441話
先程、火燐達は炎神化や変化スキルを用いて朱雀等へ変化しており、美羽は変化スキルを、凛は変化スキルに環境操作スキルをアレンジしたものを加えて変化していたりする。
「…さて、レナードよ。ベルガー公爵家自慢の精鋭とやらはこの様になってしまった訳だが…まだ続けると申すか?」
「…無理だ。どの様にしてあの姿になったのかは分からんが、ほとんど戦闘経験のない私ですら、あの中の1体だけで、王都を容易に蹂躙出来るのだろうと理解させられた。その状況下で兵達に無駄死にをさせる程、私は愚かではないつもりだ…。」
ゼノンは精鋭の部分に(笑)と付けそうになるのを堪えつつ、なるべく真顔になる様に努めながらレナードに尋ね、レナードは兵達を確認しようとして後ろの方向を向く。
すると兵達は揃って不安や絶望に満ちた表情を浮かべ、勘弁して欲しいと言わんばかりの様子で自分を見ている事が分かった為、レナードは複雑な表情でゼノンの方を向いて答える。
その事で、兵達の何割かはこの場で死ななくて済むと少し安堵した様子を浮かべていた。
「終わった様ですね…。」
そこへ、垰が少し疲れた表情を浮かべ、城の中から凛達の後ろへとやって来た。
垰は凛からの指示で鬼蜘蛛やアラクネ達と共に王都を含めた周辺一帯に配置し、透明化スキルで自身を透明にした後に上空へ飛んで防護壁を張る事により、黄龍の姿となった凛が放った咆哮や衝撃から人々を守っていた。
そして防護壁に細工を施して向こう側にいる凛達が見えない様になっており、エリックやレナード達以外…つまり中庭の中心付近以外に、王都内や近辺にいる人々へ全く影響はなく、むしろ一連の流れに何も気付いてなかったりする。
しかし凛は大分手加減したとは言え、垰達との強さの間に開きがあった為に垰は疲れた表情となり、鬼蜘蛛達はその場に座り込んで休憩する羽目に。
因みに、ゼノン達はギリギリ安全圏内にいた事で、防護壁が展開されていない部分から凛達の姿が見えていたりもする。
「よー、凛、連れて来たぜ。四神に麒麟に黄龍へ変化したんだろ?後でもっかい見せてくれよな!」
「あたしも(ティラノサウルスに)変身したかったー!」
「あー、薺はまた今度だな。」
「えー…。」
「ここだと薺が充分に動き回れる広さだとは言いがたいものねぇ。薺、後で戻って良いから背中に乗せて貰えるかしら?」
「良いよー!」
今度は薺を中心として、薺の左手をパトリシアが、右手をアレックスが繋いだ状態で話をしながら現れる。
話の途中から薺の機嫌が良くなったが、凛の配下の中で藍火達の次に梓、その梓の次に薺が力が強い(魔法を含めた総合力なら垰の方が上にはなる)為、自分も藍火達と一緒に本来の姿に戻りたかったのに参加出来なかった事を知ったからか不機嫌となっていた。
これは薺が飛行や浮遊スキルをまだ上手く使いこなせない事も関係しており、アレックスとパトリシアが用事を済ませつつ薺のご機嫌取りも行っていた様だ。
そんな3人の後ろにはパトリシアの兄であるバーナードや母のミラベル、そのすぐ近くでは40代後半の夫婦と思われる男女と20歳前後の男性2人がいた。
「…レナード、これはどう言う事だ。」
「なっ!?父上、何故ここに!!」
「パトリシア様からお前が怪しい動きをしているとの連絡を貰ったのだよ。それで一緒に来てみれば…我が家にいる兵のほとんどがここにいるではないか。」
レナードの父上ことアイザック・ベルガーがレナードの前に立ち、レナードに話し掛けると驚きを露にした様子で返事を返された為、辺りを見回しながらそう話す。
「アイザック公。その兵達に関してだが、商都や凛様の領地でしか手に入らない物を身に纏っておる様だぞ。」
「これは皇帝陛下。…と申しますと、噂に聞く高品質の武具と言う事になり…もしや!まさかレナードが!?」
「ああ。これだけの数を揃えるのに、奴だけの財産で賄える訳がねぇ。ってなると、公爵家の財産に手を出している可能性が高いだろうな。」
「何と言う事だ…。私はこれからすぐに帰って調査を行います故、大変失礼なのは重々承知ではありますが本日はこれにて失礼させて頂きます。」
ゼノンはアイザックに説明を行い、アイザックはゼノンへ挨拶を行った後、返事を返しながら思案顔となる。
しかしすぐにはっとなった表情となり、レオンが説明の補足を行うと、アイザックは目眩でもしたかの様に少しふらついてしまう。
その後、そう話してからレオン達へ向けて深く頭を下げ、妻やレナードの弟達2人と共にこの場を後にしたのだった。