450話
正午過ぎ
パーティーが終わり、凛達はガイウス達と一緒にサルーンの屋敷にある執務室へ戻るのだが、ガイウスは安心感からかソファーに座り込んでしまう。
「はぁ~~~…疲れた。」
「お疲れ様です。取り敢えず今回は無事に終える事が出来ましたね。」
「本音を言えば、もう2度とああ言ったパーティーには参加したくないんだが…。」
「ダメですよ。むしろ立場的に、ガイウスさんが率先して開く必要がある位です。アイザック様やバーナード様も仰ってたじゃないですか。」
「やはりダメか…。」
ガイウスは俯きながら盛大な溜め息混じりで呟き、それを凛が労った。
そしてガイウスは疲れた表情を浮かべ、凛に同意を求める様にして話し掛けるもばっさりと断られてしまい、これからの事を思ったのかガックリと項垂れた。
一昨日、凛とガイウスが眠っているレナードの横でアイザックと談笑を行った際、これからしばらくの間、少なくとも週に1回は自ら主催のパーティーを開く等し、貴族達を自分の味方に引き入れやすい環境を作るようにと言われていた。
貴族はプライドが高い一方で、自らにとって利益になると判断されれば靡く傾向にある為、ガイウス公爵に付いて行けば大丈夫だと思わせられる様にする事が大事だとも言われる。
ガイウスはアイザックから一通り話を聞いた後、内心でそれを実践せねばならぬのかと溜め息混じりに思いつつ、表面上は困った笑みを浮かべながらアイザックへ応対していた。
そして陞爵式中、バーナードからもアイザックと似たような事を言われた為、内心で益々面倒だ等と思っていたりもする。
午後2時頃
一行は一旦解散と言う事で着替えたり化粧を落とした後、ガイウスの屋敷候補を見に行く為に凛、美羽、ガイウス、リムネーの4人で王都の商業ギルドへ向かう事に。
それから2時間程、貴族の家が建ち並ぶ辺りで物件を見て回るも、ガイウスが気に入るような物件は見付からなかった。
そんな時に700平方メートル位の空地が見付かり、ガイウスが商業ギルドの者へ誰かの持ち物なのかを尋ねた所、ギルド職員から売り物件である事を告げられる。
「白金板3枚…。貴族達が住まう所だからと言うのは分かるが、それでも高過ぎではないか?土地だけでこの値段なのだろう?」
「はい…。こちらは以前侯爵家の別荘があった所でして。火事が原因で屋敷が全焼し、ご覧の通り屋敷の撤去は既に済んでおります。ですが、場所は良いからその内買い手がつく筈だからとこの値段に…。」
「何とも逞しい精神の持ち主なのだな。…まあ良い、後々誰かに取られて再び物件探しをするより、先に土地だけでも押さえておくとしよう。」
「ありがとうございます。」
ガイウスはギルド職員から土地の値段を聞いた後、正気かと言いたそうな表情で尋ねる。
少し太めの男性ギルド職員は緊張(違うとも取れるが)からかハンカチの様な物でしきりに汗を拭いつつ説明を行い、ガイウスが呆れた表情を浮かべるも、購入の意志を見せると頭を下げた。
30分後
ガイウスは凛達と一緒に購入の手続きを終え、商業ギルドの外に出た。
「さて、ひとまず土地は押さえた。後は余裕が出来た時にでも職人を呼んで…。」
「ガイウスさん、良ければ僕が屋敷を建てましょうか?」
「む?気持ちはありがたいが…。」
「先程からどこかの貴族の使いの方々が僕達の事を見ています。こちらから先手を打っておかないと、職人の手続きを含め、何らかの手立てで嫌がらせを行って来る等の可能性が考えられるのではと思いまして。」
「…そうか。だから俺は貴族と言うものが嫌いなのだ。」
ガイウスが考える素振りを見せながら呟いていると、凛がガイウスへ距離を詰めてそう提案する。
これをガイウスがやんわりと断ろうとするが、凛が周りの何ヵ所かに視線を送って説明を行い、ガイウスはうんざりとした表情で頷きながら答えた。
凛達は購入した土地へ向かった後、凛が土地の中を見えなくする為にとして灰色の障壁を展開した。
そして美羽と一緒に中へ入り、作業中はガイウスとリムネーを外で待って貰う事に。
それから1時間程で土地の7割程をサルーンにある屋敷と似た造り(強度は全然違うが)の見た目をした2階建ての屋敷が、残りの面積を使って立派な芝生や高い塀で出来た空間が完成したのだった。