442話
「私の…私の夢が…。」
アイザック達がいなくなった後、レナードはそう呟きながらへたり込んだ。
レナードはそれ以上何も言わなかったが、兵達を使って転移門越しに首都や第1領地を占拠した後、世界が自分に対して頭が上がらなくなった所でパトリシアを嫁に迎えると言う、しょうもないものだったりする。
「いや、お前。夢っつっても、兵達を利用し、他人を踏み台にして得られる程度のもんだろ?」
「それに、だ。仮に城から無事に出発出来たとしても、お前達では商都どころか、転移門にすら辿り着く事は叶わぬよ。」
「だが、装備を整えた事で、我が兵達は魔銀級の強さを…。」
そんなレナードに向け、レオンは溜め息混じりの呆れた表情で、ゼノンは左目を閉じながら話し、レナードは困った様子で答えようとする。
「はぁ…まず、兵達は公爵家のものだ、お前のではない。次に、良い装備を与えた事で舞い上がってる様だが…正直魔銀級ではな。お前達は知らないであろうが、各転移門に配備されている10人は、漏れなく全員神輝金級の強さを持っておる。転移門に着く以前に、何人かの手によって鎮圧され、そのまま終わると言う結果しか見えぬよ。」
「は?」
「それだけじゃねぇ。各国の首都の治安を守っている警備や、ステラを筆頭とした情報収集を主な任務としている組織のねこにん隊。そのほとんどが神輝金級だ。」
「…。」
「ついでだから言わせて貰うと、凛の配下は軽く2万を越えている。後は…分かるな?」
『…。』
「…。(すっ)」
その前にゼノンがまだ分からないのかと言いたそうな表情で話し、レナードは理解が追い付かない様子となっているのを無視してレオンが説明を加え、ステラがどや顔を浮かべる一方でレナードは顔を青ざめる。
そしてアレックスが止めとばかりに発言した事で、レナードや兵達が『お前、なんて事をしてくれたんだ!』と言わんばかりの表情を凛に向ける。
凛はそれに対し、何とも言えない笑いの表情を浮かべ、すっと目を逸らした。
ナビは日を追う毎に自重せず配下達の強化を行っている為か、ナビの主である筈の凛の方が少し困惑気味だったりする。
因みに、この場にミゲルがいればステラと同様にどや顔を浮かべていたかも知れないが、現在は進化の為に屋敷で休んでいる。
そしてギルバートはレナードに会う気はないとして来るのを断り、クリフ達はギルバートが行かないのに自分達が行ってもと言う事で辞退していたりする。
「…さ、て。それじゃ罰を受ける時間だな。」
「…え?」
「レナードよ。何故ここでそんな話になるのか分からないと言いたそうな顔をしておるが、既にお前達は負けている状態なのだ。…未遂で終わったとは言え、貴様がやろうとした事は決して許されるものではない。当然、罰は必要であろう?」
「つまり、お前らみたいな馬鹿を抑えるのも俺達の仕事って事だ。」
「ま、待っ…!」
レオンがそう言いながら両手をボキボキと鳴らしてレナードに近付いて行くと、レナードは訳が分からないと言いたそうな表情となる。
そしてゼノンもレオンと同じくレナードに向けて歩いており、話の途中まではにやりと笑っていたが、後半は一転して怒りの形相に、レオンも真顔となっていた。
レナードは慌てた様子で2人を止めようとするも、走り出したゼノンからレナードに強烈なボディーブロウを与えられ、ミシミシと嫌な音を立てながら吹き飛ばされてしまう。
そしてゼノンがボディーブロウを喰らわせた地点から5メートル程先にレオンが移動を終え、飛んで来たレナードの背中へ向け、プロレス技のあびせ蹴りの要領で少しだけ高めに跳んだ飛び回し蹴りを喰らわせる。
レナードはその影響で地面に激しくバウンドした後、小さく2回バウンドしてからうつ伏せの状態で倒れる。
そしてレナードはレオンによるあびせ蹴りの痛みで気絶しており、うつ伏せのままピクピクと痙攣していた。
『………。』
「こいつは発起人だが、立場や戦闘経験のなさを考慮してこの程度の罰で済ませてやる。しかし今後、こいつやエリックが懲りずに何かを企てようとした場合、その時が自分達の最期だと思え。」
『…!!(ぶんぶんぶんぶん)』
レナードは両手足から先に地面に叩き付けられた衝撃で四肢があらぬ方向に折れ曲がっており、良く見ると顔面も強打したからなのか、最初にバウンドした周辺には歯が何本か落ちていた。
その様子に兵達は揃って真っ青な顔となり、レオンは腕を組みながら話す。
兵達はビクッと体を強張らせた後、黙ったまま高速で何度も頷くのだった。