470話
おにぎりによる人気や冒険者達が聖人に進化しようと躍起になっている中、実はもう1つ新たなサービスとして移動手段の運営も午前8時から開始していた。
凛は誰が見ても分かる様にと言う事で『馬車』と記載させたものの、馬車を引くのは当然ながら馬ではない。
一応、この日の為に捕獲したペガサスやバイコーンもいるが、引くのは専ら甦ったヘルハウンドやオルトロスだったりする。
いずれも昊やリズ達が教育を行い、とても素直(?)に言う事を聞いてくれる様になった。
そして肝心の馬車だが、2階建てのバスの様な見た目で、運転席辺りが御者の席となっており、1階部分の1番後ろの列から2階部分へ上がる事が可能。
窓ガラス等は付けていない為に外から風が普通に入るが、有事の際は周囲に結界を張れる仕様となっている。
馬車が通る為の道はと言うと、出来るだけ真っ直ぐな道にしながらローラーで何度も均した様な真っ直ぐな状態を二車線用意しており、ほとんど揺れる事なく移動が行える為に40~50キロと言う速さで進む。
しかし馬車を引くのが魔物と言う事もあって、その兼ね合いから都市や街や村から1キロ程離れた所にバス停の様な物を設け、そこで乗り降りする流れとなる。
馬車の利用者は最初こそ先導するのが魔物と言う事で引いた様子を見せるも、御者の言う事をしっかりと聞き、場所によって現れる盗賊や野盗を牽制する役目を担っていると理解した様だ。
その為、馬車から降りた際に魔物達を恐る恐るながらも撫でると言う者が結構おり、中にはおやつ等の食べ物を魔物に与える者もいた。
午後6時過ぎ
凛とポールは昼食の際、馬車の話も行いつつ、ステラ達から報告を受けた事で話の内容をステラ達側に移していた。
そしてポールも凛からの指示を受けて(主にポータルを使ってだが)森の中を奔走し、午後5時前になってようやく帰って来た。
「…色々ありましたが、おにぎりの販売と馬車の運営。どちらも上々の滑り出しとなった様です。」
「馬車を引くのは紛れもなく魔物ですし、もう少し(売上が)低いかなって思ってました。」
「それはありますね。ですが、利用された方々はその魔物が自分達を守ってくれていると理解されたみたいですし、何かある度に止まると言う事もないですからね。時間の短縮にもなります。それに、何よりも進む速度が今までのどの馬車よりも早いのが利点かと。今までは馬車で移動しても1週間は掛かる所が、わずか1~2日で付くとなれば皆さんこぞって利用する様になりますよ。」
「世界中の街までは商店等である程度賄える様になったとは言え、まだまだ不便な事は多いです。その中でも特に移動面は心配でしたし、馬車を引くのが魔物と言う事で攻撃されるかもと思ってました。ですが、どうやら杞憂で終わった様ですね。」
「そうですな。最近はテイマーの方が少しづつ増えていっている、と言うのも関係しているのでしょう。ですが人と魔物が共存出来ると言う考えを持つ方も増えているのだと思います。」
夕食後、凛とポールはおにぎりと馬車の売上が載った紙を見ながら話を行い、ポールは頷いてから真っ直ぐ凛の方を見る。
「私達は凛様のおかげでポータルや転移門が使える様になりましたが、他の方々は基本的に歩きか普通の馬車、或いは今日から開始した馬車ですからね。その内、凛様方が空を飛ぶみたいに空飛ぶ乗り物が出来たりして…。いやー、いくら凛様でも流石にそれは無理でしょう!ははは、ただの私の独り言だとでも思って忘れて下…。」
「(すっ)」
「え?凛様…?まさか…。」
「いやー…まだ全然出来てないと言うか…。」
「『まだ』と言う事は、少なくとも空飛ぶ乗り物に関する、何かしらの情報は持ってらっしゃる訳なのですね!?」
ポールは説明しながら笑顔や考える素振り、それを誤魔化す様にして右手を後ろにやるも、凛が気まずそうな表情を浮かべて右方向に視線を逸らしている事に気付く。
そして恐る恐ると言った感じで尋ね、凛がそのままの様子で答えた為、ポールはかなり驚いた表情で叫びながら凛に追及をし始める。
凛は鉱石や金属に浮遊等のスキルを施しながら実験を行っているものの、まだ人に見せられるだけの成果は上がっていない事を噛み砕きながらポールに説明を行った。
5分後
「…ふぅ。失礼、私とした事が取り乱してしまいました。」
ポールは一通り追及して落ち着いたのか、疲れた表情でそう言ってからマグカップに入った飲み物をズズッと音を立てながら1口飲んだ。
ポールが飲んでいるのはコーヒーではあるが、その中にはおにぎりと同じく今日から発売となったチューブ状の練乳が半分程入った、非常に甘いものとなっている。
元々は雫がかき氷に練乳を掛けたのが始まりで、大の甘党であるポールが色々なものに使用し、下位ながらも神輝金級の素材が解禁された事でアウズンブラを含めた練乳を本日から発売する事となった。
ただしおにぎりの様に宣伝等を行わなかった為に売上は低いが、商店だけでなくかき氷の屋台でも販売している。それもあってかき氷だけでなく割と何でも使え、中には直接吸う強者がいる等してプチブームになっていたりする。
「…やはり糖分は良い。それに牛乳も入ってるからコーヒーにもぴったりですな。」
凛はポールから少し遅れる形で、マグカップに入ったブラックコーヒーを飲む。
その一方で、ポールはやたら甘くなったコーヒーを飲んだ事で幸せそうな表情を浮かべ、ゆっくりとマグカップをテーブルに置いてからしみじみとした様子でそう締めくくるのだった。