44話
凛は美羽に頼み、妖狐族の少女を優しく抱き抱えて貰う。
「それではマーサさん、先程の4人とこの子を購入しますので精算をお願いします。」
「分かりました。ですがその前に、こちらの少女を助けて頂きありがとうございます。ここまで安らかな寝顔を見るのは初めてですし、元の姿に戻れて私も安心致しました。…それでは受付へ戻りましょうか。」
「はい。」
凛は視線を美羽からマーサに移して話し、マーサはお辞儀を交えて返事を行った後、左手で入口の方向を指し示しながら先導し始める。
そして凛達は再び受付へ戻るのだが、マーサは妖狐族の少女以外で購入予定の奴隷達を檻から出し、服を着せかえたり体を拭く等して外へ出る為の用意をもう1人の従業員と共に慌ただしく行っていた。
どうやらサルーンの奴隷商では奴隷を購入しても1人か2人程度と言うのと、妖孤族の少女を早く休ませなければと思った様だ。
それから10分程でマーサが身綺麗になった奴隷4人を連れて受付に戻り、奴隷5人で金貨1枚と銀板5枚となった為、凛は腰に差した巾着袋の中(と見せ掛けて実際は無限収納の中)から金貨2枚を取り出して支払いを行い、お釣りの銀板5枚を受け取って巾着袋の中にしまう。
凛はオークキングの肉を受け取った際、肉以外の部分の代金として白金貨1枚(本来なら買い取り額の半分の金板5枚だったのだが、半分にするのは次からで良いとなった)を受け取る。
しかしサルーンではまず白金貨は使わないとして、金貨100枚に崩した後で無限収納へ直していた。
凛はその日の晩、銅貨1枚で100円位って聞いていたから、白金貨1枚分で1億円位になるのか…と複雑な表情で呟いていたりする。
割とどうでも良い事だが、白金貨1枚=金貨100枚=銀貨1万枚=銅貨100万枚となる。
そこへ奴隷商で行った様に、間に銅板、銀板、金板が入る場合がある。
凛が購入した4人の奴隷はサルーンから少し離れた村で暮らしていたのだが、村が貧し過ぎた事で間引く目的で売られてしまう。
売られた者は未亡人の女性ニーナとその娘であるナナの親娘、事故で右腕を失った男性トーマス、親を事故で亡くした少女コーラルで、いずれも身寄りがいなかったり生活に支障があるとして優先的に回された様だ。
「マーサさん、ありがとうございました。マーサさんがここの代表で良かったです。また機会がありましたら是非。」
「こちらこそありがとうございます。先程は少女の命を無事に繋ぐ事が出来、私も少し救われました。その時はまたお願いしますね。」
凛とマーサはお互いに言葉や礼を交わして最後に離れた所で軽く会釈を行い、凛達は階段を上がって建物の外へと出た。
「本当ならこの子は宿や僕達の屋敷で休ませて様子を見るべきなんだろうけど、この後もギルドで予定があるからなぁ…。ギルドで休ませて貰えないかを聞いてみるか。それまでは悪いんだけど、美羽が抱えててくれる?」
「うん、分かった。」
凛は地上に出てすぐに後ろにいる美羽へ向いて尋ね、美羽はこれを了承する。
そして一緒に付いて来ているニーナ達に、自己紹介はもう少し待っててねと伝えた。
「すみません、ギルドマスターは帰って来られましたか?」
「いえ、まだですね。そろそろ帰って来るとは思うのですが…。」
「そうですか…。今日この後魔物の素材…と言うかお肉を受け取る予定なのですが、まだ時間が掛かりますよね?」
「あ、あの森林龍のお肉の事ですね?ワッズさんから凛様が来たら自分の所に来る様にと伺っております。」
「分かりました。ですがその前に、こちらの少女を休ませられる場所はありませんか?この子は少し弱ってるので、僕がすぐ対応出来る様にしたいんですよ。」
「成程…それでしたら、ワッズさん達がいる解体場へ向かう途中にギルド職員用の宿直室があります。そちらで休ませてはいかかでしょう?」
「宿直室があるんですね、是非お願いします。」
「分かりました。ではご案内致しますね。」
凛はサルーンの冒険者ギルドの受付嬢と話を行い、裏にある解体場へ向かう事が決まる。
そしてギルド解体場へ向かう途中、通路の横にある6畳程の広さがあるギルド職員用の宿直室で妖狐族の少女を休ませた後、凛達は通路に戻って目的地である解体場へ入る。
「ワッズさーん、すみませーん!」
「おー、凛じゃねぇか!ついさっき森林龍の解体が終わったんだがな、体内からちょっと変わった物が出て来たんだ。わりぃんだけどよ、ちょっとこっちに来て見てくれねぇか。」
「分かりました。」
受付嬢は案内が済んだとして持ち場へ移動を始め、凛は解体場へ入ってすぐにワッズの姿を見付けて大声で呼ぶ。
するとワッズが凛の声に気付いて返事を行い、凛にこちらへ来る様に促す。
凛は頷いて答えて移動を始め、美羽達は凛の後ろを付いて行く。
「この塊なんだがな。少し溶けちゃあいるが、ミスリルで出来た鉱石なんじゃないかと俺は思うんだよ。」
ワッズは近くに来た凛達に対し、そう伝えながら銀色の塊をバシバシと叩いていた。
その塊は1メートル四方よりも少し大きく角が溶けたのか少し丸くなっており、ワッズが叩いた物とは別に3つ並んでいたのだった。