集まっており、美羽が代表でノックを行い、部屋の中にいる凛の様子を窺っていた。
少し困った様子で返事をした後、右手を差し出して申し訳なさそうにしているアルファの手を取ってその場に立たせてからドアを開ける。
「本当なら明日にしようと思ってたんだけど、予想外とは言え皆集まってしまったから紹介するね。ワイバーンの素材、それとミスリル等の金属を使って出来たエク…機械人形のアルファだよ。明日から居住先が変わるから、そこで皆を守って貰おうと思って用意した守護者って所かな。アルファの性能を見ようと思い、下に向けて移動し始めたら転んじゃったみたいでさ…。」
「皆様、申し訳ありません。」
「僕はちょっと外に行ってくるよ。アルファの事が見たい人はそのまま僕に付いて来てね。」
凛は苦笑いの表情を浮かべながら美羽達に説明を行い、アルファはそう言って頭を下げた。
続けて凛がそう伝えて移動を始めてアルファが凛の後ろに付いて行くと、どうやら興味があったのか、その場にいた全員が無言でアルファの後ろに付いて行った。
凛達はそのまま屋敷を出てすぐにポータルを使い、かつてオーガの集落があった所の中心付近に建てた、ポータルを設置した小さな小屋の建物へと移動した。
凛は移動中、アルファは80センチ程の刀身のブロードソードと縦60センチ、横40センチ位の盾を使って戦う通常モードと、
刀身だけでも155センチ程はある、肉厚の大剣を使って戦う大剣モードを使い分けるとの説明をナビから受ける。
「ふむふむ。今は何も持っていないけど、一旦戦闘態勢に入れば、ブロードソードと盾を使った通常モード、それと刀身だけでも僕の身長位はある大剣を使った大剣モードの2種類で戦うと言う事なんだね。」
「はい。」
「それじゃ、まずは通常モードから行ってみようか。あそこで固まりながらこちらに近付いて来ている、バトルマンティス3体の相手をしてくれる?」
「分かりました。」
建物から出た後、凛とアルファだけが20メートル程北へ向かい、凛はそこからやや北東へ100メートル程進んだ位置にいる、バトルマンティス達の方を向き、隣にいるアルファへ指示を出す。
指示を聞いたアルファはこちらへ向かって来るバトルマンティス達の方へ向けて駆け出し、手前にいた1体目を袈裟斬りで倒した。
倒されたバトルマンティスもそうだったが、アルファの走る速度が自分達よりも速かった為に他の2体は対応出来ておらず、アルファの手により2体目もすぐに真っ二つにされてしまう。
3体目ははっとなってから右手の鎌を振りかぶってアルファに攻撃するも、アルファの左手に携えた盾で弾き返されてしまい、隙だらけとなった所を右手のブロードソードで首を落とされて終了するのだった。