486話
凛が美羽達と共に転移魔方陣で移動してから数分が経った頃
第1056領地の南門前にて、紅葉は南の方向へ体を向け、1人で立っていた。
そして凛の事を想ってなのか心配そうな表情を浮かべ、右手で左手を握った状態で胸の前に両手を置いている。
「凛様…。」
そんな物憂げな様子で呟く紅葉のすぐ傍では、何があっても紅葉の事を守ろうと意気込む暁達が控えていた。
「紅葉ちゃん、やっぱり凛様の事が心配?」
「分かりません…。ですが、どこか空気がざわついている様に感じるのです。」
「空気が?」
「ええ。良くない兆候…とでも申しましょうか。とにかく嫌な感じがしまして。」
紅葉の後ろから不安げな表情をしたエルマ話し掛け、紅葉は胸の前に両手をやったまま俯いて答える。
「紅葉ちゃんもなんだ。実は、あたしもそうだったりするんだよね…。」
「私も!」
「うん…。」
「そうだな。上手く言葉に出来ないのが何とももどかしいが…。」
「…真面目なとこ悪いんだけどさ、あたしは特に何も感じないんだよね…。」
『…えっ?』
エルマ、クロエ、イルマ、ジークフリートの順で話した後、アウラが恐る恐ると言った様子でそう告げた。
するとエルマ達はアウラの方に顔を向けた後、信じられないと言った表情を浮かべる。
どうやら紅葉は死霊魔術師、エルマとジークフリートとイルマはそれぞれ光と闇属性に高い適性を、クロエは不死の女王であるが故に良くない何かを感じた様だ。
その為、言い方は悪いが中途半端に光と闇の適性を持つアウラ、それと口に出してはいないが、光と闇に適性のない…或いは適性があっても中程度な暁達は特に何も感じられなかったりする。
アウラは今もエルマ達と共に喫茶店のウエイトレスとして働いている。
しかし1日に数回何らかの形で失敗する…だけでなく、場合によっては同じミスをする事もある。
「あー…まぁ、うん。アウラだしね。」
「そうだね、アウラだもん。」
その為、最もアウラのフォローを行っていたエルマとイルマが何やら察したらしい。
エルマは軽く引き攣りながら明後日の方向を見て、イルマは苦笑いの表情を浮かべてそれぞれ話した。
「アウラだからな。」
「うんうん!仕方ないよ!」
「ちょぉぉぉい!!揃いも揃ってあたしの扱いが酷くないかい!?」
ジークフリートはエルマ達に同意したのか、腕を組みながら納得の様子で話し、クロエは満面の笑みを浮かべてアウラに激励(?)を送った。
これには紅葉達も困り、苦笑いの表情となる。
これにアウラは我慢ならなかったのか、全力で突っ込みを入れた事でその場に笑いが起きた。
「紅葉様、俺達も参加させて貰うぞ。」
そこへ、レオンがゼノン達各国代表やその家族、及び各国の冒険者組合総長、女神騎士団団長のアーウィンと副団長のレイラを連れた状態で転移門側からやって来た。
レオンは少し手前で止まった後、(凛の配下筆頭である)紅葉の方を真っ直ぐ向いて声を掛ける。
「これはレオン様、それに皆様方も。ようこそお越し下さいました。…ですが、これから行われますのはスタンピードと呼ばれる非常に危険な戦い。場合によっては死ぬ可能性も充分にございます。」
「それなら問題ない。元より、承知の上で我らはここへ来たのだからな。」
「出来るのであれば城にいたかったのだが…そうも言ってられなくなった。」
「我々も凛様のお力になりたいのです。」
「微力ながら、お手伝いさせて頂きます!」
『(こくっ)』
紅葉は深くお辞儀をした後、レオン達を見渡しながら真面目な表情で答えた。
これにゼノン、バーナード、フィリップ、ポールの順番で話し、他の者達もやる気の表情を浮かべて一斉に頷く。
「…分かりました。私も、この場を預かる者としまして、誰1人欠かす事なくスタンピードを終えられる様、全力でお手伝いする事をお約束致します。」
「決まりだな。紅葉様、宜しく頼むぜ。」
紅葉は少しの間目を閉じてから返事をした後、にこりと笑って話す。
これにレオンはにやりと笑いながら紅葉に近付き、互いに握手を交わした。
それからスタンピードの事を聞き付けた冒険者達、各国代表から指示を受けた兵士や騎士、ナビから連絡を受けた凛の配下が次々に第1056領地へ集まって来る。
紅葉はやって来た人々を周辺の領地に割り振る等し、もうすぐぶつかるであろうスタンピードに向けて備えるのだった。