485話
『………。』
ステラだけは物凄くキラキラとした視線を凛に送っていたが、他の者達は揃って呆然とした表情を浮かべていた。
「神金級の魔物って、基本的に大きい姿をしてるのが多いでしょ?僕達は魔物と戦う時、なるべく1対1へ持ち込んで倒す様にしてるけど、結構前に行った(死滅の森)深層は、中層とは比べ物にならない位に魔物同士の密度が高かった。そしてその結果、1体づつに持ち込む為の調整や倒すのに時間が掛かってしまった。だから僕は皆に、深層へ行くのは止めて欲しいと頼んだんだ。何が起きるか分からないし、万が一囲まれでもしたらアウトだからね」
「…まぁ、そうだな。」
「うん。だからこの武器を創った。」
「ちょっと待て!肝心な所をはしょっちゃダメだろ!!つか、そこまで馬鹿みてぇにでっかくする必要なくね!?」
凛から受けた説明に、当時苦い思いでのある火燐は難しい表情になったり、全力で突っ込んでいた。
最近は行っていない為に把握していない部分もあるが、死滅の森中層深部から深層へ移った途端、魔物同士の間隔が狭くなった事で周囲にいる魔物の数が一気に跳ね上がった。
2ヵ月程前に検証を行った際、凛はまだ余裕の表情を浮かべていたのだが、美羽を含めた者達ではきついらしく、数時間を過ごすのが限界となった。
それから月日が経ったとは言え、凛が当時出した深層へ行く事を禁ずるとの命令を未だに解除してはおらず、アレックスやゼノンやゴーガン達は不満を言いつつも素直に従っていた。
「結局創るまでに至らなかったけど、以前から魔物に囲まれても大丈夫な様にって事である程度形にはしてたんだ。それでお姉ちゃんと会った時にナビの性能を上げて貰えて、ようやく昨晩テスト品が完成したって所かな。少しでも倒すのに時間を掛けたくないって事で、予定よりも1メートル長くなっちゃったけど…まぁ誤差みたいなものだよね。」
『いやいやいやいや!』
「ん?」
凛が笑顔のまま、話しながら肩を竦めた。
凛の発言に美羽達は揃って右手を左右に振る等して突っ込みを入れ、凛は表情を変えずに不思議そうな様子で首を傾げていた。
尚、ステラだけは未だにキラキラとした視線を凛に送っている。
「…ってな訳で、転移魔方陣で魔物達の手前に移動してからは僕だけで行かせて貰うね。」
「はぁ…分かったよ。」
凛と火燐で会話のやり取りを行った後、転移魔方陣を用いて魔物達の近くへ向かう事に。
「…うわぁ。」
魔物達から5キロ程手前の所に到着してすぐ、凛は困った表情を浮かべながら呟いた。
と言うのも、凛は到着してすぐにサーチを使って周囲を調べたのだが、自分達がいる位置から少し南側全部が魔物達で埋め尽くされていた。
そして先程から中層深部に設置したポータルの反応がない所を見るに、どうやら建物ごとポータルが破壊された様だ。
里香達が来た事でハンナやガイウス達、それに凛の配下達やアレックスですらもその余波で忙しくなり、昨日今日と森へ狩りに行く事が出来ずにいた。
しかしどうやらそれが幸いしたのか、今の所スタンピードで被害を受けた者はいなかったりする。
「(いくら金級から魔銀級の強さの魔物が中心とは言え、この数はあまりにも多い。ひとまず武器が完成して良かったって喜ぶべきなんだろうな。)…それじゃ行って来るよ。皆、大変だろうけど頑張ってね。」
「…うん。マスターも気を付けてね?」
「勿論だよ。」
凛はその様な事を思いながら少し歩いた後、一旦収納した武器を再び取り出し、皆の方へ向いて話す。
美羽が心配そうな表情を浮かべて答え、凛はにこりと笑いながら頷いた。
「心配すんなって美羽。凛が魔物に負ける所なんて見た事がねぇだろ?」
「うん…そうだね。」
凛がこの場からいなくなった後、かつて凛が立っていた場所を美羽は心配そうな表情で見つめ続けていた。
そこへ火燐が美羽の肩に手を置いて励ます様にして話し、美羽は元気なさげな笑顔を浮かべて答える。
「(何だろう…物凄く嫌な予感がする。)」
火燐は大丈夫だと判断したのか美羽から離れ、雫達と誰が魔物を1番倒すかと言った話を行う等して盛り上がっていた。
そんな中、美羽だけは再び凛が向かった方向を向き、その様な事を考えるのだった。