45話
ワッズは森林龍の腹(正確には胃の部分)の中に消化している途中のミスリルの塊と思われる物を見付けた為、森林龍はミスリルを食べる習性でもあるのかと疑問に思った様だ。
「こいつらは森林龍の腹ん中から出て来たんだよ。森林龍の生態は良く分からんが鉱石を食べる習性でもあるんかねぇ…。と言っても、これは森林龍の素材じゃあないからな。どうするかを一応聞いとこうと思ったんだ。売るのも渡すのも凛に任せるが…どうするよ?」
「そうですね…。(…ナビ、どうしよっか?)」
《4つある塊の内の1つを解析用に、1つをあれ用に頂ければこちらは充分です。》
「(分かった。)…それじゃ、4つの内の2つを頂こうかと思います。残った2つは売却って事でお願いしても宜しいですか?」
「おぉ!2つも売ってくれるのかっ!!」
「うわっ!ビックリした!」
そして凛にミスリルの塊をどうするか尋ね、凛はナビに相談し、今後の為に2つ確保して残りの2つを売却する旨を伝える。
ワッズは凛に尋ねてはみたものの、並べたミスリルの塊全部を持って行かれると思っていた。
その為、せいぜい売っても1つだと思っており、2つと言うのは予想外だった様だ。
ワッズが喜びの余りずいっと凛の前に身を乗り出しながら叫び、凛はいきなりワッズが目の前に迫って来た事でかなり驚いた様子となる。
「いやー、悪かった。今回森林龍を解体させて貰えたのは良かったんだが、幾つか道具を駄目にしちまってな。時間は掛かっちまうが、王都にいる知り合いに頼んで、この塊を使って道具を一式新調して貰えたらなと考えていたんだ。だが一式ともなると、塊が1つだととてもじゃねぇが足りないだろうからよ。」
「あー…そうだったんですね。すみません、僕が森林龍の解体をお願いしたばかりに無理をさせてしまって…。」
「いやいや。こっちとしても、まさか魔銀級の魔物を解体させて貰えるとは夢にも思わなかったからな。折角の機会だからとは言えついつい俺達の方も張り切っちまったんだよ。ただ、俺達は解体を楽しくても、道具は限界だったみたいだがな…。」
ワッズは凛を驚かせてしまった事で少し距離を取った跡に申し訳なさそうにして軽く頭を下げて謝り、今度は凛がワッズ達や壊れてしまった道具達に対して謝罪する。
ワッズは凛から謝られた訳なのだが、魔銀級の魔物を解体出来ると言う事でワッズを含め、職人全員がかなりテンションが上がってしまった。
その結果、少々張り切り過ぎた事で解体用の道具を酷使し過ぎて壊してしまう。
その為、実は自分達が解体に熱中し過ぎて道具を壊しました…等と言えず、凛からの謝罪を受けて逆に申し訳なく感じたのかそっぽを向き、右手で頬を掻きつつ気まずそうな表情で説明を行っていた。
「どちらにしても僕のせいですよ。壊れてしまった道具をお借りしても宜しいですか?」
「今日はもう解体の予定もないから構わんが…その壊れた道具をどうするんだ?」
「それなら良かった。今晩にでも道具の修理をしようかと思いまして。先程ガイウスさんにも言いましたが、これからもワッズさん達には魔銀級までの魔物の解体をお願いする予定です。その為にはこれからも道具達に頑張って貰わなければ、と思いまして。」
「へえっ、そいつぁ楽しみだな!それならよ、残り2つのミスリルの塊を使って道具の修理をって事で構わないか?」
「ええ、それでお願いします。」
「分かったぜ!取り敢えずミスリルの塊の回収が済んだら、道具も一緒に直して貰えるか?」
「分かりました。」
凛は壊れてしまった道具にミスリルを用いて修理を行い、これからの解体に役立てるつもりの様だ。
凛の申し出をワッズが快諾し、ミスリル鉱石の塊2つを無限収納へ回収後に壊れた道具を幾つか直していった。
それから凛は森林龍の肉を回収していくのだが、肉はおよそ10キロ位ずつで包みに入った状態で分けられており、多少時間が掛かったが全て回収していく。
『………。』
ニーナ達は何が何だかさっぱりな上に、解体された事で森林龍の巨大な骨や皮等の素材や多数の肉が並べられていた為、少し興味ありげなナナ以外は終始圧倒されていたりする。
それから5分程凛とワッズが話をしていると、解体場にガイウスとゴーガンが入って来た。
「やあ、待たせてしまったみたいですまないね。それじゃ入り口へ向かおうか。」
「あ、はい。分かりました。アルフォンスさん、すみませんが僕と美羽で仲間達を呼んで来ますので、先程購入した4人と一緒にこちらで待ってて貰っても宜しいですか?」
「分かりました。」
「貴方達も、悪いけどここで待ってて下さいね。出来るだけ早く戻って来ます。」
『分かりました。』
ゴーガンが右手を挙げながら歩いてそう話し、凛はアルフォンスとニーナ達へ説明を行った後に美羽、ガイウス、ゴーガンの4名で街の外へ向かう。
「(んしょ、と)それじゃ美羽。僕はここで待ってるから、火燐達を呼んで来てくれるかな?」
「はーい♪」
凛はサルーンの街から出て20メートル程の所にポータルを設置し、美羽に火燐達を迎えに行く様に促す。
美羽はそれに元気良く答えた後、ポータルを潜って屋敷へ向かって行った。
「凛殿、それが先程言っていた…?」
「はい。これは僕が移動系魔法と呼んでいるものでして、『ポータル』と言う魔法です。ポータルで出した門は入口にも出口にもなってまして、既に設置してある門同士を繋ぐ…と言えば宜しいでしょうか。この門には何も映っていない為に先の様子が分かりませんが、現在美羽はここから2、3キロ離れた僕の屋敷にいますよ。」
「「…………。」」
ガイウスは美羽が急にいなくなったとでも思ったのか、目を大きく見開いた状態で凛へ尋ねる。
凛は笑顔で説明を行い、ガイウスとゴーガンは何となくは理解したものの、とても納得出来そうにはない様だ。
2人は揃って何とも言えない表情となっていた。
2分後
「…どうやら来た様ですね。」
「よー、凛。オレ達も無事に来れたって事は、どうやら理解はして貰えたんだな。」
「うん。美羽、皆を連れて来てくれてありがとうね。」
「いえいえー♪」
凛がぽつりと呟いて火燐が先頭でポータルから出て来た後、3人は軽く話を行う。
「それではガイウスさん、ゴーガンさん。本日は宜しくお願いします!」
『宜しくお願いします!』
それから凛はガイウスとゴーガンの方を向き、そう言ってから頭を深く下げる。
そして凛が頭を下げている間に美羽、火燐、雫、翡翠、楓、エルマ、イルマ、藍火、リーリア、紅葉、暁、それと無事にオーガから妖鬼へと進化した旭、月夜、小夜が凛に倣い、元気良く挨拶をした後にガイウス達へ向けてお辞儀をするのだった。